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序章

2話

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 野営地を出発して十数分、開けたところに展開していた王国軍に魔法撃の雨が降り注いだ。王国軍の魔法部隊の‘’魔法防御‘’の効果で半数は防げるものの、限界があり防御の割れ目から魔法撃が降り落ちる。砲撃は光や火、風など複数の属性に分かれ飛んできた。これには魔物軍の魔法部隊の種族が混成部隊だからなのだが、どの魔法にも爆破の副属性が付与されており、被害は少なくなかった。
 隊列が乱れたところへ今度は弓矢が降り注ぐ。魔法防御は物理防御とは別のため、すべてが降り注いだ。その激しい遠距離攻撃の中で兵士たちは数百メートル先に魔物軍の戦闘隊が展開し始めているのを確認した。各大隊指揮官は、
「これをくぐり抜けるには歩兵までたどり着くほかない! 大隊、突撃せよ!!」
 そういって首から下げた笛を吹きながら盾を頭の上に掲げながら走り出した。魔物軍は味方のいるところに弓矢や魔法撃を撃ち込まないと判断したのだ。笛の音とともに軍の全体が一気に走り出す。魔法防御は隊列を組んでいないと意味がないので魔力撃の降る総数は増えるが走り抜けるため被弾は少なくなる。また、詠唱時間もあり魔物軍戦列にたどり着くころには弓矢以外ほとんど飛んでくるとこはなかった。
 レイは通常の王国兵士よりも大きな盾を装備しているため少年兵の先頭に立って矢や魔法撃を防ぎながら魔物軍に迫った。ふと横に倒れた兵士を見ると、さっき野営地でぶつかった兵だ。矢が首を貫通し、魔法撃で左足と右のわき腹が吹き飛んでいる、間違いなく即死だ。その死体を見て何人かは短く悲鳴を上げる。レイは落ち着いて後ろの少年たちに言った。
「戦場では何が起こるかわからない、先陣を切るといったって、後方に逃げるといったってこうやって死ぬかもしれない。」
 しかし、彼はそういうと同時に盾を構えなおす。真っすぐ飛んできた火属性の魔力撃を正面から受けるが、こらえきってこれを弾いた。
「でも、僕がいる限りそんなことはさせない。行くよ!」
 構えた盾で矢と魔法の雨を防ぎながらついに、魔物軍戦闘団の前線にたどり着く。武装したゴブリンやオーク、ドワーフなどが隊列を組んでいる。魔物軍は走って迫りくる王国軍を威嚇し低い音色の笛を激しく鳴らしながら突撃を開始した。最初にぶつかったのは、ゴブリン戦闘隊と王国軍少年兵混成大隊だった。お互い、剣や槍で攻撃をしあい、のどを裂かれ、心臓を突き破られ、一人、また一人とその地に伏した。レイとユナは少年兵達の先頭に立ち、レイが攻撃をはねのけ、それをユナが斬りの繰り返しで正規の兵士たちよりも確実に敵ゴブリンを撃破していった。ほかの少年兵達も、一対多数の数的有利を作り、彼らなりの戦闘形態で戦闘をしていった。正規軍には劣るので犠牲者は少なくないが、それでも最小限に収まっている。3ヶ月生き残ってきただけはあるだろう。その歩兵戦は少年兵の活躍もありゴブリン戦士団を一時敗走状態に持ち込んだ。しかし、それをかばうためにドワーフの戦士団が今度は現れる。王国軍は半数以上が平野を抜けて混成大隊に追いつき、隊列を組みなおしていた。
 「ゴブリンは敗走した! この勢いをもって前進するぞ! 突撃!!」
 指揮官の大声に応の声が戦場に響き、今度は隊列を保ちながら魔物軍に迫る。ドワーフ戦士団は一人が何事かをドワーフ語で叫び、それに軍全体が呼応し、王国軍へ突撃を開始する。戦列同士がぶつかったのはそのあとすぐであった。
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