23 / 83
第3章
遊びと本気 5
しおりを挟む
前回と同じ公園に同じ流れで足を運び、同じベンチに座ると
「さあ、聞きましょうか。いつもの如く、人通りも少ないことですし」
と、いつもと同じ様子で尋ねてくるこの憎らしい白石浩太という男をなんとかして動揺させたく、以前と全く同じ過ちを犯そうとしているのが黒原三芳という30歳童貞会社員である。
「ええ、事の発端は、仕事終わりに女性にぶつかられてコケたところで…」
「えっ、怪我はなかったですか?」
珍しく話し終える前に白石さんが口を挟む。
「あっ、いえ、コケたのは向こうでお互い怪我も無かったんですが」
「ああ、そうだったんですね。黒原さんに怪我がなくて良かった」
と優しく微笑まれ、速攻で身を案じられた幸福感が一瞬体を覆うが、いやいや嬉しがってる場合じゃない!と話を続ける。
「ゴホン、それで…持っていた飲み物で俺のジャケットを汚されてしまったので、クリーニング代を支払うとか支払わないとか言う話になったんですが、何回も断っているうちに食事に誘われて…」
「ふむふむ、お食事ですか」
「まあ現金で支払われるよりかそっちの方が良いかと思ったんで、了承したんですが…」
チラッと白石さんの方を見る。真剣な顔をして聞いている…
「あ、相手の女性が、デートみたいでドキドキするとかって言い出して…」
「ふむふむ…」
「いや、それだけじゃないんですよ!妙にハートの絵文字とか可愛らしいスタンプだとかを送りつけてくるし!」
「ハートですか~」
「名前が素敵だとか!ぶつかったのが俺で良かっただとか!ハンカチ握らせて来たりするし!もしかしてこっちに気があるんじゃないかな!?と思ってしまうんですよ!」
「なるほど…」
「けどほら、俺って恋愛系に疎いじゃないですか?なんか変な勘違いしてたら困るなーと思って…」
「勘違いですか?」
「いやほら、向こうに何の気もないのに、そういうちょっとした相手の言動でこっちだけ一喜一憂とかっていうのは嫌じゃないですか?」
これはあんたのことでもあるけどな!!
白石さんはうーん…と考え込む素振りをして、
「お相手の女性の気持ちはとりあえず置いておいて、黒原さんはどうですか?」
「え?お、俺ですか?」
「ええ、その女性のことをどう思われているんですか?」
「ど、どうって…」
どう?うーん、可愛いし美人だと思うけど…
さっきまではみどりさんのことで頭がいっぱいだったが、正直今はそれどころじゃないというか…
いや、ここは正直に言うよりも白石さんを少しでも動揺させられることを言いたいところではある。
「俺はまあ別に…嫌いじゃないし悪い気はしないしって感じですかね!?」
「なるほど、黒原さんの気持ちは可もなく不可もなくといったところなんですね」
「綺麗な人だし?俺なんかを好きになってくれるのであれば!みたいな感じですかね!?」
「俺なんかって、黒原さんってば」
顔を覗き込まれて、ぎくりと身が引ける。
「黒原さんは十分魅力的ですよ、自信持ってください」
余裕そうな笑顔…!
本当にこの人にとって、この間の件はなんてことないことだったんだな…
そう思うと、虚しさと同時にやはり怒りが込み上げてくる。
「話を聞く限りですが、少なくとも黒原さんに対してマイナスな印象があるわけでもなさそうですし、良い感じだと思いますけど」
「な、なるほど、嫌いじゃないなら付き合っちゃえば?みたいな感じですか?」
「そこまでいかなくても、とりあえずお食事デートは楽しんで来られたら良いと思いますよ」
「へ、へえ?さすが恋愛のスペシャリストですね!?」
「ええ?あはは、何を言いますか」
ム、ムカァ~!!
