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第9章
遺恨と外泊 1
しおりを挟む人生がまるで薔薇色になったような気分だ。
いつもは憂鬱なだけのはずの仕事まで、なんだか楽しい気さえして来ている。
普段は苦手な校正作業ですら楽しく感じてしまう。
とてもやる気に満ち溢れている。何をしても楽しい!
なぜなら白石さんと付き合えて!
好きだと言われて!!
晴れて恋人同士だからです!!!
日曜は買い物をしたり俺の家に寄ってもらったり、連泊のせめてものお礼で夕飯を作ってみたりとものすごく健全な休日を過ごし、
今朝は朝起きて一緒に準備して一緒に家を出て一緒に出勤…
あまりにも幸せすぎる週末と週明けだ。仕事の合間に何度も反芻してしまう。
幸せパワーなのか、頭が冴え渡ってどの業務も全て上手くいく。
頭が働く!なんでもできる!!今ならトラブルが起きてもスムーズに解決できる気がする!!
人生ってこんなにハッピーな気持ちで過ごせるものだったのか!!
「黒原さん…先週、この世の終わりみたいな顔してたけど、今日すごい幸せそうですね!」
「え″…そうかな…!?」
終業後、エレベーター内で山下に突っ込まれる。
「なんか先週は…仕事はそつなくこなすのに魂抜けてたというか…地獄でも見て来たのかなってぐらいの顔色でしたよ」
「ああ~…ごめん、見苦しいところを…」
「いえ違うんです!黒原さんが元気になって安心してるんです!」
ニコーッとまだ幼い笑顔を向けてくる山下。
うう…社会人何年目だよってぐらいプライベートが仕事に影響しまくり…!
部長にも「なんかすごい調子良さそうだけど無理するなよ」とか声掛けられるし、周りに心配かけすぎだ…
「山下はいつも元気で前向きで偉いな…俺も見習わないとだよ」
「え~照れますね!けど黒原さんこそいつも前向きだと思いますよ!」
「ええ?そうかな?」
後ろ向きの権化だと自分では思っていたが、山下から見た俺って前向きなのか…?
山下の心が折れないように励ましたりしてるからか?分からない…
けど間違いなく今はかなり前向きだと思う。
付き合いたくて告白した相手に振られて友達ですらなくなってしまったと思ったらまさかの恋人になれたなんて…
そんな夢みたいなことが本当に起きるもんなんだな…。
山下と別れて、有り余る幸せパワーでいつもより早足で帰路につく。
足取りが軽い。体も軽い気がする!今ならダンベルもすごい重量持ち上げられる気さえする!!
なんだこの何でもできてしまいそうな万能感は。足が浮いてそのうち飛んでいってしまうんじゃないかというぐらいの高揚っぷりだ。
…やばい。俺いま相当浮かれてるな…。
こういう時に大体何かしら起きたりしくったりするんだよな。浮かれすぎないように気を付けないと…
何かフラグが立った気がしたが、白石さんと付き合えたことによる謎の万能感で、その本能による警鐘は一瞬でかき消されてしまった。
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