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ティータイムは混沌と化す
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ある程度ヒロインが登場したので、この辺りで一堂に会していただきましょう(悪い顔)
ーーーーーーーーーーー
自由に毎日を過ごしすぎているせいで忘れがちだが、この学院に通っている女生徒のほぼ全員が、貴族や財閥などのご令嬢である。
ほぼ全員というのは、つまるところ一部に例外がいるわけだけど、今語り出すと話が逸れてしまうので置いておこう。
何を言いたいのかというと、この学院にはご令嬢の集団ならではの習慣が多々あるということだ。
そのひとつが、放課後のアフタヌーンティーだ。
親しいグループや派閥ごとに集まり、紅茶とスコーンなどの軽食を楽しみながら、女子トークに花を咲かせるのである。
ボクの場合は、キャメリアとアイリスの三人でテーブルを囲むことが多い。要は、悪役令嬢とその取り巻きという面子である。
ボクとアイリスもそんな洒落たことをするのかって?
一応、というか正真正銘、二人ともお嬢様だということを忘れてもらっては困る。公爵家のキャメリアには敵わないけれど、これでも二人は伯爵令嬢なのだ。
もっとも、お上品なティータイムなんて性に合わないボクたちなので、開催頻度はそれほど高くはないのだけれど。そのことにはキャメリアも不満げで、令嬢としての自覚が足りない云々と小言を聞かされることも多い。そんな自覚はさらさらないので、できれば勘弁してほしい。
広義で言えば、先日のお姉……ん? いや、マーガレット会長と生徒会室で過ごした時間もアフタヌーンティーだったと言えるだろう。
さすがに急だったためか軽食はついてこなかったけど、普段なら会長がどんな品を用意してくれるのか、割と興味がある。シランになってから、不思議と甘いものが好きになっちゃったんだよね。
あっ、でも生徒会室にはひとりで近づくなって、リリーに散々釘を刺されたんだったな。むむむ。
で、さすがに最近ご無沙汰すぎたので、キャメリアの(半ば強引な)提案により久しぶりのアフタヌーンティーを開くことになったのだが……
どうしてだろう、今回はテーブルを囲む人数がやたらと多い。はっきり言って窮屈なんだけど。
◇
ボクたちがテーブルを囲んだタイミングで、まずはリリーがやってきた。
「シランちゃんのルームメイトであるわたしは、この会に参加して隣に座る権利があると思うの」
「……お呼びじゃねえよ」
当然とでも言いたげな表情で、リリーはそのままボクの右隣に腰を下ろした。
不満げなアイリスが不愛想に睨んでいるが、何食わぬ顔で持参したフルーツタルトを広げ始める。
「リリーさん。一応、この会はわたくしが主催なのですけれど」
「それは知っていますが、もう我慢できません! まさかわたしを追い返すなんて意地悪なことを、キャメリア様はなさらないですよね?」
「ぐっ……」
言われてみれば、たしかに今までアフタヌーンティーの時間、リリーが強引に混ざってくることはなかった。
きっと彼女なりに遠慮して、精一杯に我慢してきたのだろう。腐っても令嬢である。その辺のルールには理解があるということか。
それにしたってキャメリアお嬢様、意地悪と言われて「ぐっ……」はないでしょうよ。悪役令嬢が良心の呵責にあっさり負けてどうするのさ……
「……あの、それじゃ、わたしも一緒にっ」
「「「ふぎゃっ?!」」」
突然、テーブルの下から顔が現れる。それは、先日ストーカーにジョブチェンジしたらしい、アネモネだった。
思わず悲鳴をあげたのは、ボクとアイリス、それにキャメリア。そういう登場の仕方は心臓に悪いので、本当に勘弁してほしい。声以外のナニカも漏らすところだったじゃないか……
というかリリーは、どうしてそんなに平然としていられるのだろう。まさか初めから気がついてたとか?いやいや、そんなまさかね。
「シランの隣は譲らねえからな」
「シランちゃんの隣はわたしのものですよ?」
「……うぅ」
ボクの両隣に陣取っているアイリスとリリーが、声のボリュームを上げて主張する。
べつに隣に座っても何も得はしないと思うんだけど。変なことにこだわる二人だ。アネモネもそんなに落ち込む必要はないよ?
って、こらこらこら。テーブルの下に戻ろうとするのだけはやめて。怖いんだってば。
アネモネの件以降、夜中ひとりでトイレに行くことが怖くなってしまったという話は内緒だ。
「あらあら、皆さん偶然ですね。せっかくですし、参加させていただこうかしら」
「うわっ、絶対偶然じゃねえだろう……」
そう口にしながら、しれっとテーブルの輪に加わったのは、まさかのマーガレット会長。
それを目にしたアイリスが、ますます苦そうな顔になって呟く。
「ふふふ。偶然でないなら、これはもう運命かもしれませんね? シランさん」
「え? ……はい。お姉様」
「ちょっ?! シランちゃん戻ってきて!」
お姉……会長に声を掛けられた途端、不思議と意識がぼやけてしまった。
リリーの慌てた声ですぐに復活したけど、もしかして寝不足なんだろうか? 今日は早めに寝よう。
「シランの隣は譲らねえからな」
「シランちゃんの隣はわたしのものですよ?」
先ほど同様、アイリスとリリーが自分の陣地を主張する。だから何をそんなにこだわる必要があるのだろうか。
「もちろん構いませんよ。わたくしの場所は決まっていますので」
そうだよね。普通、座る場所なんてどこでもいいはずだ。……あれ? 会長、どうしてボクを持ち上げるんですか?
状況を呑み込めず硬直しているうちに、ボクは会長の膝の上に座らされていた。
「会長、これって……」
「はい。あーーん」
「え? ……あむっ」
さすがに疑問をぶつけようとしたボクの口に、会長持参のマドレーヌが差し出される。
甘い匂いに思わず口を開いてしまい、そのままマドレーヌを受け入れてしまった。
うわっ、何これめちゃくちゃ美味しい。マドレーヌってこんなに絶品だったっけ。もっと頂戴。ウマウマ。
「くそっ……リスみたいに頬張るシラン、可愛すぎるぜ」
「シランちゃんの口元についた食べかすを舐めとってあげたいよぉ」
「シラン様、天使……」
「うふふふふ」
キャメリア以外の皆が何か言っている気がするけど、そんなことよりマドレーヌ最高! 個人的に紅茶のお供ナンバーワンだと思う。
そのまま夢中で味わっているうちに、結局は最後までアフタヌーンティーを満喫してしまった。
リリーの用意してくれたフルーツタルトも最高だったし、正直に言って大満足。ここは天国なのかもしれない。
「わたくしから提案しておいてあれですが、アフタヌーンティーはしばらく勘弁願いたいですわ……」
何故か数時間前よりもげっそりとしているキャメリアが、大きな溜息をつく。
よく分からないけど、お疲れ様です。
ーーーーーーーーーーー
そろそろ常識人を投入しないと、シランを中心に混沌の渦が広がって世界滅びそう……(投入するとは言ってない)
お気に入り登録やコメント、評価なんかをいただけると大変喜びます。
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自由に毎日を過ごしすぎているせいで忘れがちだが、この学院に通っている女生徒のほぼ全員が、貴族や財閥などのご令嬢である。
ほぼ全員というのは、つまるところ一部に例外がいるわけだけど、今語り出すと話が逸れてしまうので置いておこう。
何を言いたいのかというと、この学院にはご令嬢の集団ならではの習慣が多々あるということだ。
そのひとつが、放課後のアフタヌーンティーだ。
親しいグループや派閥ごとに集まり、紅茶とスコーンなどの軽食を楽しみながら、女子トークに花を咲かせるのである。
ボクの場合は、キャメリアとアイリスの三人でテーブルを囲むことが多い。要は、悪役令嬢とその取り巻きという面子である。
ボクとアイリスもそんな洒落たことをするのかって?
