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【幕間】とある少女の備忘録
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まずは10話目に到達。読者の皆様のおかげです。
さて、そんなタイミングでこのエピソードを……
ーーーーーーーーーーー
「おーい、花咲! はーなーさーきー」
「んぇ? あっ……はいはい!」
「はぁ、まったく。呑気に朝から考え事か? 今度ボケていたら欠席扱いにするから覚えておけよ」
どうやら既に始業のベルが鳴っていたらしい。
昨夜届いたゲームに早く手をつけたい。そんな考えで頭の中がいっぱいになっていて、うっかり担任の点呼を無視してしまった。
わたし、花咲ゆりは、とあるジャンルのゲームをこよなく愛している。友人との話題に挙げることは憚られるため、胸の内に秘めてはいるけれど。
「雛月! 雛月……は今日も欠席か」
後ろの席の雛月さん……いえ、雛月くんはこれで3日連続の欠席になる。
彼は時折、数日続けて学校を休む。席が前後の関係ということもあり、わたしはその事情を尋ねてみたことがある。彼の答えはこうだった。
「ゲームに夢中になる癖があるんだ。それが少し度を過ぎてしまうこともあってね。そういうときは時間を忘れてしまうから、気がついたときには平気で数日が経っていたりする。それが良くないとは分かっているんだけど、ついね……えへへ」
そう言って恥ずかしそうに苦笑する雛月くんの表情を思い出し、思わず頬が緩む。まあ、だから今回も同じような事情で休んでいるんだろう。
それにしても、あのときの照れた彼は可愛かった。中性的……というか、まるで少女のような顔だちなので、ついつい見惚れてしまう。女の子だと偽って紹介したら、普通に騙される人の方が多いんじゃないかな。
いっそのこと、次に登校したときには、本物の女の子に変わっていたりしないだろうか。彼ならきっと美少女になるだろう。そんなフィクションみたいなことが起こったら、わたしは本気で惚れてしまうかもしれない。
そんなふうに、彼が聞いたら怒るであろう失礼な妄想をしていると、脳天に鋭い衝撃が走った。
「花咲。授業中に上の空でニヤついているとは、なかなかいい度胸じゃないか」
「あはは……」
先生、今の時代は体罰が問題になったりしてるんですよ。だから、簡単に女子生徒の脳天を、分厚い教科書で叩いちゃダメです……
◇
さて、待ちわびていた瞬間がやってきた。わたしは、二階の自室でパソコンのディスプレイに向き合う。目の前には、『フラワーエデン』というタイトルが浮かび上がっていた。
『フラワーエデン』とは、先週発売されたばかりの百合ゲームだ。個人的に「全ての美少女に幸せを」というコンセプトに期待を寄せている。
ただし、登場するヒロインの情報は、なるべく見聞きしないよう心掛けてきた。なぜなら、実際にゲームを進めていく中で、一目惚れしたキャラクターを攻略したいから。わたしのプレイスタイルは、直感が大切なのである。
これからどんな美少女と愛を育むことになるのか、楽しみで堪らない。
プレイし始めて数十分、次々とヒロインたちが登場するも、わたしはどのヒロインを攻略するか決めかねていた。たしかにみんな可愛いのだが、どうにも一目惚れには至らないのだ。もしかしてこのゲーム、期待したほどではなかったかも……そう感じ、モチベーションが下がり始めた次の瞬間、わたしの胸は大きく高鳴った。
それは、まさしく一目惚れだった。しかも、かつて経験したことがないほどの衝撃的な一目惚れだ。どこか気怠そうで半開きのジト目の少女が映ったとき、彼女こそがわたしの運命の相手だと悟った。興奮によって震える手で、彼女の正体を知るべく展開を進める。
……おかしい。しばらくストーリーを進めているが、いつまで経っても彼女の台詞が流れない。そもそも名前すら表示されない。
その後もストーリーを進めてみたが、さすがに現実を理解してしまった。ああ、なんて残酷な……
そう、わたしが一目惚れした少女は、そもそも攻略対象として設計されていなかったのである。
いやいやいや、それはおかしいんじゃないかな。だって、この作品のコンセプトは「全ての美少女に幸せを」でしょ? これじゃあコンセプトに反してるって、絶対。こんなに可愛い美少女を、自分の手で幸せにしてあげられないなんて……
どうしても納得がいかず、禁じ手だとは思いつつも、攻略サイトや実況動画を漁り始めた。しかし、彼女についての情報はこれっぽっちも見当たらない。とはいえ、そう簡単に諦めるわけにはいかない。わたしには彼女を攻略する義務がある。
情報を漁り続けて数時間、わたしはとある掲示板で求めていた情報の片鱗に辿り着いた。
45 名無しの姫女子 20**/**/** ID:******
隠れキャラの攻略ルートっぽい展開なんだけど
46 名無しの姫女子 20**/**/** ID:******
>>45
なにそれkwsk
47 名無しの姫女子 20**/**/** ID:******
いや、周回プレイしてたらルームメイトがキャメリアの取り巻きになってた
48 名無しの姫女子 20**/**/** ID:******
>>47
ジト目の方?
