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寝起きから全力を尽くします
しおりを挟む誰かが呼ぶ声が聞こえてくる。
遠いのか小さいのか分からないけれど、かすかに私を呼ぶ声が聞こえてくる。
眠いからどうでもいいかと思っていると、頬に何か当たって流れていく感じがする。ゆっくりと目を開けると、霞む視界に何か揺れる物が見えてくる。
ぼうっとしている間も何かが頬に当たる。
次第に視界がはっきりしてくると、細長い黒い物が垂れ下がってきていて、そこから何かが降ってきているみたいだ。
やがて、それの中心に目がいく。そこには、零れ落ちそうになるほどに開ききった血走った眼、耳の近くまでいっているのではと思えるほどに開かれた口。血の気を感じさせない肌色に垂れ下がってきている黒い髪。
私と目が合ったことに気が付いたのか、開いている口がニヤッとした形になり――。
「にゃああああ!」
「お嬢様~、ようやくお目覚めですか~?」
朝からとってもホラー。だけど、私に見えるように出された看板の悪戯大成功の文字で、雰囲気は木端微塵に。
「心臓に悪いわ!」
残念なことに、腹いせに投げた枕は掻き消えた幽霊に当たることはなく、僅かな滞空の後に戻ってくる。
戻ってきた枕が力なくベッドに落ちていくのを見届けると、飛んで行った眠気を寂しく思いながら体を起こす。
「……メアリーさんの仕業ですか」
ベッドの横に控えていたメアリーさんが、正解! と言わんばかりに拍手してくる。いや、嬉しくもなんともないけど。
「目は冷めたけど、心臓に悪い」
溜息と共に口から出ていったけれど、メアリーさんは手早く私を寝かせて布団をかけてくる。
「……メアリーさん。さぼる為に二度寝させよとしてます?」
ちょっと横を向かないでください。後、貴方のお陰で眠気なんてどこかへ飛んで行っているんだけど。
再度溜息を出しながら起き出して顔を洗うと、用意してくれていたワンピースに着替える。
ドレッサーの前に座ると、こんなんでもさすがはメイドさん。あっという間に可愛い髪型にセットして……。
「何でメデューサ風に」
編み込まれた幾本の髪の束が、こう、うねるような感じで固定されている。流石にこれはないと思ったから自分で直そうとしたら、メアリーさんが直してくれる。
僅かに聞こえた笑い声から、わざとだったらしい。メアリーさんの声はとても澄んだ綺麗な声だった。この人、結構な美人さんだったりしません?
身支度を終えて隣の部屋へ移動すると、ドアの近くで蹲るグレイス様と何故か満足そうにしているソフィアさんがいて固まる。
「あ、おはようございます。朝食の準備は整っていますよ」
一足先に部屋から出るソフィアさん。その手には荷物の様に引き摺られていくグレイス様。えっと……気絶しているのかな、あれ。
結局、グレイス様は食堂の椅子にペイっと投げられても身動きをしなかった。今顔が見えたから分かったけど、白目を剥いてる。ソフィアさん何をしたんだろ。そしてグレイス様はあそこで何をしていたんだろう。
気絶しているグレイス様を誰も気にすることなく朝食が始まりまる。
並べられたのは真っ白な食パン、オムレツ、サラダにスープといった標準的な洋食といった感じ。見た目はごく普通の色で、怪しさの欠片もないことに一安心。
静かに食べ終えると、目の前に座っているグレイス様は気絶したまま。起こさないのかとソフィアさんがいるだろう部屋の入口へと視線を向けると、目の前に昨日の夜見た胸像が。
胸像に驚いていると、ソフィアさんに促されて部屋の隅に移動すると素早くかつ静かに胸像があちらこちらに運び込まれていく。
「さ、お嬢様。部屋で休憩したら街へ向かいますよ」
「あれはいいの?」
「いつもの事です。お気になさらず」
今日も素晴らしい笑顔ですね、ソフィアさん。部屋に戻る途中で大きな声が聞こえてきたけれど、気のせいと思う事にします。
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