白と黒

上野蜜子

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第9章

遺恨と外泊 8

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2人で運ばれてきた夕飯を食べて、さらっと風呂を促され、

俺は今、結局1人で風呂に入っている…。

非常に残念なような、ありがたいような、絶妙な感情が脳内を渦巻いている。完全に、一緒に風呂入りましょうよゲヘヘというセクハラまがいの提案は無かったことにされている。

いや別に良いんだけど。何も困ることないけど。むしろ助かったと思うべきなんだろうけど。

この広い浴室で1人っていうのも…。

いや広々してていいんだけど!非日常的な空間でリフレッシュにもなるだろうけど!!

それに一緒に風呂なんか入ったら、白石さんの言うようにそれこそ赤面だけじゃ済まないと思うし、

この全裸の閉鎖的空間で何かが起こってうっかりキスなんてしてしまった暁には…もう何も隠すものもなく、一糸纏わぬ俺の三芳が三芳するのがばっちりバレてしまう…!

そうなったら俺は恥ずかしすぎて2度と浴槽から出てこれないことと思う。だから、これで良かったんだこれで!これが最適解!!

いくら白石さんの素肌をちょっと見てみたいという気持ちがあっても、欲望のままに動くと自分の首を絞めることになる!!

何も残念なことはない。白石さんのあの服越しにも分かる引き締まった身体を、素肌を、肉眼で見てみたいなんていう欲望は捨てよう…うん…きっと彫刻も真っ青な綺麗な身体があの服の内側に…。

「黒原さん、大丈夫ですか?」

「はあぁ!!!!」

ガチャッと唐突に浴室の扉が開かれ、完全に気の抜けていた声が出た。

「すみません、外から何度か呼んでたんですけど返事がなかったから…」

「すすすすすみません考え事してて…!!」

ばっと浴槽の中で白石さんに背を向ける。いや今更感あるけど…!全裸見られたことはあるけど!!そう何度も見られて良いものではない!!

あまりにまったりしすぎたか。家の風呂場が狭いので、広々足を伸ばせる浴槽がレアすぎて…とことん満喫しようという本能が出ていたかもしれない。

「ちょっとお湯の温度熱すぎたかなと思って…のぼせてませんか」

「いえ大丈夫です、そろそろ出ま…」

鏡越しに、白石さんの足がひたっと浴室に入ってくるのが見えた。

ぎくっと身体がこわばる。なんで?なんで入ってきた!?風呂場に忘れ物でもした!?

やばい、俺全裸、白石さんは服を着てる。俺は身体を隠すものが何もない。骨太のくせにプニりを若干感じるこの身体を見られるわけにはいかない。こんなことならちゃんと筋トレとかしておくんだった…

水面に波が立たないよう、そっと足を曲げて身体を丸める。

すぐ後ろの浴槽のヘリに手がかけられ、白石さんがしゃがみ込む。鏡越しの一挙手一投足に全神経を集中させる。鏡越しに目が合ったらどうしようと思ったが、白石さんは鏡を見ることもなく俺の後ろ姿を見つめているようだった。

湯気と鏡の水気で表情が鮮明に見えない。白く霞んだ視界の中で、白石さんの頬がうっすら赤い。自分の心臓の動きで水面が揺れる。ドキドキして、息が上がりそうになる。

何が起きているのか理解が追いついていない。鏡に映る白石さんから目が離せない。バクバクと心臓がうるさい。白石さんがぐっと首を伸ばしたと思ったら、うなじに柔らかい感触…

「…し…白石さん…」

脈に合わせて視界も揺れる。甘くて軽いうなじの感覚に、全身がぶるっと震える。やばい、恥ずかしい。

手が伸びてきて、両手で頬を包まれたと思ったら後方にそっと引き寄せられる。なんとなく教習所の応急救護の講義で使うマネキンの気道確保みたいな姿勢だなと思い出…してる場合じゃない!!

自然と開いてしまう口を、斜め後ろ側から白石さんの口が塞いでくる。

「…っは…」

この体勢は色々とやばい…!!

摩擦抵抗の少ない浴槽で少しでも力が抜けたらずるっと行く。確実に滑り込んであられもない格好で沈む!!

ぐっと足に力を入れて踏ん張るが、口腔内の刺激で集中できない。

ぬるぬると温かい白石さんの舌が絡みついてくる。相変わらずミントの香りがする。俺はハンバーグカレー食べてからお茶しか飲んでないと言うのに…!

