29 / 56
王位継承編
15 【全自動】服を洗濯して乾かす魔導具
しおりを挟む
「今日から連休だ~! ダラダラするぞ~」
ここは貴族街にある高級な集合住宅。
その最上階の部屋で暮らす中年の男が、「うーん」と伸びをした。
窓からの眺めは素晴らしく、美しい川や橋、古き良き街並みが見える。
「ウキキッ」
「おはよう」
小さな猿だ。
いや、猿といっても魔物だが、彼はそれをペットにしていた。
彼の名前は、モンキーショルダー。
教職にして、テイマー。つまり魔物使いの先生なのである。
ちなみに魔法学校の生徒からはモンキー先生と呼ばれていた。眼鏡が似合う、三十代の独身貴族で、彼女募集中だ。
「スモーキー、ほらエサだよ」
「ウキキッ」
りんごを与えた。
戸棚にはあらゆる果物がある。もちろん鍵つき。飼育には抜かりがない。
ちゃんと言うことを聞く。
お手、おかわり、ふせ、ちんちん。
特に上手なのは、猿まわしだ。
舞踊だけじゃなく、料理、掃除、洗濯もこなす。
おかげでモンキー先生は家事をしなくていいので、魔法学校の教職に専念することができるのである。
しかし、トラブルが起きた。
喧嘩したのだ。
「ウキキッ!」
「え? 休日にダラダラすな、だって?」
「ウキキッ、ウッキー!」
「洗濯ぐらいやれ? 今日は料理を作りたない……急にどうした? スモーキー?」
「ウキキ……」
「そっか……そうだよな、もともと戦闘に役立つために仲良くなったのに、これじゃあ専業主婦と変わらないもんな……」
ウキ、とスモーキーはうなずいた。
モンキー先生は、ちらっと机にある書類、テスト用紙を見つめる。答え合わせをしなくてはならない。まぁ、連休中にやればいいのだが、何となく言い訳の材料にしてしまう。
「でも、スモーキーが食べて暮らせるのは、僕が働いて稼いでるからだろ? 文句言うなよ……」
「ウキキッ!」
「は? ほな森に帰るわ、だって? 待ってくれよー!」
ウッキ、とスモーキーはそっぽを向く。
そのまま荷造りを始めた。と言っても、枕だけ持っているのが、可愛い。
モンキー先生は、えんえんと泣きながら止めた。
「ごめんよ~スモーキー! 今日は僕が掃除、洗濯する! あ、そうだ! お昼は食べにいこう! 生徒が美味しい食堂を教えてくれたんだ。なっ、そうしよ?」
「ウキキ、ウキキキ」
「え? 今日の風呂上がりは、冷やしバナナをくれ? うんうん、いいよ!」
モンキー先生は、戸棚からバナナを出して、ポイッと冷蔵魔導具に入れた。
横の型番に、『道具屋タリスカー』と書かれてある。
点検日はとっくに過ぎていたが、忘れているモンキー先生であった。
「にしても、掃除、洗濯、たいへんだなぁ……」
「ウキキッ!」
「やります、やりまーす!」
◉
はらぺこ食堂の扉を開けると、がらん、ごろんとベルが鳴る。
店中はカウンターとテーブル席のある、ありふれたレストランで、客の入りは盛況であった。
農夫たち、近所のおじさんやおばさん、子ども連れの家族、さまざまな貧民街で暮らす人々が、もぐもぐ食事を楽しんでいる。
「いらっしゃいませ~」
すぐにメイドが案内してくれた。揺れるポニーテールが可愛い。
だがその前に、モンキー先生の肩には小猿・スモーキーがいる。許可を取るべきだろう。
「あの~ペットもいいですか?」
「ウキキ」
「猿ですか……プルトニーさ~ん!」
ん? と料理を配膳しているもう一人のメイドが顔をあげた。こちらの女性は大人っぽくて綺麗だ。
「ペットの同席はありですか?」
「え!? お猿さんね……ターキーさ~ん! 店の中に猿を入れてもいいかしらー?」
厨房にいるコックが店主だろう。
こちらを見るなり、両手をバツにした。
やっぱりダメか。
いつも外食は貴族街にある露天で食べている。やはり店の中にペットはマズイのだろう。
厨房の奥には、コック服を着たヤマザキが野菜を切っているが、こちらに気づいただろうか。
分からないが、彼は仕事中だ。話しかけるのはよくない。
「残念だけど行こうか、スモーキー」
「ウキキ……」
店から出て帰ろうとした。
そのとき!
ズンッ!
突然、店の壁が無くなった。
まるでスプーンでくり抜かれたように、丸い穴が空いている。
「え!?」
モンキー先生とスモーキーが驚愕していると、その穴から、ぬっとコックのおじさんが出てきた。
ヤマザキだ。
「よく来たな、モンキー先生」
「あ、どうも……ヤマザキさん」
「今、席を用意するよ」
ヤマザキの手には、一本の細い杖を持っていた。
不思議な杖だ。
その杖が壁に触れた瞬間、その木材は変形し屋根になり、ウッドデッキになり……。
気づけばそこに、おしゃれなテラス席が完成した。素晴らしい気配り、屋外ならペットといっしょに食事できる!
「机と椅子も作って……と、できた」
「す、すごい……! ヤマザキさん、天才的な魔導具発明家だったんですね! やばぁぁ!」
「まぁな……さあモンキー先生、座ってよ」
「はい!」
「今日のランチでいいだろ? 猿にはそうだな……野菜スムージーでも作ってやるよ」
「ありがとうございます!」
わくわくして待ってると、「おまたせしました~」と可愛いメイドが料理を運んで来た。
ランチプレートには、お好み焼き、サラダ、スープ。
小猿には、細かく砕かれた野菜のジュースが、なみなみとコップにそそがれていた。
見たこともない料理に驚くが、とりあえず食べてみる。
「な、何だコレ!? めちゃくちゃうめぇ!!」
「ウッキキー!!」
モンキー先生とスモーキーは、泣きながらもりもり食べた。
口のまわりはべっとりだ。
それにしても、テラス席で食べるのは気持ちがいい。
そう、外を歩く人たちも思ったのだろう。新規で入って来る客はみな、テラス席に座った。
厨房では、「大成功だな」「ああ」と店主とヤマザキが拳を合わせている。
(最高だな、はらぺこ食堂は……)
とモンキー先生が感動していると、
「おや?」
どこかで見たことがある客が、テラス席に座った。
美しい羽兜の剣士。
それと付き添いの戦士がいる。
「彼はたしか……ハニィ王子?」
その通りだった。
ハニィは、公務に追われるかたわら、やっとヤマザキの料理を食べにこれたのである。
「ああ、楽しみだな~」
「ほっぺた落ちますよ、ハニィ様」
「ジョニはもう食べたことあるんだよな。どんな味だ?」
「あはは、今日のランチは、その日によって味が変わるんですよ」
「そうなのか!」
「はい、今日のランチはお好み焼き、という料理らしいです」
「なんだそれは?」
分かりません、とジョニは答える。
最高の味です、とすでに完食してるモンキー先生は教えてあげたかった。
っていうか、王族が来店するってヤバい店だ! とも思った。
しばらくすると、ヤマザキが直接、料理を運んでくる。
どうやら知り合いらしい。仲良く談笑を始めた。
「いらっしゃい、ハニィくん」
「来ちゃいました! コック姿も素敵ですね、ヤマザキさん」
「ありがとう……」
ちょっとだけ照れるヤマザキ。
ハニィはポニーテールのメイドを見た。
「聖女ヒビキ、ここで働いているんですね。紫娼館から助けて頂きありがとうございます」
「まぁ、暇だったし……」
マジかっ!?
とモンキー先生は驚愕する。
(ハニィ王子が頭を下げている! ヤマザキさんって何者だよ!?)
「ジョニもいらっしゃい」
「いやぁどもども、道具屋に行って以来、もう娘はご機嫌ですよ」
「それはよかった」
「あはは」
よく笑う戦士だ。彼はハニィ王子の執事なのだろう。
「あ! ハニィ様、聞いてください」
「なんだ?」
「ヤマザキさん、ひどいんですよ、私の服を脱がせるんだから」
「ほう、それは興味深いな」
え? どういうこと?
とモンキー先生は目を丸くする。
ヤマザキさんって、男が好きなの!?
そう思いながら観察すると、おや? ハニィ王子がヤマザキさんを見る瞳が、ハートじゃないか!
おいおいおい、ヤバいやつじゃん、ヤマザキさんって……。
あれ? そういえば僕は、トイレで彼と握手したな。
べとべとしてた。あれはどう言う意味だったんだ。うわぁぁぁ!?
そんな妄想するモンキー先生は、頭を抱えた。
頭、痛いんか? と思ったスモーキーは、「ウキキ……」と撫でてあげてる。優しい。
その一方で、ハニィ王子は食事を始めた。すぐに料理の美味さに絶句し、身体が震え出し、エメラルドの瞳から涙が流れ出す。
「めっちゃ美味しいです……ううう……好き、好きです……ああああ!!」
執事の男も、「うぉぉおおん!」と食べながら泣いてる。
「うめぇ、うめぇ……中はふわふわ、外はカリカリ……まるでツンとデレを感じることができるロリの味だ!」
意味不明だな、この人。
と、目を細めるモンキー先生は政治にも詳しい。たしか、ハニィ王子の執事は王国指折りの魔法戦士だと聞いていたが、なんかアホみたいだ。
(っていうか、忙しそうだなヤマザキさん……)
一言、挨拶したかったが、また今度にしよう。
さて会計して帰ろう、としたとき。
ヤマザキがハニィに一枚の紙を、そっと渡した。食事に夢中の執事にはバレていない。
(うわ……密書か? やばい気になる……)
いけ、スモーキー。
モンキー先生のスキル・猿まわしが発動!
小猿は、「ウキキ」と走って、気づかれないようにハニィ王子の背後にまわり、手に取った紙を覗いた瞬間、さらにスキル発動!
見猿!
賢いので文章が理解できるのだ。
そして、モンキー先生の元に戻って来ると、耳元で内容を報告した。
(え? 明日正午、いっしょに遊ぼう、城に迎えにいくだって……うっほ! もう完全にラブラブじゃん……あわわわわ!)
震えるモンキー先生。
あれ、わい、何かヤバいこと伝えたか? と小猿・スモーキーは、汗をかいてあたふたした。本当に主人思いのペットなのだ。
と、そのとき!
ふわり、と通り道に紫の衣装を着た、絶世の美女が現れた。
ドキッとするモンキー先生は、一目惚れしてしまう。
(綺麗だ……まるで天女だ……)
当然だ。
紫娼館の女将マッカランなのだから。
そして彼女は、モンキー先生のテーブル席に座った。店内は満員で、他に空いている席がなかったのだ。
「相席いいかぇ?」
「……は、は、はい!」
「おや? 可愛いお猿さん……この子、ローランド地方にいる魔物だねぇ?」
はっ! とするモンキー先生。
綺麗なのに魔物に詳しいなんて、どタイプすぎる! と胸を高鳴らせた。
「よく知ってますね! 名前はスモーキー、僕の相棒です」
「ふーん、あんたはテイマーかぇ」
「はい。魔法学校で先生もしてます」
「すごいねぇ、あたし、先生ってやつと初めて話すよぉ」
「そうなんですね、あはは」
「くくくっ、あんた口についてるよぉ」
マッカランは、自分の袖でモンキー先生の口のまわりを拭いてやる。美しい衣装なのに、と彼は思った。
「あ、すいません……」
「いいよぉ」
二人ともいい感じで話していると、可愛いいメイドが来た。
「女将さん、今日も来てくれたんですね」
「ああ、ヒビキの顔も見たいし、ヤマザキさんの料理も食べたいしねぇ」
「うふふ、今日のランチはお好み焼きですけど、どうします?」
「それは昨日食べたねぇ……オススメはあるかい?」
「それならハンバーガーです」
じゃあ、それぇ、とマッカランは注文した。
モンキー先生は首を傾げた。
「女将さん? あなたは何をしてる人ですか?」
「あたしかぇ」
マッカランは、ニヤリと笑ってから答えた。
「あたしはマッカラン、紫娼館の経営者さぁ」
ひぇ? と震えあがるモンキー先生。
心の中は動揺しまくり、汗かきまくり。
(はらぺこ食堂に来る客、バチくそヤバーい!!)
あたふたするご主人を見て、「ウキキ?」と首を傾げる小猿・スモーキーであった。
ここは貴族街にある高級な集合住宅。
その最上階の部屋で暮らす中年の男が、「うーん」と伸びをした。
窓からの眺めは素晴らしく、美しい川や橋、古き良き街並みが見える。
「ウキキッ」
「おはよう」
小さな猿だ。
いや、猿といっても魔物だが、彼はそれをペットにしていた。
彼の名前は、モンキーショルダー。
教職にして、テイマー。つまり魔物使いの先生なのである。
ちなみに魔法学校の生徒からはモンキー先生と呼ばれていた。眼鏡が似合う、三十代の独身貴族で、彼女募集中だ。
「スモーキー、ほらエサだよ」
「ウキキッ」
りんごを与えた。
戸棚にはあらゆる果物がある。もちろん鍵つき。飼育には抜かりがない。
ちゃんと言うことを聞く。
お手、おかわり、ふせ、ちんちん。
特に上手なのは、猿まわしだ。
舞踊だけじゃなく、料理、掃除、洗濯もこなす。
おかげでモンキー先生は家事をしなくていいので、魔法学校の教職に専念することができるのである。
しかし、トラブルが起きた。
喧嘩したのだ。
「ウキキッ!」
「え? 休日にダラダラすな、だって?」
「ウキキッ、ウッキー!」
「洗濯ぐらいやれ? 今日は料理を作りたない……急にどうした? スモーキー?」
「ウキキ……」
「そっか……そうだよな、もともと戦闘に役立つために仲良くなったのに、これじゃあ専業主婦と変わらないもんな……」
ウキ、とスモーキーはうなずいた。
モンキー先生は、ちらっと机にある書類、テスト用紙を見つめる。答え合わせをしなくてはならない。まぁ、連休中にやればいいのだが、何となく言い訳の材料にしてしまう。
「でも、スモーキーが食べて暮らせるのは、僕が働いて稼いでるからだろ? 文句言うなよ……」
「ウキキッ!」
「は? ほな森に帰るわ、だって? 待ってくれよー!」
ウッキ、とスモーキーはそっぽを向く。
そのまま荷造りを始めた。と言っても、枕だけ持っているのが、可愛い。
モンキー先生は、えんえんと泣きながら止めた。
「ごめんよ~スモーキー! 今日は僕が掃除、洗濯する! あ、そうだ! お昼は食べにいこう! 生徒が美味しい食堂を教えてくれたんだ。なっ、そうしよ?」
「ウキキ、ウキキキ」
「え? 今日の風呂上がりは、冷やしバナナをくれ? うんうん、いいよ!」
モンキー先生は、戸棚からバナナを出して、ポイッと冷蔵魔導具に入れた。
横の型番に、『道具屋タリスカー』と書かれてある。
点検日はとっくに過ぎていたが、忘れているモンキー先生であった。
「にしても、掃除、洗濯、たいへんだなぁ……」
「ウキキッ!」
「やります、やりまーす!」
◉
はらぺこ食堂の扉を開けると、がらん、ごろんとベルが鳴る。
店中はカウンターとテーブル席のある、ありふれたレストランで、客の入りは盛況であった。
農夫たち、近所のおじさんやおばさん、子ども連れの家族、さまざまな貧民街で暮らす人々が、もぐもぐ食事を楽しんでいる。
「いらっしゃいませ~」
すぐにメイドが案内してくれた。揺れるポニーテールが可愛い。
だがその前に、モンキー先生の肩には小猿・スモーキーがいる。許可を取るべきだろう。
「あの~ペットもいいですか?」
「ウキキ」
「猿ですか……プルトニーさ~ん!」
ん? と料理を配膳しているもう一人のメイドが顔をあげた。こちらの女性は大人っぽくて綺麗だ。
「ペットの同席はありですか?」
「え!? お猿さんね……ターキーさ~ん! 店の中に猿を入れてもいいかしらー?」
厨房にいるコックが店主だろう。
こちらを見るなり、両手をバツにした。
やっぱりダメか。
いつも外食は貴族街にある露天で食べている。やはり店の中にペットはマズイのだろう。
厨房の奥には、コック服を着たヤマザキが野菜を切っているが、こちらに気づいただろうか。
分からないが、彼は仕事中だ。話しかけるのはよくない。
「残念だけど行こうか、スモーキー」
「ウキキ……」
店から出て帰ろうとした。
そのとき!
ズンッ!
突然、店の壁が無くなった。
まるでスプーンでくり抜かれたように、丸い穴が空いている。
「え!?」
モンキー先生とスモーキーが驚愕していると、その穴から、ぬっとコックのおじさんが出てきた。
ヤマザキだ。
「よく来たな、モンキー先生」
「あ、どうも……ヤマザキさん」
「今、席を用意するよ」
ヤマザキの手には、一本の細い杖を持っていた。
不思議な杖だ。
その杖が壁に触れた瞬間、その木材は変形し屋根になり、ウッドデッキになり……。
気づけばそこに、おしゃれなテラス席が完成した。素晴らしい気配り、屋外ならペットといっしょに食事できる!
「机と椅子も作って……と、できた」
「す、すごい……! ヤマザキさん、天才的な魔導具発明家だったんですね! やばぁぁ!」
「まぁな……さあモンキー先生、座ってよ」
「はい!」
「今日のランチでいいだろ? 猿にはそうだな……野菜スムージーでも作ってやるよ」
「ありがとうございます!」
わくわくして待ってると、「おまたせしました~」と可愛いメイドが料理を運んで来た。
ランチプレートには、お好み焼き、サラダ、スープ。
小猿には、細かく砕かれた野菜のジュースが、なみなみとコップにそそがれていた。
見たこともない料理に驚くが、とりあえず食べてみる。
「な、何だコレ!? めちゃくちゃうめぇ!!」
「ウッキキー!!」
モンキー先生とスモーキーは、泣きながらもりもり食べた。
口のまわりはべっとりだ。
それにしても、テラス席で食べるのは気持ちがいい。
そう、外を歩く人たちも思ったのだろう。新規で入って来る客はみな、テラス席に座った。
厨房では、「大成功だな」「ああ」と店主とヤマザキが拳を合わせている。
(最高だな、はらぺこ食堂は……)
とモンキー先生が感動していると、
「おや?」
どこかで見たことがある客が、テラス席に座った。
美しい羽兜の剣士。
それと付き添いの戦士がいる。
「彼はたしか……ハニィ王子?」
その通りだった。
ハニィは、公務に追われるかたわら、やっとヤマザキの料理を食べにこれたのである。
「ああ、楽しみだな~」
「ほっぺた落ちますよ、ハニィ様」
「ジョニはもう食べたことあるんだよな。どんな味だ?」
「あはは、今日のランチは、その日によって味が変わるんですよ」
「そうなのか!」
「はい、今日のランチはお好み焼き、という料理らしいです」
「なんだそれは?」
分かりません、とジョニは答える。
最高の味です、とすでに完食してるモンキー先生は教えてあげたかった。
っていうか、王族が来店するってヤバい店だ! とも思った。
しばらくすると、ヤマザキが直接、料理を運んでくる。
どうやら知り合いらしい。仲良く談笑を始めた。
「いらっしゃい、ハニィくん」
「来ちゃいました! コック姿も素敵ですね、ヤマザキさん」
「ありがとう……」
ちょっとだけ照れるヤマザキ。
ハニィはポニーテールのメイドを見た。
「聖女ヒビキ、ここで働いているんですね。紫娼館から助けて頂きありがとうございます」
「まぁ、暇だったし……」
マジかっ!?
とモンキー先生は驚愕する。
(ハニィ王子が頭を下げている! ヤマザキさんって何者だよ!?)
「ジョニもいらっしゃい」
「いやぁどもども、道具屋に行って以来、もう娘はご機嫌ですよ」
「それはよかった」
「あはは」
よく笑う戦士だ。彼はハニィ王子の執事なのだろう。
「あ! ハニィ様、聞いてください」
「なんだ?」
「ヤマザキさん、ひどいんですよ、私の服を脱がせるんだから」
「ほう、それは興味深いな」
え? どういうこと?
とモンキー先生は目を丸くする。
ヤマザキさんって、男が好きなの!?
そう思いながら観察すると、おや? ハニィ王子がヤマザキさんを見る瞳が、ハートじゃないか!
おいおいおい、ヤバいやつじゃん、ヤマザキさんって……。
あれ? そういえば僕は、トイレで彼と握手したな。
べとべとしてた。あれはどう言う意味だったんだ。うわぁぁぁ!?
そんな妄想するモンキー先生は、頭を抱えた。
頭、痛いんか? と思ったスモーキーは、「ウキキ……」と撫でてあげてる。優しい。
その一方で、ハニィ王子は食事を始めた。すぐに料理の美味さに絶句し、身体が震え出し、エメラルドの瞳から涙が流れ出す。
「めっちゃ美味しいです……ううう……好き、好きです……ああああ!!」
執事の男も、「うぉぉおおん!」と食べながら泣いてる。
「うめぇ、うめぇ……中はふわふわ、外はカリカリ……まるでツンとデレを感じることができるロリの味だ!」
意味不明だな、この人。
と、目を細めるモンキー先生は政治にも詳しい。たしか、ハニィ王子の執事は王国指折りの魔法戦士だと聞いていたが、なんかアホみたいだ。
(っていうか、忙しそうだなヤマザキさん……)
一言、挨拶したかったが、また今度にしよう。
さて会計して帰ろう、としたとき。
ヤマザキがハニィに一枚の紙を、そっと渡した。食事に夢中の執事にはバレていない。
(うわ……密書か? やばい気になる……)
いけ、スモーキー。
モンキー先生のスキル・猿まわしが発動!
小猿は、「ウキキ」と走って、気づかれないようにハニィ王子の背後にまわり、手に取った紙を覗いた瞬間、さらにスキル発動!
見猿!
賢いので文章が理解できるのだ。
そして、モンキー先生の元に戻って来ると、耳元で内容を報告した。
(え? 明日正午、いっしょに遊ぼう、城に迎えにいくだって……うっほ! もう完全にラブラブじゃん……あわわわわ!)
震えるモンキー先生。
あれ、わい、何かヤバいこと伝えたか? と小猿・スモーキーは、汗をかいてあたふたした。本当に主人思いのペットなのだ。
と、そのとき!
