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第4章
進展と後退 3
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ティラミスを食べ終えトイレに行っていると、その間に白石さんがスマートに支払いを済ませていたらしく、席に戻るなり「行きましょうか」と俺の荷物をまとめて差し出し、スマートに退店。
値段を聞くと、
「僕が黒原さんと食べたかったので」
「うーん、値段忘れちゃいましたよ」
「じゃあ次は黒原さんに奢ってもらおうかな」
「今度は何食べましょうか?今から楽しみですね」
といたずらっぽく笑う白石さんに、同じ男の俺でも思わずときめくのにこれで落ちない女はきっといないだろう。
白石さんの口からさらっと出た「好きな人」発言にはかなり動揺させられたが、トイレに行っている間に少しだけ気持ちの整理ができた。
好きには色々な種類があるにしても、先日の件も踏まえて白石さんの言う「好き」とはおそらくLOVEの意味で、白石さんの好きな人とは俺で間違いなさそうだ。
かと言って本人特に気にする様子もないので別に告白でも何でもなく、ただ口から出ただけと言う感じなので、
あの場で、好きな人って俺ですか~?ナハハ!とかすっとぼけた顔して返事をしていたらどうなっていただろうかとか色々考えたりしたが、
変にこじれたり逆に話が進んでしまったりする可能性の方が高そうだし混乱していたとは言えあのように流して結果的には正解だったとさえ思う。
とりあえず白石さんに好意を持たれていることは確定で分かった訳だが(なぜとかどこがとかは考えても分からないことなので考えないこととしても)正直俺自身がどうしたいのかどうすれば良いのか分からないので、どうすることもできない。
白石さんに好きな人と言われて嬉しくなかったわけではないが、そもそも俺は…
「近頃はもうこの時間になると少し肌寒いですね」
考え込んでいると、空を見上げながら白石さんが呟くように言った。
「確かに。夏ももう終わりですね」
少し前まで日の入りはかなり遅かったはずなのに、辺りが暗くなるのもどんどん早まってきている。
「涼しいだけなら良いけど、寒くなってくるとまた話は変わってきますよね」
「同感です…」
「これからどんどん日が落ちるのも早くなるんでしょうね」
「そうですね、なんとなく物悲しいですよね」
「こうやって帰る時に冷えてるとつい温かい飲み物買ってしまいません?」
「あー、それすごく分かります!」
「僕、肌寒い時に飲むホットレモンとか好きなんですよね」
「良いですね、飲みたくなってきましたよ」
「じゃあ僕の家寄って行きましょうか」
「良いですね…って、え?」
え?
「ここからだと駅より僕の家の方が近いんですよね」
サラッと会話を続ける白石さん。
「え?ああ、そうですよね…?」
うん、確かに駅より白石さんの家の方が近いけど。
うん?だから寄って行くのか?けどなぜ?あ、ホットレモン飲むためか。よく分からなくなってきた。
混乱したままでも話は続いており、また訳の分からないまま白石さんの家の方向に勝手に進んでいる。
「黒原さんのご自宅は確か5駅先ですよね」
「あ、はい、よく覚えてましたね」
「快速だと1駅だって仰っていたので」
「そうそう、近いんだか遠いんだかって感じですよね」
「そうしたら通勤時間は30分くらいですか?」
「そうですね、大体そのぐらいかも」
「なるほど、けど僕の家からだと通勤時間10分かかりませんね」
「はは!確かに!」
「僕の家から通勤すれば良いんじゃないですか?」
「いいですね…って、え?エ!?」
エ!?
いやこれは普通にエ!?だよな!?
「これは引っ越しですね」
白石さんがニヤリと悪そうな顔で続ける。
「いやいやいや何言ってるんですか!」
慌てて手をブンブン振ると、その様子を見てあははっと軽く笑う。
「冗談ですよ、けど通勤楽になるのは事実だしたまに泊まりに来れば良いじゃないですか?」
「まあ、たしかに…」
いや確かにそうだけど、それで泊まりに来るのはアリなのか?
泊まってはいけない理由…はないわけだからアリなのか。
まだアルコールが残っているのもあり、ポンポン進む会話に一々考え込む時間が与えられないのもあり、頭が回らずよく分からないまま白石さんのペースに飲まれていく。
「広さだけは十分なので、いつでも歓迎ですよ」
「前々から思ってましたけど、白石さんの冗談って分かりにくいですよね…」
「そうですか?じゃあ分かりやすい冗談を言ってみてくださいよ」
「え!?分かりやすい冗談?えーと…」
分かりやすい冗談って何だ?
というかそもそも冗談って何だっけ!?
