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最終話
しおりを挟む自分の心の殻が、少しずつひび割れていく感覚がして。
玲央の言葉が、一段と強くなる。
「晴彦にはもっと自由に生きてほしいんだ! 君の心がどれだけ美しいか俺は知ってる。君がどれだけ輝ける存在になるか俺にはわかる」
「どうして、そこまで……」
「簡単だよ」
直後、僕の視界は玲央でいっぱいになった。
その時、ようやく自分の唇と玲央のが繋がっていることに気づいて。
玲央の口がゆっくりと離れ、僕らは視線を交差させる。
「こういうのは運命なんだよ、晴彦。俺は君の心に惚れたんだ。あぁ、ずっと待ち望んだ相手がようやく来たんだって。だから、君を選んだ。君だからこそ、俺は一緒にいたい。周りにどう思われようと、俺にとって君しかいないんだ」
玲央の言葉を聞いて、完全に言葉を失った。
それでも何とか言葉を探して、口を開く。
「……あの告白は、演技だと思っていたよ」
「演技は演技でも、縁起のいいものだったのさ」
上手くない。
そう思っていたら、玲央は再び僕の手を取って、その甲に優しく唇を寄せた。
「君と一緒なら、どんな困難も乗り越えられる。俺はそう信じてるよ、晴彦」
「……」
「あー、さすがに突然のキスは失礼だったかな?」
「ううん、そんなことはなかったよ」
少し前の自分なら、玲央のような人との関わりは絶っていただろう。
でも、今はもう違う。
玲央の言う通り、僕はずっと自分を押し込めて生きてきた。そのことは、自分が誰よりもわかっている。
「晴彦ならできるよ。俺が保証する」
「玲央……」
玲央の言葉が、また僕の中で反響する。僕はそれを深く感じながら、目の前の夕陽に視線を向ける。
その景色を見ていると、今までの自分のことがどんどん思い出されてくる。小さな頃は、もっと自由だった。誰とでも笑って話し、世界が広くて、無限の可能性に満ちていた。
中学生になりあの出来事があってから、少しずつ自分を閉じ込めるようになった。あの時、周りの目が怖くて、心を閉ざすしかなかった。
でも、今、玲央の言葉を聞いていると、自分の抱えてきたものが少しずつ溶けていくのを感じる。
そして。
今まで塞ぎ込んできた自分と別れの時がやって来たのだと、確信する。
もう、過去ばかりに目を向けるのは……止めにしよう。
「過去との決別、か」
「さぁ、行こうぜ晴彦。ってかっこよく言ってはいいものの、この学校のこと何も知らなくてさ。寮の案内、お願いしていいかな」
「いいよ。荷物は到着してるんでしょ?」
「あぁ。晴彦の横の部屋にお願いしてるから直ぐわかると思う」
「用意がいいね」
「天才俳優だからさ」
「自分で言うんだ」
これからは、もっと自分を大切にしようと思う。
今までの僕の人生は、ただの序章に過ぎなかったのだ。
これから始まる新しい物語がどんなに輝かしいものになるのか。そう思うと、胸が高鳴った。
「いい夕陽だ」
「そうだね」
「明日から大変だぞ。何せ俺の恋人だからさ」
「うん、しばらくは学校中の注目の的になるかな」
「ワクワクでいっぱいだ。……えっと、ところで最初の行事は何?」
「修学旅行。明後日行くんだ」
「え、明後日?」
オレンジ色に染まった空を見上げると、目の前の景色がどこか遠くに感じられて、まるで新しい世界に踏み出すみたいだった。
玲央の横顔が、夕陽に照らされて輝いているのがわかる。
あの美しい笑顔が、いつもと同じように僕を安心させてくれる。
言葉にできないくらい、心の中で何かが溢れてきていた。今までは怖くて一歩踏み出せなかったけれど、玲央と一緒なら、どんな未来だって歩んでいける気がする。
彼の存在が、僕にとっての光なのだ。
「……玲央」
「うん?」
「ありがとう」
僕の言葉を受けて、玲央が一瞬固まって。
今日一番の笑顔になった。
とても嬉しそうな、楽しそうな表情をして。
彼は黙って微笑んでくれる。
僕はその視線を受け止めて、少し照れくさそうに微笑み返す。
こんな風に、誰かと一緒に歩いているだけで、こんなにも幸せな気持ちになれるなんて、知らなかった。
温かい夕陽が……どこまでを僕らを照らしてくれた。
未来への道しるべのように。
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