余裕綽々に笑う白石さんの顔を見ると(これ以上はやめておけーー!!)と必死に叫ぶ理性のストッパーをぶん投げて、怒りに任せて口からポンポンと白石さんを煽る言葉が出て来てしまう。
「なんか白石さんって、そういうの慣れてる感じしますもんね!?」
「慣れてるなんて、そんなことないと思いますけど」
「あ、ああいうことだって、白石さんにとっては挨拶みたいな…」
「ああいうことって?」
「この間のことですよ!!あんなことがあったのに、全然なんてことなさそうじゃないですか!?」
「あんなこと?」
「と、とぼけないでくださいよ!!き、キスとか!!色々…したでしょう!!」
「ああ、あのことですか」
「やっぱり、ただ白石さんは俺をからかってただけなんですね!?」
「からかわれてると思ったんですか?」
「ああああ当たり前じゃないですか!!何も気にしてなさそうな顔して!!みどりさんと俺のことを良い感じだとか言うし!!」
「ええ?いやそれは…」
「白石さんにとっては遊びみたいなものかもしれないけど!俺にとってはねえ…」
「ああ、なるほど」
熱くなった顔に突然ひんやりとした白石さんの手が触れて、はっと我に帰る。
あれ?え?俺何口走ってた?
「あれじゃ遊びだと思われても仕方ありませんね」
「は……イッ!?」
顎をガチッと掴まれ、もう片方の手が首の後ろに回ったと思うと、
「…………………!!!?!?」
がっつり固定されたまま一瞬でゼロ距離まで詰められて、何を考える余裕もないまま俺の唇に白石さんの唇がドッキングされていたのだった…
「さあ、聞きましょうか。いつもの如く、人通りも少ないことですし」
と、いつもと同じ様子で尋ねてくるこの憎らしい白石浩太という男をなんとかして動揺させたく、以前と全く同じ過ちを犯そうとしているのが黒原三芳という30歳童貞会社員である。
「ええ、事の発端は、仕事終わりに女性にぶつかられてコケたところで…」
「えっ、怪我はなかったですか?」
珍しく話し終える前に白石さんが口を挟む。
「あっ、いえ、コケたのは向こうでお互い怪我も無かったんですが」
「ああ、そうだったんですね。黒原さんに怪我がなくて良かった」
と優しく微笑まれ、速攻で身を案じられた幸福感が一瞬体を覆うが、いやいや嬉しがってる場合じゃない!と話を続ける。
「ゴホン、それで…持っていた飲み物で俺のジャケットを汚されてしまったので、クリーニング代を支払うとか支払わないとか言う話になったんですが、何回も断っているうちに食事に誘われて…」
「ふむふむ、お食事ですか」
「まあ現金で支払われるよりかそっちの方が良いかと思ったんで、了承したんですが…」
チラッと白石さんの方を見る。真剣な顔をして聞いている…
「あ、相手の女性が、デートみたいでドキドキするとかって言い出して…」
「ふむふむ…」
「いや、それだけじゃないんですよ!妙にハートの絵文字とか可愛らしいスタンプだとかを送りつけてくるし!」
「ハートですか~」
「名前が素敵だとか!ぶつかったのが俺で良かっただとか!ハンカチ握らせて来たりするし!もしかしてこっちに気があるんじゃないかな!?と思ってしまうんですよ!」
「なるほど…」
「けどほら、俺って恋愛系に疎いじゃないですか?なんか変な勘違いしてたら困るなーと思って…」
「勘違いですか?」
「いやほら、向こうに何の気もないのに、そういうちょっとした相手の言動でこっちだけ一喜一憂とかっていうのは嫌じゃないですか?」
これはあんたのことでもあるけどな!!
白石さんはうーん…と考え込む素振りをして、
「お相手の女性の気持ちはとりあえず置いておいて、黒原さんはどうですか?」
「え?お、俺ですか?」
「ええ、その女性のことをどう思われているんですか?」
「ど、どうって…」
どう?うーん、可愛いし美人だと思うけど…
さっきまではみどりさんのことで頭がいっぱいだったが、正直今はそれどころじゃないというか…
いや、ここは正直に言うよりも白石さんを少しでも動揺させられることを言いたいところではある。
「俺はまあ別に…嫌いじゃないし悪い気はしないしって感じですかね!?」
「なるほど、黒原さんの気持ちは可もなく不可もなくといったところなんですね」
「綺麗な人だし?俺なんかを好きになってくれるのであれば!みたいな感じですかね!?」
「俺なんかって、黒原さんってば」
顔を覗き込まれて、ぎくりと身が引ける。
「黒原さんは十分魅力的ですよ、自信持ってください」
余裕そうな笑顔…!
本当にこの人にとって、この間の件はなんてことないことだったんだな…
そう思うと、虚しさと同時にやはり怒りが込み上げてくる。
「話を聞く限りですが、少なくとも黒原さんに対してマイナスな印象があるわけでもなさそうですし、良い感じだと思いますけど」
「な、なるほど、嫌いじゃないなら付き合っちゃえば?みたいな感じですか?」
「そこまでいかなくても、とりあえずお食事デートは楽しんで来られたら良いと思いますよ」
「へ、へえ?さすが恋愛のスペシャリストですね!?」
「ええ?あはは、何を言いますか」
ム、ムカァ~!!
余裕綽々に笑う白石さんの顔を見ると(これ以上はやめておけーー!!)と必死に叫ぶ理性のストッパーをぶん投げて、怒りに任せて口からポンポンと白石さんを煽る言葉が出て来てしまう。
「なんか白石さんって、そういうの慣れてる感じしますもんね!?」
「慣れてるなんて、そんなことないと思いますけど」
「あ、ああいうことだって、白石さんにとっては挨拶みたいな…」
「ああいうことって?」
「この間のことですよ!!あんなことがあったのに、全然なんてことなさそうじゃないですか!?」
「あんなこと?」
「と、とぼけないでくださいよ!!き、キスとか!!色々…したでしょう!!」
「ああ、あのことですか」
「やっぱり、ただ白石さんは俺をからかってただけなんですね!?」
「からかわれてると思ったんですか?」
「ああああ当たり前じゃないですか!!何も気にしてなさそうな顔して!!みどりさんと俺のことを良い感じだとか言うし!!」
「ええ?いやそれは…」
「白石さんにとっては遊びみたいなものかもしれないけど!俺にとってはねえ…」
「ああ、なるほど」
熱くなった顔に突然ひんやりとした白石さんの手が触れて、はっと我に帰る。
あれ?え?俺何口走ってた?
「あれじゃ遊びだと思われても仕方ありませんね」
「は……イッ!?」
顎をガチッと掴まれ、もう片方の手が首の後ろに回ったと思うと、
「…………………!!!?!?」
がっつり固定されたまま一瞬でゼロ距離まで詰められて、何を考える余裕もないまま俺の唇に白石さんの唇がドッキングされていたのだった…
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
性的イジメ
ポコたん
BL
この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。
作品説明:いじめの性的部分を取り上げて現代風にアレンジして作成。
全二話 毎週日曜日正午にUPされます。
昭和から平成の性的イジメ
ポコたん
BL
バブル期に出てきたチーマーを舞台にしたイジメをテーマにした創作小説です。
内容は実際にあったとされる内容を小説にする為に色付けしています。私自身がチーマーだったり被害者だったわけではないので目撃者などに聞いた事を取り上げています。
実際に被害に遭われた方や目撃者の方がいましたら感想をお願いします。
全2話
チーマーとは
茶髪にしたりピアスをしたりしてゲームセンターやコンビニにグループ(チーム)でたむろしている不良少年。 [補説] 昭和末期から平成初期にかけて目立ち、通行人に因縁をつけて金銭を脅し取ることなどもあった。 東京渋谷センター街が発祥の地という。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
僕の部屋においでよ
梅丘 かなた
BL
僕は、竜太に片思いをしていた。
ある日、竜太を僕の部屋に招くことになったが……。
※R15の作品です。ご注意ください。
※「pixiv」「カクヨム」にも掲載しています。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる