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第6章
宿泊と外出 5
しおりを挟む白石さんの寝息を聴きながらいつ寝付いたのかもはっきり分からないうちに、突然ふわっと小麦が焼ける幸せな香りがして目が覚めた。
のそっと起き上がって横を見ると、白石さんは居ない。リビングがもう明るい。てことは、え…朝?もう?今、何時?
サイドテーブルのスマホの画面をタップする。
8時…?まじか?休みの日にこんな早く起きたの、久しぶりかもしれない…って、それでも家主よりも起きるのが遅い。またやらかしている。
いや違うんだよ、昨晩目覚ましかけようと思ったんだよ。思ったんだけど、白石さんの睡眠を妨げるのは良くないかなって思ってあえてかけなかったんだよ。そしたら見事に白石さんよりばっちり寝坊だよ。昨晩少しでもこの未来予知ができていたら完璧な1日の始まりを迎えることができたかもしれないのに…
まだぼんやりと働かない頭を何度か叩き、ベッドから降りてリビングに向かう。
「…あ!黒原さん。おはようございます!」
キッチンに立つ白石さん。もう着替えてる。早…
「白石さん、おはようございます…すみません起きるのが遅くて」
俺はと言うと体も頭もまだ完全に起きていなくて、上手く声も出ない。朝弱すぎる。
白石さん、以前も少し思ったけどものすごく血圧低そうなイメージなのに朝から元気だよな。
ニコニコしながらキッチンから移動してきて、トーストの乗った皿をテーブルに置く。さっきの香りはこれか。
「黒原さん、今日とっても良いお天気ですよ!絶好のお出かけ日和です!どこに行きましょうか?美術館でまったりも良いですし、ショッピングモールで映画観てお買い物とかも楽しそうですし、森林浴しながらお散歩とかもリフレッシュできますよね~。あ、近くの公園で今日フードフェスもやってるみたいですよ!どれも楽しそうで悩んでしまいます、どこ行きましょうか…」
楽しそうに話していたが、突然はっとした顔になり、
「…すみません、黒原さんと会うのって夜ばかりだったから、今日は朝から一緒だと思うとなんか楽しくなってきてしまって…」
そう言って恥ずかしそうに視線を外すと、それを隠すようにいそいそとテーブルの用意を始めた。
いつも落ち着いているのにころころと慌ただしく表情が変わる白石さんがあまりにもかわいらしくて、ぶはっとつい笑ってしまう。
「…そんなに楽しみに思ってくれてるんですね、俺も白石さんと1日過ごせるの嬉しいです」
そう言い終わってから、恥ずかしいことを言ってしまったことに気付いてカーッと顔が熱くなる。
白石さんもはにかみながらそわそわとしている。
なんなんだよこの雰囲気は!もっと別の言い方考えるんだった…!!
「あの、提案してくださったの…全部楽しそうですけど、今日せっかくフードフェスがあるならそこに行ってみたいです。時間見てその後のこと考えるのはどうですか?」
「はい、そうしましょう!全制覇できますかね?僕食べ過ぎちゃいそうです」
いつものクールな雰囲気と全く違う、遠足に行く前の子供みたいにワクワクしている様子。
な、なんでこの人いちいちこんなに可愛いの……
人が泊まりにくるって、結構俺にとっては気を遣ったり気が抜けなかったりで、楽しいけど疲れることだったりするからここまで楽しそうにしてくれるのは本当に嬉しい。
でも、普段と違うことって結構疲れることのはずだから…今後は調子に乗って何度も泊まらせてもらうのはやめよう。常識だよな。本当にごめんなさい、白石さん。
朝食の準備を手伝い、2人で食事を取って、
外に出るために白石さんの私服を借りた…んだけど、一番カジュアルな服装ですら服に着させられてる感がすごい。
あの白石さんに「これも似合いますけど、黒原さんの服もいくつか買って置いておきましょうか」と気を遣われる始末…
体型も顔立ちも全然違うんだから、白石さんに似合う服が俺にも似合うわけがないだろ。
そして、借りたこの服たち…絶対に値段が俺には似合わない…と思う…
絶対に今日汚さないようにしなければ…。
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