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腹減り雀

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本編

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 諸々の手続きを終えると、精神的な疲労にふらつきながらギルドを出て武具屋へ向かいます。

「こんにちは。レガードさん、魔石がつけられる短杖ありますか?」
「あのなぁ、魔石のついていない杖なんてあるわけないだろう」

 杖に取り付ける場合の用途は、威力の増幅、制御性の向上、片方に特化させるか両方に均等強化のどちらかになるそうです。
 呆れながら説明しつつ見せてもらった物の中から、丁度いい握りの短杖を選びます。

「これ、魔石を外すことってできますか?」
「できるが、外してどうする」
「まあ、実験ですね」

 代金を支払ってから、取り付けられている魔石を取り外します。

 まずは短杖から。こちらにはある魔法陣を貼り付け。次に水属性の魔石を取り出し、こちらにも魔法陣の貼り付けます。それが済んでから短杖に魔石を取り付けます。
 貼り付けた魔法陣が消えてないか確認。どちらも問題なし。これは今後も使えそうですね。

「何してんだ?」
「魔具の製造です。さて、実験しに行きますか」
「は?」

 驚いているレガードさんを置いて武具屋を後にします。

 広場にある噴水の建築予定地側に先程作った短杖の先端をつけて、魔具としての機能を起動させます。

 短杖の半分から先端方向へ八十センチ程の氷が伸びて芯とし、高圧をかけた水流が芯の右側から左側へと周り続け、その水流の中に微小な金平糖状の鉄を入れることで刃とする。
 所謂、ウォーターカッターを魔法で再現したもの。

 問題なく起動してくれました。維持の方は私の魔力ですが、暫くは大丈夫そうです。

「では、最後の実験と行きますか」

 岩の表面に切っ先を触れさせると、大した抵抗もなく削り取れました。次に、少し斬ってみるとこれまた抵抗を感じる間もなく斬り落とせます。

「成功ですね。どんどん行きましょう」

 できるだけ無駄がないように慎重に狙いをつけ、置いてある岩を斬っていきます。暫く集中して斬っていると、皆さんとゴーレム達が帰ってきました。

「ねぇ、ルルちゃん。桜華さんが岩を斬っているように見えるんだけど?」
「斬ってますね。何がどうなっているのかな」
「斬るのはまだ良いとして、あっちが怖い」

 小父さん達の声が気になって周囲を確認してみると、ラウルさんが腕を組んでこちらを睨みつけ、隣に立つエレノアさんが素敵な笑顔(背後にいる竜が戦闘態勢)でこちらを見ているのを視線の端で捉えました。
 エレノアさんに気が付いた途端、一気に鳥肌が立ちました。

「……えっと、岩はそっちに置いて貰って、一体は残って運搬をお願いします」

 できるだけ視線をエレノアさんの方へ向けないようにしながら指示を出して、二体を護衛の皆さんと送り出す。悲しいことに、ゴーレムまでも駆け足で去っていきました。酷いです。

 ゴーレムに切り出した石板を運んでもらって、親方達が整えた場所に並べて行きます。最初こそ戸惑っていた大工の皆さんだったけど、慣れたのか、はたまた諦めたのか普通に指示を出し始めたので、後を任せて岩の切断を続けます。
 皆さんが頑張ってくれたおかげで、昼前までに基礎分の運搬と切断を終了することができました。

「みなさ~ん。お昼御飯です」

 ピエナさんの元気な呼び声で、作業を中断してお昼御飯です。

 今回は笹熊亭特別出張所ということで、エレノアさんとピエナさんが広場の一角に準備してくれました。皆で丸くなって食べようと思いましたが、気が付けばラウルさんとエレノアさんに挟まれて座っていて、皆さんとは少しばかり距離があります。

 あ、ゴーレムは土地の隅で片膝ついて待機。魔力の回復に努めています。

「偶には外で食うのも悪くないな」
「そうですね。店先に何席か設けてみましょうか」

 二人が話しながら食事している間、私はひたすら大樹を見ながら黙って食事しています。

「ごちそうさん。さて、桜華」
「はい。何でしょうか」

「さっき持っていた剣だが、なんだあれ」
「短杖を流用した魔具……でいいのかな?」
「ふん。丸ごと申請しとけ。魔具かどうか、申請するべきかどうか、こっちで判断する」
「分かりました」

「ところでよ。あのゴーレムだが、自我があるわけじゃないんだよな」
「精霊が動かしているので自我ではないですけど、どうしました?」

 眉を寄せて睨むようにゴーレムを見つめるラウルさん。どうかしたのでしょうか。

「いや、迷宮のゴーレムとの相違点を考えていただけだ」
「迷宮のゴーレムですか。そういえば、精霊がゴーレムから離れていないですね」

 何かあったのかな。気になるので見に行ってみましょう。

 ゴーレムに近寄って精霊に話しかけてみると、ここに居たいという返事が返ってきます。どうやら魔石の住心地が良くて離れるのが嫌らしいです。

 念のため魔石を見える位置まで移動してもらうと、魔石の形が球体に変わっているのと同時に、魔石と精霊の間に強固な繋がりの様なものが見えます。これは切り離すことができそうもないです。元の位置に戻してもらい、精霊には好きなようにさせることにしましょう。

「今のが、核に使っている魔石か」
「そうです。あの、ラウルさん。足音を立ててもらえると有難いのですが」

 あの巨体が足音も立てずに真後ろに立つのは、かなりの恐怖感があります。

「迷宮のやつと対して違いが無いように感じるな。どう思う」
「迷宮のゴーレムを見たことがないので、違いを聞かれても答えようがありません」
「それもそうだな。さて、仕事に戻るか」
「そうですね」

 皆さんとゴーレム達には浴槽用の石材運びをお願いし、私はエレノアさんに連れられてギルドへ向かいます。
 大人しく申請書を書いて提出し、エレノアさんが確認しているのを黙って見守ります。

「……これはもう魔導器ですね。桜華さんの名前が表に出ない形で申請を受け付けておきます」

 魔導器は魔法でもって生成された武具の事で、現在作れる職人は一撮み程度だそうです。
 なお、魔法付与がなされた武具は魔導器を目指して作られた物だそうです。

「お願いします」

 呆れた顔のエレノアさんですが、背後の竜が戦闘態勢なのでカウンターに付くほど頭を下げます。
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