49 名無しの姫女子 20**/**/** ID:******
そうそう
たしかに、その展開は普通じゃない。いくつも実況動画を見たが、必ず攻略可能なヒロインがルームメイトになっていた。だから、もし本当にそんな特殊な展開が存在するのであれば、通常であれば接触することができない彼女を攻略するルートに繋がっている可能性もあるだろう。
しかし残念ながら、この話題はそこで途切れていた。その後しばらく調べ続けたが、他に似たような情報は出てこない。そんなことってあるだろうか。まさか、デマ情報だった?
……いや、そもそも攻略サイトに頼ること自体が間違いだった。製作者サイドが「全ての美少女に幸せを」と謳い、わたしが彼女を美少女だと感じたのであれば、それらを信じて自らの手で攻略ルートを見つけ出すべきなのだ。うん。
ようやく自分の軽率さを認識し、改めて正面から『フラワーエデン』に向き合おうと決意した。
これは、きっと長い戦いになる。しっかり腰を据える必要がありそうだ。とりあえず一息ついてから、攻略の続きを始めよう。のどの渇きを感じ、飲み物を取りに行くため階段へ向かう。
わたしがバランスを崩したのは、その次の瞬間だった。
…………あ、やばい。
先ほどまで興奮状態で調べ物を続けていたせいで、わたしの平衡感覚はおかしくなっていた。それなのに、慌てて階段を降りようとするなんて、わたしは大馬鹿だ。
だけど、後悔は先に立たず。わたしの身体は、不自然なほどに傾いて宙に浮いている。せめて骨は折れないといいな、そんな能天気な考えが頭を過った直後、わたしの視界は暗転した。
◇
暗転していた視界に光が戻り始める。どうやら、わたしの意識がじわじわと戻り始めたようだ。すぐに激しい痛みを覚悟したが、不思議と痛みは襲ってこない。よっぽど上手く着地できたのだろうか。
……誰だろう、耳にしたことがない女性の声が聞こえる。
「リリー、いい加減に目を覚ましなさいな」
「…………」
「そんなお寝坊さんで、来週から寮生活なんて大丈夫かしら? 母様はとても不安だわ」
「…………」
リリー? どこかで聞いたことがある名前のような……ダメだ、再び意識が沈んでいく。まあいいか。あと少しだけ、このままで。
ーーーーーーーーーーー
以上、あの人物の前日譚でした。
次回はちゃんと元の時間軸に戻ります。ご安心を。
お気に入り登録やコメント、評価なんかをいただけると大変喜びます。
さて、そんなタイミングでこのエピソードを……
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「おーい、花咲! はーなーさーきー」
「んぇ? あっ……はいはい!」
「はぁ、まったく。呑気に朝から考え事か? 今度ボケていたら欠席扱いにするから覚えておけよ」
どうやら既に始業のベルが鳴っていたらしい。
昨夜届いたゲームに早く手をつけたい。そんな考えで頭の中がいっぱいになっていて、うっかり担任の点呼を無視してしまった。
わたし、花咲ゆりは、とあるジャンルのゲームをこよなく愛している。友人との話題に挙げることは憚られるため、胸の内に秘めてはいるけれど。
「雛月! 雛月……は今日も欠席か」
後ろの席の雛月さん……いえ、雛月くんはこれで3日連続の欠席になる。
彼は時折、数日続けて学校を休む。席が前後の関係ということもあり、わたしはその事情を尋ねてみたことがある。彼の答えはこうだった。
「ゲームに夢中になる癖があるんだ。それが少し度を過ぎてしまうこともあってね。そういうときは時間を忘れてしまうから、気がついたときには平気で数日が経っていたりする。それが良くないとは分かっているんだけど、ついね……えへへ」
そう言って恥ずかしそうに苦笑する雛月くんの表情を思い出し、思わず頬が緩む。まあ、だから今回も同じような事情で休んでいるんだろう。
それにしても、あのときの照れた彼は可愛かった。中性的……というか、まるで少女のような顔だちなので、ついつい見惚れてしまう。女の子だと偽って紹介したら、普通に騙される人の方が多いんじゃないかな。
いっそのこと、次に登校したときには、本物の女の子に変わっていたりしないだろうか。彼ならきっと美少女になるだろう。そんなフィクションみたいなことが起こったら、わたしは本気で惚れてしまうかもしれない。
そんなふうに、彼が聞いたら怒るであろう失礼な妄想をしていると、脳天に鋭い衝撃が走った。
「花咲。授業中に上の空でニヤついているとは、なかなかいい度胸じゃないか」
「あはは……」
先生、今の時代は体罰が問題になったりしてるんですよ。だから、簡単に女子生徒の脳天を、分厚い教科書で叩いちゃダメです……
◇
さて、待ちわびていた瞬間がやってきた。わたしは、二階の自室でパソコンのディスプレイに向き合う。目の前には、『フラワーエデン』というタイトルが浮かび上がっていた。
『フラワーエデン』とは、先週発売されたばかりの百合ゲームだ。個人的に「全ての美少女に幸せを」というコンセプトに期待を寄せている。
