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新世界

世界最強の勇者、アリーゼ

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 突然、私の前に現れた黄金と黒に煌めく鎧と甲冑を着けた騎士。その騎士は自信満々な様子で自分が『世界最強の勇者』と名乗った。
 
 突然の事で困惑していると、私の背後から男の声が聞こえた。
 
「おい、なんべん言わせるんだ、いつも『速く行くな』と言っているだろ! このアホエルフ」
 
 私の隣にはいつの間にか、髭を蓄えた小さなオッサンが居た。 
 
 は? エルフ? このデカブツが?
 
「クウゥゥ! やっぱりムートのその言葉は私の体にチクチク入って気持ちぃねぇ!」
 
「は?」
 
 そのデカブツ騎士は、自分の体を抱きしめながらクネクネと体を揺らす。なんなんだこの騎士というかドMは……。
 
 デカブツ騎士は血で濡れた剣を持っていたハンカチで拭い、それを腰に付けていた鞘に仕舞った。
 
「まずは炎の鎮火と怪我人の治療してからだな、君も手伝ってくれ」
 
 さっきとは違ったテンションでデカブツ騎士はそう言って、辺りを覆っている炎を鎮火し、負傷したエルフや、亡くなってしまったエルフを埋葬した。
 
 なんとか魔族達の襲撃騒動を終わらせると、デカブツ騎士は私に歩み寄ってくる。
 
「君、私の故郷を助けようと戦ってくれたんだよね、感謝するよ」
 
 デカブツ騎士はそう言うと、重そうな甲冑を脱ぎ、その素顔を私に見せた。長い金髪が肩に滑っており、キリッとした輪郭で顔が整っていて、驚く事にそのデカブツ騎士は綺麗な女のエルフだった。
 
「あ、アンタ、ナニモン……?」
 
 私が戸惑いながらもう一度聞くと、彼女は頬を照れくさそうにかきながら、
 
「あれ? 聞こえなかった? 私は巷で「世界最強の勇者」と呼ばれている一般エルフだよ」
 
 こ、コイツが勇者……。
 
「驚きだろ? コイツ身長190cmあんだぜ?」
 
 隣にいたムートと言われていた、小さなオッサンがそう言った。
 
 確かにこのデカブツエルフは私の身長より高い……いや驚くのはそこじゃない。
 
「名前は?」
 
「私? 私はアリーゼ・ラプラス。この里出身のエルフで、ベルセルク王国の勇者だ。……たまたま私の古里の長老に呼び出されてここに来たのが運が良かった。数人の死者や怪我人がでてしまったが、これ以上の惨劇にならなくて本当に良かったよ」
 
「おぉ、アリーゼよ、帰ってきたか」
 
 そんな話をしていると長老が現れ、長老は蓄えた髭を触りながら言う。
 
「あ、長老だ。まだ生きてたんですね!」
 
「ほっほっほ、貴様のその生意気さは勇者になっても変わっておらんなぁ。ほら外で話すのもあれだから、ワシの家でゆっくり話そうじゃないか、ミズシマちゃんも来なさい」
 
 長老はそう言って私達を家へ招き入れた。家へ招いた長老は、椅子に座っていた私とアリーゼ、ムートにお茶を出すと、対面式で椅子に座った。
 
「アリーゼ、ちょっとだけ冒険の話を聞かせてくれないか?」
 
 長老が微笑んだ表情を浮かべて言うと、アリーゼは自信満々な様子で自分が体験してきた冒険話を私達にした。
 
 暗黒竜と呼ばれる竜を倒した話、ベルセルク王国というところで美味しいものを食べた話、そんなくだらない話やスリル満点の話を彼女はしていった。
 
「良い旅をしてるようで良かった。……アリーゼ、少し君に頼み事をしたいんだが聞いてくれるか?」
 
 さっきまで健やかな笑顔を見せていた長老は、少し真面目な雰囲気を出してアリーゼに問いかける。
 
 それを聞いた彼女もまた真剣な顔になる。
 
「手紙で大体のことは伝えているが、君の隣に居る嬢ちゃん、ミズシマサキちゃんをお前の旅に連れて行ってくれないか?」
 
「……長老、これは手紙でも言いましたが、ダメです。ある程度の戦闘経験があったとしても私とムートの旅はとても険しい。エルフならともかく人間となると……それに手紙でも見ましたが人を探しているのなら、ギルドや冒険者に言って情報を待っていた方がいいと思——」
 
