上 下
22 / 60
第二章 教会生活

21 罪と罰と嘘つきと

しおりを挟む

「貴女の処分を、お母様は納得されていないようですね」
面談用の小部屋で総司祭様に切り出された私は、がっくりと肩を落とした。
呼び出されたのは、運動後の昼寝を終えたあとだった。
総司祭様は憂いのこもった目をこちらに向けた。
「一族からこの名を消せば、母親の精霊の加護の、その加護は消えるのではないのですか」
「それが、――頑なに拒否されてしまいました。貴女は一時の感情に動かされているだけで、すぐに実家に戻る選択を取るはずだ、と。その際に再び加護の加護を与えようとしても、一度契約を取りやめた後とあっては、その手続きには膨大な魔力がかかります。願いが叶えられるかどうかも分からない。不利益しかないと。
貴女は今、名を失った状態ですが、それでも恩恵を与えることができる――貴女のお母様の能力は、こちらの想像を越えていました」
そうですね。再契約なんて、契約不履行後に営業かけるようなもんですもんね。窓口役の小娘にすら激切れしていた前世の事例を思い出すと、更に立場の違う精霊はマウンテン! な可能性があるのね。はあ。
「私の意志は変わりません。
提示された罰を受け入れ、平民として生活いたします」

何回も何回も、私言いましたよね?
『家族とは縁を切ります。平民になります。さよならします』
そう言いましたよね。
なのになんで、また何度も何度も、『それでいいか、誓うか?』って言われなきゃいけないの?
その不満が顔に出ていたらしい。総司祭様は小さく溜息をつくと、慈悲深い深緑色の目で、私の目を覗き込む。
「その現状がどうあれ、貴女は罪を犯し、その罰を受けるために教会に来たのです」
正論でました。
そうです、私虐待の保護施設じゃなくて、罪を償うための収容施設にやってきたのでした。
ざーんねーん。
優しかった総司祭様は、更に顔を曇らせて私に続ける。
「ユーフェミアさん、貴女は青の眠りを使用したのですね」
「いえ……はい、隠し事はできないのでしたわね。
確かに服用いたしました」
もう分かっていることだから、言い逃れはできない。
しかもちゃっかり総司祭様ったら、嘘が分かるように精霊を開け放っております。なんかふわふわキラキラしてて、聖堂でみたのと同じなんだよね。試しに私が総司祭様の質問に否と答えた時、ピカピカ光ったし。嘘だよってお知らせしたんだよね、それで総司祭様の顔曇ったし。
青の眠りは、高確率で人を死に至らしめる。
希少で対抗策の術式を知る魔法使いも少ない。
「いくら自分の罪を自覚したとは言え、自殺は神のお許しにならない罪の一つです。
貴女は罪を重ねたのです。その自覚がお有りですか」
失望の色が浮かぶその目を認めて、私は顔をそむけたくなった。
向かい合うのは私と総司祭様の二人だけ。
だけれど、その向こうには数人の聖職者。男、女、女、男。
誰が耳をすましているんでしょ?
目だけを反らして、その瞬間にめまいが襲いかかる。
世界が揺れる、歪む、よじれる。
そしてその隙間を縫うように、あの時の、誰かの笑い声とハイド様の失望の眼差しが現れた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

このやってられない世界で

みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。 悪役令嬢・キーラになったらしいけど、 そのフラグは初っ端に折れてしまった。 主人公のヒロインをそっちのけの、 よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、 王子様に捕まってしまったキーラは 楽しく生き残ることができるのか。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

転生者の取り巻き令嬢は無自覚に無双する

山本いとう
ファンタジー
異世界へと転生してきた悪役令嬢の取り巻き令嬢マリアは、辺境にある伯爵領で、世界を支配しているのは武力だと気付き、生き残るためのトレーニングの開発を始める。 やがて人智を超え始めるマリア式トレーニング。 人外の力を手に入れるモールド伯爵領の面々。 当然、武力だけが全てではない貴族世界とはギャップがある訳で…。 脳筋猫かぶり取り巻き令嬢に、王国中が振り回される時は近い。

婚約破棄されたので王子様を憎むけど息子が可愛すぎて何がいけない?

tartan321
恋愛
「君との婚約を破棄する!!!!」 「ええ、どうぞ。そのかわり、私の大切な子供は引き取りますので……」 子供を溺愛する母親令嬢の物語です。明日に完結します。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

処理中です...