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第6章
宿泊と外出 6
しおりを挟む白石さんの運転で公園に着くともう既に人で賑わっており、いくつかの出店では列ができ始めていた。
もらったパンフレットを2人で見ながら、何を食べようか決めていく。
立て替えてもらった吉川さんとの飲み代を現金で返そうとしたら上手くかわされて受け取ってもらえなかったため、車の中で今日は全部払わせて欲しいと頼み込んで(?)なんとか承諾を得ることができていた。
が、白石さんに気を遣わせないように、あれも食べたいこれも食べたいと色々並んで買っているうちに、自分自身が割と早い段階で満腹になってきてしまっている…
白石さんはと言うと、こんなに細いのにどこにこんな量の食べ物がおさまるんだと疑問に思うくらい、何を買ってもニコニコしながらぺろりと平らげていく。
列に並ぶ時間もあるからか、割と腹にたまる気がするんだけど。そういえば白石さん、以前からよく食べるイメージがあるかもしれない。
なのになんでこんな細いの…鍛えてるって前言ってたから、代謝が良いのか?服の上からだとそんなムキムキには見えないけど。そういえば当たり前と言ったら当たり前なんだけど、この人の服の下見たことないんだよな…
俺は上から下までしっかり見られてるのにズルくないか?いやズルくないか。ズルいとかないな。何考えてんだ…
あらかた気になるものを食べ尽くして、芸能人のトークショーも横目で見つつ、腹十分目になった頃には到着してからあっという間に3時間近くが経過していた。
「どれも美味しかったですね~、僕もうしばらくお肉食べられないかも…」
「白石さん、結構な量食べてましたよね?大丈夫ですか?」
「僕、こういうとこ来ると気になるのは全制覇しないと気が済まなくて…ちょっと食べ過ぎちゃいました」
照れたような笑顔でお腹をさする白石さん。
意外だな、逆に胃の容量とか時間とか全部計算して最適量を食べそうだと思っていたけど…この人でもやり過ぎたりすることもあるんだな。
って、もしかしなくても俺が勧めすぎたからか?気を遣わせまいとする言動が全て裏目に出て、逆に無理をさせてしまった可能性も否めないのでは?
「あの、俺勧めすぎちゃいましたよね…ちょっとゆっくりしていきましょうか、お腹苦しくないですか?」
「とんでもないです、まだまだ大丈夫ですよ。次はどうしましょうか?」
「次…そうですね、上映スケジュール調べて、面白そうなのがあればそれ観て解散がちょうど良いですかね?」
「え?解散ですか?今日は泊まって行かれないんですか?」
「えっ」
すごい純粋な疑問の顔でこっち見てくるけど、なぜ泊まることが当然のような流れになってるんだ?
いや、正直なところ一緒に並んで寝るのは幸せでしたよ。幸せでしたけど、昨日2回もキスして、付き合ってもないのにやってしまったという自己嫌悪と、どうせするなら濃いやつにするんだったというアホみたいな後悔で割と寝付くの大変だったんですよ。
白石さんの寝息は静かだけどかすかにすやすや聞こえて可愛いし、手を伸ばせば届く距離にいるのに意味もなく触れる関係ではないし、それなのにキスはもう3回…いや4回もしてる上に、白石さんにすごいことをされたこともあるしで、
頭の中がぐるぐると忙しかったのに、白石さんは以前から変わらない恐ろしく良い寝付きで一瞬で寝てしまうし…いやそれは良いことなんだけど。
とにかく、連泊してものすごく距離が近いこの状態でもう一泊するのはあまりにも危険すぎる。変なテンションでべたべたにくっつきまくって白石さんをドン引きさせたくないし、さすがに三連泊はよくない。
…とは言えないので…
「…さすがにほら、ご迷惑おかけしちゃうし、着替えとかもありますし」
「迷惑は全くないんですけど、スーツは洗ってありますし、他に何か明日足りなくなるものとかありますか?あれば今日買って行けば良いですよね」
「いや…でも」
「黒原さんのお家に寄って持ってくるでも良いですし。出勤はうちからの方が楽でしょう?」
「確かにそうなんですけど…」
俺たち、付き合ってないんですよ。付き合ってないのにキスとか触ったりとかするのって良くないでしょ。でも、近くにいると友人であるはずの白石さんとそういうことがしたくなっちゃうんです。だから泊まれません。
…と言ったら、白石さんはどんな反応をするだろうか。
正直、告白して付き合ったら何も悩むことなく白石さんと一緒に過ごせるんじゃないかと何度か思うこともあった。しかし白石さんが俺に触れてくるからと言って必ずしも俺と付き合いたいと思っている訳ではないんじゃないかと思うと、今の関係性を崩すようなことは敢えてしたくもないとも思ってしまうし。
そもそもそういうことをしたいから付き合うっていうのは違うと思うし、一緒にいたいだけなら友達で良いわけだし。でも、友達ならキスはしないんだよ。そうやってずっと頭の中が同じところをぐるぐる回って、なかなか進まない。
「…そうですよね、確かに連泊は黒原さんの生活リズムに影響がありますね」
煮え切らない態度を見てか、白石さんが顎に指を置いて少し考えるそぶりをしながら切り出した。
「あ、えっと…」
「そうしたら、解散は映画観てお夕飯どこかで食べてからにしませんか?きっとお腹空く時間帯でしょうし」
「あ、そう…ですね、そうしましょう」
「で、うちに寄って黒原さんのお荷物をまとめてから黒原さんのご自宅までお送りする、っていう流れでどうでしょう」
「あ、いえ!車出してもらうの手間になってしまうし、自分で帰りますよ」
「僕が送りたいんです。だめですか?」
見上げるようにして顔を覗き込まれる。
「うっ…」
白石さん、上目遣いは反則でしょ…!自分の可愛さを全面に使うのはずるくないですか!?昨晩もそうだったけど、俺に気を遣わせないようにあえて自分がしたいからっていう流れにするの、恐ろしい技ですよ…
「じゃあ…お言葉に甘えても良いですか…?」
としか言えなくなるじゃないですか。
「もちろんです、そしたら映画の上映スケジュール見てみましょうか。今何がやってるのかな?」
スマホを取り出し、近場の映画館のホームページを見始める白石さん。
さっき、今日のもう一泊をもっと押されると思っていたから少し拍子抜けした。安心したような、残念なような。
いやゴネられたいと思ってるわけじゃないんだけど、白石さんって有無を言わせない雰囲気があること多いから…
少し残念な気持ちも芽生えつつ、白石さんのスマホの画面を覗き込んで一緒に観る映画を見繕い始めた。
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