ゆったりおじさんの魔導具作り~召喚に巻き込んどいて王国を救え? 勇者に言えよ!~

ぬこまる

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勇者召喚編

3 魔法はイメージ

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「なんて書いてある?」

 エメラルドの美しい瞳が、羽兜の奥で光り輝く。
 ハニィは、ヤマザキからもらった名刺を見つめている。
 ここはハイランド王国の魔導研究所。解析魔導具にかけられた一枚の紙に、ハニィや魔術師たちの視線が集まっていた。

「わかりません……この紙には魔力がないようです」
「え? 魔力もなしに、こんなに小さく綺麗な文字が書き込めるのか?」
「そのようですね。彼らの世界は、私たちの世界よりも遥かに技術が発達しているようです」
「くそ……もう一度、あのおじさんともう一度お話ししたいのに……」

 ハニィのご機嫌は斜めだった。
 兄ジャックの命令、『魔族が一掃されるまで城にいてね♡』と、外出を禁止されていたのだ。

(溺愛もここまで来ると狂気だ)

 だからせめてヤマザキからもらった紙の内容。それと居場所だけは知りたかった。
 
「ジョニ、おじさんはどこにいる?」
「すいません捜査中です。ただ、外国人が畑を耕していた、との情報は得ています」

 すぐに調べろ、とハニィは命令した。

「それと冒険者たちに魔物討伐のクエストを申請しておけ!」
「かしこまりました」

 ジョニは、従順に頭を下げると城から出ていく。
 
(ああ、大丈夫かな……)

 心配でしょうがない。
 ハニィはヤマザキのことを、むかし飼っていた子犬と重ねていた。まるまる太っていた、可愛い子犬と。
 
(バリアバンクルを装備させたから大丈夫か……)

 あれはハイランド王国で厳重に管理された国宝と言われる特級魔導具だ。 
 ふつうの魔導具は、火、水、風、土、の自然エネルギーの魔石を使用しているが、特級魔導具は、闇、光、無、の宇宙エネルギーの魔石を使用したスーパーレアな魔導具なのだ。
 ハニィは姫なので特級魔導具の装備を許されていたのだが、それをヤマザキに渡していたのである。
 そのことを兄に知られたら、めちゃ怒られるだろうが、バレていないので黙っている。
 それよりも、名刺に書いてある言葉がハニィは気になっていた。
 というよりも、ラブレターだと思い込んでいたのだ。
 
(あれは絶対に恋文だ……)

 ハニィは焦らされるのが嫌いだ。
 イラついて魔術師にあたってしまう。

「んもう、解析はまだなのか!」
「申し訳ありません。解析不能であります」

 ガクッと肩を落とすハニィ。
 そこへジョニが近寄り、ぼそっと助言した。

「その紙を勇者たちに見せたらいいのでは?」

 その手があったか! とハニィは瞳を大きく開いた。
 速攻で名刺を解析魔導具からぶん取ると、猛ダッシュで城の中を走る。
 着いた場所は訓練場だ。
 そこでは勇者と聖女が魔族と戦っていた。
 一匹のゴブリンが咆哮している。
 ハイランド王国のフィールドでありふれた魔物。冒険初心者には持ってこいの相手だ。

「おりゃあ!」

 見事、勇者の剣撃が命中。
 ゴブリンは血を流して倒れた。
 だが、その光景が怖くて聖女は、「おえぇー」ときらきらした胃液を吐き出した。
 
(あちゃぁ……)

 これにはジャックも呆れていた。
 勇者の肩を叩いて微笑んでから、うずくまる聖女を見下す。

「何回だ? 何回、掃除させれば気が済む?」
 
 パンパン、と手をたたくと衛兵たちがやってきて聖女の汚物を片付けていく。
 聖女はさらに泣き言も吐いた。

「ううう……無理ですよ、いきなりモンスターと戦えなんて……」
「あれれ? リクくんといっしょなら平気と言っていたのは誰かな? ん?」
「で、でも……怖いよ、こんなの」

 聖女は、チラッと勇者を見る。
 勇者の名前はリクだ。彼は自分の強さにうっとりしている。

「ヒビキちゃんは回復だけしてくれたらいいよ……戦いは俺一人でじゅうぶんだ」

 ぱちぱち、とジャックが拍手する。
 
「素晴らしい! それでは聖女ヒビキよ、回復魔法をやってもらおうか……おや? ゴブリンを殺せていないようだ、攻撃力がまだ弱いぞ?」

 ジャックは勇者を睨んだ。
 勇者は、ビクッと身体を震わせる。

「ごめんなさい、まだ剣に慣れてないみたいだ、あはは」
「そうか……はやく慣れろ」
「はい」
「では聖女ヒビキ、ゴブリンの傷を癒せ」

 血だらけのゴブリンが倒れている。
 その傷口を見てしまった聖女は、「うぷっ!」とまた吐いた。
 ダメか、と悟ったジャックは腰の剣を抜くといきなり勇者の腕を切った。かなり深い傷だ。

「うわー!」
「ほら聖女よ、勇者の傷を回復させろ。はやくしないと大量出血で死んでしまうぞ?」
「ひどい! なんてことするんですか!」

 魔力は怒りによって増大する。
 聖女の身体が光り輝き、癒しの魔法が溜まっていた。
 しかし、どうやって魔法を発動したらいいか分からない。
 混乱する聖女だったが、突然ハニィが現れたので目を丸くした。

「聖女ヒビキ、魔法はイメージするものだ。想像してごらん、切れた細胞が結合して血管も肉もすべて元通りになっていくことを……大切な人を守ってあげる気持ちをもて」
「魔法はイメージ……」
「そうだ、がんばれ! そうしたら装備しているスティックに祈りを込めて、それは魔力を増幅して放つことができる魔導具だから」

 ぽわわん、と聖女のスティックから回復の光魔法が放たれた。
 勇者の傷は、みるみるうちに治っていく。
 
「す、すごい! ヒビキちゃんありがとう!」

 喜んだ勇者は、聖女を抱きしめた。
 一方、ハニィはジャックを睨みつける。

「お兄様! こんなバカなことやめてください!」
「……なぜ? 勇者たちを鍛えて魔物を一掃させる。国の命運がかかっているんだ。甘い考えは捨てろ」
「勇者より街の冒険者たちを鍛えればいい! 衛兵たちだっている!」
「衛兵の人数は減らしたくない。それに先代の王の堕落によって街の治安は腐りきって冒険者たちは荒くれ者ばかり……無理な話だな」
「それを正すことがお兄様のつとめでは?」

 ハニィの言葉は正論だ。
 ぐっと歯を食いしばるジャック。
 殴られる、とハニィは思ったが、返ってきたのは涙だった。

「ああ、それは王になる僕の宿命だ。でも僕には魔物を倒せるほどの力がない。だから召喚した勇者にやらせるんじゃないか。魔物を一掃できたら、冒険者も衛兵もみんな勇者をリーダーとして認めるだろ? 結局、力こそが国を統治するのだ」

(お兄様の泣いている姿を見るのは、二回目だ。一回目は、お母様が亡くなった時……)

 ハニィは真剣な眼差しで提案した。

「わかった……でも、教育するのは私がする……いい?」
「ああ、頼むよハニィ、僕は魔物の動向を見てくる」

 うん、とハニィは答えた。
 ジャックは訓練場を後にする。
 心の中で兄のことを思う。
 
(国を守るためなら、悪者になってもいいと思っているのか……)

 勇者がハニィのところへ近づく。
 ものすごく笑顔だった。

「ありがとう!」
「どういたしまして」
「あいつ兄貴なの?」
「うん……それより勇者様、あなたは平気なのか? 魔物と戦うって残酷なことだよ」
「まぁ怖いけど、俺は異世界に来れて感謝してるぜ! だって魔法が使えるからな!」

 ボワッと炎を出して見せる勇者。
 手の中で青い炎が踊っていた。赤よりも青の方が強い。勇者はすでに自由自在に魔法を操れている。
 
(恐ろしい子……)

 一方、聖女は自分の震える手を見つめていた。
 魔法が使えたことが、まだ信じられないようだ。

(質問するなら勇者の方だな)

 と判断したハニィは、名刺を勇者に渡した。

「これ何て書いてある?」
「どれどれ? やまざきはくしゅう? 酒みたいな名前だな。これ、いっしょに召喚されたおじさんの名刺か?」
「そうなんだけど、他には何か書いてない?」
「いや、あとは金属加工会社と連絡先が書いてあるけど、知ったところで意味ないな」

 え? とハニィは唖然とする。
 名刺を返してもらい、しばらく立ち尽くした。

(ラブレターじゃなかった……)
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