「それじゃダメ!」
 
 アリーゼが真剣な様子で話している中、私は机を叩きその話を遮った。その瞬間、緊張した空気が流れた。
 
「待ってちゃ、待ってちゃダメなんです」
 
 私がそう言うと、アリーゼは真剣な眼差しで、
 
「……どうして待ってちゃダメなの?」
 
 そんな彼女の問いかけに、私はアリーゼ達の方へ体を向け、その問いかけに答える。
 
「リガドは……私の探している人は私にとってとても大切な人なんです。そんな人が魔物や事件なんかに巻き込まれてしまってはもう遅いんです……お願いします! 私をあなた達の旅に連れて行かせてください‼︎」
 
 私はアリーゼ達に頭を下げ言った。私の理由を聞いたアリーゼは難しい表情を浮かべ、私に再び問いかける。
 
「死んでも私達に文句言わない? 死ぬ覚悟は出来てる? 決意は固まってるの?」
 
「死ぬ覚悟なんてとっくに出来てます。その人を探すためなら私は命を捨てる覚悟です」
 
 私は自分の決意を正直に彼女に言った。それを聞いた、アリーゼはフッと笑い、
 
「……じゃあ私の旅についてこられるか、テストしようか!」
 
「て、テスト?」
 
「そ、テスト。テスト内容は私に一撃でも攻撃を当てること。もし当てることが出来たら、その大切な人を探す間だけパーティに入れてあげる。でも、私の攻撃が当たったらそこでテストは終わり、不合格。どう? やる?」
 
「やります!」
 
「決意は伝わった。戦う場所決めていいよ。言っとくけど私結構強いよ? あ、でもちょっと待ってこの鎧脱いでくるから! めちゃくちゃ熱くて!」
 
 ※
 
 世界最強と謳われる勇者のテストを受けることになった私は、場所をいつも魔物を狩っている森の中ですることにした。
 
「ふーん、ここでミズシマちゃんは戦闘訓練してるんだ。……そんじゃ殺さない程度に手加減してあげるからかかってきな? どこからでも相手してあげる」
 
 鎧を脱いだアリーゼは、こちらを挑発するように手首を縦に振る。
 
 剣は抜かないか、舐められてるな。
 
「チッ! 生意気な奴だ!」
 
 身体強化の魔法を使わずに私は、足に力を入れ、地面をかち割るほどの瞬発力でスタートを切った。
 
 普通の人間じゃ認識できないスピードで走っていると、驚く事にアリーゼの間合いに簡単に入ることが出来た。
 
 そして、目と鼻の先まで距離が近づいた時、私はすかさず回し蹴りを入れる。
 
 ——が、彼女はそれを簡単に避けた。
 
「動きが見え見え。これじゃあ、私に攻撃を当てるなんて——夢のまた夢だよ?」
 
 アリーゼは私の隙をついて高速の手刀を入れてくる。
 
 手刀が私の首元へ迫る——が、私はそれを体を反らし、ギリギリのところで避ける。
 
「お? やるねぇ! でもコレはどうかな?」
 
 アリーゼは言って、手刀を繰り出したあと、ノータイムで今度は蹴りを入れてくる。
 
 ——それも、私は後ろに向かってバク宙して回避する。
 
「ミズシマちゃん、良い動きするねぇ——フィジカルの天才かな?」
 
 なんとアリーゼは今度は音もなく一瞬で私に近づき、私の顔面に向かって拳を入れようとする。
 
 しかし、私はそれを少し余裕をもって横に避け、後ろへジャンプしながら彼女から距離をとる。
 
 この女、ちっとも本気でやってない、まるで彼女の手の平で踊らされてる感覚だ……。
 
「どうしたの? もっとかかってきな? 私に強烈な痛みを当ててみて」
 
 こうなったら……アリーゼを殺す気で行くしかない! 鼓動を上げろ、心臓のリズムを上げろ、全身全霊でこの戦いを楽しめ!
 
「フィジカルブースト!」
 
「——ッ!?」
 
 私は身体強化の魔法を3年ぶりに解き放った。体の底から湧き上がってくる力を一気に足に集中させ、剣を構える。
 
 そして、地面を大きく割る程に力を入れ、私は瞬間的な速さで森の中にある木々に飛び移る。
 
 木々に飛び移りを繰り返しながら、その合間に私はアリーゼに攻撃を仕掛ける!
 
「へぇ、この森の戦場を生かした戦い方、ミズシマちゃんが何でここを戦場にしたのかが分かったよ」
 
 彼女はそう言いながらも、私の閃光の斬撃達を華麗に避けていく。
 
 もっともっとだ! もっともっと! スピードを上げろ!
 
 私は木々に飛び移る瞬間に起こる瞬発力を生かしながら、スピードを上げ攻撃していく。
 
「——ッ!」
 
 その時、私はアリーゼの隙を見つけた。完全な隙だった、一切隙を生まない彼女が見せた隙、それは斬撃を避けた直後に体勢を整える時の隙だった。
 
 ——そして、アリーゼの一瞬の隙が見えた私は、攻撃を一瞬だけ止め、彼女の予測外の方向から攻撃を仕掛ける!
 
 思惑通り、私は彼女の間合いに入った!
 
 アリーゼの首に向けて横に振りかざす刃。
 
 が、その直後、アリーゼは私が近づく瞬間、彼女はこうなることを知っていたかのようにニヤリと笑った顔をし、私の渾身の一撃を避けやがった!
 
「残念、今さっきのはブラフだよ」
 
 そして、アリーゼは直ぐに体勢を立て直し、私の首元に向けて手刀を放つ!
 
「——そう来ると思ってたさ!」
 
「——ッ!?」
 
 私は迫り来る彼女の手刀をギリギリのところで片手でいなし、持っていた剣の刃をアリーゼの首元へ向ける。
 
 ——そして、アリーゼの首元にソッと刃を当てた。
 
「……合格だ」
 
 緊迫した空間の中でアリーゼは納得したように笑い言った。
 
 全神経を使って戦ったせいか、私は思わず「良かったぁ」と言葉を漏らし、その場で膝から崩れ落ちた。
 
「良い戦いだったよ、ミズシマちゃん」
 
 彼女はそう言って、私に手を差し伸べる。それを言われた自分は思わず、
 
「何が良い戦いだ、本気出してなかったくせに」
 
 と言い、差し伸べられた手を取り、立ち上がった。
 
「まぁ素直に喜んだほうが良いよ、私にこの試験で一発でも攻撃を当てたのはミズシマちゃんが初めてだからさ」
 
「はいはいそうですか~、あぁもうめっちゃ疲れた~」
 
「明日は朝早くからこの里を出るから寝坊はしないでね?」
 
「はいはい~」
 
 私は彼女に背中を向けて言って、その場を立ち去った。
 
 ※
 
 私の前から去っていく水島ちゃんを眺めていると、この戦いを見ていたのかムートが私の元へ歩み寄ってきた。
 
「ある意味凄い人間だったな、生意気ながらも天才的なフィジカルの良さを持つ。お前が対人戦で負ける所を見たのは何百年ぶりだっけな……悔しいか?」
 
「ムート、あまり人の勝ち負けに漬け込むのは良くないよ?」
 
 そう言って私がカッコよく去ろうとした時、
 
「やっぱ悔しいんだな」
 
「うるさい! 悔しくなんかないもん!」
 
 ※
 
 アリーゼのテストを終え、宿の一室に戻った私は疲れからか、崩れ落ちるようにベットの上に倒れた。
 
「絶対に探し出すからね、リガド……だから待って……て……」
 
 ※
 
 次の日の早朝、私は里を出る準備をして、宿の人に3年間のお礼をし、未だに目を覚まさない海瀬のところへ行き、医者の先生に海瀬のことを頼んだ。
 
 剣を背中に仕舞い、緩んだ両頬をパシパシと叩く。
 
「ヨシっ」
 
 そして、私はエルフの里の入口で待っているアリーゼとムートの所へ走る。
 
「お! 遅刻してくるかと思ってたけど、時間通りに来たね! よし、行こうか!」
 
「ん? あれ、アリーゼ、昨日着けてた鎧は?」
 
「あの鎧? あぁあれは私の魔法で作ったやつだから、出したり消したりできるんだよ~。て言っても、あの鎧重いから身軽に動けないんだよね~。あと痛みを感じにくい! ——あ! そういえばムート、水島ちゃんに自己紹介してないよね!?」
 
「あ、そうだったな……でもムート、て言ってるから要らんだろ?」
 
「いや要るでしょ! はいはい、自己紹介して!」
 
 アリーゼはムートの背中を押し、私の前に近づける。
 
「あ、えっと、水島咲です。よろしく」
 
 戸惑いながらも私はムートに手を伸ばす。
 
「フッ、俺はムート、ドワーフだ。よろしく頼む」
 
 ムートはそう言って、私の手を快くとってくれた。
 
「よし! 自己紹介もすんだ事だし! 行こうか!」
 
 アリーゼのその声と共に私達がエルフの里を出ようとした時、ふと、後ろから私の名を呼ぶグルックの声が聞こえてきた。
 
 咄嗟に後ろに振り向くと、そこには里の皆が手を振って見送ってくれていた。
 
 そんな光景を見て私は、心からこの里に来て良かったなと感じた。そんな和やかな雰囲気の中でアリーゼはニヤリと笑い、
 
「ほら、みんな手を振ってくれてるよ? 何か言ったら?」
 
「はいはい、分かりました!」
 
 アリーゼにそう言って、私は手を振ってくれてる皆に向けて、
 
「皆ー! 行ってきまーす!」
 
 と皆に手を振り返した。
 
 そして、私達勇者パーティーは、新たな冒険のスタートを切った。
 
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