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本編
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「飾りは後にするとして。桜華さん、照明用の魔具をお願いします」
「分かりました。どのような形にしますか?」
「そうですね……あ。桜華さんの持っているカンテラと同じ物がいいですね。できますか?」
「傘とガラスは一度ダガンさんに頼んでいますし、木の部分は私でも作れるので可能です。ただ、ダガンさんは忙しいのでどうなるか」
「そうなると、どうしましょうか」
さすがにエレノアさんでも無理強いはしたくないようで、小首を傾げてお悩み中。ディンさんはまだ顔色が悪いようです。
「お母さん。桜華さんの家の中にある照明はどうかな」
「そういえばそうね。お願いできますか」
「それぐらいなら。えっと」
鞄の中に入っている蔓の在庫っと。
「あ、蔦の在庫がないですね。取りに行かないと」
「では、ちょっと取ってきますね。さあ、いきましょうか」
「フェ……エエエ!」
返事をする間もなくエレノアさんの姿が消え、ルーナさんの悲鳴が遠ざかっていきました。お仕事は大丈夫でしょうか。
「……ディンさん、どうしましょうか」
「え、ああ、待つしかないかと」
エレノアさんがいなくなってほっとしていたみたいですね。ピエナさんは気にせずシエロの頭を撫でています。
「ピエナさん。公衆浴場にはいきましたか?」
「はい。お母さんと一緒に行きました。気持ち良かったです」
「そうですか。村の人は来ていました?」
「夕方には人でいっぱいだよ」
昼間はお年寄りが交流の場にしているそうです。順調なようで何より。
のんびり話し込んでいると、南門の方からロームさんがやってきました。ただ、一度目を丸くして口を開けていましたが。
「こんにちは、桜華さん、ピエナさん、ディンさん」
「こんにちは」
ロームさんが来たということは商隊が来たという事ですね。子供達が南門の方へ走っていきます。
そんな子供達に手を振りながら、ロームさんが店外席に視線を移し、直ぐ私の方へ向けます。
「実は、桜華さんにお願いしたいことがありまして」
「なんでしょうか」
「内陸の町で魚が食べたいという話がよくあります。ですが、魚は腐りやすくて町までの移動の間に腐ってしまいます。現在はごく少量を走竜で運ぶという方法を取っています」
それでも、届けられるのは採取地の近くで、かなりの値段になるそうです。
「どうにかならないか相談を受けて悩んでいましたら、渡来人の方から皆さんの世界ではどこでも安く手に入ると伺いました。そこで一つ相談をと思いまして」
「なるほど。そうですね……こっちでも再現可能なのは、手間のかかる方法を除くと活き締めですか」
冷凍だと解凍するのが手間です。方法を間違えれば腐ることもあります。生簀を使った運搬は問題が山の様にありそうです。
なお、他の渡来人に聞かないのはどうしてか聞くと、信用の問題らしいです。私個人としては嬉しいのですが、他の人が信用されていないようで寂しいですね。
「活き締めですか?」
「魚を捕った後、それほど間を開けずにこう、鰓の処に刃物を入れて切断して内臓を処理すれば、そのままにしていたよりは鮮度が保てます」
地面に簡単な魚の絵を描いて説明します。絵を覗き込むロームさんの横から、ピエナさんとディンさんも興味深そうに眺めています。
「後は凍らせる寸前まで冷やせば、それなりの距離まで運べると思います」
「なるほど。でっすが、量を運ぶには魔法袋が便利。しかし、魔法袋に氷を入れても冷えません。どうしたらいいでしょう」
「中に入れたものを冷やす機能を持った魔法袋を作れば解決ですね」
「そんな簡単に……もしかして作れるので?」
「実験しないことには何とも言えません。魔力はまだ残っているので、材料があれば実験できます」
「では、必要なものを持ってきましょう」
急ぎ足で去っていくロームさんを見送ると、ピエナさんにお茶をお願いしてから店外席の一つに座り、ディンさんは周囲を見渡してすぐ立てる体勢で座ります。
シエロとアクアを撫でながら文字探し。といっても今まで探してきた文字を組み合わせるだけなので、思いの外早く見つけることができました。
「ただいま戻りました。どうでしょうか」
いつの間にかエレノアさんが横に立っています。近づいてくる様子すら分かりませんでした。
エレノアさんが手に持っていた蔦を受け取って確認します。
「少し太いですが、大丈夫です。ところで、ルーナさんはどちらに」
「あちらにいますよ」
示された方を見れば、今にも泣きそうな顔のルーナさんが蔦を抱えながら土煙を上げながら必死に駆けています。
「ルーナさん、どうしたのでしょうか」
「あの子は頑張り屋さんですから」
エレノアさんの優し気な笑みの背後に、獰猛な竜の笑みが見えます。これは必死にもなりますね。
「はひ……はぁ、お、お待たせ……ぜぇ……はぁ、しました」
「お疲れ様です」
抱えていた蔦を受け取ると、代わりにお茶を差し出しておきます。ディンさんが席を立って椅子をすすめると、崩れ落ちるように座り込みました。
「あ、ありがとう、ございます」
「分かりました。どのような形にしますか?」
「そうですね……あ。桜華さんの持っているカンテラと同じ物がいいですね。できますか?」
「傘とガラスは一度ダガンさんに頼んでいますし、木の部分は私でも作れるので可能です。ただ、ダガンさんは忙しいのでどうなるか」
「そうなると、どうしましょうか」
さすがにエレノアさんでも無理強いはしたくないようで、小首を傾げてお悩み中。ディンさんはまだ顔色が悪いようです。
「お母さん。桜華さんの家の中にある照明はどうかな」
「そういえばそうね。お願いできますか」
「それぐらいなら。えっと」
鞄の中に入っている蔓の在庫っと。
「あ、蔦の在庫がないですね。取りに行かないと」
「では、ちょっと取ってきますね。さあ、いきましょうか」
「フェ……エエエ!」
返事をする間もなくエレノアさんの姿が消え、ルーナさんの悲鳴が遠ざかっていきました。お仕事は大丈夫でしょうか。
「……ディンさん、どうしましょうか」
「え、ああ、待つしかないかと」
エレノアさんがいなくなってほっとしていたみたいですね。ピエナさんは気にせずシエロの頭を撫でています。
「ピエナさん。公衆浴場にはいきましたか?」
「はい。お母さんと一緒に行きました。気持ち良かったです」
「そうですか。村の人は来ていました?」
「夕方には人でいっぱいだよ」
昼間はお年寄りが交流の場にしているそうです。順調なようで何より。
のんびり話し込んでいると、南門の方からロームさんがやってきました。ただ、一度目を丸くして口を開けていましたが。
「こんにちは、桜華さん、ピエナさん、ディンさん」
「こんにちは」
ロームさんが来たということは商隊が来たという事ですね。子供達が南門の方へ走っていきます。
そんな子供達に手を振りながら、ロームさんが店外席に視線を移し、直ぐ私の方へ向けます。
「実は、桜華さんにお願いしたいことがありまして」
「なんでしょうか」
「内陸の町で魚が食べたいという話がよくあります。ですが、魚は腐りやすくて町までの移動の間に腐ってしまいます。現在はごく少量を走竜で運ぶという方法を取っています」
それでも、届けられるのは採取地の近くで、かなりの値段になるそうです。
「どうにかならないか相談を受けて悩んでいましたら、渡来人の方から皆さんの世界ではどこでも安く手に入ると伺いました。そこで一つ相談をと思いまして」
「なるほど。そうですね……こっちでも再現可能なのは、手間のかかる方法を除くと活き締めですか」
冷凍だと解凍するのが手間です。方法を間違えれば腐ることもあります。生簀を使った運搬は問題が山の様にありそうです。
なお、他の渡来人に聞かないのはどうしてか聞くと、信用の問題らしいです。私個人としては嬉しいのですが、他の人が信用されていないようで寂しいですね。
「活き締めですか?」
「魚を捕った後、それほど間を開けずにこう、鰓の処に刃物を入れて切断して内臓を処理すれば、そのままにしていたよりは鮮度が保てます」
地面に簡単な魚の絵を描いて説明します。絵を覗き込むロームさんの横から、ピエナさんとディンさんも興味深そうに眺めています。
「後は凍らせる寸前まで冷やせば、それなりの距離まで運べると思います」
「なるほど。でっすが、量を運ぶには魔法袋が便利。しかし、魔法袋に氷を入れても冷えません。どうしたらいいでしょう」
「中に入れたものを冷やす機能を持った魔法袋を作れば解決ですね」
「そんな簡単に……もしかして作れるので?」
「実験しないことには何とも言えません。魔力はまだ残っているので、材料があれば実験できます」
「では、必要なものを持ってきましょう」
急ぎ足で去っていくロームさんを見送ると、ピエナさんにお茶をお願いしてから店外席の一つに座り、ディンさんは周囲を見渡してすぐ立てる体勢で座ります。
シエロとアクアを撫でながら文字探し。といっても今まで探してきた文字を組み合わせるだけなので、思いの外早く見つけることができました。
「ただいま戻りました。どうでしょうか」
いつの間にかエレノアさんが横に立っています。近づいてくる様子すら分かりませんでした。
エレノアさんが手に持っていた蔦を受け取って確認します。
「少し太いですが、大丈夫です。ところで、ルーナさんはどちらに」
「あちらにいますよ」
示された方を見れば、今にも泣きそうな顔のルーナさんが蔦を抱えながら土煙を上げながら必死に駆けています。
「ルーナさん、どうしたのでしょうか」
「あの子は頑張り屋さんですから」
エレノアさんの優し気な笑みの背後に、獰猛な竜の笑みが見えます。これは必死にもなりますね。
「はひ……はぁ、お、お待たせ……ぜぇ……はぁ、しました」
「お疲れ様です」
抱えていた蔦を受け取ると、代わりにお茶を差し出しておきます。ディンさんが席を立って椅子をすすめると、崩れ落ちるように座り込みました。
「あ、ありがとう、ございます」
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