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第5章
反省と宥恕 6
しおりを挟む運ばれてきたサラダもピザもソーセージ盛り合わせも、どれもあまりにも美味しくて口に入れるたびに毎回感動してしまう。
「これ本っ当に美味しいです…!」
「でしょう!他にもお勧めなものがたくさんあるのに、胃の容量が足りませんね。僕、パスタは食べてないものが多いので次回はパスタをシェアしませんか?」
「ぜひ!パスタも良いですねぇ…このカクテル、テキーラが入ってるんですよね?香りはしっかりあるのに全然キツくないです、こんなに飲みやすくなるんですね」
「そうなんですよ!僕も昔は酒に塩?とか思ったんですけど、テキーラって塩とライムの酸味があると飲みやすさが段違いですよね。いや嬉しいな、黒原さんがマルガリータの美味しさに気付いてくれて」
ピザがしっかりめの味付けだからか、飲みやすいカクテルのせいか、どんどん手が進んでしまう。
「お互いだいぶ減りましたね。次何にします?ロングアイランドアイスティーとか飲みやすいんですけど、飲んだことありますか?」
「あ、飲んだことないかも…なんか聞いたことはあるんですけど、どんなカクテルなんですか?アイスティーっていうぐらいだから、紅茶で割ってあるとか?」
「いえ、紅茶が使われてないのにアイスティーの風味がするんですよ。面白いですよ、頼んでみましょうか」
「え、どういうことですか?カルーアミルクの紅茶バージョンってことですか?」
「飲んでみてのお楽しみです!僕は…そうだな、さっぱり系の…アメリカンレモネードにしようかな」
オーダーの際にも、吉川さんの口からスラスラっとカタカナのカクテル名が出てくるのに思わず感心する。
俺は…ちょっとの日本酒と、ビールと、市販の酒しか分からない…
なんていうかこの人、こういう店似合うな。今まで特に意識したことなかったけど、完全に雰囲気に馴染んでいる。
俺がいくらおしゃれなグラスに入ったおしゃれなカクテルを飲んでおしゃれな料理を食べようが、全く様になる気がしない。姿勢か?髪型か?安いスーツだからなのか?
「黒原さんそういえば、今日は何時まで大丈夫なんですか?あまり遅いと彼女さんが心配されますよね」
「え?彼女…ですか?」
「あれ?交際してる方がいるんじゃなかったでしたっけ」
し…しまった!
みどりさんに送ってたメッセージ、お兄様である吉川さんにも筒抜けだったか…
「あ!えっと、すみません。実は今は彼女は…いないんです」
嘘を吐き続ければ良かったのだろうが、とてもそんな器用なことはできそうにない。
「そうなんですか。もしかして、何かあったんですか?」
「いや…うーん…なんて言ったら良いか…」
白石さんとの関係も含め、今までの流れをどう頑張って説明しても、全く上手く伝わる気がしない。
「何かトラブルですかね?」
「トラブル…も、ありましたね…」
うん…あれは完全にトラブルだったな…
けど、これ以上突っ込まれると困るな、上手く答えることができない。何か別の話題にずらせないだろうか…
「そうだったんですか。僕でよければ話聞きますよ」
「ありがとうございます、けど暗くなってしまうと申し訳ないので…」
必死で自然に移行できそうな話題を探していると、丁度よく紅茶のカクテルが来たので、チャンス!とばかりにくいっと口に含む。
「…ん!?これ、ほんとに紅茶入ってないんですか?なんか…よく見かける甘い紅茶飲料の風味がするんですけど…」
「そうなんですよ!後味もさっぱりしてるからすごく飲みやすいですよね。紅茶を使わずに紅茶の風味を出すって、面白くないですか?」
「へぇー、キュウリに蜂蜜垂らすとメロン味になる、みたいな食べ合わせを極めた飲み物なんですかね?これ面白いです!」
「はは!キュウリに蜂蜜!久しぶりに聞きましたそれ。黒原さんは柔軟だなぁ」
吉川さんが先ほどよりも顔を崩して、楽しそうな笑顔になる。
「ええ!?そんな、何も考えず発言してしまってるから…お恥ずかしいです」
「いいな、黒原さん。ずっと一緒にいても全然飽きないんだろうな。こんな気持ちの良い方が近しい人とトラブルを起こすなんて全く想像できませんよ」
ゔっ、元の話題に戻ってしまった…
「いや、先ほども言った通り、常日頃何も考えてないんですよ。本当に。その不甲斐なさで…すごく怒らせてしまったんです。当然だと思いますよ」
「怒らせてしまったんですか。じゃあ、そのまま関係の修復ができないまま…って感じなんですかね」
「…おっしゃる通りです…」
改めて言葉にされるとグサグサ来るな。
この感じだと、付き合ってたけど喧嘩別れした、みたいな解釈をしてくれてるんだろうけど。
嘘をつくのは本当に苦手だ…けど、今のところ幸いにも嘘にはなっていないし、余計なことを言わないでおこう…
とカクテルを飲み進めていると、ぐら…と視界が回る。
やばい、酒回ってきた?さっきのテキーラのカクテルかな…そんなに量は飲んでないんだけどな。
「そしたら、独り身仲間ですね。これからも楽しいことたくさんしましょう」
「楽しいこと…」
ぽん、と腰に手が置かれる。
人に触れられることなんてそうそうないもんだから、久々に人との接触を感じて、身体を触ってくる代名詞みたいな白石さんの顔がぱっと脳裏に浮かんだ。
白石さんの触れ方とやっぱり違うな。手のひらの感じも…強さとかも。あれ?当たり前か、違う人間なんだし…
ん、何考えてるんだ?やばいな…思考力が低下してきている。座ってると酔いって気付きにくいんだよな…調子乗って、空きっ腹に水も飲まずに酒飲んでたら、そりゃ酔うか。
「すみません、ちょっとお手洗いに…」
とりあえず少し歩こうとするが、やばい。頭ぐらぐらする。今ならなんでもかんでも口から出るままに話してしまいそうだ。やばいな、これは仕事だぞ仕事…
「大丈夫です?歩けますか?」
「いえ全然、ご心配なく…」
ふらつきそうになる足腰にぐっと力を入れ、気合でまっすぐ歩い(てるつもり)でトイレに向かう。
なんとか個室に入り、やばいと思いながらもスマホを取り出し下の方に埋もれてしまった白石さんのトーク画面を探し、迷わず通話ボタンを押した。
なんで俺こんな状況で白石さんに電話かけてるんだ。いやけど、今電話しないといけない気がしている。今こんな状況になってることをまずは報告して…いや、その前に謝罪だ…酒の勢いで?うわ、本当に最低だな。
少しの呼び出し音の後で『………はい』と白石さんが電話に出た。
「あの、白石さん…黒原です。ごめんなさい。本当にごめんなさい」
『…黒原さん?どうされました?』
「俺が本当に本当に愚かで…白石さんのこと傷付けた。本当にごめんなさい」
『黒原さん?今どちらです?何されてるんですか?』
「えっと、すみません、とにかく白石さんに謝りたくて…」
『そうじゃありません、喋り方が普通じゃないです。どちらにいらっしゃるんですか。飲まれてますか?』
喋り方?俺、普通に喋れてない?おかしい、自分だと何も気付かない。酒飲んで電話かけてるの、速攻でバレてる。あーもう…最悪、俺…
「…酔った勢いで電話してます…すみません…本当にすみません」
『謝らなくていいです。そんなことで怒ったりしないですから、大丈夫ですよ。今どこにいるのか教えてくださいますか?』
「えと…××駅の北口の…割と近いとこ…英語の名前の…ダイニングバーです…」
『××駅北口ですね。何を飲まれました?思い出せますか?』
「食前酒と…マルガリータと…紅茶の風味の…ええと名前は」
なんか、長い島…みたいな名前だった気がするんだけど…
すぐに思い出せずにいると、個室にノックの音が響いた。
「黒原さん?大丈夫です?倒れてないですか?」
「は、吉川さん!大丈夫です、今行きます、すみません」
『どなたかと一緒ですか?会社の方ですか?それ、飲みすぎてないですか?』
「仕事の付き合いで…飲み過ぎてはないはずなんですけど…早く白石さんに言わなきゃと思って。けどもう、謝罪の言葉しか出てこないです…ごめんなさい。本当にごめんなさい…また、また連絡します」
『ちょっと待って、黒原さ…』
白石さんの声が聞こえた気がするけど、早く席に戻らないと。
あれ、白石さんの電話切って大丈夫だったかな。
でも吉川さんが心配してるし…これは仕事の延長線上だから…
こんなに酔うつもりは全くなかったのに。どうしてこうなった?食前酒?テキーラ?何のせいだ?
うう、だめだ。頭が働かない。とりあえず、戻らないと…頭がぐらぐらする…久しぶりにこんなに酔ってる。やばい…
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