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第二章 教会生活
31 窓越しに向かい合う
しおりを挟む薄暗いその部屋で、仕切りはきっちりしている。
要するにここは懺悔の部屋だ。
向かい合う部屋に、窓が一つ。
私側の窓のすぐ前に、マーガレットおばさまが立つ。
そして母親の直ぐ側には、ドリムイさんと、総司祭様。
その他幾人か――その中には、魔法を使うことができる人もいると聞いた。
呆れ気味に、野次馬みたいに、好奇の目がそこらじゅうで光っている。――自分たちの醜い感情を隠すために、一滴の哀れみを顔に引き伸ばして、もっともらしい顔をしている。
その中にあって、総教会の人たちはいつもどおりなのがありがたい。ちょっとおどおどしているのはヨーイ君含む修道士三人組かな。あの後謝罪は無かったんだけど、あの様子を見るにそうとう罪悪感を持っているみたい。しょぼん、と耳があったら垂れてそう。ああ、犬飼いたい。
そういう人に、支えられて、この現場があるってことを噛みしめる。
私の決意を踏み潰すように、母親が大きく声をあげた。
「このような茶番は終わりにして、早く家に帰るわよ」
「お母様、私は家に帰りません。平民になったのです」
他の人にも何度か説明した事実を、私も説明する。
「そのように自分の殻に入って……一体どれだけの方に迷惑をかければ気が済むのか」
ため息が、聞こえた。いやアンタが迷惑かけとんねや。
思わず似非大阪弁で突っ込んでしまう。
「これは私の一存ではなく、一族の決定です」
「王子の妻でなければ、自分は必要ないと?」
小馬鹿にした笑みが絶対浮かんでるだろう。
必死で食らいついた、想定の未来を崩された実の子どもを、嘲るための笑み。
でも、言われた内容が、正直晴天の霹靂だった。
「そう、ですね」
そうだ。
それは天秤にかけるみたいに、どっちが欠けても、成り立たなかった。
虐待を含む厳しい状況に耐えるために、ハイド様への愛に傾倒した。
ハイド様への愛のために、虐待を含む厳しい状況に耐えた。
「私が貴方達の家にいたのは、彼の方の正しき妻となるためでした。
ふさわしくあるために、苦行も耐えました。魔力も他の能力もない自分に嘆きながら、鞭を受けても何度もそれに耐えたのは、彼の方の隣に立ちたかったからです」
虐待に耐える心とハイド様を敬い愛する心。どちらがかければ成り立たなくなるものだった。
虐待がなければ、ここまでハイド様を愛するかどうかは微妙な話だったかもしれない。――恋愛を、逃避の手段として選んだ可能性は否定できない。それでも私はあの人を愛したことは取り消したくないけど。
ああ。
聡明なハイド様だから、私の現状にも気がついていた可能性もある。気づかないほど興味を持たなかった可能性も結構ある。あの優しさが、その事実を踏まえた上での意図したものだったのか、そうでなかったのか、今となってはわからない。
うわ泣ける。泣いちゃう。草葉の陰で睨んじゃう。生きるけど。
だからもう、全てに意味がない。
お母様、苦し紛れに真実言い当てちゃったね、やったー★
意味が無いから、私はこの人達を捨てられる。
「彼の方の隣に立てぬのなら、貴族でいる必要はありません」
「そんな……そんな勝手が許されると思うの!」
激高する元母親の、熱気がすごい。
「許されたはずです」
そう。
「私は自らの罪を認め、平民となることでその罰を受ける。その過程で許されていくと、貴方達は私に誓約をした。――ですから、許されるはずです」
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