白と黒

上野蜜子

文字の大きさ
上 下
43 / 83
第5章

反省と宥恕 8

しおりを挟む

「……はい、これ飲んでください」

ふらつく体を支えてもらいながら、すぐ近くのパーキングに停めてあった白石さんの車の助手席に座らされ、天然水のペットボトルを差し出される。

「う、あの…白石さん」

「話は後でゆっくり聞くので、とりあえず水飲んでおとなしくしててください。これエチケット袋です。吐く時は言ってください、車はいくら汚しても構わないんで気にしないで」

ぽいぽいと手口拭きとエチケット袋と渡され、ブランケットをかけられる。手際がめちゃくちゃ良い。

「走らせてる間寝てても良いですよ、明日仕事は?」

「や…休みです」

「分かりました。とりあえず僕の家に向かおうと思いますが、ご自宅の方が良いですか?」

「あ、さすがに白石さんの家は悪…」

「今更悪いとかないんで、僕の家で大丈夫ですね。もう喋らなくて良いですよ」

それは…しばらく黙っとれ、ということ…?ていうか、ハナから決定権は俺になかったのでは。

エンジンがかかると、エンジン音に隠れて聞こえるか聞こえないかぐらいの長いため息がうっすらと聞こえた。

でも横顔は…怒ってない。

髪、少し濡れてる。もしかして風呂上がってから急いで来てくれた?

場所もざっくりとしか伝えてなかったのに、電話を切ってからあんなに早く迎えに来てくれた。

俺より年下なのに、初対面の…俺の仕事関係の相手に、臆すことなくあんなにしっかりとした(火花が散ってるような)受け答えもしていた。

今のは呆れたため息というよりかは、気を張っていた状態からやっと緊張が解けたような…力が抜けた、安堵の息が漏れたんじゃないだろうか。

…俺、本当に情けなさすぎるな。

白石さんに無理させてしまったよな。

渡されたペットボトルの蓋を開けて水を飲む。全身に沁み渡る…。

気持ち悪くはない、けど明日絶対二日酔いになる感じがする、この頭のぐらぐら加減…もうこの時点で分かる。

車を走らせる白石さんの横顔…また見ることができた。肩、背中、腰、白石さんの触れたところを反芻する。もう会えないかと思ってた。

「…あの、白石さん」

「緊急の要件ですか?そうでなければ控えてください、そのペットボトルは飲み切ってくださいね」

「………」

喋ってないでさっさと水飲めってことですね…

白石さんに対する申し訳なさとか、緊張感とか、後ろめたさとか、いろんな感情が渦巻いているが、また会えて嬉しいという自分勝手な気持ちが一番強いことに、俺はなんとなく気付いてしまっていた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

男色官能小説短編集

明治通りの民
BL
男色官能小説の短編集です。

性的イジメ

ポコたん
BL
この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。 作品説明:いじめの性的部分を取り上げて現代風にアレンジして作成。 全二話 毎週日曜日正午にUPされます。

首輪 〜性奴隷 律の調教〜

M
BL
※エロ、グロ、スカトロ、ショタ、モロ語、暴力的なセックス、たまに嘔吐など、かなりフェティッシュな内容です。 R18です。 ほとんどの話に男性同士の過激な性表現・暴力表現が含まれますのでご注意下さい。 孤児だった律は飯塚という資産家に拾われた。 幼い子供にしか興味を示さない飯塚は、律が美しい青年に成長するにつれて愛情を失い、性奴隷として調教し客に奉仕させて金儲けの道具として使い続ける。 それでも飯塚への一途な想いを捨てられずにいた律だったが、とうとう新しい飼い主に売り渡す日を告げられてしまう。 新しい飼い主として律の前に現れたのは、桐山という男だった。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

とろとろ【R18短編集】

ちまこ。
BL
ねっとり、じっくりと。 とろとろにされてます。 喘ぎ声は可愛いめ。 乳首責め多めの作品集です。

エロ小説短編集

おがこは
BL
不本意なのに気持ちよくなっちゃう受けや、特殊性癖な子が大好物です。これから短編をちまちま書いていこうと思ってます! 挿入シーンがあるものは☆つけてます!

無理やりお仕置きされちゃうsubの話(短編集)

みたらし団子
BL
Dom/subユニバース ★が多くなるほどえろ重視の作品になっていきます。 ぼちぼち更新

処理中です...