白と黒

上野蜜子

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第3章

遊びと本気 5

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前回と同じ公園に同じ流れで足を運び、同じベンチに座ると

「さあ、聞きましょうか。いつもの如く、人通りも少ないことですし」

と、いつもと同じ様子で尋ねてくるこの憎らしい白石浩太という男をなんとかして動揺させたく、以前と全く同じ過ちを犯そうとしているのが黒原三芳という30歳童貞会社員である。

「ええ、事の発端は、仕事終わりに女性にぶつかられてコケたところで…」

「えっ、怪我はなかったですか?」

珍しく話し終える前に白石さんが口を挟む。

「あっ、いえ、コケたのは向こうでお互い怪我も無かったんですが」

「ああ、そうだったんですね。黒原さんに怪我がなくて良かった」

と優しく微笑まれ、速攻で身を案じられた幸福感が一瞬体を覆うが、いやいや嬉しがってる場合じゃない!と話を続ける。

「ゴホン、それで…持っていた飲み物で俺のジャケットを汚されてしまったので、クリーニング代を支払うとか支払わないとか言う話になったんですが、何回も断っているうちに食事に誘われて…」

「ふむふむ、お食事ですか」

「まあ現金で支払われるよりかそっちの方が良いかと思ったんで、了承したんですが…」

チラッと白石さんの方を見る。真剣な顔をして聞いている…

「あ、相手の女性が、デートみたいでドキドキするとかって言い出して…」

「ふむふむ…」

「いや、それだけじゃないんですよ!妙にハートの絵文字とか可愛らしいスタンプだとかを送りつけてくるし!」

「ハートですか~」

「名前が素敵だとか!ぶつかったのが俺で良かっただとか!ハンカチ握らせて来たりするし!もしかしてこっちに気があるんじゃないかな!?と思ってしまうんですよ!」

「なるほど…」

「けどほら、俺って恋愛系に疎いじゃないですか?なんか変な勘違いしてたら困るなーと思って…」

「勘違いですか?」

「いやほら、向こうに何の気もないのに、そういうちょっとした相手の言動でこっちだけ一喜一憂とかっていうのは嫌じゃないですか?」

これはあんたのことでもあるけどな!!

白石さんはうーん…と考え込む素振りをして、

「お相手の女性の気持ちはとりあえず置いておいて、黒原さんはどうですか?」

「え?お、俺ですか?」

「ええ、その女性のことをどう思われているんですか?」

「ど、どうって…」

どう?うーん、可愛いし美人だと思うけど…

さっきまではみどりさんのことで頭がいっぱいだったが、正直今はそれどころじゃないというか…

いや、ここは正直に言うよりも白石さんを少しでも動揺させられることを言いたいところではある。

「俺はまあ別に…嫌いじゃないし悪い気はしないしって感じですかね!?」

「なるほど、黒原さんの気持ちは可もなく不可もなくといったところなんですね」

「綺麗な人だし?俺なんかを好きになってくれるのであれば!みたいな感じですかね!?」

「俺なんかって、黒原さんってば」

顔を覗き込まれて、ぎくりと身が引ける。

「黒原さんは十分魅力的ですよ、自信持ってください」

余裕そうな笑顔…!

本当にこの人にとって、この間の件はなんてことないことだったんだな…

そう思うと、虚しさと同時にやはり怒りが込み上げてくる。

「話を聞く限りですが、少なくとも黒原さんに対してマイナスな印象があるわけでもなさそうですし、良い感じだと思いますけど」

「な、なるほど、嫌いじゃないなら付き合っちゃえば?みたいな感じですか?」

「そこまでいかなくても、とりあえずお食事デートは楽しんで来られたら良いと思いますよ」

「へ、へえ?さすが恋愛のスペシャリストですね!?」

「ええ?あはは、何を言いますか」

ム、ムカァ~!!

余裕綽々に笑う白石さんの顔を見ると(これ以上はやめておけーー!!)と必死に叫ぶ理性のストッパーをぶん投げて、怒りに任せて口からポンポンと白石さんを煽る言葉が出て来てしまう。

「なんか白石さんって、そういうの慣れてる感じしますもんね!?」

「慣れてるなんて、そんなことないと思いますけど」

「あ、ああいうことだって、白石さんにとっては挨拶みたいな…」

「ああいうことって?」

「この間のことですよ!!あんなことがあったのに、全然なんてことなさそうじゃないですか!?」

「あんなこと?」

「と、とぼけないでくださいよ!!き、キスとか!!色々…したでしょう!!」

「ああ、あのことですか」

「やっぱり、ただ白石さんは俺をからかってただけなんですね!?」

「からかわれてると思ったんですか?」

「ああああ当たり前じゃないですか!!何も気にしてなさそうな顔して!!みどりさんと俺のことを良い感じだとか言うし!!」

「ええ?いやそれは…」

「白石さんにとっては遊びみたいなものかもしれないけど!俺にとってはねえ…」

「ああ、なるほど」

熱くなった顔に突然ひんやりとした白石さんの手が触れて、はっと我に帰る。

あれ?え?俺何口走ってた?

「あれじゃ遊びだと思われても仕方ありませんね」

「は……イッ!?」

顎をガチッと掴まれ、もう片方の手が首の後ろに回ったと思うと、

「…………………!!!?!?」

がっつり固定されたまま一瞬でゼロ距離まで詰められて、何を考える余裕もないまま俺の唇に白石さんの唇がドッキングされていたのだった…
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