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その!……
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ドラムがを叩く音が聞こえ、数テンポ後にギターが入る。同時にベースの低い音が入って曲のイントロが流れ始める。トリオハートのオリジナルソング、”3人で1つ”激しすぎないおとなしめの曲調で入り、終わりに向かってだんだん激しくなる。本来は歌詞があるが、見学者がいるため音ノ葉のことを考慮してボーカルはなしで練習を進めた。曲の所々で3人それぞれのソロパートがあって最後はドラムソロから3人が一気に入り、曲の名前でもある3人で1つの曲を演奏しているんだという表現をしている。朝、音ノ葉が音楽室で歌っていたのはこの曲なので、八合わせてしまった後輩ただ一人だけは、見学者の中で唯一歌詞を知っている。
曲の中盤にギターソロがあるが、ここでリテイクが発生する。
「あっごめん、もう一回お願い」
ギターソロのところだけテンポが上がるため、遅くしていても指が追い付かないということが多発した。テイクを重ねるごとにうまくはなっているが、どこか1音必ず抜けてしまう。そうした練習が1時間半ずっと続いていた。誰も休憩したいと言わなかったので気づけばその時間になっていた。
「ちょっと休憩しましょ、これじゃあ質が落ちていくばかりだわ」
桜が一声かけると場の空気が一気に緩む。
「先輩方! 自分飲み物買ってくるっす! 先輩方のも買ってきますよ!」
「あら、ありがとう……えっと、名前なんでしたっけ?」
桜のその言葉に後輩は苦笑いしながら答える。
「ひ、ひどいなぁねえちゃ、」
「お姉ちゃん呼びはやめなさい」
後輩の名前は鳥取 楓(とっとり かえで)、桜の妹だ。
「桜”せんぱい”は紅茶、灰川先輩は何にします?」
「あたしは~ミルクティー!」
「うっす! あ、音ノ葉先輩は何にしますか?」
自分の番が回ってきてあたふたする。さながら捕食者に狙われた小動物だ。
「その、み、ミルクテ」
「ミルクティーっすね! じゃ、行ってくるっす!」
そういって勢いよく飛び出した楓、みんなが見送った後、扉が閉まり、その向こう、廊下からドーンという誰かが転んだであろう音が聞こえる。数分後、両膝に絆創膏を張った楓がフラフラと帰ってきた。
「お、お待たせしたっす、へへへ」
「ちょっと大丈夫なの?」
桜が楓を椅子に座らせ、絆創膏をはがし、ちゃんとした治療を始める。こう見えて面倒見のいいおねぇちゃんなのだ。そして家では妹にベタベタしている学校でいちゃつけない分家で甘える妹大好きおねぇちゃんだ。この場にいる全員がそれを知っているため、温かい目でそれを見守る。
一息ついたので練習を再開する。音ノ葉は自分のソロパートを練習している。パートとしては彼女の部分が一番激しくこの曲ではなる。ソロパートのところは歌詞が付いていないので間奏をソロパートにしているようなものだ。3番まであるから3人全員がソロを持てる。この後は見学している1年に場所を譲らなければいけないため、足早に練習する。ほかの二人が通常テンポで練習する中、音ノ葉は2.5倍速でソロパートだけを練習する。
ピーピピピピ!
と、タイマーが鳴り響き、練習を3人とも中断する。時計を見ると場所を譲る10分前だ。
「片づけるわよ」
桜が音頭を取り、片づけを始める。といってもベースとギターをケースにしまうだけでドラムはそのまま引き継ぐのだが、
「じゃあ、あとはよろしくね、楓さん」
桜がそう言って準備室のカギを手渡す。
「わかりましたよ”せ ん ぱ い”」
ふてぶてしく鍵を受け取り準備室の扉を楓が閉める。
「さてと、帰るか!おつ~」
灰川はさっさと帰ってしまう。
「私たちも帰りましょ」
桜に言われ音ノ葉はコクリと頷いて校舎の出口へ向かった。
曲の中盤にギターソロがあるが、ここでリテイクが発生する。
「あっごめん、もう一回お願い」
ギターソロのところだけテンポが上がるため、遅くしていても指が追い付かないということが多発した。テイクを重ねるごとにうまくはなっているが、どこか1音必ず抜けてしまう。そうした練習が1時間半ずっと続いていた。誰も休憩したいと言わなかったので気づけばその時間になっていた。
「ちょっと休憩しましょ、これじゃあ質が落ちていくばかりだわ」
桜が一声かけると場の空気が一気に緩む。
「先輩方! 自分飲み物買ってくるっす! 先輩方のも買ってきますよ!」
「あら、ありがとう……えっと、名前なんでしたっけ?」
桜のその言葉に後輩は苦笑いしながら答える。
「ひ、ひどいなぁねえちゃ、」
「お姉ちゃん呼びはやめなさい」
後輩の名前は鳥取 楓(とっとり かえで)、桜の妹だ。
「桜”せんぱい”は紅茶、灰川先輩は何にします?」
「あたしは~ミルクティー!」
「うっす! あ、音ノ葉先輩は何にしますか?」
自分の番が回ってきてあたふたする。さながら捕食者に狙われた小動物だ。
「その、み、ミルクテ」
「ミルクティーっすね! じゃ、行ってくるっす!」
そういって勢いよく飛び出した楓、みんなが見送った後、扉が閉まり、その向こう、廊下からドーンという誰かが転んだであろう音が聞こえる。数分後、両膝に絆創膏を張った楓がフラフラと帰ってきた。
「お、お待たせしたっす、へへへ」
「ちょっと大丈夫なの?」
桜が楓を椅子に座らせ、絆創膏をはがし、ちゃんとした治療を始める。こう見えて面倒見のいいおねぇちゃんなのだ。そして家では妹にベタベタしている学校でいちゃつけない分家で甘える妹大好きおねぇちゃんだ。この場にいる全員がそれを知っているため、温かい目でそれを見守る。
一息ついたので練習を再開する。音ノ葉は自分のソロパートを練習している。パートとしては彼女の部分が一番激しくこの曲ではなる。ソロパートのところは歌詞が付いていないので間奏をソロパートにしているようなものだ。3番まであるから3人全員がソロを持てる。この後は見学している1年に場所を譲らなければいけないため、足早に練習する。ほかの二人が通常テンポで練習する中、音ノ葉は2.5倍速でソロパートだけを練習する。
ピーピピピピ!
と、タイマーが鳴り響き、練習を3人とも中断する。時計を見ると場所を譲る10分前だ。
「片づけるわよ」
桜が音頭を取り、片づけを始める。といってもベースとギターをケースにしまうだけでドラムはそのまま引き継ぐのだが、
「じゃあ、あとはよろしくね、楓さん」
桜がそう言って準備室のカギを手渡す。
「わかりましたよ”せ ん ぱ い”」
ふてぶてしく鍵を受け取り準備室の扉を楓が閉める。
「さてと、帰るか!おつ~」
灰川はさっさと帰ってしまう。
「私たちも帰りましょ」
桜に言われ音ノ葉はコクリと頷いて校舎の出口へ向かった。
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