ぷるぷると足に力が入らなくなってくるにつれて、ぎゅうっと下腹が締め付けられるような感覚が生まれてくる。やばい。これは本当にやばい。

いつ尻が滑るか分からない。さすがにを見られたら生きていけない。右手で浴槽のヘリを掴んで、ぐっと身体を横に倒す。ぱっと口が離れ、ぶはっと息を吐いて急いで酸素を取り入れる。

はあっはあっという俺の荒い息が浴室に響いた。

「…黒原さんはいつも息止まっちゃいますね」

「し、白石さん…服が…濡れちゃいますよ…!」

息もからがらになりながら急いで呼吸を整えようとするが、心臓もうるさいし頭の中もうるさいし息もうるさいし、なかなか落ち着かない。

「…ごめんなさい…僕、今日余裕ないですね」

はあーーっと大きく息を吐いて、浴槽のふちに額を落とす白石さん。

これで余裕ないの…?落ち着いた喋り方で、余裕がない感じには一切見えない。急に風呂入って来たからってこと?けど服着てるし。余裕なんて俺の方がとっくのとっくに無いわ。

「…あ、白石さん、袖が…」

俺の顔やら髪やらでじっとりと水分を吸った白石さんのシャツの袖を、これ以上濡らさないようにそっとつまんで腕側に引っ張る。

浴槽についた前髪も濡れている。そっといつもの白石さんの分け癖に合わせて横にかき分けた後で、白石さんもこれから風呂入るし別に濡れててもそこまで支障ないかと気付く。

顔を上げた白石さんと至近距離で目が合う。薄い瞼、綺麗な切れ長の目元、上目遣いの潤んだ瞳…

…あれ、待って、余裕ないって…もしかして…?

気付いた途端に、ぼっと顔が熱くなる。

「黒原さん、顔赤いですよ…そろそろお風呂出たほうが良いですね」

「し、白石さんがそこにいると…立てないんですよ…!」

「も…もうちょっと待って…それか僕に構わずそのままお風呂上がってください」

「で、できるわけないでしょうが!!!」

うううわああああああ…!!とんでもない状況になってしまった!!

これどうしたら良いの!?白石さんはまた俯いちゃうし!!とにかく全神経を集中させて落ち着くしかない!?

ていうか白石さんもこんなことになったりするのか!?俺だけだと思ってた…!!嬉しさと感動と恥ずかしさでなかなか気持ちが落ち着かない。白石さんも、今日のこの状況に対して同じような感情を持っていたということだよな…!?

白石さんをそういう気にさせてしまったのが俺のお粗末ボディというのが大変申し訳ないが、意識してるのは俺だけじゃなかった。良かった!!ずっと気持ちだけ空回りしてると思ってた!!

白石さんのつむじをこんな至近距離で見るなんて初めてだな…可愛らしく渦巻いてる、って違う違う違う…とにかくいまは白石さんのことをこれ以上考えないようにしないと。一生風呂から出られない!!

しかし、風呂の熱で頭が全く働かない。やばい。俺がのぼせて倒れるか、白石さんの目の前で立ち上がって♂羞恥心で倒れるかの2択しかない。どう足掻いてもどうにならない。終わった。

綺麗に巻いた白石さんのつむじを眺めながらついに脳が働くのをやめた時、白石さんがふうーっと長く息を吐いて、さっと立ち上がった。

「急にお風呂開けちゃってすみませんでした。黒原さん、のぼせるまえにお風呂上がってくださいね!」

あれ、顔赤くない。いつもと同じ様子に戻っている。

…え?もう落ち着いたの…!?え…!?

ちらっと下半身を見ても、全くいつもと変わらない状態。ぺったんこ。え!?もしかして俺が想定してた状態と違った!?いやそんなわけないよな!?落ち着くの早くない!?

