ゆったりおじさんの魔導具作り~召喚に巻き込んどいて王国を救え? 勇者に言えよ!~

ぬこまる

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王位継承編

15 【全自動】服を洗濯して乾かす魔導具

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「今日から連休だ~! ダラダラするぞ~」

 ここは貴族街にある高級な集合住宅。
 その最上階の部屋で暮らす中年の男が、「うーん」と伸びをした。
 窓からの眺めは素晴らしく、美しい川や橋、古き良き街並みが見える。

「ウキキッ」
「おはよう」

 小さな猿だ。
 いや、猿といっても魔物だが、彼はそれをペットにしていた。
 彼の名前は、モンキーショルダー。
 教職にして、テイマー。つまり魔物使いの先生なのである。
 ちなみに魔法学校の生徒からはモンキー先生と呼ばれていた。眼鏡が似合う、三十代の独身貴族で、彼女募集中だ。

「スモーキー、ほらエサだよ」
「ウキキッ」

 りんごを与えた。
 戸棚にはあらゆる果物がある。もちろん鍵つき。飼育には抜かりがない。
 ちゃんと言うことを聞く。
 お手、おかわり、ふせ、ちんちん。
 特に上手なのは、猿まわしだ。
 舞踊だけじゃなく、料理、掃除、洗濯もこなす。
 おかげでモンキー先生は家事をしなくていいので、魔法学校の教職に専念することができるのである。
 しかし、トラブルが起きた。
 喧嘩したのだ。

「ウキキッ!」
「え? 休日にダラダラすな、だって?」
「ウキキッ、ウッキー!」
「洗濯ぐらいやれ? 今日は料理を作りたない……急にどうした? スモーキー?」
「ウキキ……」
「そっか……そうだよな、もともと戦闘に役立つために仲良くなったのに、これじゃあ専業主婦と変わらないもんな……」

 ウキ、とスモーキーはうなずいた。
 モンキー先生は、ちらっと机にある書類、テスト用紙を見つめる。答え合わせをしなくてはならない。まぁ、連休中にやればいいのだが、何となく言い訳の材料にしてしまう。

「でも、スモーキーが食べて暮らせるのは、僕が働いて稼いでるからだろ? 文句言うなよ……」
「ウキキッ!」
「は? ほな森に帰るわ、だって? 待ってくれよー!」

 ウッキ、とスモーキーはそっぽを向く。
 そのまま荷造りを始めた。と言っても、枕だけ持っているのが、可愛い。
 モンキー先生は、えんえんと泣きながら止めた。

「ごめんよ~スモーキー! 今日は僕が掃除、洗濯する! あ、そうだ! お昼は食べにいこう! 生徒が美味しい食堂を教えてくれたんだ。なっ、そうしよ?」
「ウキキ、ウキキキ」
「え? 今日の風呂上がりは、冷やしバナナをくれ? うんうん、いいよ!」

 モンキー先生は、戸棚からバナナを出して、ポイッと冷蔵魔導具に入れた。
 横の型番に、『道具屋タリスカー』と書かれてある。
 点検日はとっくに過ぎていたが、忘れているモンキー先生であった。

「にしても、掃除、洗濯、たいへんだなぁ……」
「ウキキッ!」
「やります、やりまーす!」


 ◉


 はらぺこ食堂の扉を開けると、がらん、ごろんとベルが鳴る。
 店中はカウンターとテーブル席のある、ありふれたレストランで、客の入りは盛況であった。
 農夫たち、近所のおじさんやおばさん、子ども連れの家族、さまざまな貧民街で暮らす人々が、もぐもぐ食事を楽しんでいる。

「いらっしゃいませ~」

 すぐにメイドが案内してくれた。揺れるポニーテールが可愛い。
 だがその前に、モンキー先生の肩には小猿・スモーキーがいる。許可を取るべきだろう。

「あの~ペットもいいですか?」
「ウキキ」
「猿ですか……プルトニーさ~ん!」

 ん? と料理を配膳しているもう一人のメイドが顔をあげた。こちらの女性は大人っぽくて綺麗だ。

「ペットの同席はありですか?」
「え!? お猿さんね……ターキーさ~ん! 店の中に猿を入れてもいいかしらー?」

 厨房にいるコックが店主だろう。
 こちらを見るなり、両手をバツにした。
 やっぱりダメか。
 いつも外食は貴族街にある露天で食べている。やはり店の中にペットはマズイのだろう。
 厨房の奥には、コック服を着たヤマザキが野菜を切っているが、こちらに気づいただろうか。
 分からないが、彼は仕事中だ。話しかけるのはよくない。

「残念だけど行こうか、スモーキー」
「ウキキ……」

 店から出て帰ろうとした。
 そのとき!

