ゆったりおじさんの魔導具作り~召喚に巻き込んどいて王国を救え? 勇者に言えよ!~

ぬこまる

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王位継承編

10 青春の味 2

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「ん~今日はこれでいいや……」

 ここは紫娼館の受付。
 ずらりと整列する踊り子から一人、今宵遊ぶ美女を選ぶことができる。
 だが、早まるな、ヤマザキ。
 しばらく悩んだ結果、特に胸が大きな美女を選んだ。
 所詮、男はみなおっぱいが大好きなのである。
 
「うっふん……選んでくれてありがとうございますぅ」

 美女は色気たっぷりの踊りを披露し、ヤマザキを楽しませた。ぷるるん、と胸が揺れている。

「おおー! 綺麗だなぁ、挟まれたい……」

 思えば、異世界に来てから女運が悪い。
 今まで読んだラノベなら美女のハーレムパーティで、いぇーい! なんてことになるはずが。
 ヤマザキが出会う女性は、男装するお姫様と子どもだけ。 
 あ、一人だけいた。
 はらぺこ食堂のプルトニーだ。
 しかし、ちょっと無理だった。
 二十代で年齢的にも良い。顔もスタイルも良い。だが、どうやら店主ターキーが彼女のことを好きらしい。
 なのでターキーの恋路を、陰ながら応援してるヤマザキなのである。
 そんな思いもあるし、前世で彼女もいないせいもあってか、ヤマザキは美女に、どハマりそうになっていた。

「ささ、こちらの部屋で楽しみましょう」
「……う、うん」

 腕を引かれるヤマザキの顔がまっ赤だ。
 異世界で童貞卒業か。まぁ、それもいいかも。
 なんて考えていると、布団が敷かれた部屋に入り、いよいよ美女とのお楽しみタイムとなった。

「座ってください」
「うん」
「うふふ、緊張してますね……大丈夫ですよ初めてなら、優しくしますから」
「うん」
「ほら、触ってください」
「うん」

 美女は、ぷるんと胸を近づけてくる。
 ヤマザキの手は、ガクブルに震えていた。
 童貞あるあるである。
 いざとなると、何も動けなくなる呪いの魔法だ。
 すると、美女がヤマザキの手に触れた。
 誘導するつもりだろう。
 このまま流されようか、と思っていたが、ふと何かが頭に浮かんできた。
 それは、羽兜の奥にあるエメラルドの瞳だった。
 なぜハニィの顔が浮かぶのだろう。
 理解できない。
 だが、ハニィの赤くなった顔や笑顔が、なぜか頭から離れない。
 気づけば、美女を押し倒していた。
 
「動くな、俺は自分で攻める方が好きなんでね……」
「あらぁ……それなら、お好きにどうぞ」

 無防備に寝そべる美女。
 ヤマザキは、さっと腹からシャツを取り出す。ジョニから借りた服だ。ビリビリと破く。
 そして、美女の顔を巻いて覆った。
 
「あん、目隠しですか……最高です」
「もっと緊縛してほしいか?」
「はい」

 おらっ、と美女を寝転がし、手と足をシャツの切れ端で縛った。
 
「あんっ! こんな縛り方はじめてっ!」
「そうか、じゃあ、ちょっと待ってろよ」

 ヤマザキは、美女の耳元でささやく。
 彼女は、ぞくぞくっと感じ、胸はドキドキと高鳴っている。
 
(やだ、お客さん相手なのに感じちゃった……これから私、どうなるんだろう……)

 どうにもならなかった。
 ヤマザキは美女を放置して、部屋から出ていく。
 
「やれやれ、やっぱり初めては好きな人とじゃないとな……」

 ヤマザキは、そうつぶやく。 
 しかし、なぜハニィのことが頭に浮かんだのだろう。
 ぶるるん、と首を横に振ったヤマザキは、本来の目的に集中した。
 
「さて、いっしょに召喚された女子高生を助けるか……」

 何気なく、紫娼館の中を歩く。 
 部屋の扉はどれも閉められており、移動は楽だった。
 たまに用心棒とすれ違うが、まったく怪しまれなかった。ヤマザキのことを太客だと思っているのだろう。
 ジョニのジャケットは、おじさんを貴族に変える効果があった。
 しばらく散策すると、ひときわ豪華な扉があった。
 その扉には、龍と虎が戦っている絵が描かれている。
 ちょっと開けて、中を覗いてみた。

