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本編
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まずは精霊達が作ってくれた僅かばかりの水路の先まで移動して、脚に気を集中させます。
次に蹴り抜くと同時に気を放つと、轟音と共に地面が裂けます。幅は足りないですが、深さは何とかいけそうですね。一度に掘れるのは数メートル分。いけるでしょうか?
「フェエエ!」
「ええええ!」
「お姉ちゃん、すごい!」
ルーナさんとノノさんの叫び声が聞こえてきましたが、気にすることなく突き進みます。
繰り返すこと数十回。なんとか川に到着しました。水は確実に流れていますが、幅がないために勢いが足りません。何とかしたいところですが、もう足に力が入りません。
「桜華さん、池の方から何か来ます!」
ディンさんが身構えながら警告すると、夜番の方々がマコちゃん達の前で守るように構えてくれます。私も、いつでも動けるように身構えます。
薄闇の中きこえてくるのは足音ではなく、何かが勢い良く削れる音と何かがぶつかったような重低音。
あれ、音に交じって一際大きな物が聞こえてきました。この声は……。
「皆さん下がって下さい。多分、シエロです」
「へ、あ、はい」
ディンさんが構えを解いて水路から距離を取ると、他の皆さんも距離を取って見守る体勢に入りました。
少しして見ることができた姿は、やはりシエロでした。水面から顔を出すと、口の前に魔力を集めていきます。ある程度集まると、魔力を水に変換して周囲にいる精霊達と力を合わせ、すごい勢いで前方に吹き付けています。私がやっていたよりも幅が広く、深く、数メートル分長く削っていきます。
「ノノさん、あれって竜魔法ですか?」
「ふぇ、あ、はい。そうです」
ルーナさんと一緒に固まっていたノノさんでしたが、質問してみればすぐに返事をしてくれました。
魔力の扱いとか教えていませんが、本能というやつでしょうか。
「そうじゃなくて、シエロちゃんってあの大きさでしたっけ!」
ノノさんが叫び、ルーナさんがシエロを指さします。ただ、少し声が大きかったのかディンさん達が周囲を睨みながら声を小さくするように注意を促します。
さて、肝心のシエロですが。水中にいるのではっきりとは分からないものの、頭と尻尾の位置関係から見て、昼に見た時より大きくなっているようです。具体的には、今朝の段階で一メートルぐらい。今は……四メートルぐらいでしょうか。
「立派になっていますね」
「桜華さんが、子供の成長を見守る母親になってますぅ!」
ノノさんとルーナさんの叫び声を聞きながら全員で見守る中、シエロと精霊達が川に到着しました。顔を水面から出して自慢げにしていたので頭を撫でながら現状の確認をします。
シエロが移動しながら竜魔法を使っていた結果、不格好ながらもしっかりした水路が出来上がっていて確かな水の流れができています。
「池の方も見てみましょうか」
池の方も水が溢れないぐらいの水位で落ち着いたようです。
「大丈夫そうですね。さ、早く帰って晩御飯に――」
「いやいや。桜華さん、あの水柱はどうするんですか」
家に帰ろうとしたらディンさんに呼び止められました。ルーナさんと一緒にいまだ勢いの衰えない水柱を指さしています。
しょうがないので、心なしか上目遣いになっているシエロを呼び寄せて聞いてみます。
「……えっと、潜って遊んでいたら細い道を見つけて、無理やり通ったらこうなったと」
精霊達の動きと合わせて考えると、池を作る際に地下にある水脈とそれなりの穴で繋ぐことによって水を引いていましたが、その穴をシエロが広げてしまい、水が溢れてしまったようです。
経緯をディンさんに伝えて対処するか確認してみると、手の打ちようがないのでこのままにすることに。
「シエロ。今度からは気を付けるように。ね」
「く~」
「そういえば、アクアはどうしたの?」
質問してみれば、シエロの後ろから浮かび上がってきました。アクアは大きくなっていないようですね。
安心してこの場から離れようとしたら、水柱から七歳以前後の愛らしい女の子が出てきました。ただ、体が水で出来ているようです。
水の上をすべるように近寄ってきてシエロの横に止まると、綺麗なお辞儀を披露してくれました。
「こんばんは、桜華さん」
「こんばんは。えっと……」
「私は水の精霊です。水の子達から面白そうな話を聞いて遊びに来ました」
精霊にも階級というか区分というか、そういう感じの物があって、普段私が見ている精霊より数段上の存在らしいです。
「これはご丁寧にありがとうございます。どうぞ、好きなだけ遊んでいってください」
「ありがとうございます」
暫くはこの池に留まってシエロたちと遊んでいくそうです。なお、結構な勢いで水が出ているので枯れないか質問すると、水が枯れることはないと断言してくれました。
「分かりました。では、晩御飯に……シエロのご飯どうしましょう」
ここまで大きくなると、家に入るのが難しいです。ここまで持ってくるか、ここで料理するか。どうしましょうか。
「それなら大丈夫ですよ。この水場を目指して魔物やら動物やらが来るので、食べ放題です」
水の精霊さんの両手を大きく広げて浮かべる無邪気な笑顔が、とっても可愛いです。
「そうですか。シエロ、食べ過ぎはだめですよ。それから、狩るのは食べる分だけ。良いですか」
「きゅ」
頷いたシエロの頭を撫でると、嬉しそうにします。体はすっかり大きくなりましたが、他は全く変わってないですね。
「さて、今度こそ家に帰ってご飯にしましょうか」
少し顔色を悪くして遠くを眺めているルーナさんと、俯きながらお腹のあたりに手を当てているディンさんに声をかけて帰宅します。
次に蹴り抜くと同時に気を放つと、轟音と共に地面が裂けます。幅は足りないですが、深さは何とかいけそうですね。一度に掘れるのは数メートル分。いけるでしょうか?
