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第1章
出会いと始まり 6
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「そんで…もうとにかくタイミングが悪かったんだよな、完全に。いや俺が悪いんだけどさ…」
「それは…災難でしたね」
酒が回ってきた俺はねちねちと今日の仕事の愚痴を話し、白石さんが真剣な眼差しで聞いてくれる。
「その上司の方がそこまで熱を入れて黒原さんにお話をされたのは、黒原さんを頼りにしているからこそ、少し甘えられているのかもしれませんね」
「そうかもしれねえけどさぁ、出たくもない休日出てまで後輩の尻拭いで小一時間説教とか、本当勘弁して欲しいよ…」
「ええ、後輩さんの代わりに損な役割を受け持ったんですものね、よく耐えましたね、黒原さん」
「白石さん、あんた本当に聞き上手だな…」
「そうですか?黒原さんの頑張ってきたお話、聞きたくて聞かせていただいているだけですよ」
「それってさぁ、もしかして今も仕事中?」
「そんなことありません、1人の友人として話が聞きたいだけですよ」
どうぞ、と最早何杯目かわからない日本酒をお酌してもらう。
白石さんのいう通り、ここの日本酒は本当にうまい。酒だけじゃなくて、料理も一級品だ。これはつまみも酒も進むわけだわ…
おちょこ一杯くらい、一瞬で飲みきってしまう。いけない、いつもより飲んでいる気がする。しまったな、飲み過ぎかな…
白石さんはひたすら俺の愚痴を聞いて、同調して、不思議なことに欲しい答えを返してくる。
酔いが回ってあまり余裕はないが、白石さんはこの席を楽しめているのだろうか…
コロコロと表情を変えていくが、それがなんとなく、どこか作られたもののように感じる。
「白石さん…なんか無理してないか」
「え…」
「俺には、何かこう…余計なものを背負いすぎてるように見える…」
適切な言葉選びが既にできなくなってきている気がする。
なんでそんなことを唐突に切り出したのかも分からないくらいには、完全に酔っ払っていた。
表情をあまり崩さない白石さんが、少し悩むような顔をして、またいつもの通りの…いや、よりキツネのような笑顔になった。
「やっぱり、黒原さんだ…」
「…?なんて…?」
「いいえ、頑張り屋さんで、人のことをよく考えられる、すごく優しい方なんだと思いました」
「ええ?そんなこと…それは自分に向けて言ってあげなきゃ…」
「黒原さん、僕が連絡先を交換したのはね、」
意識がうつらうつらする。
幽体離脱のような、ふわふわした感覚がする。頭の奥底の理性が叫ぶ。飲みすぎだ!と。
「黒原さんだけ…」
時既に遅し。理性の声も虚しく、世界がゆっくりと暗転した。
「それは…災難でしたね」
酒が回ってきた俺はねちねちと今日の仕事の愚痴を話し、白石さんが真剣な眼差しで聞いてくれる。
「その上司の方がそこまで熱を入れて黒原さんにお話をされたのは、黒原さんを頼りにしているからこそ、少し甘えられているのかもしれませんね」
「そうかもしれねえけどさぁ、出たくもない休日出てまで後輩の尻拭いで小一時間説教とか、本当勘弁して欲しいよ…」
「ええ、後輩さんの代わりに損な役割を受け持ったんですものね、よく耐えましたね、黒原さん」
「白石さん、あんた本当に聞き上手だな…」
「そうですか?黒原さんの頑張ってきたお話、聞きたくて聞かせていただいているだけですよ」
「それってさぁ、もしかして今も仕事中?」
「そんなことありません、1人の友人として話が聞きたいだけですよ」
どうぞ、と最早何杯目かわからない日本酒をお酌してもらう。
白石さんのいう通り、ここの日本酒は本当にうまい。酒だけじゃなくて、料理も一級品だ。これはつまみも酒も進むわけだわ…
おちょこ一杯くらい、一瞬で飲みきってしまう。いけない、いつもより飲んでいる気がする。しまったな、飲み過ぎかな…
白石さんはひたすら俺の愚痴を聞いて、同調して、不思議なことに欲しい答えを返してくる。
酔いが回ってあまり余裕はないが、白石さんはこの席を楽しめているのだろうか…
コロコロと表情を変えていくが、それがなんとなく、どこか作られたもののように感じる。
「白石さん…なんか無理してないか」
「え…」
「俺には、何かこう…余計なものを背負いすぎてるように見える…」
適切な言葉選びが既にできなくなってきている気がする。
なんでそんなことを唐突に切り出したのかも分からないくらいには、完全に酔っ払っていた。
表情をあまり崩さない白石さんが、少し悩むような顔をして、またいつもの通りの…いや、よりキツネのような笑顔になった。
「やっぱり、黒原さんだ…」
「…?なんて…?」
「いいえ、頑張り屋さんで、人のことをよく考えられる、すごく優しい方なんだと思いました」
「ええ?そんなこと…それは自分に向けて言ってあげなきゃ…」
「黒原さん、僕が連絡先を交換したのはね、」
意識がうつらうつらする。
幽体離脱のような、ふわふわした感覚がする。頭の奥底の理性が叫ぶ。飲みすぎだ!と。
「黒原さんだけ…」
時既に遅し。理性の声も虚しく、世界がゆっくりと暗転した。
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