「すーぴー、すーぴー」

 誰かが寝ている。
 踊り子の衣装よりも、さらに華やかな衣装を着た美女が寝ていた。

(あれが、マッカランか……ん?」

 部屋の中に、植物が栽培されている。
 稲、それにピーマン、ナス、キャベツなどなど、和食に欠かせないものばかり。
 
「いいなぁ……」

 食材が欲しかったが、今はヒビキを救う方が優先だ。
 ヤマザキは探索に戻った。
 しばらく回廊を歩いていると、

「おや?」
 
 違和感のある部屋を発見した。
 足が凍った用心棒がいたのだ。 
 門番なのだろう。
 扉の前で、ガクブルに震えている。

「この部屋、あやしいな……」

 ヤマザキは門番から離れ、鞄から杖を取り出す。
 木材粘土の杖だ。
 その杖に触れた木材は、ぐにゃりと粘土化してしまう。
 
「よし……」

 木で作られていた部屋の壁は、ヤマザキによって穴を開けられた。
 とても綺麗にくり抜いたので、あまり目立っていない。
 出入り口だと思う、客もいるくらいだった。
 部屋に侵入してみると、あっけなく目的の人物を発見した。

「おじさん……なんで?」

 ヤマザキを見て、びっくりするヒビキ。
 逆にヤマザキの方も、びっくりしていた。
 なぜなら、氷像があったからだ。
 
「やあ、助けにきたぞ~」
「……う、うわーん!」

 とても心細かったのだろう。
 泣きながらヒビキは、ヤマザキの胸に飛び込んだ。
 
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
「おいおい、どした?」
「わたし、おじさんを無視してしまった……リクがひどいこと言ってるのに注意もできなくて……うわぁぁぁ!!」
「ああ、泣かないでぇ」
「でも、でも……」
「大きな声だしちゃダメだ……人が来ちゃうだろ」

 ヤマザキの手で、「んぐっ」と口を塞がれたヒビキ。
 なんとか泣き止んだ。
 身体は立派なヒビキだが、心は十七歳の少女。
 異世界に来て、こんなところに閉じ込めれたら、泣き出しても無理はない。
 ヤマザキは、ぽんぽんとヒビキの頭を撫でた。

「よく頑張ったな! さあ、ここから逃げよう」
「はい……でもその前に、ちょっと試したいことがあって」
「なに?」
「この氷を溶かそうと思います」
「えっと、これなに?」
「私のせいで氷漬けにされた男性です」
「ふーん、でもどうやって?」
「たぶん、治れー! って祈ればいいと思います」

 治れー! とヒビキは氷像に手を触れた。
 すると、眩しい光が放出される。
 状態異常を回復させる魔法だ。 
 みるみるうちに氷は溶け、ぬるっと男が出てきた。
 しかし、起き上がらない。
 どうやら酔っ払って、「ぐがが」と寝ているようだ。

「よかった」
「幸せなやつだな……それにしても、君、魔法が使えるんだね」
「はい! 回復魔法だけですけど」
「ふーん、でも偉いよ、この人の命を救ったんだから。あのまま氷漬けって、死んでるといっしょだもん」
「そうですよね……女将さんひどい……」

 マッカランのこと? とヤマザキは質問した。
 はい、とヒビキを答えた瞬間、はっと気づいた。

「いけない! 魔法を使うと女将さんに魔力探知されちゃいます!」
「急いで逃げよう!」
「はい」
「それじゃあ、タマ、触って!」

 え? とヒビキは固まった。
 ヤマザキは鞄を開けて、「さあ」とヒビキに近づく。
 ヒビキは顔を赤くさせ、もじもじと困りまくっていた。

「た、タマって……ここで触るんですか?」
「そうだ! 早く触れ!」
「わ、わたし、触ったことなくて……いやん」
「いいから触ってくれ!」
「でもなんで急にそんなことを……男の人って何考えてるか分かりません。逃げるんじゃなかったんですか?」
「身体を変えて逃げるんだよ! ほら、触って!」

(どんな身体に!?)

