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第4章
進展と後退 5
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な、なんで…
「黒原さん、掛け布団ちゃんと掛けられてますか?」
ど、どうして…
「すみません、もう1組掛け布団のセット用意しておくべきでしたね」
何がどうなって…
「寒かったり暑かったりしたら遠慮なく言ってくださいね」
白石さんとベッドに並んで2人で寝ることになってるんだよ!!!
いや、めちゃくちゃデカいベッドだから!良いんだろうけど!いや、何が良いんだ!?何も良くないよな!?
また白石さんお得意の謎の話術に流され、気付いたら一緒のベッドに並んで一夜を過ごそうというとんでもない事態になっている。
白石さんがベッドを軋ませるたびに何が起きるのかとビクビクしているわけだが、白石さん本人はというと楽しそうにしているだけで全く怪しいそぶりを見せてこない。
いや、それで良いんだけど!なんで俺が期待してるみたいになってるんだよ!!
「僕、寝る時誰かが隣にいるなんて久しぶりです」
「そ、そうなんですか?」
「何だか安心しますよね」
「そ、そうですね…」
「あ、思ってないですね黒原さん」
「なっ!!いやだって!このベッドって…」
初めてこの部屋に来た時、とんでもないことになってたところじゃないですか!!
なんてことは言えず、口をつぐんでいると白石さんが「ああ!」と笑って
「お気付きでしたか?ワイドキングなんですよ!なので2人で寝てもかなり余るんです!」
と得意げな顔を向けてきた。
「へえ、ワイドキングなんてサイズがあるんですね…」
「ええ、なかなか見ないんですよ。黒原さんはこの距離感が少し寂しいんですよね?」
「初めて知りまし…って違いますよ!寂しいわけがありますか!!」
「あはは、照れちゃって。ただ黒原さんは色々思い出して恥ずかしいだけなんですよね」
「だぁっ!!」
わ、分かっててとぼけたんだな…!
「ふふ、あの時の黒原さん可愛かったなぁ…」
「か、可愛かったって、あのねぇ!」
「あ、失礼しました、今も可愛いですもんね」
「あの!です!ねぇ!!人をからかうのも大概にしてくださいよ!どんだけサディストで…」
そう言いかけたところで頬をサラッと撫でられ、思わずビクッと体が強張る。優しげに微笑む白石さんと目が合った。
「からかってないですよ、本当にそう思ってるんです。僕のこと信じてくれてるのが分かって、嬉しかったんですよ」
「…そ、そうですか」
枕に頭を乗せた白石さんを見て、改めて同じベッドに寝ている実感が湧いたのと、あの時のことを思い出されじんわりと掘り返されている恥ずかしさで顔が熱くなってきて、もう赤い顔は見せるものかとぱっと反対側を向く。
「僕、黒原さんといる時間はいつだって大切で…きっと一生忘れないと思いますよ」
顔を背けているので白石さんがどんな顔をしているかは分からないが、穏やかなのにどこか寂しそうな声で言った。
「そ、それって…なんかどこか遠いところでも行ってしまうんですか?」
「えっ?なぜですか?」
「なんか、そういうこと言うじゃないですか、戦場に行く前の戦士みたいな…」
「あれ、僕死亡フラグ立ってました?あはは」
白石さんの口から死亡フラグという言葉が出るとは思っていなかった…この人も一応、普通の20代男子なんだな。
「どこにも行きませんよ、黒原さんが望むならね」
「またそういうこと言うんだから…」
「え、変なこと言いました?」
「変というか!」
甘ったるい雰囲気になりそうなことをサラッと言うもんじゃないよ!!
と言おうと思ったが、白石さんにとってはどうせ別段甘いことを言うつもりもなく自然と口から出た言葉なのだろうから、いちいちまともに反応していたらこちらの身がもたない。
グッと続けて言おうとしていた言葉を飲み込んで小さくため息をつくと、
「…じゃあどこにも行かないでくださいよ」
と、白石さんの甘ったるい発言にノッてみることにした。
「あら、いやに殊勝ですね」
「そういうこと言います!?」
「ふふ、意外だったので…では黒原さんの言う通り、どこにも行かないようにしますね」
「くぅ…!もう寝ますよ!!」
「あはは、照れてます?寝るならおやすみのキス、要りますか?」
背中からチュッと唇を鳴らす音が聞こえる。
こ、この男ぉぉ~!!
このまま白石さんのペースに流されたまま反応を見られ遊ばれ続けるのは到底納得のいくことではない!
感情の勢いに任せてがばっと体を起こし、暗がりの中で少し驚いた顔の白石さんの顔をロックオンし、額を目掛けて勢いよく顔を落としチュッ!と口付けをすると…
そのままボスッと反対を向いて、倒れるように布団に横たわった。
「はい!どうぞ!おやすみなさい!!」
「えーー…」
白石さんに一泡ふかせてやろうという気持ちからデコチューをしでかしたわけだが、さすがに引かれたか?と思っていると、
「…ちょっとー!黒原さん!あはは!!なんですかそれ!僕がするところだったでしょ今!!あはははは!!」
と、今まで聞いたことのない明るく楽しそうで、少し幼い白石さんの笑い声が広い寝室に響いた。
「そ、そんなに笑います!?」
「いきなりだったから!!あははは!けど嬉しー!良く眠れそう、ありがとう黒原さん!!あはは!」
「わ、笑ってないで!寝ますよ!おやすみなさい!」
「あはは、おやすみなさい!ふふっふっ…クッ…ククッ…だめだもう、笑っちゃう…ふっふっ…」
しばらく堪えるような小さな笑いが背中から聞こえてきたが、あまりにも小っ恥ずかしすぎるのでさっさと寝たふりをする以外の選択肢がない。
おやすみのキスなんて今まで付き合った女性陣(と言っても数名)にもしたことないんだぞ!
どうせこんなに恥ずかしいなら、大笑いする白石さんの顔を見てやれば良かった。少し損した気持ちだ。
そういえば白石さんは出会って最初の頃に、社会人になってからは恋人ができたことがないと言っていたが、学生の頃はどんな相手と付き合っていたんだろうか。
この家に上がったのは俺だけというなら、社会人になってから引っ越してきたということになるのか?それとも付き合っている間も家に一度もあげたことない?そんなことはないか。
そもそも家に上がったのが俺だけというのも本当かどうかは分からないし。いやだからといってどうするでもないんだけど。
広い家に1人が寂しいと言うなら、彼女でもなんでも作れば良かったのに。白石さんならサクッと彼女ぐらいいつでも作れるだろうし。
まあきっと話さないだけで何か理由があるんだろうな。別にこっちからも聞く必要はないし、そもそも聞く理由も持ち合わせていないのだろうけど…
『僕から本心とやらを聞き出してどうするんですか?』
白石さんに投げかけられた言葉をふと思い出す。
本当に俺はどうするつもりだったんだろう。
あの時…白石さんがこの間みたいな表情で思ってもいないようなことを言ったのが分かったから、ただ変に建前というか…嘘をつかせたくなかった。
白石さんはいつも俺のために話を聞いてくれて気持ちを整理してくれて、俺が前に進めるように背中を押してくれている。
そりゃあトンデモないこともあったけど!!そのおかげで実際に前向きな気持ちになったり過去のトラウマから少しずつ抜け出しつつあるし…
白石さんに対して、トンデモないことはあったけど、とにかく感謝の念に堪えない。
だから、白石さんにあえて自分を偽った発言をさせたくない…と思ったんだ。
俺は女性と付き合いたいと思っているのは間違いないはずなのに、白石さんと出会ってから何かおかしい。
女性と付き合いたいなら、白石さんが何を言おうとみどりさんと関係を深めていけばよかったんだ。
それなのにみどりさんより白石さんの顔の方が頭に浮かぶもんだから、嘘までついてみどりさんとのやりとりをあっけなく終わらせた…
けど、俺が白石さんを好き?いや、全く分からない。
そして何より女性と付き合うビジョンすら曖昧なのに、同性である白石さんと付き合うビジョンは余計に思い浮かばない。
俺はどうしたいんだろう。
白石さんに俺のことを好きかどうか聞いて、どうするつもりだったんだろう。
好きだと言われていたら、なんて返事をするつもりだったんだろう…
けど、今のこの関係は(正直理解不能だが)そんなに嫌じゃない、むしろ少し気に入り出している自分がいる。
自分の気持ちとやらを今一度よく考える必要がありそうだ。
「黒原さん、掛け布団ちゃんと掛けられてますか?」
ど、どうして…
「すみません、もう1組掛け布団のセット用意しておくべきでしたね」
何がどうなって…
「寒かったり暑かったりしたら遠慮なく言ってくださいね」
白石さんとベッドに並んで2人で寝ることになってるんだよ!!!
