白と黒

上野蜜子

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第1章

出会いと始まり 3

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あれから、恋人はできなかったが新たな友人を手にすることができた俺は、白石さんとやりとりを続けている。

友人…と言っても、まだお互い敬語だし、紺野のような間柄ではないが、白石さんの職業柄か人柄なのか…話しやすかったし、仲良くできるのではないかと勝手に思っている。

いや、連絡先を聞いてきたということは、向こうも少なからず自分と仲良くなりたいのではないかと思う。

話を聞くと、白石さんは日・祝・木曜休みという、いかにも病院らしい勤務形態のようだ。

そして俺と白石さんの職場が割と近くだということも分かった。

それもあってか、ちょうど俺の土曜出勤の今日、飲みに誘われ、お互いの仕事終わりに近くの居酒屋で飲むことになった。

野郎2人とかいう華も何もない飲み会だが、新しい友人と酒を飲む、という新鮮な状況をかなり楽しみにしている。新しい友人なんて、何年振りだろうか。

「黒原、ちょっと来てくれないか」

楽しみな気分を壊すように遠くから部長に呼ばれ、嫌な予感がしつつも部長の方に向かう。

「何かありましたか、部長」

「この発注書…送ったのお前か?」

「え?ええ、山下から預かって、営業部からの発注書と一緒に私が送りましたが」

「内容確認したか?」

「は…」

「内容を確認してから送ったのかと聞いているんだ!」

バッと目の前に発注書を出される。

「山下はお前の後輩だろう?どうして送る前に確認しなかった!?」

送信前にざっと確認はしたはずだ。

何が間違っているのかと慌てて隅々を確認すると、単位の欄、ケースとバラが逆になっている。

サッと血の気が引く…

「確認を徹底していれば防げたミスじゃないのか!!」

「は、すみません、あの、少々お時間頂いても…」

「時間をやればどうにかできるのか!?」

「いえ、どうにかできるように、いえ、します。お預かり致します、大変申し訳ございません」

書類を受け取り急いで担当窓口に電話をかける。

しかし生憎今日は土曜日。営業時間は午前いっぱい。電子音声が流れる。

名刺ケースから営業担当の名刺を急いて取り出し、携帯番号にかける。頼む、出てくれ…

『…はい、こちら◯◯商事の吉川でございます』

出た!

「お休みのところ申し訳ございません、先日は大変お世話になりました、株式会社◯◯の黒原でございます」

『…ああ!黒原さんでしたか!先日は大変お世話になりました、本日はいかがなさいましたか?』

「申し訳ございません、発注の訂正をお願いしたく電話させて頂いたのですが…大変申し訳ございませんが、本社の方にお繋ぎして頂くことは可能ですか?」

『ああ、時間的に電子音声になってしまってますかね?少々お待ちください、本社から黒原さん宛に掛け直させますので…しばらくお待ちいただけますか?』

「ええ、申し訳ございません、宜しくお願い致します」

遠くから部長が睨んでいるのを感じる。

焦りと不安で胸が潰れそうだ。神様、どうか間に合いますように…こういう時だけ神頼みをする、日本人の悪い癖だ。

しばらくすると電話が鳴り、ワンコール目で電話を取る。

「はい、株式会社◯◯の総務黒原でございます」

『◯◯商事の川瀬でございます~、黒原様、発注の関係で御座いますね~』

ああ、神よ!!

「はいっ、営業時間外に申し訳ございません…19日にお送りした発注書の件でお電話させて頂きました。納品指定日が近いのですが、訂正をお願いしても宜しいでしょうか…」

『お伺いいたします~』

「単位の間違いがございまして…商品番号□□□□の5ケースをバラ5個に、△△△△のバラ8個を8ケースに変更して頂くことは可能でしょうか?」

『かしこまりました~、No.6の□□□□の商品が5個、No.7の△△△△の商品が8ケースへの変更で…お間違いございませんか?」

「え、しゅ、修正可能ですか?」

『はい~、在庫ございますので可能でございます、いつもご利用頂きありがとうございます~』

「ありがとうございます、本当に助かりました…営業時間外に本当にすみません、ええ、ええ、はい、これからも…はい、宜しくお願い致します、失礼いたします…」

受話器を置いて、胸に溜まっていた悪い空気がどーっと出てきた。

赤ペンで単位を修正し、睨みを効かせている部長のもとへ向かう。

「申し訳ございませんでした、私の確認不足で…」

「どうにかなったんだな?」

「はい、単位を変更して頂けました」

「全く…私が気が付いたから良いものを、誰も気が付かなかったらどうしてくれたんだ!?」

「申し訳ございません…」

「申し訳ございませんじゃないだろ!先方にも迷惑をかけて、私が気が付かなかったらどうしたのかと…」

おっしゃる通りでございます…

それからのことは、あまりにも正論すぎてメンタルにザクザク来るため、聞き入りすぎないようにしながらひたすら深く頭を下げて謝った。

直接的ではなかったはずのミスが、結果的に自分のものになってしまったことに対するモヤモヤが全身を渦巻いている。

山下が間違わなければ…俺が最初から発注書を準備していたら…受け取った段階で一緒にチェックしていたら…発注前の確認をもっと入念にしていたら…グルグルとまとまらないタラレバが頭の中を縦横無尽に飛び交っている。

後輩のミスに気付くことができなかった自分が悪いのはもちろん分かっている。分かっているし…

おそらく部長も土曜出勤で気が立っている、ということは分かるが…

ああ、今日は飲み会なのに…

気持ちよく会えないじゃないか。
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