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第1章
出会いと始まり 9
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「ホットミルクと紅茶、どちらが良いですか?」
「あ、えっと、紅茶で…」
「ミルクとお砂糖は?」
「あ、大丈夫です…」
ーこの度は甘い自己管理のせいで介抱して頂くことになり、更には白石さんの手を汚すことになってしまい、また洗濯までしていただくことになってしまい、申し訳ございませんでした!
というセリフを一番に言うつもりだったのが、白石さんに先を越された。
そんな白石さんはというと、余裕そうにふんふんと鼻歌を歌いながらウォーターサーバーの熱湯をカップに注いでいる。
「あ、の!白石さん、この度は…」
「レモンはどうします?」
「あ、大丈夫です…」
「僕は結構好きなんですけどね、無糖レモン」
また負けた。
「白石さん、あの、この度は自分の…」
「どうですか?服、苦しくないですか?」
「あ、大丈夫です…って、ワザとやっているでしょう!?」
ぶは、と白石さんが吹き出す。
「すみません、あまりにも真剣な顔で出てきたものですから、少しからかいたくなってしまって」
白石さんが笑っている、すごく楽しそうに…もともと若く見えるが、こうやって笑った顔は一層幼く見える。まるで少年のようだ。
「どうです?さっぱりしましたか?」
「あ、ええ、すごく良い湯加減でした」
「トリートメント使いました?」
「え!?いや、俺には必要ないですよ!」
「黒原さんてば、ヘアケアは男子の基本なのに」
「風呂場で…」
「ん?」
「だからサラサラなのか、って思いましたよ」
両手に紅茶を持つ白石さんの横髪をすっと耳にかける。
かけたそばからサラッと頬に滑り落ちて行くのを見て、トリートメントだけじゃなく元々の髪質も良いのか、となんとなく思った。
風呂場で考えていたことがなぜか自然と話に出てしまったことに気付いて、そしてなかなかにキザなことをしてしまったことにも気付いて、ついへへっと笑ってしまう。
「…良かった、あの日…」
「え、なんて?」
「いいえ、なんでもないですよ。これ、黒原さんのストレートティーです」
はい、と某ネズミの絵柄がプリントされたカップを渡される。
「もうこんな時間ですので…飲み終わりましたら、僕はリビングのソファベッドで寝ますので、黒原さんは先ほどのベッドをお使い下さいね」
「え!?いや、悪いですよ、本当は泊まらせていただく予定もなかったのに、ベッドは白石さんが使ってください!」
「ん?僕が先ほどの部屋でこのまま寝て良いんですか?」
ぼくが さきほどの へやで このまま ねて いいんですか
…?
「僕の紅茶、レモン入れたんですが、香ってみます?」
香って…
「…は、先ほどのお部屋を使わせていただいてもよろしいでしょうか?」
「ええ、もちろん」
クスクスとまた嬉しそうに白石さんが笑う。
そういうことかっ!
この人、さっきから分かってやってるな…
受け取った紅茶のティーパックをカポカポと揺すって、一口飲む。寝起きとシャワーの前に白湯をもらっていたからか、酔いは随分冷めてきていた。
周りを見る余裕が出てきたからか、ぐるっと部屋を見渡した後、…最終的に白石さんの指先に目線が止まる。
さっき、この手にこねくりまわされて…この手の中に出してしまったんだよな…
白く細長い指先がちらちら動くたびに変に意識してしまう。
男…なんだよなぁ。それに知り合って1週間の。その男にイカされてしまった自分は、もしかして…
いやいや、けど、ネットで昔見たことがある。オカマは男をどう気持ちよくさせられるか自分の身をもって知っているから、男との夜を大変気持ち良くできると。だから逆に、男だからこそ、というものがあるのかもしれない。
たしかに自分でするのと変わらない…いや、もっと気持ちよかったが…動かし方が心地よくて、あれは…しょうがない!と思う…。白石さんもケアだと言っていたし、同性愛者でもないと言う。もちろん俺も女が好きだ。自分がホモなわけがない、断じて…そのはず…
「どうされました?」
もんもんと考え込んでいるところにふいに話しかけられて、ハッとする。
「いや…えっと…その、はは、自分がホモだったらどうしようかと…」
「ああ、先ほどの事ですか?」
さきほどのこと!!!
恥ずかしさで、顔が熱くなる。おそらく赤くなっている事だろうと思う。
「大丈夫ですよ、安心してください。黒原さんは、普通ですから」
「そ、そうですよね…あんな醜態を晒してしまって、混乱していて…。白石さんも同性愛者じゃないと仰られていましたし」
「ええ、僕は両性愛者なので」
「そうですよね、良かった、安心…しま…し…た…?」
「ええ、安心してください」
りょう…せいあいしゃ?
今のは聞き間違いじゃないよな?
「えっと、あの…両…?」
「バイセクシャルです」
「バ…」
「ご存知ないですか?女性も男性も」
「ま、ま、ま、待ってください!!」
白石さんが言い終わるのを制止する。
待て、両性愛者?バイセクシャル!?
同性愛者ではないと言っていた…いや、嘘ではなかった。嘘をつかれていたわけではなかったというわけだ!逆に!
「あ、別に男のナニを触りたくて黒原さんに近付いたわけではないので、ご安心下さい。仲良くなれそうだなと思った、それだけのことですので」
「あ、は、それは、もちろん」
「今日のは、ちょっとしたケアです。黒原さんを狙っているだとか、そのような下心はございませんので」
「わ、わ、わかってます!!」
「僕は気にしていませんから、大丈夫ですよ。介抱のことも、手の中で達せられたことも、洗濯の件も」
風呂場で考えていた謝罪文…この人、心が読めるのか!?
「もちろん今日のことは誰にも言いませんので。守秘義務は必ず守ります」
「あ、その、えっと…」
「これからも仲良くしましょう、黒原さん」
白石さんがキツネのような顔でニコーッと笑う。
俺もつられて笑うが、おそらくその顔はひきつっていたことだろうと思う。
黒原三芳、30歳童貞。女にイカされたことはないが、男にイカされたことはある。こういう肩書きができてしまった。俺はもしかすると、いろんな意味で新しい扉をくぐってしまったのではないだろうか。
「あ、えっと、紅茶で…」
「ミルクとお砂糖は?」
「あ、大丈夫です…」
ーこの度は甘い自己管理のせいで介抱して頂くことになり、更には白石さんの手を汚すことになってしまい、また洗濯までしていただくことになってしまい、申し訳ございませんでした!
というセリフを一番に言うつもりだったのが、白石さんに先を越された。
そんな白石さんはというと、余裕そうにふんふんと鼻歌を歌いながらウォーターサーバーの熱湯をカップに注いでいる。
「あ、の!白石さん、この度は…」
「レモンはどうします?」
「あ、大丈夫です…」
「僕は結構好きなんですけどね、無糖レモン」
また負けた。
「白石さん、あの、この度は自分の…」
「どうですか?服、苦しくないですか?」
「あ、大丈夫です…って、ワザとやっているでしょう!?」
ぶは、と白石さんが吹き出す。
「すみません、あまりにも真剣な顔で出てきたものですから、少しからかいたくなってしまって」
白石さんが笑っている、すごく楽しそうに…もともと若く見えるが、こうやって笑った顔は一層幼く見える。まるで少年のようだ。
「どうです?さっぱりしましたか?」
「あ、ええ、すごく良い湯加減でした」
「トリートメント使いました?」
「え!?いや、俺には必要ないですよ!」
「黒原さんてば、ヘアケアは男子の基本なのに」
「風呂場で…」
「ん?」
「だからサラサラなのか、って思いましたよ」
両手に紅茶を持つ白石さんの横髪をすっと耳にかける。
かけたそばからサラッと頬に滑り落ちて行くのを見て、トリートメントだけじゃなく元々の髪質も良いのか、となんとなく思った。
風呂場で考えていたことがなぜか自然と話に出てしまったことに気付いて、そしてなかなかにキザなことをしてしまったことにも気付いて、ついへへっと笑ってしまう。
「…良かった、あの日…」
「え、なんて?」
「いいえ、なんでもないですよ。これ、黒原さんのストレートティーです」
はい、と某ネズミの絵柄がプリントされたカップを渡される。
「もうこんな時間ですので…飲み終わりましたら、僕はリビングのソファベッドで寝ますので、黒原さんは先ほどのベッドをお使い下さいね」
「え!?いや、悪いですよ、本当は泊まらせていただく予定もなかったのに、ベッドは白石さんが使ってください!」
「ん?僕が先ほどの部屋でこのまま寝て良いんですか?」
ぼくが さきほどの へやで このまま ねて いいんですか
…?
「僕の紅茶、レモン入れたんですが、香ってみます?」
香って…
「…は、先ほどのお部屋を使わせていただいてもよろしいでしょうか?」
「ええ、もちろん」
クスクスとまた嬉しそうに白石さんが笑う。
そういうことかっ!
この人、さっきから分かってやってるな…
受け取った紅茶のティーパックをカポカポと揺すって、一口飲む。寝起きとシャワーの前に白湯をもらっていたからか、酔いは随分冷めてきていた。
周りを見る余裕が出てきたからか、ぐるっと部屋を見渡した後、…最終的に白石さんの指先に目線が止まる。
さっき、この手にこねくりまわされて…この手の中に出してしまったんだよな…
白く細長い指先がちらちら動くたびに変に意識してしまう。
男…なんだよなぁ。それに知り合って1週間の。その男にイカされてしまった自分は、もしかして…
いやいや、けど、ネットで昔見たことがある。オカマは男をどう気持ちよくさせられるか自分の身をもって知っているから、男との夜を大変気持ち良くできると。だから逆に、男だからこそ、というものがあるのかもしれない。
たしかに自分でするのと変わらない…いや、もっと気持ちよかったが…動かし方が心地よくて、あれは…しょうがない!と思う…。白石さんもケアだと言っていたし、同性愛者でもないと言う。もちろん俺も女が好きだ。自分がホモなわけがない、断じて…そのはず…
「どうされました?」
もんもんと考え込んでいるところにふいに話しかけられて、ハッとする。
「いや…えっと…その、はは、自分がホモだったらどうしようかと…」
「ああ、先ほどの事ですか?」
さきほどのこと!!!
恥ずかしさで、顔が熱くなる。おそらく赤くなっている事だろうと思う。
「大丈夫ですよ、安心してください。黒原さんは、普通ですから」
「そ、そうですよね…あんな醜態を晒してしまって、混乱していて…。白石さんも同性愛者じゃないと仰られていましたし」
「ええ、僕は両性愛者なので」
「そうですよね、良かった、安心…しま…し…た…?」
「ええ、安心してください」
りょう…せいあいしゃ?
今のは聞き間違いじゃないよな?
「えっと、あの…両…?」
「バイセクシャルです」
「バ…」
「ご存知ないですか?女性も男性も」
「ま、ま、ま、待ってください!!」
白石さんが言い終わるのを制止する。
待て、両性愛者?バイセクシャル!?
同性愛者ではないと言っていた…いや、嘘ではなかった。嘘をつかれていたわけではなかったというわけだ!逆に!
「あ、別に男のナニを触りたくて黒原さんに近付いたわけではないので、ご安心下さい。仲良くなれそうだなと思った、それだけのことですので」
「あ、は、それは、もちろん」
「今日のは、ちょっとしたケアです。黒原さんを狙っているだとか、そのような下心はございませんので」
「わ、わ、わかってます!!」
「僕は気にしていませんから、大丈夫ですよ。介抱のことも、手の中で達せられたことも、洗濯の件も」
風呂場で考えていた謝罪文…この人、心が読めるのか!?
「もちろん今日のことは誰にも言いませんので。守秘義務は必ず守ります」
「あ、その、えっと…」
「これからも仲良くしましょう、黒原さん」
白石さんがキツネのような顔でニコーッと笑う。
俺もつられて笑うが、おそらくその顔はひきつっていたことだろうと思う。
黒原三芳、30歳童貞。女にイカされたことはないが、男にイカされたことはある。こういう肩書きができてしまった。俺はもしかすると、いろんな意味で新しい扉をくぐってしまったのではないだろうか。
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