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第一章 互いの立場
見えなくなった友人
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目が覚めて、ヨウは、入ってきた視界がほぼ白く、少し眩しかったのと、嗅ぎ慣れない匂いに、顔をしかめた。
しばらくして、働き始めた脳で、自分の居るところが病院だと気づき、体を起こす。
「・・・・・・。」
腕に刺さっている点滴に、体に掛けられた白いシーツ。夜中にいた森とはほぼ真反対な情景。一つ、同じと言えるのは、窓の外の天気が曇っていた、ということだった。
「・・・(雨、降りそうだな)。」
そんなことをぼんやりと考え、不意に、脳裏にカナの姿を思い出して、目頭が熱くなるのを感じる。それでも、涙は出てこなかった。一晩おいて、少し、落ち着けたのかもしれない。
カナは、宣言するように言うと、コッチの話は一つも聞かずに消えていった。本当に、告げただけだった。
「・・・(なにも、辞めることなんて・・・。)」
そう考えたが、カナにもカナの事情があるだろうと、思えたのに気づいて、やはり、少し落ち着けていると、再認識した。
それでもやっぱり、辞めてほしくなんて、なかった。
ぐるぐると思考を巡らせていると、不意に
「陽野道君?」
と、話しかけられた。
「?」
声に反応するように顔を上げると、医者らしき女性が立っていて、優しく微笑んでいた。
「目が覚めたのね。点滴も終わっているようだし、目が覚めて早速で悪いんだけど、色々検査するから、着いてきてくれる?」
女性の医者は、点滴の針を外しながら言うと、コッチだよ、と、案内を始める。
ヨウは何も思わずに着いていき、着々と検査を進めていった。
検査の結果は異常なし、と、言いたかったが、問題が一つ。
「・・・・・・。」
声が出せない。声帯にも問題はなく、声を出そうという気もあるが、出ない。
息は口から出ていくのに、その息に声が乗らないのだ。声だけ、何処かで振り落とされているようだった。
生態的にも精神的にも問題がないとなると、医者の分野ではなくなる。
次に連れてこられたのは、『技術』について研究がされている施設だった。
※技術とは、この世界のうち、表の世界に属する国の人に与えられた嘗ての忍術に近いもの。基本技術は、火技、水技、土技、風技の四つ。そこから派生した技術も多数存在し、派生した技術を多く使える者がほとんどである。中にはその血筋を持ち、特殊な訓練を受けなければ獲得できない技術や、生まれつきでなければ使えない技術もある。技術を得意としない忍びも三割ほど存在し、彼らは武器や体技を主に戦っている。※
そして、その施設での検査結果は
『何者かに声を封印されている』だった。
思わず目を見張った。え?と、声を出したつもりだったが、やはり出なかった。
決して強固な封印ではないが、弱い封印式が数多くかけられ、解くのに時間のかかるものが多いらしい。解くことも出来ないことはないが、自力で解くには、時間がかかりすぎてしまうらしい。
一番早く解ける方法は、封印を施した者に解かせること。
それを聞いて、一番に思い出したのはカナだった。
一番疑いたくないが、一番疑わしい存在。
ここまで複雑な封印を、一日だけで作り上げるのは不可能。つまり、カナは、友達として一緒に過ごした日々を使って封印を施していた。
でも、おかしいことが一つあった。
カナは、記憶を無くした状態で国に『保護』されていた。
記憶が戻っていたなら、とっとと帰れたはず。僕が技術を好まない事を知っていたなら、時間をかけて、技術の発動に必要不可欠な声を封じる必要なんて、どこにもない。
同時に、記憶が戻っていたなら、いつからかは分からないが、記憶が戻ったいつかから、昨日まで、カナは、何を思いながら過ごしてきたのだろうと、疑問を抱えた。
段々と、考えれば考えるほど、カナが見えなくなっていった。
その疑問を、解決出来るかもしれない希望を、一つ、思い出した。
