愛する公爵と番になりましたが、大切な人がいるようなので身を引きます

まんまる

文字の大きさ
9 / 19

9

しおりを挟む
発情期が明けて僕が目を覚ました時には、結婚式から一週間が経っていた。

発情期の間の記憶は朧げで、夢の中にいるかと思えば、急に現実に引き戻される、そんな感覚だった。

でもその夢かうつつか分からない間、ずっとアラン様から愛されていたのは分かる。
はっきり覚えてはいないけど、愛するαに本気で抱かれるΩの悦びを、僕の体が覚えているから。

項を噛まれた記憶も朧げだけど、僕はあの時、アラン様から切なく名前を呼ばれ、愛してると言われた気がした。そんな幸せの絶頂で番になれたんだ。


アラン様と番になりたいという、子供の頃からの願いがやっと叶い、僕は毎日幸せで、なんだかいつも体がふわふわと浮いてるような感じがした。

番になってから、アラン様は益々僕に甘くなり、隙あらばすぐに横抱きにされて、本当に浮いてる時もあるけど、下ろしてもらってもやっぱり僕の体はふわふわと浮いてるみたいだった。



こんなに幸せでいいのだろうかと心配になる位、僕は本当に幸せだった。



でもそれからすぐに、公爵になったばかりのアラン様は、毎日朝早くから夜遅くまで忙しく仕事に追われる日々を送るようになった。


「ナーシュ、少しばかり抱き締めさせてくれないか?」
「アラン様、お体は大丈夫ですか?」
「ああ、心配いらないよ」

アラン様は、時間を見つけて僕に会いに来てくれるけど、少しやつれた様な感じがして、とても心配になった。




「アラン様⋯、最近ずっと忙しそうですけど、僕に何か手伝えることありますか?」
「ああ、ナーシュ、すまないね。家督を継いだばかりで、少しばかり慌ただしくしているだけだよ。しばらくしたら落ち着くと思うから」
「⋯はい」

 


「ナーシュ、すまないが、今日も先にベッドに入ってていいからね」

疲れた顔のアラン様から触れるだけの口付けをされ、一人ベッドで眠りに就く日がもう何日も続いている。


「アラン様、本当に大丈夫かな⋯」

僕は冷たいベッドの中で、なかなか眠りに就けずに、独り言を呟いた。

その日、やっぱり僕に何か手伝える事はないか聞いてみようと思い、夜中に寝室を抜け出して、アラン様の執務室に行ってみた。

「あれ、いない⋯」

アラン様は仕事をしているはずなのに、何故か執務室にはいなかった。

もしかして休憩をしてるのかと思い、屋敷の中を探してみた。
しばらく探していると、廊下の先にぼんやりとしたランプの薄明かりがあるのが分かり、人影が見えてきた。

「あれは⋯?アラン様?」

アラン様が公子の時に使っていた部屋から、こっそり出て来るのが見えた。

僕は後先も考えずに、ただアラン様の姿が見えたのが嬉しくて、アラン様に駆け寄って大きな声で名前を呼んだ。

「アラン様っ!」

「わあぁぁっ!ナーシュ!?」

アラン様に腰を抜かす程驚かれて、僕は泣きそうになった。

「あっ、ごめんなさい、アラン様。そんなに驚くと思わなくて⋯」
「ナーシュ、違うんだ!ちょっと考え事をしていたら、部屋を間違えてしまって慌ててたんだ」
「本当に?」
「ああ、本当だよ」

アラン様は僕を抱き締めて、僕の頭にチュッと音を立てて口付けをした。

「一人で眠れないのかい?」
「はい⋯、アラン様が心配で」
「ナーシュは優しいね。でも大丈夫だよ。さあ、寝室まで送って行こう」

僕は忙しいアラン様の手を煩わせたくなくて、僕を抱き締めてるアラン様の腕から離れようとした。

その時、アラン様の肩に蜂蜜色の髪の毛が何本か張り付いているのに気づいた。

「アラン様、肩に髪の毛が⋯」

僕はそう言いながら、その髪の毛を指で摘んだ。

「あれ?僕の髪より少し短いみたい⋯」

僕がそう呟いた瞬間、アラン様は弾かれたように僕から飛び退いた。

「アラン様⋯?」
「あっ、ナーシュ、す、すまない。急ぎの仕事を思い出した。寝室まで気を付けるんだよ」

アラン様は今まで聞いた事のない位の早口でそう言うと、走って行ってしまった。

僕は呆気にとられて、溜まっていた涙も一瞬で引っ込んでしまった。



何かある⋯、番の本能がそう言っていた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

【16話完結】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー AI比較企画作品

5回も婚約破棄されたんで、もう関わりたくありません

くるむ
BL
進化により男も子を産め、同性婚が当たり前となった世界で、 ノエル・モンゴメリー侯爵令息はルーク・クラーク公爵令息と婚約するが、本命の伯爵令嬢を諦められないからと破棄をされてしまう。その後辛い日々を送り若くして死んでしまうが、なぜかいつも婚約破棄をされる朝に巻き戻ってしまう。しかも5回も。 だが6回目に巻き戻った時、婚約破棄当時ではなく、ルークと婚約する前まで巻き戻っていた。 今度こそ、自分が不幸になる切っ掛けとなるルークに近づかないようにと決意するノエルだが……。

歳上公爵さまは、子供っぽい僕には興味がないようです

チョロケロ
BL
《公爵×男爵令息》 歳上の公爵様に求婚されたセルビット。最初はおじさんだから嫌だと思っていたのだが、公爵の優しさに段々心を開いてゆく。無事結婚をして、初夜を迎えることになった。だが、そこで公爵は驚くべき行動にでたのだった。   ほのぼのです。よろしくお願いします。 ※ムーンライトノベルズ様でも投稿しています。

【8話完結】帰ってきた勇者様が褒美に私を所望している件について。

キノア9g
BL
異世界召喚されたのは、 ブラック企業で心身ボロボロになった陰キャ勇者。 国王が用意した褒美は、金、地位、そして姫との結婚―― だが、彼が望んだのは「何の能力もない第三王子」だった。 顔だけ王子と蔑まれ、周囲から期待されなかったリュシアン。 過労で倒れた勇者に、ただ優しく手を伸ばしただけの彼は、 気づかぬうちに勇者の心を奪っていた。 「それでも俺は、あなたがいいんです」 だけど――勇者は彼を「姫」だと誤解していた。 切なさとすれ違い、 それでも惹かれ合う二人の、 優しくて不器用な恋の物語。 全8話。

【8話完結】僕の大切な人はBLゲームの主人公でした。〜モブは主人公の幸せのためなら、この恋も諦められます〜

キノア9g
BL
転生先は、まさかのBLゲームの世界。 モブであるリセルは、恋を自覚した瞬間、幼馴染・セスがこの世界の“主人公”だと気づいてしまう。 このまま一緒にいても、いつか彼は攻略対象に惹かれていく運命——それでも、今だけは傍にいたい。 「諦める覚悟をしたのに、どうしてこんなにも君が愛おしいんだろう」 恋の終わりを知っているモブと、想いを自覚していく主人公。 甘さと切なさが胸を締めつける、すれ違いから始まる運命の物語。 全8話。

長年の恋に終止符を

mahiro
BL
あの人が大の女好きであることは有名です。 そんな人に恋をしてしまった私は何と哀れなことでしょうか。 男性など眼中になく、女性がいればすぐにでも口説く。 それがあの人のモットーというやつでしょう。 どれだけあの人を思っても、無駄だと分かっていながらなかなか終止符を打てない私についにチャンスがやってきました。 これで終らせることが出来る、そう思っていました。

遊び人殿下に嫌われている僕は、幼馴染が羨ましい。

月湖
BL
「心配だから一緒に行く!」 幼馴染の侯爵子息アディニーが遊び人と噂のある大公殿下の家に呼ばれたと知った僕はそう言ったのだが、悪い噂のある一方でとても優秀で方々に伝手を持つ彼の方の下に侍れれば将来は安泰だとも言われている大公の屋敷に初めて行くのに、招待されていない者を連れて行くのは心象が悪いとド正論で断られてしまう。 「あのね、デュオニーソスは連れて行けないの」 何度目かの呼び出しの時、アディニーは僕にそう言った。 「殿下は、今はデュオニーソスに会いたくないって」 そんな・・・昔はあんなに優しかったのに・・・。 僕、殿下に嫌われちゃったの? 実は粘着系殿下×健気系貴族子息のファンタジーBLです。

処理中です...