 ズンッ!

 突然、店の壁が無くなった。
 まるでスプーンでくり抜かれたように、丸い穴が空いている。
 
「え!?」

 モンキー先生とスモーキーが驚愕していると、その穴から、ぬっとコックのおじさんが出てきた。
 ヤマザキだ。

「よく来たな、モンキー先生」
「あ、どうも……ヤマザキさん」
「今、席を用意するよ」

 ヤマザキの手には、一本の細い杖を持っていた。
 不思議な杖だ。
 その杖が壁に触れた瞬間、その木材は変形し屋根になり、ウッドデッキになり……。
 気づけばそこに、おしゃれなテラス席が完成した。素晴らしい気配り、屋外ならペットといっしょに食事できる!

「机と椅子も作って……と、できた」
「す、すごい……! ヤマザキさん、天才的な魔導具発明家だったんですね! やばぁぁ!」
「まぁな……さあモンキー先生、座ってよ」
「はい!」
「今日のランチでいいだろ? 猿にはそうだな……野菜スムージーでも作ってやるよ」
「ありがとうございます!」

 わくわくして待ってると、「おまたせしました~」と可愛いメイドが料理を運んで来た。
 ランチプレートには、お好み焼き、サラダ、スープ。
 小猿には、細かく砕かれた野菜のジュースが、なみなみとコップにそそがれていた。
 見たこともない料理に驚くが、とりあえず食べてみる。

「な、何だコレ!? めちゃくちゃうめぇ!!」
「ウッキキー!!」

 モンキー先生とスモーキーは、泣きながらもりもり食べた。
 口のまわりはべっとりだ。
 それにしても、テラス席で食べるのは気持ちがいい。
 そう、外を歩く人たちも思ったのだろう。新規で入って来る客はみな、テラス席に座った。
 厨房では、「大成功だな」「ああ」と店主とヤマザキが拳を合わせている。
 
(最高だな、はらぺこ食堂は……)

 とモンキー先生が感動していると、

「おや?」

 どこかで見たことがある客が、テラス席に座った。
 美しい羽兜の剣士。
 それと付き添いの戦士がいる。
 
「彼はたしか……ハニィ王子?」

 その通りだった。
 ハニィは、公務に追われるかたわら、やっとヤマザキの料理を食べにこれたのである。

「ああ、楽しみだな~」
「ほっぺた落ちますよ、ハニィ様」
「ジョニはもう食べたことあるんだよな。どんな味だ?」
「あはは、今日のランチは、その日によって味が変わるんですよ」
「そうなのか!」
「はい、今日のランチはお好み焼き、という料理らしいです」
「なんだそれは?」

 分かりません、とジョニは答える。
 最高の味です、とすでに完食してるモンキー先生は教えてあげたかった。
 っていうか、王族が来店するってヤバい店だ! とも思った。
 しばらくすると、ヤマザキが直接、料理を運んでくる。
 どうやら知り合いらしい。仲良く談笑を始めた。

「いらっしゃい、ハニィくん」
「来ちゃいました! コック姿も素敵ですね、ヤマザキさん」
「ありがとう……」

 ちょっとだけ照れるヤマザキ。
 ハニィはポニーテールのメイドを見た。

「聖女ヒビキ、ここで働いているんですね。紫娼館から助けて頂きありがとうございます」
「まぁ、暇だったし……」
 
 マジかっ!? 
 とモンキー先生は驚愕する。
 
(ハニィ王子が頭を下げている! ヤマザキさんって何者だよ!?)