 ヤマザキはヒビキの手を握って、自分の方へ誘導させる。
 
「きゃぁぁああ!!」

 さらにヒビキの顔が赤くなる。
 華奢な手が、ヤマザキの鞄の中に突っ込まれた。

「え?」

 次の瞬間、ぽわわん!
 二頭身になった可愛いヒビキが現れた。
 パニックになり、やっぱり踊っている。人間って混乱すると、みなこうなるようだ。
 
「は? は? 何ですかこれはー!?」
「落ち着けヒビキちゃん。君はミニモフになったんだよ。時間が経てば元に戻れるから安心しろ」
「は、はい……異世界ってやばっ……」
「わかったら、ここに入れ」

 ヤマザキに抱っこされるヒビキ。
 まるで、もふもふした人形のようだ。
 ヒビキを腹の中に入れて、服で覆った。これで容姿は、また太った貴族に見える。
 しかし、おじさんに抱っこされ、密着状態になってしまったヒビキ。
 不思議なことに、なぜか恍惚としている。 
 
「うっ……これがおじさんの匂い……」
「我慢しろ」
「あ、いや、むしろ甘い香りで……めっちゃいいです」

 は? と目を丸くするヤマザキ。
 気づけば、腹の中で、「くんか、くんか」と荒くなった呼吸音が聞こえる。

「ヒビキちゃん、大丈夫か?」
「はい、全然おっけーです……くんくん、はぁ……」
「!?」

 何かよくわからないが、ヒビキを抱えたヤマザキは、紫娼館を出ようと玄関まで急ぐのだった。


 ◉


「だから、お客様、ここで筋トレはおやめください!」

 ここは紫娼館の前。
 女将マッカランの注意する声が、夕焼け空に響く。
 ふんっ、ふんっ、と腕立てをするジョニ。
 彼は上半身裸だった。
 いい汗をかいて、美しい腹筋が割れているのが見える。
 そこは、まぁ、マッカランとしては目の保養になるからいいとして、問題なのは悪目立ちしていることだ。
 
「他のお客様の迷惑になります! おやめください!」
「ああー! 気持ちいいー! ハッスル! マッスル!」

(ああ、もういいや、めんどくさい……こいつ凍らせよう)
 
 マッカランは、自慢の氷魔法を手元で作った。
 しかしそのとき!

「え?」
 
 魔力探知に反応がある。
 紫娼館の中だ。
 
(何だこの魔力は……心が温まるような、優しい魔力……これはヒビキなのか!?」

 急いで紫娼館に戻るマッカラン。
 ジョニは、ただひたすら筋トレだけしていた。しかし、ちょっと泣きそうだ。
 
「ふんっ、ふんっ……本当にこんなんでいいのかなぁ……ヤマザキさーん」

 
 一方、マッカランは玄関に飛び込んだ。
 そしてすぐに魔力探知をする。

(ヒビキの魔力が小さい。どこだ? 部屋にいない……クソッ、移動しているねぇ……)

 マッカランは、自分の魔法に絶対の自信を持っている。
 魔力に目覚めて二十年、ずっと鍛錬を重ねてきたのだ。
 故郷に帰り、母親に会って父親の最後の言葉を告げるため、ずっと……ずっと……。

「あやしいねぇ……」

 マッカランは、一人の男に目をつけた。
 太った貴族の男だ。
 
(この男の魔力は雑魚だけど、なぜか分からんが、微かにヒビキの魔力を感じるねぇ……)

 思い切って、男に声をかけた。

「お客様、ちょっとよろしいでしょうか?」
「なに?」
「本日の踊り子はいかがでしたか?」
「ああ、いいよ、またくるね~」

 急いで帰ろうとする、デブな貴族。
 絶対にあやしい! と思うマッカランは、ぷっくりと太った貴族のお腹に触れた。
 
 もふん、もふん……

 肌触りが、気持ちいい。
 マッカランは、目をうっとりさせていた。

「お客様、太客ですねぇ」
「ああ、ありがとう」
「ちょっと、お腹、見せてもらえませんか?」
「断る」 
「いいじゃあないですかぁー!」
「嫌だって」
「減るもんじゃないしー!」
「嫌だってばっ!」
「見せてくださいよー!

 びりッ!

 服が破れる音が響く。
 すると隠れていた二頭身ヒビキが、ぴょこっと顔を出した。
 マッカランの目はめろめろだ。
 
「可愛いぃねぇ♡」
「ちっバレたか! 走るから捕まれヒビキちゃん!」

 はい! と答えるヒビキ。
 マッカランは二頭身ヒビキを見て、さらに決意を固くした。絶対にヒビキを手放したくない。

「逃がさないよっ!」

 氷柱アイスニードルがヤマザキの顔面に飛んでくる。
 完全に殺すつもりだろう。
 禍々しい魔力が宿った、尖る氷柱。それがヤマザキの顔面で、ピタッと停止する。
 特級魔導具・バリアバングルが発動!
 おじさんの装備する腕輪が、きらりと光り輝く。 
 
「ぐぐぐっ! なぜだ!? なぜやつを貫けんっ!」

 マッカランは、魔力を全開にした。
 しかしヤマザキの目の前で、ガタガタと氷柱が震えているだけで、びくともしない。
 いや、逆に氷柱の先端の向きが変わっていく。

「バカな! あたしの魔力を、跳ね返してるねぇっ! あんた、いったい何者だい!?」
「ただの異世界から来た、おじさんだ」

 平気な顔でヤマザキは言う。
 対照的に、「ぐぬぬぬ!」と氷柱を貫こうとするマッカラン。
 だが、次の瞬間!

 ぐるん!

 氷柱は、その進路をマッカランに定め、超高速になって飛んでいく。

「うそっ……!?」
 
 マッカランの腹に、ぐさりと氷柱が突き刺さった。
 自分の魔法が凶器となって返ってくる。
 こんな摩訶不思議なことは、魔力に目覚めて以来、初めての経験だ。
 しかも自分を倒す相手が、あのような魔力の貧弱なおじさん、だなんて。

(ああ、ごめんよ、おとうさん……おかあさんに謝れなくて……)

 悲しくて、涙が溢れる。
 ここで死ぬのか。
 どくどく、と腹から出血している。内臓をやられた。
 目を閉じる。もう、疲れた。もう、いいや、おとうさんのところへ行こう……。

 あたたかい……。

 気持ちがいい……。

 癒される……。

 こんな優しい気持ちは初めてだ。
 
「ああ、幸せ……」

 ん? と目が覚めるマッカラン。
 起き上がると、そこにはヒビキの笑顔があった。

「あ、うまくいきましたよ、おじさん」
「ほんとだ……死んだと思ったわ」

 がばっと飛び起きるマッカラン。
 きょろきょろ、とあたりを見渡して、ここがどこだか確認をする。
 よかった。ここは自分が作った建物・紫娼館だ。
 だが、なぜ生きている?
 傷ついた腹は綺麗だ。出血した衣装だけが、赤く染まっている。 

「あたしは……いったい?」

 ヤマザキは、静かに答えた。

「ヒビキちゃんに感謝するんだな」
「え?」
「回復魔法を使ったんだよ」

 そうかぇ……とマッカランは肩の力を抜く。
 そしてヒビキを見つめ、「ありがとう」と言った。
 その言葉が嬉しくて、ヒビキは笑顔になった。

「女将さん……わたし、ここを出ます」
「ああ、好きにおし」
「あのぉ、でも、たまに来てもいいですか?」
「あ? なんだいそれ? 紫娼館から出た踊り子が帰ってくるなんて、前代未聞だよぉ」 
「魔法を教えてほしいんです。あと、踊りも……」

 ははははっ! とマッカランは豪快に笑った。

「気に入ったよぉ! ヒビキはもう踊り子じゃあない。あんたはあたしの命の恩人だよぉ」

 すりすり、とマッカランはヒビキに抱きつく。
 ちょっと困ったようにヒビキは、ヤマザキを見た。

「どうしましょう、おじさん、懐かれちゃいました……」
「まぁ、いいじゃん。ちょっとお茶でも飲ませてもらおうぜ、いいだろマッカラン?」

 あんた……とヤマザキを見つめるマッカラン。
 何を言うかと思ったら、ニコッと笑った。

「よく見るとかっこいいねぇ、よし、あんたも気に入った! なんせ、あたしを倒した男だもんねぇ」
「ん?」

 マッカランはヤマザキの腕に抱きついた。 
 むにゅ、と胸があたり、ニヤニヤするヤマザキは、ヒビキの方を見た。

「懐かれちゃった……どうしよう? ヒビキちゃ~ん」 
「知りませんよ」

 ぷいっとヒビキは、顔を横にする。
 マッカランは、「さあ、こっちさ」と紫娼館の中へと、二人を案内するのだった。
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