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あの……!
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朝6時、学校の教室に入る。一番乗りで到着したし、クラスのみんなは比較的ルーズな人たちなので割と遅刻ギリギリに来るため、まぁ……一人だ。
「お、おはようございます。いい天気ですね!」
カバンに着けている某人気テーマパークのアヒルのキャラクターの人形に向かって日課の人に喋る練習をする。
『ウン! オハヨウ!!』
裏声でアヒルに喋らせて会話しているように見せた後、急に恥ずかしくなり誰もいないのをいいことに机に突っ伏せて声にならない悲鳴を上げる。私、音ノ葉 琴音(おとのは ことね)は自他共に認めるコミュ障だ。授業でさされればどもってまともな答えにならないし、あいさつされれば会釈でしっかりとした言葉は返せない。周りはそんな音ノ葉がかわいらしく見えるため、また理解しているため優しく接してくれている。が、本人は嫌気がさしていた。ホントはみんなと話したいし、グループワークで意見をちゃんと述べたりしたい。それに友達と出かけたりもしてみたい!……そう思い続けて5年、気が付けば高校も2年目だ。友達はできたが、会話はやはりできていない。
朝の日課である人形会話練習を切り上げて校舎の東棟4階に上る。2年生の教室は西棟の2階なので移動には約10分くらいかかるだろう。音ノ葉は、歩くのが遅い方なので15分かけて目的地まで歩く。階段を上がってすぐの教室のカギを開けて中に入る。入ったのは音楽室兼軽音部部室である。完全防音なので外を歩く生徒に何か聞かれるわけでもない、マイクのセッティングをしてスピーカにつなぐ。
「あ、、あーあー、んっあー」
音量調整ついでに声出しをして音量とエコーのツマミをいじり、カセットを持ってくる。カセットにCDを入れて再生ボタンを押すと自分たちのバンドの曲が流れ始める。音ノ葉はギター兼ボーカルをやっていて、彼女のコミュ障もあり、人前で演奏したことはないが、メンバー内では、”部内1番の美声”と評価されていた。音ノ葉自身はそんなことはないと思っているので、こうして毎朝練習をしている。人前で歌うとどうしても声が小さくなりがちなのを克服しようとしているのだ。
「どうしたってー嫌になる事があるんだ~」
歌い始めると目をつぶり、自分だけの世界に入る。暗い視界の中で人のたくさんいる、ライブ会場のような風景を思い浮かべて歌う。何度か声が震えて、音程がずれ、テンポが狂い始める。目を開け、カセットを停止させて最初から再生する。それを3回ほど繰り返し、やっと安定はじめ、最後まで目を閉じた仮のライブ会場で歌い切った。ため息をつきながらマイクの電源を切るとパチパチと拍手の音が目の前で聞こえた。
悲鳴を上げて文字通り飛び上がっておそるおそる目を開けると、
「先輩って……歌、めっちゃ上手なんスね……」
拍手をしていたのは後輩で確か別のバンドの子だ、入部挨拶の時に見た気がする。その後は会話した記憶がないし、いつの間に入ってきたのか……
「あ、いや……こっここれは」
これは練習で人前で歌えるようになりたいの。そう言おうとするが、言葉に詰まってしまう。
「あぁ、無理に説明しなくっていいっス、自分忘れ物取りに来ただけなんで。でも先輩噂には聞いてましたけどきれいな歌声っすねぇ、あのギターからは想像できな……あ、いや何でもないっす!」
何でもはなくないだろう、と思うがやはり言葉にできない、後輩はそのまま忘れたものであろうギターケースをしょって部室を出ようとする。そこで何かを思いついたのか、急にこっちを向き、
「先輩って朝毎日ここにいるんすか?だったら自分これから毎日先輩の聞きたいっす! いいですか⁉ いいですよね⁉」
「えっあ、あ……う、うん」
勢いに押されて思わずOKをしてしまった。しまったと思ったが、取り消そうと思ったころには後輩はすでに姿を消していた。時計を見ると、いつもより遅くなってしまっていた。片づけて教室へ戻らなければと思い、いそいそとマイクを元の場所にしまうのだった
「お、おはようございます。いい天気ですね!」
カバンに着けている某人気テーマパークのアヒルのキャラクターの人形に向かって日課の人に喋る練習をする。
『ウン! オハヨウ!!』
裏声でアヒルに喋らせて会話しているように見せた後、急に恥ずかしくなり誰もいないのをいいことに机に突っ伏せて声にならない悲鳴を上げる。私、音ノ葉 琴音(おとのは ことね)は自他共に認めるコミュ障だ。授業でさされればどもってまともな答えにならないし、あいさつされれば会釈でしっかりとした言葉は返せない。周りはそんな音ノ葉がかわいらしく見えるため、また理解しているため優しく接してくれている。が、本人は嫌気がさしていた。ホントはみんなと話したいし、グループワークで意見をちゃんと述べたりしたい。それに友達と出かけたりもしてみたい!……そう思い続けて5年、気が付けば高校も2年目だ。友達はできたが、会話はやはりできていない。
朝の日課である人形会話練習を切り上げて校舎の東棟4階に上る。2年生の教室は西棟の2階なので移動には約10分くらいかかるだろう。音ノ葉は、歩くのが遅い方なので15分かけて目的地まで歩く。階段を上がってすぐの教室のカギを開けて中に入る。入ったのは音楽室兼軽音部部室である。完全防音なので外を歩く生徒に何か聞かれるわけでもない、マイクのセッティングをしてスピーカにつなぐ。
「あ、、あーあー、んっあー」
音量調整ついでに声出しをして音量とエコーのツマミをいじり、カセットを持ってくる。カセットにCDを入れて再生ボタンを押すと自分たちのバンドの曲が流れ始める。音ノ葉はギター兼ボーカルをやっていて、彼女のコミュ障もあり、人前で演奏したことはないが、メンバー内では、”部内1番の美声”と評価されていた。音ノ葉自身はそんなことはないと思っているので、こうして毎朝練習をしている。人前で歌うとどうしても声が小さくなりがちなのを克服しようとしているのだ。
「どうしたってー嫌になる事があるんだ~」
歌い始めると目をつぶり、自分だけの世界に入る。暗い視界の中で人のたくさんいる、ライブ会場のような風景を思い浮かべて歌う。何度か声が震えて、音程がずれ、テンポが狂い始める。目を開け、カセットを停止させて最初から再生する。それを3回ほど繰り返し、やっと安定はじめ、最後まで目を閉じた仮のライブ会場で歌い切った。ため息をつきながらマイクの電源を切るとパチパチと拍手の音が目の前で聞こえた。
悲鳴を上げて文字通り飛び上がっておそるおそる目を開けると、
「先輩って……歌、めっちゃ上手なんスね……」
拍手をしていたのは後輩で確か別のバンドの子だ、入部挨拶の時に見た気がする。その後は会話した記憶がないし、いつの間に入ってきたのか……
「あ、いや……こっここれは」
これは練習で人前で歌えるようになりたいの。そう言おうとするが、言葉に詰まってしまう。
「あぁ、無理に説明しなくっていいっス、自分忘れ物取りに来ただけなんで。でも先輩噂には聞いてましたけどきれいな歌声っすねぇ、あのギターからは想像できな……あ、いや何でもないっす!」
何でもはなくないだろう、と思うがやはり言葉にできない、後輩はそのまま忘れたものであろうギターケースをしょって部室を出ようとする。そこで何かを思いついたのか、急にこっちを向き、
「先輩って朝毎日ここにいるんすか?だったら自分これから毎日先輩の聞きたいっす! いいですか⁉ いいですよね⁉」
「えっあ、あ……う、うん」
勢いに押されて思わずOKをしてしまった。しまったと思ったが、取り消そうと思ったころには後輩はすでに姿を消していた。時計を見ると、いつもより遅くなってしまっていた。片づけて教室へ戻らなければと思い、いそいそとマイクを元の場所にしまうのだった
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