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第7章
波乱と頓挫 1
しおりを挟む正面切ってデートのお誘いをしてしまってから…
昼休みや寝る前の時間をフル活用し、
当日の近隣イベントを探し回り、
以前行きたいと言っていた美術館の事前予約を完了し、
夜景の綺麗な…スマートカジュアル指定のちょっと良いレストランと良さげなコースを探して予約と決済を完了し、
仕事帰りにキレイめで俺にも辛うじて似合うような服を(店員さんにも一緒に選んでもらい)購入し、
それなりに忙しい仕事をドタバタしながらこなしていたら、
ついに約束の日曜日になってしまい、
もう既に逃げ出したくなっている……
白石さんとお付き合いする気満々でデートの申し出をしたわけだけど、どうしようこれで「え?僕も黒原さんのことは好きですけど付き合いたいとかそういうのとは違うんですよね。申し訳ないですがこのお話は無かったことに…」とか言われたら…
そうなったらさすがにしばらく寝込むかもしれない。
「…黒原さん、おはようございます!待たせてしまいました?」
想像だけで心が折れかけていたところに、いつも通りシワひとつない清潔感の塊のような…普段着が既にスマートカジュアルな白石さんが小走りで近付いてきた。完璧すぎる。まわりがキラキラして見える。雰囲気も本体もイケメンだ。うっかり見惚れてしまいそうになる。
「あ、おはようございます、俺も今来たところです。せっかくのお休みを使って頂いてありがとうございます」
本当は30分前には着いていた…あまりの緊張で早くに目が覚めて、無駄に早く準備を終えて家でじっとしていられず、予定より早く家を出てしまった。
「こちらこそ、誘ってくださってありがとうございます。今日が楽しみで、1週間なんてすぐに経ってしまいました」
にこっといつもと同じくきつねのように目を細めて笑う白石さん。だめだ、言動も表情も何もかもがものすごく可愛く見えてしまう。あまりの可愛さに、一瞬でさっきまでの不安が吹き飛んでしまった。
なんでこんなにしゅっとしていてイケメンなのに、可愛いと感じるのか?けど社交辞令だとしてもこんな顔でこんなこと言われてときめかない黒原三芳って存在するのか?しないよな?
「俺も、1週間あっという間でしたよ。早く会いたかったです」
「ふふ、同じですね…今日どこに行くんですか?当日までのお楽しみというから、ずっと気になってたんですよ」
「あ、今日は…ちょっとバスに乗るんですけど、まず美術館に行こうかと思」
「美術館?」
言い終わる前に、白石さんが食い気味に反応した。
一瞬の間に、美術館のチョイスはまずかったか?間違えたか?相談して決めればよかったか?さすがにゴリゴリのデートっぽくて引かれたか?とありとあらゆる後悔が生まれたが、白石さんは予想外にキラキラと嬉しそうな顔をしていた。
「あの、先週美術館行きたがってたなと思った…んですけど…」
「覚えててくださったんですか?朝ちらっと話しただけなのに?」
「そりゃ覚えてますよ、敷地内に公園もあるし散歩もできるんじゃないかと思って…」
森林浴しながら散歩というのも先週言っていたから、完璧な場所だと思ったんだよ。レストランも入ってるから昼も食べられるし。
「…黒原さん、僕のこと散々モテそうとか女慣れしてるとか言ってましたけど、黒原さんの方が罪深いですよそれ」
「は、はぁ!?何言ってんですか、だって俺は白石さんにしか……」
そう言いかけて、頭で考えるより先に言葉が出てしまっていることに気付いて顔がぼっと熱くなる。
「…僕だって黒原さんだけですよ。黒原さん、最近すぐ赤くなりますね」
そう言っていたずらっぽい顔で笑ってくるもんだから、速攻で顔をそむける。
この人、俺の顔を熱くさせる天才だ。
「ほら、こっち向いてくださいよ。バス停あっちですよ」
楽しそうな声が後頭部から聞こえる。
スマートな年上男性として一日過ごしたかったのに、もうすでに白石さんのペースに飲み込まれている…
今日一日楽しんでもらえるように頑張ろう…そしてレストランで夕飯を食べ終わったらバシッと告白をキメるんだ…!
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