ゆったりおじさんの魔導具作り~召喚に巻き込んどいて王国を救え? 勇者に言えよ!~

ぬこまる

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王位継承編

13 部屋のゴミを取る魔導具 2

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「ってことで、部屋のゴミを取る魔導具を作りたいんだが、風の魔石をかしてくれ!」

 ここは貧民街の古風な道具屋。
 老人タリスカーは、「ううむ……っていうか」と指をさした。

「この可愛いメイドさんは誰じゃ?」

 あ! と姿勢を正すヒビキ。
 ヤマザキが間に入って説明をする。

「この子はヒビキちゃん。おれといっしょに召喚された異世界人なんだ」

 ぺこり、とヒビキは頭をさげる。
 お嬢様育ちゆえ、礼儀が正しい。
 こちらはタリスカーさん、とヤマザキは紹介した。

「ふ~む……ヤマザキさん以外にもおったのか……にしても、よく育っとるのぉ……」

 ヒビキの胸に興味津々なタリスカー。
 おじいちゃん! と道具屋の看板娘デュワーズが祖父を叱りつける。

「ごめんね、ヒビキちゃん。うちのおじいちゃん、もうボケてきちゃってさ」
「……いえ、大丈夫です。それよりもあなたは?」
「ぼくはデュワーズ!」
「ぼく……?」

 きょとん、とするヒビキ。
 タリスカーは、「ボケとらんわい!」とツッコミを入れる。
 ヤマザキは話を戻すべく、倉庫から緑色の魔石を取り出した。
 よく見ると、輝きが鈍い気がする。タリスカーに質問してみた。

「これコア、生きてるか?」
「ん? ああ、しばらく倉庫で眠っていたからな、チャージすれば大丈夫じゃろ……ほれ、デュワーズ教えてやれ」

 ほい、とデュワーズは魔石を持って店の扉を開けた。ヤマザキもそれに続く。

「さあ、ヒビキちゃんも来て! 魔石の授業を始めるよ~」
「はい」

 外は天気が良く、絶好の冒険日和だった。
 季節は春から夏に向かっているのだろう。
 熱い日差しの中を吹き抜ける風が、そよそよと肌を冷まして気持ちいい。
 おほん、と咳払いしたデュワーズは話し始めた。

「まずは復習だよ。魔石は、火、水、風、土、光、闇、無、の七種類。それぞれ属性にあったチャージをしなくちゃならない」

 そうだな、とヤマザキはうなずく。
 すると、ビシッとデュワーズは指さした。

「では、おじさんに質問です!」
「おう」
「火の魔石のチャージは、どうやってしますか?」
「えっと、太陽の光?」
「正解です。まあ、正確に言うと熱なんだけどね」

 あの、とヒビキが手をあげる。
 
「デュワーズさん」
「先生」
「え?」
「デュワーズ先生だよ」

(めんどくせぇやつだな……)

 と、ヤマザキはうんざりした。
 それでもヒビキは、ぴんと姿勢を正して優等生っぽくする。基本的にノリがいい。

「デュワーズ先生、魔石のチャージとは何ですか?」
「魔石はね、魔力の結晶なんだ。チャージはその魔石にエネルギーを貯めることだよ。じゃあ、次の質問はヒビキちゃんね」
「はい」
「風の魔石はどうやってチャージしますか?」
「えっと……風に当てる?」
「正解です!」

 やった、とヒビキは胸の前で拍手した。
 可愛いじゃねぇか、とヤマザキは思う。
 デュワーズは得意がって、風の魔石を掲げた。

「それでは実験だよ! こうやって風に当てればどうなるかな?」
「お! 光ってきた!」
「綺麗です!」

 きらきらと緑色に光る風に魔石。
 チャージ完了だ。これを持って道具屋に戻ったところで、ヒビキはさらに質問をした。

「デュワーズ先生!」
「あ、もう先生じゃなくていいよ」
「……デュワーズくん?」
「ちがう! デュワーズちゃん!」
「え、でも、ぼくって……」
「男の子みたいに強くなりたかったから、ぼくって言ってるだけで女の子だよ」
「あ、そうなんだ……じゃあ、デュワーズちゃん」
「なに?」
「私は回復魔法が使えるのですが、何の魔石が相対してるのでしょうか?」
「んっと、光だね……っていうか、回復魔法が使えるのは聖女しかいないんだけど……え? えええええ!?」

 聖女様!? とデュワーズは、びっくり仰天した。
 ヒビキは申し訳なさそうに下を向く。

「すいません。聖女らしいです」
「ちょちょちょちょっと!? おじさん、どういうこと?」

 ああ、とヤマザキは頭をかく。

「クソ王子ジャックっていただろ、もう死んだけど」
「うん」
「もともとあいつの勇者召喚に巻き込まれて、俺とヒビキちゃんは異世界に来たんだ」
「へー、すごい! でもヒビキちゃんは聖女なのにおじさんは無能じゃん、あははは」

 うるせぇ、とヤマザキは言う。
 そのやり取りが面白くて、ヒビキは、「ふふ」と微笑んだ。

「それでも、おじさんは私を助けてくれました。無能なりに頑張ってくれて感謝してます」
「ねぇ、ヒビキちゃんも俺のこと無能ってひどくね?」
「ふふふ」

(本当に助けてくれて、ありがとうございます)

 と、ヒビキはヤマザキを見つめていた。
 そんな熱~い視線を、デュワーズは見逃さない。

「はっは~ん、ヒビキちゃんもか……」

 と、つぶやく。
 ぼくっ子だが、このような恋愛事情には敏感なお年頃なのだ。
 ちょっとでも、自分の方が優位に立ちたい。
 おじさんの争奪戦が今、始まろうとしていた。

「ねぇ、おじさん! ホコリを取る魔導具ならさ、どんな魔物の素材が欲しい? ぼくがいっしょに冒険してあげる」
「そうだな~、吸い込む技を使う魔物はいない?」
「吸い込むね……それならバキュワームだ!」
「どこにいる?」
「キャンベル砂漠だね」
「げ……あそこにはトールラクダがいるな……大変な冒険になりそう」
「そうだね、バキュワームも巨大な魔物だからね」
「強そうだな……俺たちだけで大丈夫か?」

 ん~、とデュワーズは悩んでいる。
 すっとヒビキが手をあげた。

「他に仲間を集めればいいのでは? もちろん私も行きます」
「うん、それと戦士の前衛がいるといいね」

 それなら、とヤマザキが提案する。

「ジョニかラフロイグがいいな」

 うん、とデュワーズがうなずく。
 しかし、あ! とヤマザキが首を横に振った。

「ジョニは無理だな、きっとハニィくんの監視をしてる……ラフロイグにしよう」

 いいね、とデュワーズは続けた。
 
「強力な魔法使いもいると戦闘が優位になるよ。砂漠地帯の魔物は氷属性に弱いのもポイントだね」
「それなら紫娼館のマッカランがいいな」

 え? とヒビキが驚く。

「女将さん、来てくれるでしょうか……」
「ダメもとで聞いてみよう」

 ヤマザキは、ヒビキとデュワーズを連れて道具屋から出ていく。

「タリスカーさん、いってきます」
「おじいちゃん、いってきまーす!」
「いってまいります……」
「みんな、気をつけるんじゃぞ!」

 手を振るタリスカーは、いいなぁ、と心の中で思う。
 ヤマザキさん、モテるのぉ……。
 
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