白と黒

上野蜜子

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第10章

居候と決着 3

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山下と部長の仕事を手伝いつつ、みんなできっかり定時で上がって、徒歩数分で白石さんのマンションに到着。

連日の流れ通り申し訳ない気持ちになりながらも一番風呂をいただきリビングに戻ると、

「はい、黒原さん!プレゼントです」

と、おもむろに小さい包みを渡された。

時間が止まる。

「え?プレゼント?えっと、何かありましたっけ…」

「開ければ分かりますよ」

え、なんかの記念日?待って、全然心当たりない。

昨日は付き合ってちょうど2週間だけど、1週間記念とかしてないし。そもそもちょうど1週間の日って、俺桃華と飲みに行ってなかった?え?普通に最低なのでは?

1週間記念ができなかったから2週間記念のお祝い?待って、そもそも7日ごとにこれからもお祝いするのか?そういうの最初にすり合わせておけば良かった。いや、すり合わせる前にこういうのはマメにちょっとしたお祝いをするべきだったか?

ていうかそもそもすり合わせるようなことなのか!?

完全に気が利かない男じゃん俺。付き合って2週間ほどにして、幻滅されることしかしてなくない?やばい。なんて言えば取り戻せるか?

受け取った包みを前に硬直していると、ふっと白石さんが笑った。

「黒原さん、なんでそんな難しい顔をされてるんですか」

「え!?あ、その…」

「要らなければ回収しましょうか?」

「いや!違うんです!!すみません、ありがたく頂戴致します…!」

かさっと封を開けると、チャリッと鍵が…

か、かぎ…が…

「そちらはこの家の合鍵です!」

「え!!!?あの待って!?!?」

「遅くなっちゃってごめんなさい、鍵の形が特殊なので時間的にも休みの日じゃないと作れないなぁと思っていて」

「あの、え!?ちょっとあの…」

「合鍵が出来たら黒原さんは黒原さんのペースで朝を過ごしてくださいね、ってお話しましたよね。なので明日からはゆっくり起きてくださいね」

「いやいやいや待って待って待って…そうは言いましたけど!!!」

淡々と話を続ける白石さん。

何か合鍵を渡して当然かのように話が進んでいるけれども!!

「?…何かおかしいですか?」

「おかしいって言うか!!展開が早すぎるんです!!」

「うーん…けど約束は約束ですし…まさか黒原さんに限って約束を破るなんてことは…」

「いやいや、違う違う!!そうじゃ…そうじゃなくて!!」

おかしい、おかしいのはこの付き合って日が浅い男に合鍵を作って渡してしまう状況だと言うのに、何か俺がおかしいような流れになっている!!

いやそもそも付き合って日が浅いのに恋人の家に居候している状況もおかしいんだけど!?それはさておいても!!

「もしかしてご迷惑でしたか?そうですよね、別にこの家の鍵なんて…」

しおっと俯き気味になり小さくため息をつく白石さん。

「いや、それは断じてないですけど!!」

すかさずそう言うと、

「そうですか?良かった!これからはその鍵は黒原さんがお好きに使ってくださいね!

わざとらしく、コロッと笑顔を作ってキッチンの方へ消えてしまう。

「うぬぬあああ…」

強引ッ…!俺に引け目を感じさせないように作られた強引ッ…!!

優しさでできた強引なのは分かるけど…分かるけどッ…!!

何と言えば上手く伝わるのか分からない。俺だから大丈夫だけど、誰が何を企んでるか分からないんだからこういうことは軽率に…違う。違うな。語弊があり過ぎる…

「合鍵、初めて作りに行きましたよ。良い経験になりました」

カウンターから声が投げ掛けられる。

「ぐうぅ…けど本当に良いんですか?俺に合鍵って、時期尚早すぎないですか」

「どうしてですか?」

「いやだって、付き合っているとは言えまだ知り合って3ヶ月ちょいですし…」

「………3ヶ月じゃないですけど。それに合鍵をお渡しするのは黒原さんだからですよ」

…ん?3ヶ月じゃない?

「え?3ヶ月じゃなかったですか?だって紺野たちの合コンがあったのって…」

「キーケースとかあります?使いやすいようにしてくださいね」

遮るように白石さんが続ける。

「え、あ?じゃあ家の鍵と一緒にしておこうかな…」

なんとなくこれ以上追及してはいけない気がして、逃げるようにカバンに向かう。

え、どう考えても3ヶ月だよな?合コンが8月半ばで、あの時自己紹介したんだよな?その前に会ったこと…ないと思うんだけど…。

財布を取り出そうとカバンの奥に手を入れると、コンドームの箱の質感とは違う、何かしっとりとした感触の箱に手が当たる。

なんだ?と思い取り出すと、金のロゴが刷ってある黒いしっかりした化粧箱。

こんなの持ってたっけ?記憶にない。グッと傍を押し込むと、ストンと蓋が外れた。

薄いトレース紙で保護されているが、ぬるっとした艶の革細工がちらっと顔を覗かせている。

なんだこれ?革製品…財布?

こんなの買ったっけ…?いや、買った記憶ない。大昔に買ったのが入れっぱなしに…なってるわけないよな。だって、カバンはこの間整理したばかりだから…

「…っあ!!」

「??黒原さん、どうされました?」

「あ、いや!なんでもないです、鍵、財布に付けさせて頂きますね!」

後ろから覗き込もうとする白石さんに、さっといつも使っている古びた財布を掲げて見せる。

大丈夫、白石さんには見られてない!!

あの日、何を盗られたわけでもない、ただ漁られたと思っていたカバンの中身…

カバンの中のものは要らないだろうから、そのまま捨てちゃってね という桃華からのメッセージ…

すっかり忘れてはいたが、あの日は俺の誕生日…

白石さんから何気なく発せられたプレゼントという単語で、急に色々なことが繋がってしまった。

まさか…まさかとは思うが、

これはおそらく桃華からの誕生日プレゼント…!!

わざわざ用意したのか!?会う日に合わせて!?しかも誕生日ピンポイントで!?

自分ですら忘れていた誕生日だぞ!?

そういえば言ってななんか!パスコードは俺の誕生日だったって!!

帰り渋るし、俺をトイレに誘導するし、トイレから帰ったらあっけなく立ち上がるし!!

思い返せば色々違和感はあった。けど本気で気付かなかった…!

これ、まさか盗聴器とかGPSとか仕込まれてたりしないよな?まさかな?

職場特定してユスろうとかしてないよな??

いや、だとしたら既にここも割れてるだろうし、会社で待ち伏せされてるはず…

いやいや、そもそも俺にここまで執着する理由もないはずなんだよな…

なんでこんなものを…

わざわざ買って…!

意味が…分からない…!!




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