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腹減り雀

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本編

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 ギルドの中へ入ると今朝の申請の際に奇声を上げた職員が丁度近くにいたので、声を掛けます。

「こんにちは。少しいですか?」
「え? あ! ああ! あの、ちょっと待っていてください!」

 返事をするまもなく奥へと走っていく職員さん。忙しない人です。仕方ないので、手近にいた職員を捕ます。

「素材の買い取りと、ちょっとした事をお願いしたくて」
「分かりました。こちらへ」

 案内された場所で、カウンターの上に毛皮と爪と牙を載せます。

「これは……グルーベア!」

 何故か大きな声を出したので、周囲にいた職員さんがざわつきました。

「しかも、大きい」

 毛皮を広げてその大きさに口を開けっ放しにする。数人の職員さんが近づいてきて、その毛皮を見つめて硬直しました。
「……あの、これ、どうやって仕留めました?」
「どうって、頭砕いて首を切り裂いただけですが、どうしてですか?」
「……は?」

 職員一同口を開けて固まりました。ある意味衝撃的な光景ですね。しかたないので、毛皮の頭部を指さすと、職員さんが確認してまた硬直しました。

「あの?」
「……あ。すみません。傷のない綺麗な毛皮なので、どうしても気になりまして。そうですか。頭を……頭を砕くって何ですか!」

 うんうんと頷いていた職員さんだったけど、最後の最後で盛大にツッコミがはいりました。

「丁度いいところに頭があったので、つい」

 後ろを振り返ってみれば、ディンさん達は首を横に振っています。味方してくれないらしい。
 視線を前に戻せば、職員一同が一様に疲れて顔をしていました。

「……まあ、考えてもしょうがないですね。では、狩猟者登録証を見せてください」

 無理やり納得しましたという雰囲気の職員さん。

「狩猟者登録をしていないので持っていません。拙かったですか?」
「……は? ……ああ、いや。問題がある様な、ない様な」

 額に冷や汗が光る職員さんと、ざわつく周囲の職員さん。

「グルーベアは魔獣です。ですから、一人前の狩猟者でないと逆に餌になります。なのに……はぁ。すべて買い取りですか?」
「牙と爪は買い取りで、できれば毛皮は絨毯にしたいのですが、できますか?」
「できますよ。職人を手配しましょう。早ければ明日の朝になります」

 会話しながら査定を進めていきます。手馴れているようで、あっという間に終わりました。

「買い取り金額から差し引いてください」
「分かりました。買い取りは五千カーナ、絨毯の加工は……四千カーナなので、差し引き一千カーナですね」

 お金を受け取ると、最初の職員さんが駆け寄ってきました。

「あ、あの。マスターが会って話がしたいとおっしゃっています。来ていただけますか?」

 何か不味い事でもしたのでしょうか。後ろの二人を見ても首を傾げるだけなので、兎にも角にも会ってみることにします。
 職員さんに案内されるまま奥まで入り、少し大きな扉の前で止まる。

「マスター。桜華さんをお連れしました」
「ああ。入ってくれ」

 中へ入ると執務机の向こうに熊がいました。比喩でもなく本当に熊。正確に言うなら黒い熊の獣人。羽根ペンを鬱陶しいと言わんばかりの顔で掴み書類を睨んでいます。

「ギルドマスターのラウルだ」
「渡来人の桜華と言います」
「早速だが、桜華は魔具の申請を行ったな」
「はい。それが何か?」
「魔具の申請は、随分と久しぶりの事だ。だから、お前さんの事を知っておこうと思ってな」
「私以外の渡来人で作っている人はいないのでしょうか」
「本部に聞いたが、渡来人で魔具職人をやっているのはお前さんだけだ。これからも色々作ってほしい」
「できる範囲でお受けします」

 私の返事に満足そうに頷くラウルさん。手に持っていた書類を置くとこちらへと向き直る。

「ところで、魔法袋の魔法陣がどういう構成か分かるか? 既存の物は細かすぎてよく分からなくてな」
「分かりますけど、どうすれば宜しいので?」
「下で申請しといてくれ。できるだけ分かりやすく」
「分かりました」

 聞いておいて驚いているラウルさんに挨拶して辞去すると、要請通りに申請書を書いて提出してからギルドを後にして、昼ご飯を食べるために笹熊亭に戻ります。
 ご飯を食べていると、ディンさんが今更聞くのも変ですがと、前置きして質問してくる。

「桜華さん。木とか糸玉とか何に使う予定で?」
「色々と作る材料です」

 考え込んでいるディンさんを見ながらご飯を食べ終えると、ダガンさんの鍛冶場へ顔を出します。

「こんにちは。ダガンさんいますか?」
「おう。ちょっと待っていてくれ」

 戸口から鍛冶場を除くと、ダガンさんと一緒に若い男性が鎚を真剣に振るっています。
 暫くその様子を見物していると、焼き戻しをして仕上げを行う。現れたのは鈍色に輝くナイフ。

「後は研げば完成だ。分かったか?」
「はい」
「よし。じゃあ、ちょっと休憩だ」

 立ち上がったダガンさんが、若い男性を伴って鍜治場から出てきました。

「こいつは渡来人のセンで、昨日から来た」

 紹介されたので、名乗りながらお辞儀します。センさんは少し慌てながらもお辞儀を返してくれました。

「それで、どうした?」
「石窯用の煉瓦を二つ欲しくて。後、耐火煉瓦の薄板の注文です」

 カウンターの上に置かれているメモ用紙に、板のサイズと形状を書いて渡す。

「そうか。石はそこにある。あと、これもできているぞ」

 支払いを済ませて、煉瓦とコンロ用の五徳(二個)を受け取って鞄の中へ。

「あ。そうだ」

 メモ帳を再度掴み、一生懸命記憶を掘り出して書き込み。書き上げた物を渡すと、ダガンさんが真剣な顔で目を通す。

「こいつは……まあ、何とかできるかな。ちょっとこい」

 案内されるまま鍛冶場に入る。初めての光景に周囲を観察している間に、ダガンさんが手早く加工していきます。
 何度か試作しながら、遣り取りをこなして完成させたのは万年筆。

 インクを内部にため込む機構は再現していないので、ペン先をインクに浸す必要性はあるけれど、書き心地は羽ペンよりましです。
 私用に二本、ダガンさん用に大きさを調整した物を二本お願いしました。

「こいつは良いな。作っていいか?」
「お好きにどうぞ」

 満足そうに笑っているダガンさんに、フライパン、鍋、薬缶も注文して代金を払います。

「石窯は明日だ。大丈夫か?」
「午前中はカームさんの手伝いがあるので留守にしますが、中に入って作業してください」
「わかった」

 作業に戻るダガンさんにお辞儀してから、ようやく帰宅します。テラスに届いていた木材を確認すると、石窯に使う魔方陣の模索。
 あまり魔力が残っていないので慎重に考えてから実行して、赤熱化、冷却、凍結を発見。端材や煉瓦で実験も行っていき、効果範囲を確認していきます。
 組み合わせ方を間違えなければ、安全性も確保できることが分かりました。魔道具って便利です。
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