さささーっと風呂場を後にする白石さんの後ろ姿を呆然と見送る。

え?俺どうしよう?1発抜いちゃった方が早いのでは?けどこの後この風呂場に白石さん来るんだよな。流石に無理だ。

よし、竹取物語だ。暗記させられたやつの出番だ。これや我が求る山ならんと思へど、さすがに恐ろしく思えて…山のめぐりを差し巡らして、あれ、差し回らして?どっちだっけ。しろがねのカナマリを持ち…あれ、全然思い出せん。何だっけ。

古文の授業、そんなに好きじゃなかったんだよな。何段活用とか、未だによくわからない。テストは本文の穴埋め問題が多かったから、全部丸暗記した記憶しかない。現代文と違ってちょっと歌詞っぽいから、覚えるのはそこまで苦じゃなかったな…

…古文、すごい威力だ。みるみるうちに正気に戻っていく。だいぶ落ち着いた。まじでのぼせる前にさっさと風呂出よう。

ざっと立ち上がって備え付けのタオルでバサバサと髪と全身を拭き、薄手のバスローブを羽織る。うわ、かなりラブホ感出る…。余計なこと考えないようにしよう。本当に…。

軽くドライヤーで髪を乾かしてから部屋に戻ると、白石さんがテレビのリモコンを操作していた。

え、もしかしてAV見てる?

「あ…白石さん?お風呂出ました…」

「黒原さん、お帰りなさい!加入してるサブスクの数すごいですよ。後で何か見ましょう!」

テレビを覗いてみると、まだ使ったことのない動画配信サービスの画面になっている。そのためにリモコン操作してたのか。てっきり怪しい映像でも見ているのかと…。

「そうですね、映画一本見たら時間的にも丁度寝る時間に…」

と言いかけてハッとする。

普通に口から出ちゃったけど…え?今日…いつも通りに寝るだけ?

さっきまでわりとピンクな雰囲気だったよな?寝るっていう単語がわりとすけべな響きに聞こえてしまう。

ちら、と白石さんを見ると、

「外泊しても、いつもとすること同じになっちゃいますね~。他にすることもないですもんね」

白石さんは全く気にしていない様子で、いつもと同じような淡々とした返事が返ってきた。

「ほ、他…」

他にすること…ないか!?いや、ないか!!ダメだ変に意識するな俺…!

そもそもそういう雰囲気になっても何をどうしたら良いか分からないし…!まだ勉強時間が圧倒的に足りない。この場合は何も起きないのが正解だ。まだ付き合って間もないし。焦るな。変な想像して気まずい雰囲気作るな。落ち着け黒原三芳!

「とりあえず僕もお風呂入ってきちゃいますね、僕お風呂光らせちゃおうかな~」

「行ってらっしゃい…のぼせないようにしてくださいね」

ウキウキしながら風呂場に向かう白石さん。

やばい…。けど、お付き合いしたんだからそろそろちゃんと色々なことを考えておくべきだよな…。

何をどうしてナニをこうするとか、ちゃんとシミュレーションとかしておかないと。そもそもどっちが上でどっちが下とか全然分からない。みんなどうやって決めてるのこれ…?

スマホに手を伸ばすと、はっと思い出す。白石さんと2人きりで浮かれてたけど、桃華のこと何も解決してなかった。明日からまじで俺どうしたら良いんだろう。ずっとホテル泊まるわけにもいかないし…。

普通に家帰って待ち伏せとかされてたらだいぶキツいよな。そもそも桃華にそこまでする理由があるのか微妙なところだけど…

何度か深呼吸して、SMSアプリを開く。

すごい。すごい連投。SMSでまだ1通あたりの文字数が少ないから、100通以上のメッセージと言ってもそこまで酷くない。紺野も昔、こんな連投してきてたなそういえば…。

数時間前から新規メッセージはもうない。ざーっと今まで受信したものを遡ってみる。ラブホという特定され得ない安全圏にいるからか、わりと他人事でメッセージを読むことができている。

返事を求めたり、見ているのか確認するようなメッセージが多い。遡るにつれて、恨み言が増えてきた。おそらくカプセルホテルにいるぐらいの時間のメッセージだ。桃華にとって俺は、どうやら加害者らしい…。

けど、加害者と言えば加害者だよな。2年間無駄にさせてしまったことには変わりない…。だからと言って、されたこと言われれたことを許すことはできない。俺のことを許さなくても良いけど、俺も許したくない。関わらないのがお互いのために一番だと思うけどな…。

あの2年間は、桃華にとってもとにかくつらい時間だったらしいことがメッセージから汲み取れた。てことはやっぱり復讐のために連絡してきたのかな。ダメだ、気が滅入ってきた…。

けど、なら早く関係を終わりにさせてほしかったというのが本音だ。もう無理だと思って何度も別れ話を切り出していた。その度に暴れて拒否してきたのは向こうだ。本当に生産性のない、ただお互いのメンタルだけが削れていく時間が少なくとも1年間…いや、1年半近く続いただけだったということだ。

俺と桃華が今更接触しても、お互いのメリットが何一つもない。ここまでのメッセージを送ってくるぐらいに俺のことを恨んでいたなら、レストランでも声掛けずに通り過ぎてくれれば良かったのに。そうでなくともわざわざ昔のスマホ引っ張り出してまで連絡する必要は無かったんじゃないかと思う。

とにかく復讐しないと気が済まないような状況だったんだろうか。真意を知りたいような、もう一刻も早く他人に戻りたいような…。

非常にモヤモヤするけど、正直今は白石さんのことを考えるのでいっぱいいっぱいだし…このままフェードアウトに向かって欲しい。

テレビのリモコンを手に取り、配信映画を新着順に見ていく。

ふと、白石さんも映画好きで良かったなと思った。なんだかんだ会う度に時間があれば映画一本観てる気がする。

そもそも友達とお泊まり会とかも全然しないのでそれ以外にすることが分からないのはある。他にすることなんて思いつかないしな…。

浴室からドライヤーの音が聞こえてくる。白石さん風呂出るの早いな。お湯だいぶぬるくなっちゃってたかな。

…待てよ、今日は本当に他にすることがないのか…!?

この、ラブホテルとかいうをする専用の施設にチェックインしたにも関わらず、本当に他に何もすることがないのか!?

部屋に漏れてくるドライヤーの音が、意識を全部掻っ攫っていく。

白石さんがこの部屋に来た時、どんな顔をしていれば良い?白石さんはどんな顔をして部屋に入ってくるんだ?こういうのよく漫画で見る。事が始まる前の甘酸っぱい雰囲気を嫌でも想像してしまう。

だめだ、考えるな黒原三芳!どっちか片方でもそういう感じになったら本当に収拾がつかなくなる!!

ついにドライヤーの音が消えてしまった。深呼吸深呼吸…落ち着こう。白石さんがどんな顔で戻って来ようと、普通にしよう普通に。

「黒原さん、お風呂上がりました!やっぱり泡風呂しておけば良かったですね!」

がちがちに決意を固めて白石さんを出迎えたわけだが、当の白石さんのほうが逆にいつも通りすぎて、ずるっと肩の力が抜けた。

「お、おかえりなさい…泡風呂って、1人でブクブクするんですか?」

「なんだかリッチな感じがするじゃないですか。せっかくだしなんでもやっておけば良かったかなと思いまして」

モコモコの泡の中に埋もれて光る風呂にまったり浸かる白石さんを想像してしまい、一瞬きゅんとする。

絶対似合う。白石さんってこういうとこ無邪気だよな。光る風呂でも喜んでたし。ジャグジーとかついてたらしばらく風呂から出てこなさそうだ…

「今度白石さんの家行く時は泡の入浴剤買っていきますね…そういえばこのサブスク、けっこういろんなタイトルありますね」

カチカチとタイトルを横に滑らせていく。

「そう!僕もさっきちらっと見たんですけど、やっぱり普段使ってるのとラインナップ変わりますよね!」

「ですよね、選び放題だし、サービスいいなと思いました」

「サービスといえば、コスプレ衣装とかの案内もあったんですよ!これこれ!」

ばさっとローテーブルの下段から衣装カタログを出してくる。

モデルの肌色率に、ぎくっと身体がこわばる。

風呂入ってる間に掘り返したのか…!せっかく隠しておいたのに…!

「し、白石さんもそういうの興味あるんですね…」

女性に興味がないのかと思っていたが、そういえば最初にバイセクシャルだと言ってたな。ってことは、女性も恋愛対象ってことだよな。

…なんかちょっとモヤってしまった。完全に俺がモヤれる立場にないけど。

「男子のサガですね。ほら見て黒原さん、いろんな種類があるみたいですよ」

ぱかっとメニューを広げる白石さん。

さっきは一瞬しか見なかったので分からなかったが、確かに色々ある。すごいな…

「白石さん、なんか嬉しそうですね…けど、どれも構造おかしすぎません?こんなのセーラー服って言えないですよ」

「おや、黒原さんはセーラー服に目が行くんですね」

「なんですかその言い方…そういう白石さんは?どこに目が行きました?」

「僕は…うーん、ナース服ですかね。動きづらいフォルムに、おそらく化繊のサテン生地で肌触りはおろか機能性まで低そうです。業務に対するパフォーマンスは低下するでしょうね」

「そういう見方ですか…!?」

「このいかにもコスプレ用のわざとらしいチャイナ服とかもそうですけど、元々セクシーに作られてるものってあまりそそられないんですよね」

「そ…そうなんですか?」

「一見露出とか色気がないと思わせておいて、動作によって垣間見える体のラインにグッときます」

両手でボディラインのシルエットを表現する白石さん。

「…白石さんにもそういう感情があったんですね!?」

「ふふ、妬いちゃいました?」

「はぁ!?」

「冗談です、どっちも!あはは!」

冗談!?どっちもって何!?どこからどこまで!?