ただし、登場するヒロインの情報は、なるべく見聞きしないよう心掛けてきた。なぜなら、実際にゲームを進めていく中で、一目惚れしたキャラクターを攻略したいから。わたしのプレイスタイルは、直感が大切なのである。
これからどんな美少女と愛を育むことになるのか、楽しみで堪らない。
プレイし始めて数十分、次々とヒロインたちが登場するも、わたしはどのヒロインを攻略するか決めかねていた。たしかにみんな可愛いのだが、どうにも一目惚れには至らないのだ。もしかしてこのゲーム、期待したほどではなかったかも……そう感じ、モチベーションが下がり始めた次の瞬間、わたしの胸は大きく高鳴った。
それは、まさしく一目惚れだった。しかも、かつて経験したことがないほどの衝撃的な一目惚れだ。どこか気怠そうで半開きのジト目の少女が映ったとき、彼女こそがわたしの運命の相手だと悟った。興奮によって震える手で、彼女の正体を知るべく展開を進める。
……おかしい。しばらくストーリーを進めているが、いつまで経っても彼女の台詞が流れない。そもそも名前すら表示されない。
その後もストーリーを進めてみたが、さすがに現実を理解してしまった。ああ、なんて残酷な……
そう、わたしが一目惚れした少女は、そもそも攻略対象として設計されていなかったのである。
いやいやいや、それはおかしいんじゃないかな。だって、この作品のコンセプトは「全ての美少女に幸せを」でしょ? これじゃあコンセプトに反してるって、絶対。こんなに可愛い美少女を、自分の手で幸せにしてあげられないなんて……
どうしても納得がいかず、禁じ手だとは思いつつも、攻略サイトや実況動画を漁り始めた。しかし、彼女についての情報はこれっぽっちも見当たらない。とはいえ、そう簡単に諦めるわけにはいかない。わたしには彼女を攻略する義務がある。
情報を漁り続けて数時間、わたしはとある掲示板で求めていた情報の片鱗に辿り着いた。
45 名無しの姫女子 20**/**/** ID:******
隠れキャラの攻略ルートっぽい展開なんだけど
46 名無しの姫女子 20**/**/** ID:******
>>45
なにそれkwsk
47 名無しの姫女子 20**/**/** ID:******
いや、周回プレイしてたらルームメイトがキャメリアの取り巻きになってた
48 名無しの姫女子 20**/**/** ID:******
>>47
ジト目の方?
49 名無しの姫女子 20**/**/** ID:******
そうそう
たしかに、その展開は普通じゃない。いくつも実況動画を見たが、必ず攻略可能なヒロインがルームメイトになっていた。だから、もし本当にそんな特殊な展開が存在するのであれば、通常であれば接触することができない彼女を攻略するルートに繋がっている可能性もあるだろう。
しかし残念ながら、この話題はそこで途切れていた。その後しばらく調べ続けたが、他に似たような情報は出てこない。そんなことってあるだろうか。まさか、デマ情報だった?
……いや、そもそも攻略サイトに頼ること自体が間違いだった。製作者サイドが「全ての美少女に幸せを」と謳い、わたしが彼女を美少女だと感じたのであれば、それらを信じて自らの手で攻略ルートを見つけ出すべきなのだ。うん。
ようやく自分の軽率さを認識し、改めて正面から『フラワーエデン』に向き合おうと決意した。
これは、きっと長い戦いになる。しっかり腰を据える必要がありそうだ。とりあえず一息ついてから、攻略の続きを始めよう。のどの渇きを感じ、飲み物を取りに行くため階段へ向かう。
わたしがバランスを崩したのは、その次の瞬間だった。
…………あ、やばい。
先ほどまで興奮状態で調べ物を続けていたせいで、わたしの平衡感覚はおかしくなっていた。それなのに、慌てて階段を降りようとするなんて、わたしは大馬鹿だ。
だけど、後悔は先に立たず。わたしの身体は、不自然なほどに傾いて宙に浮いている。せめて骨は折れないといいな、そんな能天気な考えが頭を過った直後、わたしの視界は暗転した。
◇
暗転していた視界に光が戻り始める。どうやら、わたしの意識がじわじわと戻り始めたようだ。すぐに激しい痛みを覚悟したが、不思議と痛みは襲ってこない。よっぽど上手く着地できたのだろうか。
……誰だろう、耳にしたことがない女性の声が聞こえる。
「リリー、いい加減に目を覚ましなさいな」
「…………」
「そんなお寝坊さんで、来週から寮生活なんて大丈夫かしら? 母様はとても不安だわ」
「…………」
リリー? どこかで聞いたことがある名前のような……ダメだ、再び意識が沈んでいく。まあいいか。あと少しだけ、このままで。
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以上、あの人物の前日譚でした。
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