いや、めちゃくちゃデカいベッドだから!良いんだろうけど!いや、何が良いんだ!?何も良くないよな!?
また白石さんお得意の謎の話術に流され、気付いたら一緒のベッドに並んで一夜を過ごそうというとんでもない事態になっている。
白石さんがベッドを軋ませるたびに何が起きるのかとビクビクしているわけだが、白石さん本人はというと楽しそうにしているだけで全く怪しいそぶりを見せてこない。
いや、それで良いんだけど!なんで俺が期待してるみたいになってるんだよ!!
「僕、寝る時誰かが隣にいるなんて久しぶりです」
「そ、そうなんですか?」
「何だか安心しますよね」
「そ、そうですね…」
「あ、思ってないですね黒原さん」
「なっ!!いやだって!このベッドって…」
初めてこの部屋に来た時、とんでもないことになってたところじゃないですか!!
なんてことは言えず、口をつぐんでいると白石さんが「ああ!」と笑って
「お気付きでしたか?ワイドキングなんですよ!なので2人で寝てもかなり余るんです!」
と得意げな顔を向けてきた。
「へえ、ワイドキングなんてサイズがあるんですね…」
「ええ、なかなか見ないんですよ。黒原さんはこの距離感が少し寂しいんですよね?」
「初めて知りまし…って違いますよ!寂しいわけがありますか!!」
「あはは、照れちゃって。ただ黒原さんは色々思い出して恥ずかしいだけなんですよね」
「だぁっ!!」
わ、分かっててとぼけたんだな…!
「ふふ、あの時の黒原さん可愛かったなぁ…」
「か、可愛かったって、あのねぇ!」
「あ、失礼しました、今も可愛いですもんね」
「あの!です!ねぇ!!人をからかうのも大概にしてくださいよ!どんだけサディストで…」
そう言いかけたところで頬をサラッと撫でられ、思わずビクッと体が強張る。優しげに微笑む白石さんと目が合った。
「からかってないですよ、本当にそう思ってるんです。僕のこと信じてくれてるのが分かって、嬉しかったんですよ」
「…そ、そうですか」
枕に頭を乗せた白石さんを見て、改めて同じベッドに寝ている実感が湧いたのと、あの時のことを思い出されじんわりと掘り返されている恥ずかしさで顔が熱くなってきて、もう赤い顔は見せるものかとぱっと反対側を向く。
「僕、黒原さんといる時間はいつだって大切で…きっと一生忘れないと思いますよ」
顔を背けているので白石さんがどんな顔をしているかは分からないが、穏やかなのにどこか寂しそうな声で言った。
「そ、それって…なんかどこか遠いところでも行ってしまうんですか?」
「えっ?なぜですか?」
「なんか、そういうこと言うじゃないですか、戦場に行く前の戦士みたいな…」
「あれ、僕死亡フラグ立ってました?あはは」
白石さんの口から死亡フラグという言葉が出るとは思っていなかった…この人も一応、普通の20代男子なんだな。
「どこにも行きませんよ、黒原さんが望むならね」
「またそういうこと言うんだから…」
「え、変なこと言いました?」
「変というか!」
甘ったるい雰囲気になりそうなことをサラッと言うもんじゃないよ!!
と言おうと思ったが、白石さんにとってはどうせ別段甘いことを言うつもりもなく自然と口から出た言葉なのだろうから、いちいちまともに反応していたらこちらの身がもたない。
グッと続けて言おうとしていた言葉を飲み込んで小さくため息をつくと、
「…じゃあどこにも行かないでくださいよ」
と、白石さんの甘ったるい発言にノッてみることにした。
「あら、いやに殊勝ですね」
「そういうこと言います!?」
「ふふ、意外だったので…では黒原さんの言う通り、どこにも行かないようにしますね」
「くぅ…!もう寝ますよ!!」
「あはは、照れてます?寝るならおやすみのキス、要りますか?」
背中からチュッと唇を鳴らす音が聞こえる。
こ、この男ぉぉ~!!