「ジョニもいらっしゃい」
「いやぁどもども、道具屋に行って以来、もう娘はご機嫌ですよ」
「それはよかった」
「あはは」
 
 よく笑う戦士だ。彼はハニィ王子の執事なのだろう。

「あ! ハニィ様、聞いてください」
「なんだ?」
「ヤマザキさん、ひどいんですよ、私の服を脱がせるんだから」
「ほう、それは興味深いな」

 え? どういうこと? 
 とモンキー先生は目を丸くする。
 ヤマザキさんって、男が好きなの!?
 そう思いながら観察すると、おや? ハニィ王子がヤマザキさんを見る瞳が、ハートじゃないか!
 おいおいおい、ヤバいやつじゃん、ヤマザキさんって……。
 あれ? そういえば僕は、トイレで彼と握手したな。
 べとべとしてた。あれはどう言う意味だったんだ。うわぁぁぁ!?
 そんな妄想するモンキー先生は、頭を抱えた。
 頭、痛いんか? と思ったスモーキーは、「ウキキ……」と撫でてあげてる。優しい。
 その一方で、ハニィ王子は食事を始めた。すぐに料理の美味さに絶句し、身体が震え出し、エメラルドの瞳から涙が流れ出す。

「めっちゃ美味しいです……ううう……好き、好きです……ああああ!!」

 執事の男も、「うぉぉおおん!」と食べながら泣いてる。

「うめぇ、うめぇ……中はふわふわ、外はカリカリ……まるでツンとデレを感じることができるロリの味だ!」

 意味不明だな、この人。
 と、目を細めるモンキー先生は政治にも詳しい。たしか、ハニィ王子の執事は王国指折りの魔法戦士だと聞いていたが、なんかアホみたいだ。

(っていうか、忙しそうだなヤマザキさん……)
 
 一言、挨拶したかったが、また今度にしよう。
 さて会計して帰ろう、としたとき。
 ヤマザキがハニィに一枚の紙を、そっと渡した。食事に夢中の執事にはバレていない。
 
(うわ……密書か? やばい気になる……)

 いけ、スモーキー。
 モンキー先生のスキル・猿まわしが発動!
 小猿は、「ウキキ」と走って、気づかれないようにハニィ王子の背後にまわり、手に取った紙を覗いた瞬間、さらにスキル発動!
 
 見猿みざる

 賢いので文章が理解できるのだ。
 そして、モンキー先生の元に戻って来ると、耳元で内容を報告した。
 
(え? 明日正午、いっしょに遊ぼう、城に迎えにいくだって……うっほ! もう完全にラブラブじゃん……あわわわわ!)

 震えるモンキー先生。
 あれ、わい、何かヤバいこと伝えたか? と小猿・スモーキーは、汗をかいてあたふたした。本当に主人思いのペットなのだ。
 と、そのとき!
 ふわり、と通り道に紫の衣装を着た、絶世の美女が現れた。
 ドキッとするモンキー先生は、一目惚れしてしまう。 

(綺麗だ……まるで天女だ……)

 当然だ。
 紫娼館の女将マッカランなのだから。
 そして彼女は、モンキー先生のテーブル席に座った。店内は満員で、他に空いている席がなかったのだ。

「相席いいかぇ?」
「……は、は、はい!」
「おや? 可愛いお猿さん……この子、ローランド地方にいる魔物だねぇ?」
 
 はっ! とするモンキー先生。
 綺麗なのに魔物に詳しいなんて、どタイプすぎる! と胸を高鳴らせた。

「よく知ってますね! 名前はスモーキー、僕の相棒です」
「ふーん、あんたはテイマーかぇ」
「はい。魔法学校で先生もしてます」
「すごいねぇ、あたし、先生ってやつと初めて話すよぉ」
「そうなんですね、あはは」
「くくくっ、あんた口についてるよぉ」

 マッカランは、自分の袖でモンキー先生の口のまわりを拭いてやる。美しい衣装なのに、と彼は思った。

「あ、すいません……」
「いいよぉ」
 
 二人ともいい感じで話していると、可愛いいメイドが来た。

「女将さん、今日も来てくれたんですね」
「ああ、ヒビキの顔も見たいし、ヤマザキさんの料理も食べたいしねぇ」
「うふふ、今日のランチはお好み焼きですけど、どうします?」
「それは昨日食べたねぇ……オススメはあるかい?」
「それならハンバーガーです」

 じゃあ、それぇ、とマッカランは注文した。
 モンキー先生は首を傾げた。

「女将さん? あなたは何をしてる人ですか?」
「あたしかぇ」

 マッカランは、ニヤリと笑ってから答えた。

「あたしはマッカラン、紫娼館の経営者さぁ」

 ひぇ? と震えあがるモンキー先生。
 心の中は動揺しまくり、汗かきまくり。

(はらぺこ食堂に来る客、バチくそヤバーい!!)

 あたふたするご主人を見て、「ウキキ?」と首を傾げる小猿・スモーキーであった。
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