一応、というか正真正銘、二人ともお嬢様だということを忘れてもらっては困る。公爵家のキャメリアには敵わないけれど、これでも二人は伯爵令嬢なのだ。
もっとも、お上品なティータイムなんて性に合わないボクたちなので、開催頻度はそれほど高くはないのだけれど。そのことにはキャメリアも不満げで、令嬢としての自覚が足りない云々と小言を聞かされることも多い。そんな自覚はさらさらないので、できれば勘弁してほしい。
広義で言えば、先日のお姉……ん? いや、マーガレット会長と生徒会室で過ごした時間もアフタヌーンティーだったと言えるだろう。
さすがに急だったためか軽食はついてこなかったけど、普段なら会長がどんな品を用意してくれるのか、割と興味がある。シランになってから、不思議と甘いものが好きになっちゃったんだよね。
あっ、でも生徒会室にはひとりで近づくなって、リリーに散々釘を刺されたんだったな。むむむ。
で、さすがに最近ご無沙汰すぎたので、キャメリアの(半ば強引な)提案により久しぶりのアフタヌーンティーを開くことになったのだが……
どうしてだろう、今回はテーブルを囲む人数がやたらと多い。はっきり言って窮屈なんだけど。
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ボクたちがテーブルを囲んだタイミングで、まずはリリーがやってきた。
「シランちゃんのルームメイトであるわたしは、この会に参加して隣に座る権利があると思うの」
「……お呼びじゃねえよ」
当然とでも言いたげな表情で、リリーはそのままボクの右隣に腰を下ろした。
不満げなアイリスが不愛想に睨んでいるが、何食わぬ顔で持参したフルーツタルトを広げ始める。
「リリーさん。一応、この会はわたくしが主催なのですけれど」
「それは知っていますが、もう我慢できません! まさかわたしを追い返すなんて意地悪なことを、キャメリア様はなさらないですよね?」
「ぐっ……」
言われてみれば、たしかに今までアフタヌーンティーの時間、リリーが強引に混ざってくることはなかった。
きっと彼女なりに遠慮して、精一杯に我慢してきたのだろう。腐っても令嬢である。その辺のルールには理解があるということか。
それにしたってキャメリアお嬢様、意地悪と言われて「ぐっ……」はないでしょうよ。悪役令嬢が良心の呵責にあっさり負けてどうするのさ……
「……あの、それじゃ、わたしも一緒にっ」
「「「ふぎゃっ?!」」」
突然、テーブルの下から顔が現れる。それは、先日ストーカーにジョブチェンジしたらしい、アネモネだった。
思わず悲鳴をあげたのは、ボクとアイリス、それにキャメリア。そういう登場の仕方は心臓に悪いので、本当に勘弁してほしい。声以外のナニカも漏らすところだったじゃないか……
というかリリーは、どうしてそんなに平然としていられるのだろう。まさか初めから気がついてたとか?いやいや、そんなまさかね。
「シランの隣は譲らねえからな」
「シランちゃんの隣はわたしのものですよ?」
「……うぅ」
ボクの両隣に陣取っているアイリスとリリーが、声のボリュームを上げて主張する。
べつに隣に座っても何も得はしないと思うんだけど。変なことにこだわる二人だ。アネモネもそんなに落ち込む必要はないよ?
って、こらこらこら。テーブルの下に戻ろうとするのだけはやめて。怖いんだってば。
アネモネの件以降、夜中ひとりでトイレに行くことが怖くなってしまったという話は内緒だ。
「あらあら、皆さん偶然ですね。せっかくですし、参加させていただこうかしら」
「うわっ、絶対偶然じゃねえだろう……」
そう口にしながら、しれっとテーブルの輪に加わったのは、まさかのマーガレット会長。
それを目にしたアイリスが、ますます苦そうな顔になって呟く。
「ふふふ。偶然でないなら、これはもう運命かもしれませんね? シランさん」
「え? ……はい。お姉様」
「ちょっ?! シランちゃん戻ってきて!」
お姉……会長に声を掛けられた途端、不思議と意識がぼやけてしまった。
リリーの慌てた声ですぐに復活したけど、もしかして寝不足なんだろうか? 今日は早めに寝よう。
「シランの隣は譲らねえからな」
「シランちゃんの隣はわたしのものですよ?」
先ほど同様、アイリスとリリーが自分の陣地を主張する。だから何をそんなにこだわる必要があるのだろうか。
「もちろん構いませんよ。わたくしの場所は決まっていますので」
そうだよね。普通、座る場所なんてどこでもいいはずだ。……あれ? 会長、どうしてボクを持ち上げるんですか?
状況を呑み込めず硬直しているうちに、ボクは会長の膝の上に座らされていた。
「会長、これって……」
「はい。あーーん」
「え? ……あむっ」
さすがに疑問をぶつけようとしたボクの口に、会長持参のマドレーヌが差し出される。
甘い匂いに思わず口を開いてしまい、そのままマドレーヌを受け入れてしまった。
うわっ、何これめちゃくちゃ美味しい。マドレーヌってこんなに絶品だったっけ。もっと頂戴。ウマウマ。
「くそっ……リスみたいに頬張るシラン、可愛すぎるぜ」
「シランちゃんの口元についた食べかすを舐めとってあげたいよぉ」
「シラン様、天使……」
「うふふふふ」
キャメリア以外の皆が何か言っている気がするけど、そんなことよりマドレーヌ最高! 個人的に紅茶のお供ナンバーワンだと思う。
そのまま夢中で味わっているうちに、結局は最後までアフタヌーンティーを満喫してしまった。
リリーの用意してくれたフルーツタルトも最高だったし、正直に言って大満足。ここは天国なのかもしれない。
「わたくしから提案しておいてあれですが、アフタヌーンティーはしばらく勘弁願いたいですわ……」
何故か数時間前よりもげっそりとしているキャメリアが、大きな溜息をつく。
よく分からないけど、お疲れ様です。
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