「フェエエ!」
「ええええ!」
「お姉ちゃん、すごい!」
ルーナさんとノノさんの叫び声が聞こえてきましたが、気にすることなく突き進みます。
繰り返すこと数十回。なんとか川に到着しました。水は確実に流れていますが、幅がないために勢いが足りません。何とかしたいところですが、もう足に力が入りません。
「桜華さん、池の方から何か来ます!」
ディンさんが身構えながら警告すると、夜番の方々がマコちゃん達の前で守るように構えてくれます。私も、いつでも動けるように身構えます。
薄闇の中きこえてくるのは足音ではなく、何かが勢い良く削れる音と何かがぶつかったような重低音。
あれ、音に交じって一際大きな物が聞こえてきました。この声は……。
「皆さん下がって下さい。多分、シエロです」
「へ、あ、はい」
ディンさんが構えを解いて水路から距離を取ると、他の皆さんも距離を取って見守る体勢に入りました。
少しして見ることができた姿は、やはりシエロでした。水面から顔を出すと、口の前に魔力を集めていきます。ある程度集まると、魔力を水に変換して周囲にいる精霊達と力を合わせ、すごい勢いで前方に吹き付けています。私がやっていたよりも幅が広く、深く、数メートル分長く削っていきます。
「ノノさん、あれって竜魔法ですか?」
「ふぇ、あ、はい。そうです」
ルーナさんと一緒に固まっていたノノさんでしたが、質問してみればすぐに返事をしてくれました。
魔力の扱いとか教えていませんが、本能というやつでしょうか。
「そうじゃなくて、シエロちゃんってあの大きさでしたっけ!」
ノノさんが叫び、ルーナさんがシエロを指さします。ただ、少し声が大きかったのかディンさん達が周囲を睨みながら声を小さくするように注意を促します。
さて、肝心のシエロですが。水中にいるのではっきりとは分からないものの、頭と尻尾の位置関係から見て、昼に見た時より大きくなっているようです。具体的には、今朝の段階で一メートルぐらい。今は……四メートルぐらいでしょうか。
「立派になっていますね」
「桜華さんが、子供の成長を見守る母親になってますぅ!」
ノノさんとルーナさんの叫び声を聞きながら全員で見守る中、シエロと精霊達が川に到着しました。顔を水面から出して自慢げにしていたので頭を撫でながら現状の確認をします。
シエロが移動しながら竜魔法を使っていた結果、不格好ながらもしっかりした水路が出来上がっていて確かな水の流れができています。
「池の方も見てみましょうか」
池の方も水が溢れないぐらいの水位で落ち着いたようです。
「大丈夫そうですね。さ、早く帰って晩御飯に――」
「いやいや。桜華さん、あの水柱はどうするんですか」
家に帰ろうとしたらディンさんに呼び止められました。ルーナさんと一緒にいまだ勢いの衰えない水柱を指さしています。
しょうがないので、心なしか上目遣いになっているシエロを呼び寄せて聞いてみます。
「……えっと、潜って遊んでいたら細い道を見つけて、無理やり通ったらこうなったと」
精霊達の動きと合わせて考えると、池を作る際に地下にある水脈とそれなりの穴で繋ぐことによって水を引いていましたが、その穴をシエロが広げてしまい、水が溢れてしまったようです。
経緯をディンさんに伝えて対処するか確認してみると、手の打ちようがないのでこのままにすることに。
「シエロ。今度からは気を付けるように。ね」
「く~」
「そういえば、アクアはどうしたの?」
質問してみれば、シエロの後ろから浮かび上がってきました。アクアは大きくなっていないようですね。
安心してこの場から離れようとしたら、水柱から七歳以前後の愛らしい女の子が出てきました。ただ、体が水で出来ているようです。
水の上をすべるように近寄ってきてシエロの横に止まると、綺麗なお辞儀を披露してくれました。
「こんばんは、桜華さん」
「こんばんは。えっと……」
「私は水の精霊です。水の子達から面白そうな話を聞いて遊びに来ました」
精霊にも階級というか区分というか、そういう感じの物があって、普段私が見ている精霊より数段上の存在らしいです。
「これはご丁寧にありがとうございます。どうぞ、好きなだけ遊んでいってください」
「ありがとうございます」
暫くはこの池に留まってシエロたちと遊んでいくそうです。なお、結構な勢いで水が出ているので枯れないか質問すると、水が枯れることはないと断言してくれました。
「分かりました。では、晩御飯に……シエロのご飯どうしましょう」
ここまで大きくなると、家に入るのが難しいです。ここまで持ってくるか、ここで料理するか。どうしましょうか。
「それなら大丈夫ですよ。この水場を目指して魔物やら動物やらが来るので、食べ放題です」
水の精霊さんの両手を大きく広げて浮かべる無邪気な笑顔が、とっても可愛いです。
「そうですか。シエロ、食べ過ぎはだめですよ。それから、狩るのは食べる分だけ。良いですか」
「きゅ」
頷いたシエロの頭を撫でると、嬉しそうにします。体はすっかり大きくなりましたが、他は全く変わってないですね。
「さて、今度こそ家に帰ってご飯にしましょうか」
少し顔色を悪くして遠くを眺めているルーナさんと、俯きながらお腹のあたりに手を当てているディンさんに声をかけて帰宅します。
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