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第4章
進展と後退 7
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白石さんからの誘いをさりげなく断らなければならない、しかし俺の心を読むことができる(過言)白石さんの誘いをさりげなく断るなんてことはほぼ確実に不可能であるため、
それならばそもそも誘われなければ良いんだ!と思い、前回解散した後で少しやりとりしていたメッセージに敢えて返信せず、食事のお誘いが来ないことを神に祈って3日経ち、
そして今日。困った時だけ神頼みの俺の元に神は居ないということがついに判明したのだった。
ー黒原さん、お疲れ様です。次は和・洋・中どれにしましょうか?o(^▽^)o
食事に行くことが前提の鋭いメッセージだ。
月曜日の夕方までの俺なら、大喜びで飛びついていたことだろう。
白石さんが定時を迎えてすぐに送信されたメッセージのようで、いつも通り残業をしていた俺が既読をつけるまでに2時間とちょっと掛かっている。
そしてどう返信しようか考え込んでいる間に更に1時間が経過し、守衛さんに帰りを促された頃、
ー僕はエスニックも好きですv(^_^)v
と追撃メッセージが飛んできた。
和洋中どれにしようか悩んでいるから返事が遅いと思ったのだろうか。
いつもと同じ顔文字も添えられて、思わず少しキュンとし…
てしまいそうになったが、それどころではない。小さく頭を振って浮いた心を現実に戻す。
どうやって断れば良いんだろう…
そもそも青木さんの話を最初から勘違いせずに聞いていたら、白石さんと距離を置くだとか青木さんに協力するだとか訳の分からない展開にならなかったのだろうか。
俺も白石さんのことが気になってるんです!なんて言い返していたらどうなっていただろうか。
どちらにせよ、なんやかんやでこんな状況になってしまっていただろうか…
会社を出ると、辺りはすっかり暗くなっており空にはちらほらと星も浮かび上がっていた。
空気もひんやりと冷え始めていて、会社で抱えていた頭が外気に晒されてすっとクリアになる感覚がした。
よし、サクッと話題を変えよう!!
ーエスニックといえば、日本のインドカレー屋の従業員は殆どインド人じゃないらしいですよ。
サクサクと文章を打ち、ポコンと送信。
我ながら最高の返信だと思う。
YESともNOとも言わず、さらっと小ネタで本題から遠ざける。
白石さんにとっても、断られたわけではないのになんとなく続けては誘い辛い流れになったことだろう。
これで良い。へーそうなんですか!とか、僕もそういう面白い話知ってますとか、そういった返事が返ってくるはずだ。
しかし白石さんの方が何枚も上手である。そんな期待を綺麗に裏切り、
ーネパール人経営のインド料理店、良いですね。オススメのお店はありますか?特になければ、美味しそうなところを一緒に開拓しましょうo(^o^)o
と、やはり食事に行くことが前提の鋭い返信を送ってきたのだった。
やはり俺には白石さんからの誘いをさりげなく断るなんてことは出来そうにない。
そうともなれば俺にできることはただ一つ!
ーすみません、実はインド料理店は詳しくないので、やっぱり今回は辞めておきます。また次回でも良いですか?
さっぱりと爽やかに断るのみ!!
しかし勢いで送信ボタンを押した直後、はっと気が付いた。
今回も何も、日付も決まってないのに「今回は辞めておきます」なんてちょっとおかしくないか?
しかもオススメが無ければ一緒に開拓しようと言われているのに「インド料理店は詳しくないので」と言って断るのは更におかしくないか?
というかそもそもなんで俺は素直に青木さんの言うことを聞いているんだ?
一度か二度会っただけの男の言うことを素直に聞く必要が果たしてあるのだろうか?
関係の浅い青木という男のために、せっかく出来た友人(?)を手放しても良いものなのだろうか??
あるいは心のどこかで、青木さんと白石さんは上手くいくはずがないから、という余裕を感じている部分があるのではないだろうかーー…
「ッ!!?」
送信したメッセージを見ながら考え込んでいると、白石さんからの着信でパッと画面が変わり、スマホをうっかり落としそうになる。
やばい、通話?着信!?
全く良い予感がしない。どうしよう。通話ボタンを押したくない!!!
しかしここで取らない方がよっぽど不自然だ!!そもそも悪い話だと決まっているわけではないし!?!?
頭がマッハで思考を始めるが、ゆっくり考えている時間もないので震える指で画面をタップし、とりあえず深呼吸しながらゆっくり耳に当てる。
「…はい、黒原で『今どこですか?』
白石さんの冷たい声色が俺の声に被るように電話口から聞こえてきて、つんと冷えた空気の温度が更に下がった気がした。いや、気がしたじゃない。下がった。
「あ、いやえっと…」
『今どこですか?と聞いているんですけど』
頭皮がざわざわと凍りつくような、嫌な感覚がする。
全身がやばいと叫んで、冷や汗を滲ませている。
ダメだ黒原三芳、これはもうダメだ。
逃げられない。詰んでいる。
今いる場所を伝えたら、間違いなく白石さんは会いにくるよな?
これは嘘をついて家にいるとか言った方が良いのか…
しかしもし家にいないことがバレたら…
というよりも、なぜか白石さんには俺が今どこにいるのかお見通しのような気がして…
どう答えたら一番被害が少なくなるかを考え込む時間も与えられず、
『黒原さん』
と冷たく催促の言葉が降りかかって来て、俺の脳は本能で思考を停止、勝手に口が現在地を白石さんに伝え始める…
「か…会社のすぐ近くの…コンビニ前です…」
『そのままそこに居て下さいね』
「は…い…」
返事をし終わる前に、ブツッと冷たく通話が切れる。
やばい。これは、怒っている。相当やばい状況だよな。
やはり返信内容がおかしかったか。
もっとしっかり考えて、遠回しに断るべきだったか。
というか、なんで食事を断っただけでこんな状況に?
いや確か前回、次は俺が奢ると言っていたのにその約束を守らなかったからだろうか。
いや、白石さんはそんな小さい男じゃないし、やはり返信の内容が悪かったよな。
そもそも断る理由もないのに、訳の分からない理由で断られたらそりゃムッとしてもおかしくない。
いやけど、だったらどうすれば良かったんだ!?
時間が巻き戻らないだろうか?どうすればメッセージ送信前の時間に戻れるだろうか!?
凍えるほど寒くはないはずなのに指先がキンキンに冷え切り、カタカタと震えてすらいる手を少しでも落ち着けるために、ぐっと拳を硬く握る。
これから白石さんが来るんだよな?
まあまさかとは思うけど一晩そこに立っとれ!みたいなトーンじゃ無かったよな?
どんな顔して会えば良いんだ?何を言えば?そして何を話す??
ああ…青木さんめ。待ち伏せなんてされていなければこんなことにはならなかったのに…
いや、青木さんのせいにするのは間違っている。俺がしっかりと青木さんと話さなかったのがいけないんだ…
けど話すって一体何を…
グルグルと脳が必死で考えを巡らせてどのぐらい経ったかは全く分からないが、いつしか車通りが少ないこの通りにエンジン音が近付いてきて、すぐ近くに止まった。
車の方向を見ると、先日乗ったような気がする見覚えがある車種…
現実を受け入れたく無かったのだが、少し空いた車の窓から、
「乗ってください、黒原さん」
と、静かなのに全く穏やかではない白石さんの声が聞こえて来て、ああー…これは現実だ…とオーバーヒートと過冷却を起こした頭の中は真っ白になった。
「く、車で来られたんですね…」
なんて場違いな返事をしてしまうくらいには、脳とノミの心臓が限界を迎えていた。
それならばそもそも誘われなければ良いんだ!と思い、前回解散した後で少しやりとりしていたメッセージに敢えて返信せず、食事のお誘いが来ないことを神に祈って3日経ち、
そして今日。困った時だけ神頼みの俺の元に神は居ないということがついに判明したのだった。
ー黒原さん、お疲れ様です。次は和・洋・中どれにしましょうか?o(^▽^)o
食事に行くことが前提の鋭いメッセージだ。
月曜日の夕方までの俺なら、大喜びで飛びついていたことだろう。
白石さんが定時を迎えてすぐに送信されたメッセージのようで、いつも通り残業をしていた俺が既読をつけるまでに2時間とちょっと掛かっている。
そしてどう返信しようか考え込んでいる間に更に1時間が経過し、守衛さんに帰りを促された頃、
ー僕はエスニックも好きですv(^_^)v
と追撃メッセージが飛んできた。
和洋中どれにしようか悩んでいるから返事が遅いと思ったのだろうか。
いつもと同じ顔文字も添えられて、思わず少しキュンとし…
てしまいそうになったが、それどころではない。小さく頭を振って浮いた心を現実に戻す。
どうやって断れば良いんだろう…
そもそも青木さんの話を最初から勘違いせずに聞いていたら、白石さんと距離を置くだとか青木さんに協力するだとか訳の分からない展開にならなかったのだろうか。
俺も白石さんのことが気になってるんです!なんて言い返していたらどうなっていただろうか。
どちらにせよ、なんやかんやでこんな状況になってしまっていただろうか…
会社を出ると、辺りはすっかり暗くなっており空にはちらほらと星も浮かび上がっていた。
空気もひんやりと冷え始めていて、会社で抱えていた頭が外気に晒されてすっとクリアになる感覚がした。
よし、サクッと話題を変えよう!!
ーエスニックといえば、日本のインドカレー屋の従業員は殆どインド人じゃないらしいですよ。
サクサクと文章を打ち、ポコンと送信。
我ながら最高の返信だと思う。
YESともNOとも言わず、さらっと小ネタで本題から遠ざける。
白石さんにとっても、断られたわけではないのになんとなく続けては誘い辛い流れになったことだろう。
これで良い。へーそうなんですか!とか、僕もそういう面白い話知ってますとか、そういった返事が返ってくるはずだ。
しかし白石さんの方が何枚も上手である。そんな期待を綺麗に裏切り、
ーネパール人経営のインド料理店、良いですね。オススメのお店はありますか?特になければ、美味しそうなところを一緒に開拓しましょうo(^o^)o
と、やはり食事に行くことが前提の鋭い返信を送ってきたのだった。
やはり俺には白石さんからの誘いをさりげなく断るなんてことは出来そうにない。
そうともなれば俺にできることはただ一つ!
ーすみません、実はインド料理店は詳しくないので、やっぱり今回は辞めておきます。また次回でも良いですか?
さっぱりと爽やかに断るのみ!!
しかし勢いで送信ボタンを押した直後、はっと気が付いた。
今回も何も、日付も決まってないのに「今回は辞めておきます」なんてちょっとおかしくないか?
しかもオススメが無ければ一緒に開拓しようと言われているのに「インド料理店は詳しくないので」と言って断るのは更におかしくないか?
というかそもそもなんで俺は素直に青木さんの言うことを聞いているんだ?
一度か二度会っただけの男の言うことを素直に聞く必要が果たしてあるのだろうか?
関係の浅い青木という男のために、せっかく出来た友人(?)を手放しても良いものなのだろうか??
あるいは心のどこかで、青木さんと白石さんは上手くいくはずがないから、という余裕を感じている部分があるのではないだろうかーー…
「ッ!!?」
送信したメッセージを見ながら考え込んでいると、白石さんからの着信でパッと画面が変わり、スマホをうっかり落としそうになる。
やばい、通話?着信!?
全く良い予感がしない。どうしよう。通話ボタンを押したくない!!!
しかしここで取らない方がよっぽど不自然だ!!そもそも悪い話だと決まっているわけではないし!?!?
頭がマッハで思考を始めるが、ゆっくり考えている時間もないので震える指で画面をタップし、とりあえず深呼吸しながらゆっくり耳に当てる。
「…はい、黒原で『今どこですか?』
白石さんの冷たい声色が俺の声に被るように電話口から聞こえてきて、つんと冷えた空気の温度が更に下がった気がした。いや、気がしたじゃない。下がった。
「あ、いやえっと…」
『今どこですか?と聞いているんですけど』
頭皮がざわざわと凍りつくような、嫌な感覚がする。
全身がやばいと叫んで、冷や汗を滲ませている。
ダメだ黒原三芳、これはもうダメだ。
逃げられない。詰んでいる。
今いる場所を伝えたら、間違いなく白石さんは会いにくるよな?
これは嘘をついて家にいるとか言った方が良いのか…
しかしもし家にいないことがバレたら…
というよりも、なぜか白石さんには俺が今どこにいるのかお見通しのような気がして…
どう答えたら一番被害が少なくなるかを考え込む時間も与えられず、
『黒原さん』
と冷たく催促の言葉が降りかかって来て、俺の脳は本能で思考を停止、勝手に口が現在地を白石さんに伝え始める…
「か…会社のすぐ近くの…コンビニ前です…」
『そのままそこに居て下さいね』
「は…い…」
返事をし終わる前に、ブツッと冷たく通話が切れる。
やばい。これは、怒っている。相当やばい状況だよな。
やはり返信内容がおかしかったか。
もっとしっかり考えて、遠回しに断るべきだったか。
というか、なんで食事を断っただけでこんな状況に?
いや確か前回、次は俺が奢ると言っていたのにその約束を守らなかったからだろうか。
いや、白石さんはそんな小さい男じゃないし、やはり返信の内容が悪かったよな。
そもそも断る理由もないのに、訳の分からない理由で断られたらそりゃムッとしてもおかしくない。
いやけど、だったらどうすれば良かったんだ!?
時間が巻き戻らないだろうか?どうすればメッセージ送信前の時間に戻れるだろうか!?
凍えるほど寒くはないはずなのに指先がキンキンに冷え切り、カタカタと震えてすらいる手を少しでも落ち着けるために、ぐっと拳を硬く握る。
これから白石さんが来るんだよな?
まあまさかとは思うけど一晩そこに立っとれ!みたいなトーンじゃ無かったよな?
どんな顔して会えば良いんだ?何を言えば?そして何を話す??
ああ…青木さんめ。待ち伏せなんてされていなければこんなことにはならなかったのに…
いや、青木さんのせいにするのは間違っている。俺がしっかりと青木さんと話さなかったのがいけないんだ…
けど話すって一体何を…
グルグルと脳が必死で考えを巡らせてどのぐらい経ったかは全く分からないが、いつしか車通りが少ないこの通りにエンジン音が近付いてきて、すぐ近くに止まった。
車の方向を見ると、先日乗ったような気がする見覚えがある車種…
現実を受け入れたく無かったのだが、少し空いた車の窓から、
「乗ってください、黒原さん」
と、静かなのに全く穏やかではない白石さんの声が聞こえて来て、ああー…これは現実だ…とオーバーヒートと過冷却を起こした頭の中は真っ白になった。
「く、車で来られたんですね…」
なんて場違いな返事をしてしまうくらいには、脳とノミの心臓が限界を迎えていた。
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