ちょっとモヤモヤしていただけに悔しい…!

「…ナース服といえば…青木さんに看護師紹介するとか言われたんですよね」

「え?青木さんですか?」

「そうです、以前…ってそうだ、青木さんはどうなったんですか?」

「青木は…相変わらずな感じですね」

あ、はぐらかされている。

「相変わらず仲良しですか?」

「だから…仲良しとかじゃないんですってば。仲悪いわけじゃないですけど」

むっとした顔。この顔久しぶりに見た。相変わらず可愛い。

「白石さんって…青木さんの話になるとムキになりがちですよね」

「黒原さんがからかうからですよ。黒原さんには吉川さんがいるかもしれませんが、僕には黒原さんより仲良い人なんていないんですからね」

「なんでそこで吉川さんが出てくるんですか!?」

「…満更でも無かったくせに」

満更でもない…?

一瞬思い出すのに時間がかかった。ぶわっと汗が出てくる。

「そ!!それは違うんですよ!!違くないですか!?」

「違うんですか?」

「あれはだって……いや、なんというか…!!」

吉川さんは酔った人間を抱くのは礼儀とか言ってたし、

白石さんには振られた直後だったし、

俺もなんかお酒入ってどうでも良くなっちゃったというか…

だめだ。何をどう言っても全員幸せにならない。やめよう下手なことを口に出すのは…

「そういえばコスプレ衣装、学ランとかもあったら良かったですねぇ…」

無理がありすぎる話の逸らしかたをしてしまった…。

「…学ランですか?どうして?」

「え?」

学ランというワードに食いつく白石さん。

「なんでって…白石さん似合いそうだし…」

なんか、白石さんが学ラン着てるとこ、見たことあるような…?

あれ?いつだ?なんでだっけ。

あ、そうだ。白石さんの家にいる時に見た夢だ…

なんか学ラン姿がしっくり来たんだよな。なんでだろう?黒くてぱりっとした制服と白い肌が合うからかな?

「…僕学ラン似合いますかね?」

「絶対似合いますよ!白石さん肌ツヤ良いしむしろ余裕で学生って通用します」

「ええ?それはさすがに無理があるでしょう」

「え、いやいや…」

まじまじと白石さんを眺める。

学生にしてはずいぶん落ち着いてるけど…いや、全然いける…。

白石さん、シワとか全然ないし、余計な脂肪ついてないし、顔小さいし。肌も本当に綺麗で、今日はバスローブだから普段見えない胸元の方まで襟がちょっと開いていて鎖骨は綺麗だしすべっとしたデコルテが…

「…黒原さん、見過ぎですよ…」

白石さんが恥ずかしそうに俯きながら胸元を隠した。

「え!?あ、いや!すみませんそんなつもりじゃ…失礼しました…」

ぱっと目を逸らす。

完全にセクハラかましたおっさんみたいになってしまった。

…いや待てよ、白石さんは俺の頭のてっぺんから足の先まで全裸を見てる訳だよな?これだいぶ不公平じゃない!?

このバスローブの下には白石さんの素肌が隠されてるんだよな?ちょっと胸元見るぐらいはもしや全然OKなのでは!?

しかし白石さんはずるい。こんな風に恥じらわれたら、完全に見てる俺が悪になってしまう…。俺だってあの時死ぬほど恥ずかしかったのに。

「すみません、映画探してたのに逸れてしまいましたね…今日は何観ましょうか」

さっと白石さんがリモコンを手に取り姿勢を変える。

布一枚の先に白石さんの裸があると思うと、だぼっとした袖から覗く腕すらも官能的に見えてしまう。

やばい、煩悩は捨てよう!!せっかく白石さんが流れを元に戻してくれたのに、俺がまた敢えてそういう路線に持って行くことはない!!

普通にしよう!普通に!いつも通りに!!雰囲気おかしくなるとちょっとの沈黙すら気まずくなるから!!!

白石さんに気付かれないように小さく深呼吸をして、一緒にタイトル選びを始めた。








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