このまま白石さんのペースに流されたまま反応を見られ遊ばれ続けるのは到底納得のいくことではない!
感情の勢いに任せてがばっと体を起こし、暗がりの中で少し驚いた顔の白石さんの顔をロックオンし、額を目掛けて勢いよく顔を落としチュッ!と口付けをすると…
そのままボスッと反対を向いて、倒れるように布団に横たわった。
「はい!どうぞ!おやすみなさい!!」
「えーー…」
白石さんに一泡ふかせてやろうという気持ちからデコチューをしでかしたわけだが、さすがに引かれたか?と思っていると、
「…ちょっとー!黒原さん!あはは!!なんですかそれ!僕がするところだったでしょ今!!あはははは!!」
と、今まで聞いたことのない明るく楽しそうで、少し幼い白石さんの笑い声が広い寝室に響いた。
「そ、そんなに笑います!?」
「いきなりだったから!!あははは!けど嬉しー!良く眠れそう、ありがとう黒原さん!!あはは!」
「わ、笑ってないで!寝ますよ!おやすみなさい!」
「あはは、おやすみなさい!ふふっふっ…クッ…ククッ…だめだもう、笑っちゃう…ふっふっ…」
しばらく堪えるような小さな笑いが背中から聞こえてきたが、あまりにも小っ恥ずかしすぎるのでさっさと寝たふりをする以外の選択肢がない。
おやすみのキスなんて今まで付き合った女性陣(と言っても数名)にもしたことないんだぞ!
どうせこんなに恥ずかしいなら、大笑いする白石さんの顔を見てやれば良かった。少し損した気持ちだ。
そういえば白石さんは出会って最初の頃に、社会人になってからは恋人ができたことがないと言っていたが、学生の頃はどんな相手と付き合っていたんだろうか。
この家に上がったのは俺だけというなら、社会人になってから引っ越してきたということになるのか?それとも付き合っている間も家に一度もあげたことない?そんなことはないか。
そもそも家に上がったのが俺だけというのも本当かどうかは分からないし。いやだからといってどうするでもないんだけど。
広い家に1人が寂しいと言うなら、彼女でもなんでも作れば良かったのに。白石さんならサクッと彼女ぐらいいつでも作れるだろうし。
まあきっと話さないだけで何か理由があるんだろうな。別にこっちからも聞く必要はないし、そもそも聞く理由も持ち合わせていないのだろうけど…
『僕から本心とやらを聞き出してどうするんですか?』
白石さんに投げかけられた言葉をふと思い出す。
本当に俺はどうするつもりだったんだろう。
あの時…白石さんがこの間みたいな表情で思ってもいないようなことを言ったのが分かったから、ただ変に建前というか…嘘をつかせたくなかった。
白石さんはいつも俺のために話を聞いてくれて気持ちを整理してくれて、俺が前に進めるように背中を押してくれている。
そりゃあトンデモないこともあったけど!!そのおかげで実際に前向きな気持ちになったり過去のトラウマから少しずつ抜け出しつつあるし…
白石さんに対して、トンデモないことはあったけど、とにかく感謝の念に堪えない。
だから、白石さんにあえて自分を偽った発言をさせたくない…と思ったんだ。
俺は女性と付き合いたいと思っているのは間違いないはずなのに、白石さんと出会ってから何かおかしい。
女性と付き合いたいなら、白石さんが何を言おうとみどりさんと関係を深めていけばよかったんだ。
それなのにみどりさんより白石さんの顔の方が頭に浮かぶもんだから、嘘までついてみどりさんとのやりとりをあっけなく終わらせた…
けど、俺が白石さんを好き?いや、全く分からない。
そして何より女性と付き合うビジョンすら曖昧なのに、同性である白石さんと付き合うビジョンは余計に思い浮かばない。
俺はどうしたいんだろう。
白石さんに俺のことを好きかどうか聞いて、どうするつもりだったんだろう。
好きだと言われていたら、なんて返事をするつもりだったんだろう…
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