転生したら悪役令嬢……の取り巻きだったけど、自由気ままに生きてます

こびとのまち

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それぞれの想い

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 実のところ、生徒会室で初めてシランさんと出会った時点で、もしかして彼女が……という淡い予感はあった。

 ただ、少女のことを運命の相手だなんて思ってはいるものの、晩餐会で言葉を交わしたのは、ほんの数分間の出来事である。まして、もうあれから数年が経過している。あの日の少女も立派に育ち、外見だって変わっていることだろう。
 そして何より、シランさんはわたしのことを全く知らない様子だった。仮にあの少女だったところで、わたしのことを覚えてくれているかと言えば微妙ではあるが……少なくとも、シランさんがわたしのことを初対面だと認識していることは間違いないだろう。だから、わたしは確信を得ることができなかった。

 とは言え、いつまでも疑念を疑念のままにはしておけない。マーガレットを巻き込むと面倒なので、近々シランさんと二人で会う機会を作ってみよう。そんな風に考えていたタイミングで、都合よく彼女が生徒会室にやってきた。
 シランさんがあの時の少女なのか、確認するなら今が絶好機だ、と思った。マーガレットの不在を把握したシランさんが帰ってしまわないよう、来客用に用意しておいたとっておきのスフレケーキも出してみた。シランさんが思いのほか食いついてきたので多少驚いたが、おかげで確認のための話題も切り出しやすくなった。
 そして、あの問いを彼女に投げた。



「コスモスさんは、どう生きたとしても、コスモスさんです。それに……コスモスさんが何者かは、コスモスさん自身が理解している、と思います」

 その言葉を聞いた瞬間、わたしの心臓はどくんと強く脈打った。
 間違いない。シランさんこそが、わたしの運命を変えた少女だ。そう確信した。
 わたしは、運命的な再会に対し大いに浮かれた。浮かれてしまった。だから、シランさんの異変に気付くのが遅れた。ふらつくシランさんに、手を差し出すことしかできなかった。その手が届くことはなく、壁にぶつかったシランさんの頭上で、壁にかかった額縁が外れる。

「危ない……!!」

 わたしの叫びをかき消すように、ごつんと大きな音が生徒会室中に響き渡った。そのまま倒れ行くシランさんを、ただ呆然と見つめること数秒……正気に戻ったわたしは、慌ててシランさんに駆け寄る。
 血は流れていないようだ。しかし、肝心の意識がない。わたしの背中に冷汗が流れる。ようやくの再会なのに、こんなことってあるだろうか。
 いや、今は運命を呪っている場合ではない。

「待っていておくれ、シランさんっ」

 保健医を呼ぶため、医務室の方角へと駆け出した。副会長が廊下を走るなんて……などと言っている余裕はない。医務室への最短ルートを通るため、中庭を突き抜けようとする。そのとき、中庭の中心で何か準備をしている生徒の集団が目に入る。その中に、マーガレットの姿を捉えた。

「マーガレット……!!」
「あら、コスモス。廊下は走っちゃダメよ。あっ、そうだわ。暇なら少し手伝ってくれないかしら」

 事情を知らないマーガレットのマイペースな提案に対し、余裕がないわたしは思わず声を荒げる。

「そんな場合じゃないんだよ……シランさんが意識を失って倒れたんだ!」
「「「「な……っ!?」」」」

 わたしの叫びを聞いて、マーガレット、そしてその後ろの生徒たちが声を上げた。

「とにかく、わたしは保険医を呼んでくる! マーガレットは、生徒会室にいるシランさんの様子を見ておいてくれ」

 最低限を伝え、わたしは再び駆け出した。





「なあ、キャメリア。シランの誕生日にさ、サプライズパーティーを仕掛けないか?」

 初めにそう切り出したのは、アイリスさんでした。アイリスさんは舞踏会の日以降、シランさんとの仲が戻った様子です。大切なお友達ふたりの関係が微妙なことはわたくしも何となく気がついていましたから、これで一安心といったところです。

 わたくし自身、先日の里帰りなどでシランさんにはお世話になっていますからね。サプライズパーティーには大賛成です。そう返事しようとしたところで、後ろから聞き慣れた声が飛んできました。

「良い案だと思いますよ。わたくしも生徒会長として、生徒を祝う機会には協力させていただきます」
「シラン様、絶対喜ぶと思います……わたしもぜひ一緒に!」
「シランちゃんへのプレゼントは、やっぱりわたしの身体を差し出すべきかな。そうすればサプライズ感満載で、素敵じゃない?」

 マーガレット会長にアネモネさん、そしてリリーさん……この方たち、いつも神出鬼没すぎではありません? まさか、暇を持て余しているのでしょうか? まあいいでしょう、パーティーは人数が多いほど盛り上がりますからね。ただし、リリーさんのサプライズプレゼント案は絶対却下ですけれど。



 そうして始まったサプライズパーティーの企画は、シランさんの誕生日当日を迎え、いよいよ間もなくというところまで迫っていました。
 予定の通りであれば、リリーさんがシランさんに付き添っていて、時間がくればこの中庭まで誘導してくださるはずですわ。

 会場の準備を進めていたところで、バタバタと足音が近づいてきます。予定の時間にはまだ早いはずですが……そう思い振り返ると、そこにいたのは生徒会の副会長様でした。
 でしたら、わたくしたちには関係ないですわね。そう思って作業に戻ろうとしたところで、耳を疑う言葉が飛び込んできました。

「そんな場合じゃないんだよ……シランさんが意識を失って倒れたんだ!」





 完全にやりすぎちゃった……。
 わたし、リリー = ミシュレは、今朝の失敗を悔やんでいた。

 シランちゃんの誕生日を迎えたこの日、わたしに任された役目は、シランちゃんをサプライズパーティーの会場に近づけさせないことだった。
 だから、本来であれば放課後だけシランちゃんを誘って時間を潰せばよかったのだけど……せっかくの機会なんだから、放課後だけじゃなく朝から二人きりで過ごせばいいんじゃない? なんてわたしの中にいる悪魔の囁きに乗ってしまったのだ。
 それだけならまだ悪ふざけで済んだのかもしれないけど、首輪まで取り出したのはおふざけが過ぎた。いやまあ、半分くらいは本気だったことも否定はしないけど。

 その所為で、肝心の放課後になってシランちゃんに逃げられてしまった。わたしのバカバカバカ。
 これは皆に怒られるかも……そんなことを考えながらシランちゃんを探し歩いていたら、廊下の正面からキャメリア様たちが揃って駆けてきた。
 なに、もしかしてもうバレちゃった? この件に関しては完全にわたしが悪いので、怒られることを覚悟して立ち止まる。

 ところが、皆わたしを無視して廊下を駆け抜けていく。いよいよわけが分からない。
 狼狽えるわたしに対し、最後尾のアネモネちゃんが青ざめた顔で声を掛けてきた。

「シラン様が……シラン様が、倒れたって」

 …………えっ?

 一瞬、言葉の意味が理解できずに固まってしまう。それを見たアネモネちゃんは、キャメリア様たちを追いかけるように駆けていった。
 シランちゃんが……倒れた? それってつまり、わたしが一緒にいなかったから?

 現実が重く圧し掛かり、しばらくの間わたしはその場を動けなかった。



ーーーーーーーーーーー



状況は混沌と化していますが、泣いても笑っても次回で完結なんです。
ぜひ最後までお付き合いくださいませ。

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