ふわり、と通り道に紫の衣装を着た、絶世の美女が現れた。
ドキッとするモンキー先生は、一目惚れしてしまう。
(綺麗だ……まるで天女だ……)
当然だ。
紫娼館の女将マッカランなのだから。
そして彼女は、モンキー先生のテーブル席に座った。店内は満員で、他に空いている席がなかったのだ。
「相席いいかぇ?」
「……は、は、はい!」
「おや? 可愛いお猿さん……この子、ローランド地方にいる魔物だねぇ?」
はっ! とするモンキー先生。
綺麗なのに魔物に詳しいなんて、どタイプすぎる! と胸を高鳴らせた。
「よく知ってますね! 名前はスモーキー、僕の相棒です」
「ふーん、あんたはテイマーかぇ」
「はい。魔法学校で先生もしてます」
「すごいねぇ、あたし、先生ってやつと初めて話すよぉ」
「そうなんですね、あはは」
「くくくっ、あんた口についてるよぉ」
マッカランは、自分の袖でモンキー先生の口のまわりを拭いてやる。美しい衣装なのに、と彼は思った。
「あ、すいません……」
「いいよぉ」
二人ともいい感じで話していると、可愛いいメイドが来た。
「女将さん、今日も来てくれたんですね」
「ああ、ヒビキの顔も見たいし、ヤマザキさんの料理も食べたいしねぇ」
「うふふ、今日のランチはお好み焼きですけど、どうします?」
「それは昨日食べたねぇ……オススメはあるかい?」
「それならハンバーガーです」
じゃあ、それぇ、とマッカランは注文した。
モンキー先生は首を傾げた。
「女将さん? あなたは何をしてる人ですか?」
「あたしかぇ」
マッカランは、ニヤリと笑ってから答えた。
「あたしはマッカラン、紫娼館の経営者さぁ」
ひぇ? と震えあがるモンキー先生。
心の中は動揺しまくり、汗かきまくり。
(はらぺこ食堂に来る客、バチくそヤバーい!!)
あたふたするご主人を見て、「ウキキ?」と首を傾げる小猿・スモーキーであった。
125
お気に入りに追加
993
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
巻き込まれ召喚された上、性別を間違えられたのでそのまま生活することにしました。
蒼霧雪枷
恋愛
勇者として異世界に召喚されチート無双、からのハーレム落ち。ここ最近はそんな話ばっか読んでるきがする引きこもりな俺、18歳。
此度どうやら、件の異世界召喚とやらに"巻き込まれた"らしい。
召喚した彼らは「男の勇者」に用があるらしいので、俺は巻き込まれた一般人だと確信する。
だって俺、一応女だもの。
勿論元の世界に帰れないお約束も聞き、やはり性別を間違われているようなので…
ならば男として新たな人生片道切符を切ってやろうじゃねぇの?
って、ちょっと待て。俺は一般人Aでいいんだ、そんなオマケが実はチート持ってました展開は望んでねぇ!!
ついでに、恋愛フラグも要りません!!!
性別を間違われた男勝りな男装少女が、王弟殿下と友人になり、とある俺様何様騎士様を引っ掻き回し、勇者から全力逃走する話。
──────────
突発的に書きたくなって書いた産物。
会話文の量が極端だったりする。読みにくかったらすみません。
他の小説の更新まだかよこの野郎って方がいたら言ってくださいその通りですごめんなさい。
4/1 お気に入り登録数50突破記念ssを投稿してすぐに100越えるもんだからそっと笑ってる。ありがたい限りです。
4/4 通知先輩が仕事してくれずに感想来てたの知りませんでした(死滅)とても嬉しくて語彙力が消えた。突破記念はもうワケわかんなくなってる。
4/20 無事完結いたしました!気まぐれにオマケを投げることもあるかも知れませんが、ここまでお付き合いくださりありがとうございました!
4/25 オマケ、始めました。え、早い?投稿頻度は少ないからいいかなってさっき思い立ちました。突発的に始めたから、オマケも突発的でいいよね。
21.8/30 完全完結しました。今後更新することはございません。ありがとうございました!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる