19 / 56
王位継承編
5 ミニモフの玉 1
しおりを挟む魔石。
それは魔力が結晶化した鉱石で、魔導具を動かしたり、守護石にしたり、または異世界から勇者を召喚したり……。
その用途は幅広く、ハイランド王国の文化となっている。
例えば家庭に普及している、火の魔石コンロ、水の魔石バルブ、などは生活に欠かせない魔導具だ。
宣伝するようだが、それらの魔導具が買える店が、ヤマザキの働いている道具屋タリスカーなのである。
ちなみにこの道具屋は、家族経営であった。
製作、修理を祖父タリスカーが担当。
会計、掃除、在庫管理は、孫娘のデュワーズ。
魔石の補充は、冒険者であるフィディックとリベット夫妻の役目だ。
魔石の採取には、高い冒険者ランクが要求される。
それは採取場所が苦境だからだ。
凶暴な魔物の巣窟、深い海の中、マグマが噴火する火山地帯、エルフの里、ドワーフの洞窟、謎の迷宮、恐ろしいドラゴンの体内などなど……。
したがって、夫妻は世界中を旅しており、道具屋にいることは、ほとんどない。
『おかあさーん! おとうさーん!』
ここはデュワーズの夢の中。
泣きさけぶ幼いデュワーズは、両親がいなくて寂しい思いをしていた。
でも、ふらっと母親が帰ってくると、ぎゅっと抱きしめてくれる。
その温もりが、愛しさが、嬉しくて儚くて……。
『あっ、おかあさーん!』
両親はデュワーズから離れ、またすぐに旅立ってしまう。ハイランド王国の文化を守るため、魔石を運ばなくてはならない。
(だったら、ぼくも魔石を採取する側になれば……いっしょに冒険にいけるよね)
そのように幼い頃から、デュワーズは考えていた。
そして、立派な狩人になった今でも……。
ずっと……。
チュンチュン……
庭で小鳥が鳴いてる。
「デュワーズ、おはよう! 朝ごはんよ」
こん、こん、と部屋の扉がノックされる。
優しい母の声も聞こえた。
(そうだ! お母さん、帰ってたんだ!)
飛び起きたデュワーズは、急いで制服に着替えて、ドタバタと階段を駆け下りる。
「なんじゃい、騒々しいのう」
老人タリスカーの小言がうるさい。
だが、根は優しい好々爺だ。もう朝食を食べている。
道具屋の奥には、ちゃんと生活空間があり、店舗兼住宅となっているのだ。
「おじいちゃん、おはよう」
「おはよう……もぐもぐ、あ、そういえば今日は魔法学校でイベントがあったようじゃが?」
「うん、授業参観があるよ、ねぇ、お母さん来れる?」
うーん、とリベットは悔しそうな顔をした。
「ごめんねデュワーズ、馬車の予約してあるのよ、朝ごはんを食べたら出発しなきゃ……」
「えー! もう行くの?」
「うん、フィディックさんを独りにさせたくないし……だって、あの人ったらどんどん先に行っちゃうから、早く追いかけなきゃ」
「はいはい、ラブラブだね~」
つん、とするデュワーズ。
リベットは、ぽっと顔を赤くしている。
すると、タリスカーが空っぽになった皿を持ち上げた。
「おかわり!」
「おじいちゃん、朝からよく食べるね~」
「リベットさんの料理は美味い! 特にこの卵焼きは最高じゃ!」
うふふ、とリベットは微笑んだ。
その笑顔は、またしばらく見れなくなる。
デュワーズは、ちょっとだけ悲しくなったが、めそめそしてはダメだ。
そう自分に言い聞かせて、もぐもぐとパンを頬張る。
リベットは、大盛りの卵焼きが乗った皿をタリスカーに渡した。
「おじいさん、私の代わりに授業参観に行ってくれませんか?」
「嫌じゃ、わしはポーションを作らんといかん」
「あら、困ったわね……あ! そうだ、ヤマザキさんなんてどうかしら?」
「それはいい、そうしてくれ」
「じゃあデュワーズ、そういうことで~あ、後片付け、よろしくね」
ちょっと、お母さん! とデュワーズは叫ぶが、リベットの意識はもう冒険に向かっている。
旅の支度をしたリベットは、扉を開けて出ていった。
「いってきまーす」
「達者でな」
「いってらっしゃい……」
もりもり食べるタリスカー。
その隣で、ずずず、とスープをすするデュワーズであった。
◉
「おじさん、いっしょに魔法学校に来て!」
と、なぜか、ぷりぷりと怒っているデュワーズの手に引っ張られ、ヤマザキは農作業を中断された。
そして彼の眼前には、でーんと城のような校舎が現れる。
王立モルト魔法学校。
有名な冒険者を数多く輩出してきた、ハイランド王国きっての名門校である。
その歴史は古く、ほとんどの生徒が貴族の子女でもある。
そんな由緒ある校舎に向かい、並木道を歩く生徒とその両親たち。
優雅に友人と話しながら登校する彼らだったが、一人のおじさんが校門を潜って姿を現した瞬間、校内の空気が変わった。
「やだ、なにあのおじさん。汚いわ~」
「貧民デュワーズの隣にいるから、きっと父親ね」
「農夫かしら……服が泥だらけ」
「でもデュワーズって道具屋じゃなかった?」
「うん、あの子、いつもポーションくさいもんね、あははは」
ヤマザキは明らかに浮いていた。
周りは派手な衣装の貴族たちばかり。ぽつん、と彼だけがラフな服を来ていた。
デュワーズは恥ずかしくなり、足早に掛けていく。
(やっぱりこうなったか……まぁ、お母さんを連れて来ても同じこと……しゃあない十人十色!)
そう思い下を向くデュワーズの顔を、ヤマザキは覗き込む。
「デュワーズ、どうした? 今日はまったく笑わないな……」
「笑えないよ! 聞こえてるでしょ? 貴族たちの声! ぼくたちバカにされてるんだよ!」
「別にいいじゃないか。ボロは着てても心は錦」
は? とデュワーズは、あんぐり口を開ける。
また異世界の言葉か。
と思い、さっさと教室に入っていく。
ヤマザキも着いていこうとしたが、
「おじさんはあっち! 武道館に行って!」
とデュワーズに指示された。
そちらに顔を向けると、まるで闘技場のような建造物があり、先生だろうかプラカードを持った人がいる。
『保護者の方は、こちらでお待ちください』
そのように書いてあった。
ヤマザキは、悠々と散歩みたいに歩いて、武道館に向かう。
(ほんっと、おじさんってゆったりしてる……)
とデュワーズがヤマザキの背中を見つめていると。
「ぉぉ………ぉはよぅございますぅ……」
蚊の鳴くような声が聞こえてきた。
ん? と振り返るとクラスメイトの女子生徒・チタが、もじもじしながら立っている。
「なに?」
「あの……いっしょに歩いていた方って……慰霊式典で表彰されていたおじさんですよね?」
「うん、そうだね、式典に来てたの?」
「はい、一応、王族ですから……」
「ふーん」
あのっ、とチタは声をかける。
まだ何か? とデュワーズはチタの顔を横目に見た。
「今度、道具屋に遊びに行ってもいいでしょうか? 魔導具を作っているところを見てみたいのです」
「は? 別にいいけど……でも貧民街だよ? いいの?」
「はい、行ってみたいのです」
変なお嬢様だ。
と、デュワーズは思う。
しかし、自分といっしょにいてはダメだ。巻き込みたくない。
近づいてくるチタと離れ、教室に向かうのだった。
219
お気に入りに追加
993
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
巻き込まれ召喚された上、性別を間違えられたのでそのまま生活することにしました。
蒼霧雪枷
恋愛
勇者として異世界に召喚されチート無双、からのハーレム落ち。ここ最近はそんな話ばっか読んでるきがする引きこもりな俺、18歳。
此度どうやら、件の異世界召喚とやらに"巻き込まれた"らしい。
召喚した彼らは「男の勇者」に用があるらしいので、俺は巻き込まれた一般人だと確信する。
だって俺、一応女だもの。
勿論元の世界に帰れないお約束も聞き、やはり性別を間違われているようなので…
ならば男として新たな人生片道切符を切ってやろうじゃねぇの?
って、ちょっと待て。俺は一般人Aでいいんだ、そんなオマケが実はチート持ってました展開は望んでねぇ!!
ついでに、恋愛フラグも要りません!!!
性別を間違われた男勝りな男装少女が、王弟殿下と友人になり、とある俺様何様騎士様を引っ掻き回し、勇者から全力逃走する話。
──────────
突発的に書きたくなって書いた産物。
会話文の量が極端だったりする。読みにくかったらすみません。
他の小説の更新まだかよこの野郎って方がいたら言ってくださいその通りですごめんなさい。
4/1 お気に入り登録数50突破記念ssを投稿してすぐに100越えるもんだからそっと笑ってる。ありがたい限りです。
4/4 通知先輩が仕事してくれずに感想来てたの知りませんでした(死滅)とても嬉しくて語彙力が消えた。突破記念はもうワケわかんなくなってる。
4/20 無事完結いたしました!気まぐれにオマケを投げることもあるかも知れませんが、ここまでお付き合いくださりありがとうございました!
4/25 オマケ、始めました。え、早い?投稿頻度は少ないからいいかなってさっき思い立ちました。突発的に始めたから、オマケも突発的でいいよね。
21.8/30 完全完結しました。今後更新することはございません。ありがとうございました!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる