15 / 69
1937年12月ドイツ第三帝国 オーストリアに対して国民投票を要求
しおりを挟む
「1938年はオーストリアと共に迎えよう。」
そう題された演説にドイツ第三帝国国内だけでなく、オーストリアのドイツ系住人たちは熱狂的であった。
「総統。オーストリアに対して国民投票の最後通牒を送り付け、1ヶ月。ハンガリーよりも先手を打てましたね。」
「ああ、年内に決着が着くことに間違いはない。本当にオーストリア併合をオーストリア国民が認めるのかが不安材料であるな…。」
「その点は大丈夫です。確実にオーストリアは我らに併合されるでしょう。それはもう民主主義によって。」
ゲルトの言葉にヒトラーは苦笑いのひとつも出なかった。世界で最も民主主義的憲法とでも言われるヴァイマル憲法は最も民主主義では無い自分達を生み出し、その我らが最も民主主義な行為によって他国を侵略しているのだから。
「総統。アンシュルスを案じても仕方ありません。我々は立ち止まるわけには行かないのです。」
「ゲルト、お前に言われるまでもない。我々は既に狂気の道へと両足を突っ込んでいる。今更引き返すなどできるわけなどない。」
「いくら狂気の道であろうとも、今はそれが我々にとっての正義なのです。」
二人の間に沈黙が降りる。ヒトラーの机にゲルドは一冊の資料を置いて部屋を出ていった。
「悪魔に魂を売るだけで済めばいいがな…」
外の夕焼けを眺める。流れる最後の雲が夕焼けに飲まれて消えていった。
どれほどそうしていたのか。ヒトラーは自身の机の上に置かれた資料に気付いたのは外が暗くなってからであった。
資料の入った封筒には、もう見なれた最重要機密の文字。知るものが少ない秘密ばかりが増えていく。それが澱の様に溜まっていく。
ため息一つに封筒を開ける。そこには赤い背景に白抜きに題が書かれてあった。
極東と西の巨人、と。
以下は資料の内容である。
極東、大日本帝国中国と開戦後2ヶ月で南京を獲得。和平交渉まで秒読み段階に移る。ただし和平交渉時に大日本帝国、広西軍閥、中国共産党間の摩擦は避けられない状況になると予測される。中国大陸は大東亜共栄圏、コミンテルン、そして東南アジア諸地域に領地を持つ連合国の入り乱れる三つ巴の泥沼化の恐れあり。休戦、停戦時に義勇軍を引き揚げ、被害の拡大を避けるのが得策である。
機甲師団の戦闘データは十分なほど集まった。近接航空支援と機甲師団の整合を測った作戦は想像を絶する突破力を証明した。渡河、丘、平地、市街地といった各戦闘地域で有効なドクトリンの構築が可能となった。この度の義勇軍派遣は非常に有意義であった。
眠れる西の巨人、アメリカは議会の紛糾の末レンドリース法、別称介入法を可決。これは事実上の我々に対する警告であると考えられる。アメリカは世界のあらゆる争いにおいて、自由と平和の名の元に戦争の早期解決を目指して介入するとの事。しかし、軍隊を派遣するのではなく武器貸与による金銭的見返りを求めている。これはレンドリースなどではなく、武器売却法である。立ち直りの遅い経済を立ち直させるきっかけとしての起爆剤としたい本音が透けて見える。交渉次第では本格的な介入、具体的に言えばアメリカ軍の介入は避けられるのではないかと推測される。
資料にざっと目を通したヒトラー。もう彼はこの状況を笑うしかなかった…。
そう題された演説にドイツ第三帝国国内だけでなく、オーストリアのドイツ系住人たちは熱狂的であった。
「総統。オーストリアに対して国民投票の最後通牒を送り付け、1ヶ月。ハンガリーよりも先手を打てましたね。」
「ああ、年内に決着が着くことに間違いはない。本当にオーストリア併合をオーストリア国民が認めるのかが不安材料であるな…。」
「その点は大丈夫です。確実にオーストリアは我らに併合されるでしょう。それはもう民主主義によって。」
ゲルトの言葉にヒトラーは苦笑いのひとつも出なかった。世界で最も民主主義的憲法とでも言われるヴァイマル憲法は最も民主主義では無い自分達を生み出し、その我らが最も民主主義な行為によって他国を侵略しているのだから。
「総統。アンシュルスを案じても仕方ありません。我々は立ち止まるわけには行かないのです。」
「ゲルト、お前に言われるまでもない。我々は既に狂気の道へと両足を突っ込んでいる。今更引き返すなどできるわけなどない。」
「いくら狂気の道であろうとも、今はそれが我々にとっての正義なのです。」
二人の間に沈黙が降りる。ヒトラーの机にゲルドは一冊の資料を置いて部屋を出ていった。
「悪魔に魂を売るだけで済めばいいがな…」
外の夕焼けを眺める。流れる最後の雲が夕焼けに飲まれて消えていった。
どれほどそうしていたのか。ヒトラーは自身の机の上に置かれた資料に気付いたのは外が暗くなってからであった。
資料の入った封筒には、もう見なれた最重要機密の文字。知るものが少ない秘密ばかりが増えていく。それが澱の様に溜まっていく。
ため息一つに封筒を開ける。そこには赤い背景に白抜きに題が書かれてあった。
極東と西の巨人、と。
以下は資料の内容である。
極東、大日本帝国中国と開戦後2ヶ月で南京を獲得。和平交渉まで秒読み段階に移る。ただし和平交渉時に大日本帝国、広西軍閥、中国共産党間の摩擦は避けられない状況になると予測される。中国大陸は大東亜共栄圏、コミンテルン、そして東南アジア諸地域に領地を持つ連合国の入り乱れる三つ巴の泥沼化の恐れあり。休戦、停戦時に義勇軍を引き揚げ、被害の拡大を避けるのが得策である。
機甲師団の戦闘データは十分なほど集まった。近接航空支援と機甲師団の整合を測った作戦は想像を絶する突破力を証明した。渡河、丘、平地、市街地といった各戦闘地域で有効なドクトリンの構築が可能となった。この度の義勇軍派遣は非常に有意義であった。
眠れる西の巨人、アメリカは議会の紛糾の末レンドリース法、別称介入法を可決。これは事実上の我々に対する警告であると考えられる。アメリカは世界のあらゆる争いにおいて、自由と平和の名の元に戦争の早期解決を目指して介入するとの事。しかし、軍隊を派遣するのではなく武器貸与による金銭的見返りを求めている。これはレンドリースなどではなく、武器売却法である。立ち直りの遅い経済を立ち直させるきっかけとしての起爆剤としたい本音が透けて見える。交渉次第では本格的な介入、具体的に言えばアメリカ軍の介入は避けられるのではないかと推測される。
資料にざっと目を通したヒトラー。もう彼はこの状況を笑うしかなかった…。
1
お気に入りに追加
95
あなたにおすすめの小説
日本VS異世界国家! ー政府が、自衛隊が、奮闘する。
スライム小説家
SF
令和5年3月6日、日本国は唐突に異世界へ転移してしまった。
地球の常識がなにもかも通用しない魔法と戦争だらけの異世界で日本国は生き延びていけるのか!?
異世界国家サバイバル、ここに爆誕!
日本が危機に?第二次日露戦争
杏
歴史・時代
2023年2月24日ロシアのウクライナ侵攻の開始から一年たった。その日ロシアの極東地域で大きな動きがあった。それはロシア海軍太平洋艦隊が黒海艦隊の援助のために主力を引き連れてウラジオストクを離れた。それと同時に日本とアメリカを牽制する為にロシアは3つの種類の新しい極超音速ミサイルの発射実験を行った。そこで事故が起きた。それはこの事故によって発生した戦争の物語である。ただし3発も間違えた方向に飛ぶのは故意だと思われた。実際には事故だったがそもそも飛ばす場所をセッティングした将校は日本に向けて飛ばすようにセッティングをわざとしていた。これは太平洋艦隊の司令官の命令だ。司令官は黒海艦隊を支援するのが不服でこれを企んだのだ。ただ実際に戦争をするとは考えていなかったし過激な思想を持っていた為普通に海の上を進んでいた。
なろう、カクヨムでも連載しています。
異世界災派 ~1514億4000万円を失った自衛隊、海外に災害派遣す~
ス々月帶爲
ファンタジー
元号が令和となり一年。自衛隊に数々の災難が、襲い掛かっていた。
対戦闘機訓練の為、東北沖を飛行していた航空自衛隊のF-35A戦闘機が何の前触れもなく消失。そのF-35Aを捜索していた海上自衛隊護衛艦のありあけも、同じく捜索活動を行っていた、いずも型護衛艦2番艦かがの目の前で消えた。約一週間後、厄災は東北沖だけにとどまらなかった事を知らされた。陸上自衛隊の車両を積載しアメリカ合衆国に向かっていたC-2が津軽海峡上空で消失したのだ。
これまでの損失を計ると、1514億4000万円。過去に類をみない、恐ろしい損害を負った防衛省・自衛隊。
防衛省は、対策本部を設置し陸上自衛隊の東部方面隊、陸上総隊より選抜された部隊で混成団を編成。
損失を取り返すため、何より一緒に消えてしまった自衛官を見つけ出す為、混成団を災害派遣する決定を下したのだった。
派遣を任されたのは、陸上自衛隊のプロフェッショナル集団、陸上総隊の隷下に入る中央即応連隊。彼等は、国際平和協力活動等に尽力する為、先遣部隊等として主力部隊到着迄活動基盤を準備する事等を主任務とし、日々訓練に励んでいる。
其の第一中隊長を任されているのは、暗い過去を持つ新渡戸愛桜。彼女は、この派遣に於て、指揮官としての特殊な苦悩を味い、高みを目指す。
海上自衛隊版、出しました
→https://ncode.syosetu.com/n3744fn/
※作中で、F-35A ライトニングⅡが墜落したことを示唆する表現がございます。ですが、実際に墜落した時より前に書かれた表現ということをご理解いただければ幸いです。捜索が打ち切りとなったことにつきまして、本心から残念に思います。搭乗員の方、戦闘機にご冥福をお祈り申し上げます。
「小説家になろう」に於ても投稿させて頂いております。
→https://ncode.syosetu.com/n3570fj/
「カクヨム」に於ても投稿させて頂いております。
→https://kakuyomu.jp/works/1177354054889229369
西涼女侠伝
水城洋臣
歴史・時代
無敵の剣術を会得した男装の女剣士。立ち塞がるは三国志に名を刻む猛将馬超
舞台は三國志のハイライトとも言える時代、建安年間。曹操に敗れ関中を追われた馬超率いる反乱軍が涼州を襲う。正史に残る涼州動乱を、官位無き在野の侠客たちの視点で描く武侠譚。
役人の娘でありながら剣の道を選んだ男装の麗人・趙英。
家族の仇を追っている騎馬民族の少年・呼狐澹。
ふらりと現れた目的の分からぬ胡散臭い道士・緑風子。
荒野で出会った在野の流れ者たちの視点から描く、錦馬超の実態とは……。
主に正史を参考としていますが、随所で意図的に演義要素も残しており、また武侠小説としてのテイストも強く、一見重そうに見えて雰囲気は割とライトです。
三國志好きな人ならニヤニヤ出来る要素は散らしてますが、世界観説明のノリで注釈も多めなので、知らなくても楽しめるかと思います(多分)
涼州動乱と言えば馬超と王異ですが、ゲームやサブカル系でこの2人が好きな人はご注意。何せ基本正史ベースだもんで、2人とも現代人の感覚としちゃアレでして……。
日本が日露戦争後大陸利権を売却していたら? ~ノートが繋ぐ歴史改変~
うみ
SF
ロシアと戦争がはじまる。
突如、現代日本の少年のノートにこのような落書きが成された。少年はいたずらと思いつつ、ノートに冗談で返信を書き込むと、また相手から書き込みが成される。
なんとノートに書き込んだ人物は日露戦争中だということだったのだ!
ずっと冗談と思っている少年は、日露戦争の経緯を書き込んだ結果、相手から今後の日本について助言を求められる。こうして少年による思わぬ歴史改変がはじまったのだった。
※地名、話し方など全て現代基準で記載しています。違和感があることと思いますが、なるべく分かりやすくをテーマとしているため、ご了承ください。
※この小説はなろうとカクヨムへも投稿しております。
蒼穹の裏方
Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し
未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。
永艦の戦い
みたろ
歴史・時代
時に1936年。日本はロンドン海軍軍縮条約の失効を2年後を控え、対英米海軍が建造するであろう新型戦艦に対抗するために50cm砲の戦艦と45cm砲のW超巨大戦艦を作ろうとした。その設計を担当した話である。
(フィクションです。)
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる