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真実はいつも突然に
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終業を告げる鐘の音が、学び舎に響き渡る。ボクはといえば、この後どうやって時間を潰したものかと頭を悩ませていた。
普段であれば、取り巻きらしくキャメリアやアイリスと行動を共にするか、さっさと寮に戻るかなんだけど。キャメリアとアイリスは、今日に限って何か用事があるらしい。そんなこと、今まで一度もなかったんだけどなぁ。まさか、二人は何か怪しい関係にでもなったのだろうか……なんてね、さすがにこれは冗談だ。
ただ、今朝のリリーの様子からして、まだちょっと寮に戻る勇気は出ない。どこかに良い避難場所はないものか。
……思い出した、ちょうど良い避難場所。以前にお邪魔した、生徒会室があるじゃないか。放課後ならマーガレット会長もいるだろうし、何ならティータイムのタイミングかもしれない。
そうと決まればさっそく訪問してみよう。悩んでいるうちにお菓子がなくなっていても悲しいし。
「こんばんは。お邪魔、します」
「いらっしゃい。おっ、君はこの前手伝ってくれた、一年生のシランさんだね」
「はい。えっと……少しの間、ここで時間潰しても、いいですか?」
「もちろんさ。君ならいつだってウェルカムだよ」
ボクが生徒会室の扉を開くと、ソファーに腰かけていたコスモスさんがこちらに振り向いた。
そして、以前と変わらない爽やかな笑顔でボクを迎え入れる。それにしても、やっぱりかっこいいな、この先輩。
……あれ? そういえば、肝心のマーガレット会長が見当たらないぞ?
「ああ、マーガレットなら外せない用事があるらしく、今日は生徒会室に来ないと言っていたよ」
心の声を読むなんて、もしかしてエスパーですかコスモスさん。
いや、交友関係の狭いボクが生徒会で知り合いと呼べるのなんて会長くらいなんだから、その会長に用事があって来たと思われるのは当然か。
「まあせっかくだし、一杯だけでもお茶に付き合ってくれると嬉しいな」
「……喜んでっ!」
「あはは、良い返事だ」
おっと、食いつきすぎて、はしたない奴だと思われちゃったかな。以後気をつけよう。
ところで紅茶のお供はなんですか? わくわく。
「分かりやすい子だね、君は。はははは」
「うぐっ……」
そんなボクの期待に応えようとしてくれたのか、ティーセットと共にテーブル上へスフレケーキが並べられた。さすが生徒会室、用意が周到だね!
ありがとうございますと感謝を伝えながら、嬉々としてコスモスさんの正面に腰を下ろす。
さてさて、それではいただきます。
「そうだ。ティータイムの余興程度に、わたしの昔話でも聞いてくれないかい?
「昔話? いい、ですよ」
もぐもぐと味わっているボクに向かって、コスモスさんが雑談のネタを提供する。美味しいスフレケーキを頂いたからね、どんな話題でもお付き合いしますとも。
「わたしは昔、息子として育てられていたんだ」
コスモスさんが、物語でも読み聞かせるかのように喋り始めた。しかしなんだ、軽いノリの割に、結構重そうな話が始まった気がしないでもないような……。
コスモスさんの昔話は、なかなかに印象的な内容だった。
男の跡取りが望まれていた家庭で、女として生またこと。男として振舞うことを強いられたこと。マーガレット会長との出会い。そしてコスモスさんの運命を変えた少女の話……。
「その少女は、わたしを可愛いと言ってくれたんだ。それに、自慢のこの髪も褒めてくれた。本当に嬉しかったなぁ」
「素敵な話、ですね。もぐもぐ」
「それで浮かれていたわたしは、少女と別れる前につい訊いてしまったんだ。『わたしは女なんだろうか? それとも男として振舞い続けるべきなんだろうか?』ってね」
「もぐもぐ」
コスモスさんの気持ちは理解できる。ボクだって、身体はシランという女の子だけど、中身は百合ゲーを愛するただの男なのだから。
ボクも初めこそシランというキャラクターとして、女の子らしく振舞うべきか迷ったものだ。だけど、所詮ただの取り巻きだったシランの性格なんて知らないし、そもそも下手にキャラづくりしようとした方がボロが出る気がした。だから、自由気ままに振舞ってきたわけだけど……結果としてバレずに過ごしてこれたので、これで正解だったのだろう。
それに、百合を見守る紳士として、この世界へ過度に干渉するつもりもなかったからね。
「それで、その少女……なんて答えたのですか?」
「そうだね……シランさん、君ならどんな答えを返してくれるだろう?」
「えっ?」
「なぁに、ちょっとしたクイズのようなものさ。軽い気持ちで答えてくれれば構わない」
むむ、コスモスさんの目が少し鋭くなったような。突然の問いに戸惑いはあるが、ボク個人の答えを返すくらいならそれほど難しいことじゃない。
「コスモスさんは、どう生きたとしても、コスモスさんです。それに……コスモスさんが何者かは、コスモスさん自身が理解している、と思います」
それだけのことですよ、とボクは答える。
上手く答えを返せたことにほっとする。しかし、それを聞いたコスモスさんは沈黙したままピクリとも動かない。
もしかして何か地雷を踏んでしまったのだろうか。数十秒ほどの沈黙が続いた後、コスモスさんが静かに口を開く。
「……シランさん。やっぱり君が、あのときの少女だったんだね」
んんんん? ど、どういうこと?
「すまない、シランさん。もしかしてと思い、君を試すような質問をしてしまった。だけど……わたしの直感は正しかったようだ! わたしを救ったあの少女と同じことを言ってくれる人間なんて、そう何人もいるはずがない。それに、君はあのときの少女にとてもよく似ているんだ。間違いない」
えっと、要は『フラワーエデン』で描かれる前の世界で、ボクはコスモスさんと出会っていたと、そういうことなのか。いや、それを言うなら、ボクが憑依する前の本物のシランが……ということになるけど。
でも、ちょっと待った。それってつまり、コスモスさんがかつて出会った本物のシランは、今のシランと同じことを考え、そっくり同じ答えを返したというわけで。そんなこと、果たして実際にあり得るのだろうか!?
……ずきん。突然、頭の奥に鈍い痛みが走った。おかしい、何か大きな違和感がある。まるで、頭の奥で何かが這い出ようともがいているようだ。
「あぁ、やっと出会えた。やっと出会えたんだよ、シランさん」
「んっ……んんう」
「……シランさん?」
再会に歓喜するコスモスさんが何か言っているようだが、正直それどころではない。ずきん、ずきんと痛みが走る。
心配したコスモスさんがボクに手を差し伸べるが、それを掴み返す余裕すらない。ボクは頭を押さえ、ふらふらとした足取りで後退した。すぐに、ゴンッと壁にぶつかる音がする。
「危ない……!!」
コスモスさんの切迫した叫び声の直後、ボクの脳天に激しい痛みが走った。
あっ……これはダメなやつだ。
全身から力が抜け、意識が朦朧としていく中で、足元に落ちている重厚な額縁が見えた。
なるほど。壁にぶつかった衝撃で、あれがボクの脳天へ落下してきたのか。しかし、意識を失う直前って、案外冷静になるもんなんだな。そんなことを考えながら、ボクの意識は消失した。
ーーーーーーーーーーー
さて、そろそろ種明かしと参りましょう。
お気に入り登録やコメント、評価なんかをいただけると大変喜びます。
普段であれば、取り巻きらしくキャメリアやアイリスと行動を共にするか、さっさと寮に戻るかなんだけど。キャメリアとアイリスは、今日に限って何か用事があるらしい。そんなこと、今まで一度もなかったんだけどなぁ。まさか、二人は何か怪しい関係にでもなったのだろうか……なんてね、さすがにこれは冗談だ。
ただ、今朝のリリーの様子からして、まだちょっと寮に戻る勇気は出ない。どこかに良い避難場所はないものか。
……思い出した、ちょうど良い避難場所。以前にお邪魔した、生徒会室があるじゃないか。放課後ならマーガレット会長もいるだろうし、何ならティータイムのタイミングかもしれない。
そうと決まればさっそく訪問してみよう。悩んでいるうちにお菓子がなくなっていても悲しいし。
「こんばんは。お邪魔、します」
「いらっしゃい。おっ、君はこの前手伝ってくれた、一年生のシランさんだね」
「はい。えっと……少しの間、ここで時間潰しても、いいですか?」
「もちろんさ。君ならいつだってウェルカムだよ」
ボクが生徒会室の扉を開くと、ソファーに腰かけていたコスモスさんがこちらに振り向いた。
そして、以前と変わらない爽やかな笑顔でボクを迎え入れる。それにしても、やっぱりかっこいいな、この先輩。
……あれ? そういえば、肝心のマーガレット会長が見当たらないぞ?
「ああ、マーガレットなら外せない用事があるらしく、今日は生徒会室に来ないと言っていたよ」
心の声を読むなんて、もしかしてエスパーですかコスモスさん。
いや、交友関係の狭いボクが生徒会で知り合いと呼べるのなんて会長くらいなんだから、その会長に用事があって来たと思われるのは当然か。
「まあせっかくだし、一杯だけでもお茶に付き合ってくれると嬉しいな」
「……喜んでっ!」
「あはは、良い返事だ」
おっと、食いつきすぎて、はしたない奴だと思われちゃったかな。以後気をつけよう。
ところで紅茶のお供はなんですか? わくわく。
「分かりやすい子だね、君は。はははは」
「うぐっ……」
そんなボクの期待に応えようとしてくれたのか、ティーセットと共にテーブル上へスフレケーキが並べられた。さすが生徒会室、用意が周到だね!
ありがとうございますと感謝を伝えながら、嬉々としてコスモスさんの正面に腰を下ろす。
さてさて、それではいただきます。
「そうだ。ティータイムの余興程度に、わたしの昔話でも聞いてくれないかい?
「昔話? いい、ですよ」
もぐもぐと味わっているボクに向かって、コスモスさんが雑談のネタを提供する。美味しいスフレケーキを頂いたからね、どんな話題でもお付き合いしますとも。
「わたしは昔、息子として育てられていたんだ」
コスモスさんが、物語でも読み聞かせるかのように喋り始めた。しかしなんだ、軽いノリの割に、結構重そうな話が始まった気がしないでもないような……。
コスモスさんの昔話は、なかなかに印象的な内容だった。
男の跡取りが望まれていた家庭で、女として生またこと。男として振舞うことを強いられたこと。マーガレット会長との出会い。そしてコスモスさんの運命を変えた少女の話……。
「その少女は、わたしを可愛いと言ってくれたんだ。それに、自慢のこの髪も褒めてくれた。本当に嬉しかったなぁ」
「素敵な話、ですね。もぐもぐ」
「それで浮かれていたわたしは、少女と別れる前につい訊いてしまったんだ。『わたしは女なんだろうか? それとも男として振舞い続けるべきなんだろうか?』ってね」
「もぐもぐ」
コスモスさんの気持ちは理解できる。ボクだって、身体はシランという女の子だけど、中身は百合ゲーを愛するただの男なのだから。
ボクも初めこそシランというキャラクターとして、女の子らしく振舞うべきか迷ったものだ。だけど、所詮ただの取り巻きだったシランの性格なんて知らないし、そもそも下手にキャラづくりしようとした方がボロが出る気がした。だから、自由気ままに振舞ってきたわけだけど……結果としてバレずに過ごしてこれたので、これで正解だったのだろう。
それに、百合を見守る紳士として、この世界へ過度に干渉するつもりもなかったからね。
「それで、その少女……なんて答えたのですか?」
「そうだね……シランさん、君ならどんな答えを返してくれるだろう?」
「えっ?」
「なぁに、ちょっとしたクイズのようなものさ。軽い気持ちで答えてくれれば構わない」
むむ、コスモスさんの目が少し鋭くなったような。突然の問いに戸惑いはあるが、ボク個人の答えを返すくらいならそれほど難しいことじゃない。
「コスモスさんは、どう生きたとしても、コスモスさんです。それに……コスモスさんが何者かは、コスモスさん自身が理解している、と思います」
それだけのことですよ、とボクは答える。
上手く答えを返せたことにほっとする。しかし、それを聞いたコスモスさんは沈黙したままピクリとも動かない。
もしかして何か地雷を踏んでしまったのだろうか。数十秒ほどの沈黙が続いた後、コスモスさんが静かに口を開く。
「……シランさん。やっぱり君が、あのときの少女だったんだね」
んんんん? ど、どういうこと?
「すまない、シランさん。もしかしてと思い、君を試すような質問をしてしまった。だけど……わたしの直感は正しかったようだ! わたしを救ったあの少女と同じことを言ってくれる人間なんて、そう何人もいるはずがない。それに、君はあのときの少女にとてもよく似ているんだ。間違いない」
えっと、要は『フラワーエデン』で描かれる前の世界で、ボクはコスモスさんと出会っていたと、そういうことなのか。いや、それを言うなら、ボクが憑依する前の本物のシランが……ということになるけど。
でも、ちょっと待った。それってつまり、コスモスさんがかつて出会った本物のシランは、今のシランと同じことを考え、そっくり同じ答えを返したというわけで。そんなこと、果たして実際にあり得るのだろうか!?
……ずきん。突然、頭の奥に鈍い痛みが走った。おかしい、何か大きな違和感がある。まるで、頭の奥で何かが這い出ようともがいているようだ。
「あぁ、やっと出会えた。やっと出会えたんだよ、シランさん」
「んっ……んんう」
「……シランさん?」
再会に歓喜するコスモスさんが何か言っているようだが、正直それどころではない。ずきん、ずきんと痛みが走る。
心配したコスモスさんがボクに手を差し伸べるが、それを掴み返す余裕すらない。ボクは頭を押さえ、ふらふらとした足取りで後退した。すぐに、ゴンッと壁にぶつかる音がする。
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コスモスさんの切迫した叫び声の直後、ボクの脳天に激しい痛みが走った。
あっ……これはダメなやつだ。
全身から力が抜け、意識が朦朧としていく中で、足元に落ちている重厚な額縁が見えた。
なるほど。壁にぶつかった衝撃で、あれがボクの脳天へ落下してきたのか。しかし、意識を失う直前って、案外冷静になるもんなんだな。そんなことを考えながら、ボクの意識は消失した。
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