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お姉様は手段を選ばない
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「あら。貴女はたしかシランさん、ですよね?」
「……そうです、よ?」
アネモネの件から一夜が明けた。
昨日のショックを若干引きずり、ぼんやりとしたまま放課後の廊下を歩いていたボクは、突然後ろから呼び止められる。
「あなたは……生徒会長の、マーガレット様?」
「うふふ。存じていただいていて光栄です」
「会長は有名だから、当然です」
マンジュリカ女学院の生徒会長マーガレット = ネルヴァールは、学院のお嬢様たちにとって憧れの存在である。中でも下級生からの人気が高く、気品高い姿に一目惚れした多くの下級生が、密かにお姉様と呼んでいた。
この学院で生活している人間ならば、この人を知らないなんてまずあり得ない。
「ここでお会いしたのも何かの縁ですし、生徒会室で少しお茶でもしていきませんか?」
「なんで、ボクを知っている……んですか?」
「あら、わたくしは生徒会長ですよ? 学院の女生徒のことは全て把握していて当然です。それに、個人的にも貴女とは一度お話ししてみたいと思っておりましたので」
え? と聞き返すボクに対し、マーガレット会長は微笑を浮かべたまま言葉を続ける。
「シランさん。貴女はいろんな意味で、1年生の中でも一際目立っているのですよ?」
まあたしかに、いろいろとやらかしているからなぁ。どうやら知らない間に、ボクは悪目立ちしていたらしい。これからはもう少し慎重に行動しよう。
そんなことを考えているうちに、ボクは生徒会長に導かれて生徒会室までやってきていた。
さすがはお嬢様たちが通う学院の生徒会室。ソファの座り心地も素晴らしい。
全身からすっかり無駄な力が抜け、ボクは早くもこの場でリラックスし始めていた。
ほのかに漂ってくる甘いお香の匂いも、ボクの脱力を助長する。
「シランさん、お飲み物は何がお好きかしら」
「会長と、同じでいい、です。ありがとう、ございます」
会長が用意してくれた紅茶を口に流し込みながら、ボクは『フラワーエデン』のことを考えていた。正確には『フラワーエデン』に登場する、マーガレット = ネルヴァールについて、だけど。
そう。マーガレット生徒会長は、昨日のアネモネ同様に攻略対象ヒロインのひとりなのだ。
「シランさん、お誕生日はいつなのかしら」
「はい。それは……」
横に腰を下ろした会長は、次々と質問を投げかけてくる。それに対してリラックス状態で回答しながら、ボクは引き続き思考する。
彼女の存在は、ゲーム内でも少し特殊だった。
主人公のリリーが積極的な性格のため、基本的にどのルートでもヒロインが受け身になり、主人公がグイグイと攻略していく。
けれど、マーガレットルートでは珍しく主人公が受け身になって展開するのだ。
そんなマーガレットも、終盤になると主人公だけに弱い部分を見せるようになっていくのだが、それがまた素晴らしい。
「シランさん、何か趣味はあるのかしら」
「はい。それは……」
そんなこと知って会長は楽しいのだろうか。そのくらい、いくらでも答えるけど。
しかし頭がふわふわしてきたなぁ。さすがに会長の前で眠っては失礼だし、気をつけないと。
『フラワーエデン』の話に戻そう。
先ほどは少し熱弁しかけてしまったが、ボクはマーガレットのファンだったので、仕方がないことだと理解してほしい。
同級生の攻略対象が多い『フラワーエデン』だが、百合ゲーにおいて「お姉様」は外せない存在じゃないだろうか。
乙女の花園で繰り広げられる「お姉様」と「後輩」という特別な関係。マジ尊い。
「シランさん、もっと近寄っていただけるかしら」
「はい……」
まだ会長とのやり取りは続いているらしい。どうにも頭が回っていない。
おっと、再び話を戻そう。
そんなこんなでマーガレットのファンだったボクだが、この世界に転生してから会長に近づくことはなかった。
だって、「お姉様」と「後輩」の間にただの取り巻きキャラが入り込むとか邪道じゃないか。
それに、ボクはその関係を鑑賞したいのであって、自分が当事者になりたいわけではないし。
そんな風に考えて会長との接触を避けていたが、会長側から声を掛けられてしまっては仕方がない。
「シランさん、わたくしに身を委ねて。そのまま、頭撫でても良いかしら」
「はい……」
ダメだ、会長が何か言っているけど、全然頭が回らない。
「シランさん、これからはお姉様と呼んでいただけるかしら」
「はい……お姉様」
お姉様、なんでそんなに笑顔なんだろう。どうしてもぼんやりしてしまう。
「シランさん、これからはわたくしだけを……」
さらに続けてお姉様が口を開いた瞬間、聞き慣れた声がそれを遮るように響き渡る。
「ちょーっと待ったぁ!!」
「そこまでですよっ!!!」
あれ? どうしてアイリスとリリーがここにいるんだろう。それに、その後ろにいるのはキャメリアだよね?
「落ち着きなさい、お二人とも。マーガレット会長、シランさんに何をされていたのですか?」
「皆さん、息を荒げてどうされましたか? 我々は楽しくお茶をしていただけですよ。ねぇ?」
「そう、ですね……お姉様」
よく分からないけど、とりあえず頷いておく。
ボクの言葉を聞いたアイリスたちがショックを受けている様子だが、本当に何事だろうか?
お姉様はお姉様で、何やら満足げな表情を浮かべているし。
「も、もう帰りますわよ、シランさん」
「そそそそうだぞ、もう下校時間は過ぎてるんだからなっ」
「わたしのシランちゃんが、わたしのシランちゃんが、わたしのシランちゃんが、わたしのシランちゃんが、わたしの(以下略)」
もうそんな時間なのか。少し長居しすぎてしまったようだ。
さすがにこれ以上は迷惑をかけてしまうので、お姉様に頭を下げて別れの挨拶をする。
「あら残念。うふふ、またお話ししましょうね」
たしかに、たまにはなら良いかなと思ったが、寮に戻った後、リリーにしつこく注意された。
一体どうしたんだろうか?
ーーーーーーーーーーー
『フラワーエデン』は正真正銘の全年齢向け百合ゲーなのですが、イレギュラーな存在のせいで、キャラクターたちが揃いも揃って暴走モードです。
もはや、作者を無視して突っ走っていきやがります。ひえぇ……
お気に入り登録やコメントなんかをいただけると大変喜びます。
「……そうです、よ?」
アネモネの件から一夜が明けた。
昨日のショックを若干引きずり、ぼんやりとしたまま放課後の廊下を歩いていたボクは、突然後ろから呼び止められる。
「あなたは……生徒会長の、マーガレット様?」
「うふふ。存じていただいていて光栄です」
「会長は有名だから、当然です」
マンジュリカ女学院の生徒会長マーガレット = ネルヴァールは、学院のお嬢様たちにとって憧れの存在である。中でも下級生からの人気が高く、気品高い姿に一目惚れした多くの下級生が、密かにお姉様と呼んでいた。
この学院で生活している人間ならば、この人を知らないなんてまずあり得ない。
「ここでお会いしたのも何かの縁ですし、生徒会室で少しお茶でもしていきませんか?」
「なんで、ボクを知っている……んですか?」
「あら、わたくしは生徒会長ですよ? 学院の女生徒のことは全て把握していて当然です。それに、個人的にも貴女とは一度お話ししてみたいと思っておりましたので」
え? と聞き返すボクに対し、マーガレット会長は微笑を浮かべたまま言葉を続ける。
「シランさん。貴女はいろんな意味で、1年生の中でも一際目立っているのですよ?」
まあたしかに、いろいろとやらかしているからなぁ。どうやら知らない間に、ボクは悪目立ちしていたらしい。これからはもう少し慎重に行動しよう。
そんなことを考えているうちに、ボクは生徒会長に導かれて生徒会室までやってきていた。
さすがはお嬢様たちが通う学院の生徒会室。ソファの座り心地も素晴らしい。
全身からすっかり無駄な力が抜け、ボクは早くもこの場でリラックスし始めていた。
ほのかに漂ってくる甘いお香の匂いも、ボクの脱力を助長する。
「シランさん、お飲み物は何がお好きかしら」
「会長と、同じでいい、です。ありがとう、ございます」
会長が用意してくれた紅茶を口に流し込みながら、ボクは『フラワーエデン』のことを考えていた。正確には『フラワーエデン』に登場する、マーガレット = ネルヴァールについて、だけど。
そう。マーガレット生徒会長は、昨日のアネモネ同様に攻略対象ヒロインのひとりなのだ。
「シランさん、お誕生日はいつなのかしら」
「はい。それは……」
横に腰を下ろした会長は、次々と質問を投げかけてくる。それに対してリラックス状態で回答しながら、ボクは引き続き思考する。
彼女の存在は、ゲーム内でも少し特殊だった。
主人公のリリーが積極的な性格のため、基本的にどのルートでもヒロインが受け身になり、主人公がグイグイと攻略していく。
けれど、マーガレットルートでは珍しく主人公が受け身になって展開するのだ。
そんなマーガレットも、終盤になると主人公だけに弱い部分を見せるようになっていくのだが、それがまた素晴らしい。
「シランさん、何か趣味はあるのかしら」
「はい。それは……」
そんなこと知って会長は楽しいのだろうか。そのくらい、いくらでも答えるけど。
しかし頭がふわふわしてきたなぁ。さすがに会長の前で眠っては失礼だし、気をつけないと。
『フラワーエデン』の話に戻そう。
先ほどは少し熱弁しかけてしまったが、ボクはマーガレットのファンだったので、仕方がないことだと理解してほしい。
同級生の攻略対象が多い『フラワーエデン』だが、百合ゲーにおいて「お姉様」は外せない存在じゃないだろうか。
乙女の花園で繰り広げられる「お姉様」と「後輩」という特別な関係。マジ尊い。
「シランさん、もっと近寄っていただけるかしら」
「はい……」
まだ会長とのやり取りは続いているらしい。どうにも頭が回っていない。
おっと、再び話を戻そう。
そんなこんなでマーガレットのファンだったボクだが、この世界に転生してから会長に近づくことはなかった。
だって、「お姉様」と「後輩」の間にただの取り巻きキャラが入り込むとか邪道じゃないか。
それに、ボクはその関係を鑑賞したいのであって、自分が当事者になりたいわけではないし。
そんな風に考えて会長との接触を避けていたが、会長側から声を掛けられてしまっては仕方がない。
「シランさん、わたくしに身を委ねて。そのまま、頭撫でても良いかしら」
「はい……」
ダメだ、会長が何か言っているけど、全然頭が回らない。
「シランさん、これからはお姉様と呼んでいただけるかしら」
「はい……お姉様」
お姉様、なんでそんなに笑顔なんだろう。どうしてもぼんやりしてしまう。
「シランさん、これからはわたくしだけを……」
さらに続けてお姉様が口を開いた瞬間、聞き慣れた声がそれを遮るように響き渡る。
「ちょーっと待ったぁ!!」
「そこまでですよっ!!!」
あれ? どうしてアイリスとリリーがここにいるんだろう。それに、その後ろにいるのはキャメリアだよね?
「落ち着きなさい、お二人とも。マーガレット会長、シランさんに何をされていたのですか?」
「皆さん、息を荒げてどうされましたか? 我々は楽しくお茶をしていただけですよ。ねぇ?」
「そう、ですね……お姉様」
よく分からないけど、とりあえず頷いておく。
ボクの言葉を聞いたアイリスたちがショックを受けている様子だが、本当に何事だろうか?
お姉様はお姉様で、何やら満足げな表情を浮かべているし。
「も、もう帰りますわよ、シランさん」
「そそそそうだぞ、もう下校時間は過ぎてるんだからなっ」
「わたしのシランちゃんが、わたしのシランちゃんが、わたしのシランちゃんが、わたしのシランちゃんが、わたしの(以下略)」
もうそんな時間なのか。少し長居しすぎてしまったようだ。
さすがにこれ以上は迷惑をかけてしまうので、お姉様に頭を下げて別れの挨拶をする。
「あら残念。うふふ、またお話ししましょうね」
たしかに、たまにはなら良いかなと思ったが、寮に戻った後、リリーにしつこく注意された。
一体どうしたんだろうか?
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『フラワーエデン』は正真正銘の全年齢向け百合ゲーなのですが、イレギュラーな存在のせいで、キャラクターたちが揃いも揃って暴走モードです。
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