「…布団が吹っ飛んだとか?」
「それはダジャレじゃないですか?」
「あ、そうか…っていうか難しい注文しないでくださいよ!」
「ふっ、あはは!真剣な顔して布団が吹っ飛んだって!」
白石さんが子供のように声を上げて笑う。この人でもこんな風に顔をクシャッとさせて笑ったりするんだな…いつもは笑っても割と乾いた感じがしていたりそもそもクールな印象が強いから、こうして素の顔を見れると何だか少し嬉しくなる。
そうこうしているうちに白石さんのマンションに到着して、そもそもなんでここに来ることになったんだっけ?ああ、ホットレモン飲むためか…いやだからってなんで家に上がるんだっけ?けど別に上がっちゃいけない理由もないのか…と頭の中で自問自答を繰り返し、結局よく分からないまま家に上がることになった。
値段を聞くと、
「僕が黒原さんと食べたかったので」
「うーん、値段忘れちゃいましたよ」
「じゃあ次は黒原さんに奢ってもらおうかな」
「今度は何食べましょうか?今から楽しみですね」
といたずらっぽく笑う白石さんに、同じ男の俺でも思わずときめくのにこれで落ちない女はきっといないだろう。
白石さんの口からさらっと出た「好きな人」発言にはかなり動揺させられたが、トイレに行っている間に少しだけ気持ちの整理ができた。
好きには色々な種類があるにしても、先日の件も踏まえて白石さんの言う「好き」とはおそらくLOVEの意味で、白石さんの好きな人とは俺で間違いなさそうだ。
かと言って本人特に気にする様子もないので別に告白でも何でもなく、ただ口から出ただけと言う感じなので、
あの場で、好きな人って俺ですか~?ナハハ!とかすっとぼけた顔して返事をしていたらどうなっていただろうかとか色々考えたりしたが、
変にこじれたり逆に話が進んでしまったりする可能性の方が高そうだし混乱していたとは言えあのように流して結果的には正解だったとさえ思う。
とりあえず白石さんに好意を持たれていることは確定で分かった訳だが(なぜとかどこがとかは考えても分からないことなので考えないこととしても)正直俺自身がどうしたいのかどうすれば良いのか分からないので、どうすることもできない。
白石さんに好きな人と言われて嬉しくなかったわけではないが、そもそも俺は…
「近頃はもうこの時間になると少し肌寒いですね」
考え込んでいると、空を見上げながら白石さんが呟くように言った。
「確かに。夏ももう終わりですね」
少し前まで日の入りはかなり遅かったはずなのに、辺りが暗くなるのもどんどん早まってきている。
「涼しいだけなら良いけど、寒くなってくるとまた話は変わってきますよね」
「同感です…」
「これからどんどん日が落ちるのも早くなるんでしょうね」
「そうですね、なんとなく物悲しいですよね」
「こうやって帰る時に冷えてるとつい温かい飲み物買ってしまいません?」
「あー、それすごく分かります!」
「僕、肌寒い時に飲むホットレモンとか好きなんですよね」
「良いですね、飲みたくなってきましたよ」
「じゃあ僕の家寄って行きましょうか」
「良いですね…って、え?」
え?
「ここからだと駅より僕の家の方が近いんですよね」
サラッと会話を続ける白石さん。
「え?ああ、そうですよね…?」
うん、確かに駅より白石さんの家の方が近いけど。
うん?だから寄って行くのか?けどなぜ?あ、ホットレモン飲むためか。よく分からなくなってきた。
混乱したままでも話は続いており、また訳の分からないまま白石さんの家の方向に勝手に進んでいる。
「黒原さんのご自宅は確か5駅先ですよね」
「あ、はい、よく覚えてましたね」
「快速だと1駅だって仰っていたので」
「そうそう、近いんだか遠いんだかって感じですよね」
「そうしたら通勤時間は30分くらいですか?」
「そうですね、大体そのぐらいかも」
「なるほど、けど僕の家からだと通勤時間10分かかりませんね」
「はは!確かに!」
「僕の家から通勤すれば良いんじゃないですか?」
「いいですね…って、え?エ!?」
エ!?
いやこれは普通にエ!?だよな!?
「これは引っ越しですね」
白石さんがニヤリと悪そうな顔で続ける。
「いやいやいや何言ってるんですか!」
慌てて手をブンブン振ると、その様子を見てあははっと軽く笑う。
「冗談ですよ、けど通勤楽になるのは事実だしたまに泊まりに来れば良いじゃないですか?」
「まあ、たしかに…」
いや確かにそうだけど、それで泊まりに来るのはアリなのか?
泊まってはいけない理由…はないわけだからアリなのか。
まだアルコールが残っているのもあり、ポンポン進む会話に一々考え込む時間が与えられないのもあり、頭が回らずよく分からないまま白石さんのペースに飲まれていく。
「広さだけは十分なので、いつでも歓迎ですよ」
「前々から思ってましたけど、白石さんの冗談って分かりにくいですよね…」
「そうですか?じゃあ分かりやすい冗談を言ってみてくださいよ」
「え!?分かりやすい冗談?えーと…」
分かりやすい冗談って何だ?
というかそもそも冗談って何だっけ!?
「…布団が吹っ飛んだとか?」
「それはダジャレじゃないですか?」
「あ、そうか…っていうか難しい注文しないでくださいよ!」
「ふっ、あはは!真剣な顔して布団が吹っ飛んだって!」
白石さんが子供のように声を上げて笑う。この人でもこんな風に顔をクシャッとさせて笑ったりするんだな…いつもは笑っても割と乾いた感じがしていたりそもそもクールな印象が強いから、こうして素の顔を見れると何だか少し嬉しくなる。
そうこうしているうちに白石さんのマンションに到着して、そもそもなんでここに来ることになったんだっけ?ああ、ホットレモン飲むためか…いやだからってなんで家に上がるんだっけ?けど別に上がっちゃいけない理由もないのか…と頭の中で自問自答を繰り返し、結局よく分からないまま家に上がることになった。
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