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接触《アメリカ》

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「最近はスラムがうるさくて敵いませんな…」
日本最大のスラムを抱える大阪を管轄する警邏組織大阪治安管理隊の管理総長飯村は治安管理省の道すがら、同席した九州治安管理隊の管理総長の胡桃沢と車内で歓談していた。
「大阪もですか?うちもうるさくて落ち着きませんよ」
「九州は北と南に大きなもんがそれぞれあって、集中出来ないのがまた難儀しそうですね」
「その通りです。それでも最近は地元の闇さん達が従順になりましてね。良いコマになっていて、幾分マシになりました。まぁ、それ以上にスラムの活動が活発で焼け石に水ですが」
「はは!やはり考えることはどこも一緒ですな」
「近畿圏では大阪だけですか?」
「そうですなぁ…。滋賀には皇宮の別所が設けられてから、軍の方でスラムは一掃されました。京都は元から闇さんの力が強くて、スラムは管理されてますね。逆にそれらのせいで反骨者が大阪に集約されてしまってる感が拭えませんね」
「点在するのも面倒ですが集約されるのも面倒ですね…」

仕事の話とその愚痴を共有していると、目的地に気づいた頃には着いていた。
一般的な職員が利用できない、裏口から建物に入り、エレベーターに乗り込む。そして着いた会議室は疎らに席が埋まっている。

胡桃沢とはそこで別れて、事前に連絡のあった席に座り、置かれてある資料に目を通す。資料の至る所に憎たらしい女の顔写真が貼られてある。

活性化したスラムの元凶である女。秩序とルールの違反者。速やかに排除すべき敵。
そんな駒上がってくる怨嗟をため息で希釈する。十分に薄まりはしないが、平静には戻る。

スラムの弾圧と制圧で死んで行った職員の顔がチラつく。大人しく無能共はその環境に甘んじて生きていればいいものを。無謀にも足掻くせいで、死人などの被害が出るのだ。

今を恨むのではなく、過去を恨んで、祖先を呪っていればいい。さすれば今世の被害は極小化されるにも関わらずに。

そもそもなぜそのような環境にもかかわらず次代を残すのか。大人しく淘汰されていればそれが苦しさの連鎖となっていること、不幸を生み出していると気づかないのか。

「まぁ、それに気づかないから、「そう」なっているのだろうが」

いつしか席は全て埋まり、大臣が入室してくる。
「良く来てくれた。着席してくれたまえ」
各地方の長が敬礼して、迎え大臣が着席を促す。
「今回は何時もの報告会とは少し違う。入ってくたまえ」
大臣の声とともに扉が開き数人の男たちが入ってくる。スーツに身を包んでいることなど、我々と大差ないが決定的に違うのは、髪色と顔つき。人種が違っていた。

「アメリカより我々への援助の申し入れがあった」
大臣の言葉に多少であるが、ザワつく。
「太平洋間の緊張緩和を目的とした、ギブアンドテイクの一環だ。日米合同の軍艦の不侵入領域の段階的な拡大を締結し、その副産物として、民製品の軍需物資の供与とライセンス提供があった。こちらからは食料だね」

「政府がそれでいいのであれば、こちらにはどうこういうことはありません。ただその話は軍と財務、産業の案件であり、治安省には一切関係ないのでは?」

「確かにその通りではあるが、軍に民製品、特に海外のものを取り込む事に忌避感が想像以上に強い。ただ提供されたものを倉庫に放り込むには心象を含めた問題がある」

「それで、うちにお蜂が回ってきたと?我々も信頼できるかどうかも怪しい海外製は嫌ですし、使い方とか言って干渉された暁には内部の制御ができませんぜ」

「その信頼出来るのかどうかを含めた運用試験をして頂けないか?」

大臣の言葉に頷く長はいない。ここはどれ程優秀な性能であっても、心情と運用の兼ね合い、そして内部の政治的な問題がある。ここにいる全員が凄惨な現場を少なからず経験しており、ここで現場の言い分を聞かずに頷くことは出来ない。現場が反旗を翻せば、自分自身が立っていられないのだ。

重い沈黙が続く。しかし大臣も引き下がれないのだろう。誰かが妥協せねばらない。
「近畿で引き受けますよ」

その一言で会議は想像以上にスムーズに進んだ。そして1週間後に、飯村は大阪で供与品を受領した。
「どれも現行品と大差ない。規格が合わないという欠陥を除けばだが…」
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