『保護』されたカナの『保護者』の立ち位置になっていたのは、この国の最上段、つまり、一番偉い人だった。
その人に訊けば、何か掴めるかもしれない。
しばらくして、働き始めた脳で、自分の居るところが病院だと気づき、体を起こす。
「・・・・・・。」
腕に刺さっている点滴に、体に掛けられた白いシーツ。夜中にいた森とはほぼ真反対な情景。一つ、同じと言えるのは、窓の外の天気が曇っていた、ということだった。
「・・・(雨、降りそうだな)。」
そんなことをぼんやりと考え、不意に、脳裏にカナの姿を思い出して、目頭が熱くなるのを感じる。それでも、涙は出てこなかった。一晩おいて、少し、落ち着けたのかもしれない。
カナは、宣言するように言うと、コッチの話は一つも聞かずに消えていった。本当に、告げただけだった。
「・・・(なにも、辞めることなんて・・・。)」
そう考えたが、カナにもカナの事情があるだろうと、思えたのに気づいて、やはり、少し落ち着けていると、再認識した。
それでもやっぱり、辞めてほしくなんて、なかった。
ぐるぐると思考を巡らせていると、不意に
「陽野道君?」
と、話しかけられた。
「?」
声に反応するように顔を上げると、医者らしき女性が立っていて、優しく微笑んでいた。
「目が覚めたのね。点滴も終わっているようだし、目が覚めて早速で悪いんだけど、色々検査するから、着いてきてくれる?」
女性の医者は、点滴の針を外しながら言うと、コッチだよ、と、案内を始める。
ヨウは何も思わずに着いていき、着々と検査を進めていった。
検査の結果は異常なし、と、言いたかったが、問題が一つ。
「・・・・・・。」
声が出せない。声帯にも問題はなく、声を出そうという気もあるが、出ない。
息は口から出ていくのに、その息に声が乗らないのだ。声だけ、何処かで振り落とされているようだった。
生態的にも精神的にも問題がないとなると、医者の分野ではなくなる。
次に連れてこられたのは、『技術』について研究がされている施設だった。
※技術とは、この世界のうち、表の世界に属する国の人に与えられた嘗ての忍術に近いもの。基本技術は、火技、水技、土技、風技の四つ。そこから派生した技術も多数存在し、派生した技術を多く使える者がほとんどである。中にはその血筋を持ち、特殊な訓練を受けなければ獲得できない技術や、生まれつきでなければ使えない技術もある。技術を得意としない忍びも三割ほど存在し、彼らは武器や体技を主に戦っている。※
そして、その施設での検査結果は
『何者かに声を封印されている』だった。
思わず目を見張った。え?と、声を出したつもりだったが、やはり出なかった。
決して強固な封印ではないが、弱い封印式が数多くかけられ、解くのに時間のかかるものが多いらしい。解くことも出来ないことはないが、自力で解くには、時間がかかりすぎてしまうらしい。
一番早く解ける方法は、封印を施した者に解かせること。
それを聞いて、一番に思い出したのはカナだった。
一番疑いたくないが、一番疑わしい存在。
ここまで複雑な封印を、一日だけで作り上げるのは不可能。つまり、カナは、友達として一緒に過ごした日々を使って封印を施していた。
でも、おかしいことが一つあった。
カナは、記憶を無くした状態で国に『保護』されていた。
記憶が戻っていたなら、とっとと帰れたはず。僕が技術を好まない事を知っていたなら、時間をかけて、技術の発動に必要不可欠な声を封じる必要なんて、どこにもない。
同時に、記憶が戻っていたなら、いつからかは分からないが、記憶が戻ったいつかから、昨日まで、カナは、何を思いながら過ごしてきたのだろうと、疑問を抱えた。
段々と、考えれば考えるほど、カナが見えなくなっていった。
その疑問を、解決出来るかもしれない希望を、一つ、思い出した。
『保護』されたカナの『保護者』の立ち位置になっていたのは、この国の最上段、つまり、一番偉い人だった。
その人に訊けば、何か掴めるかもしれない。
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