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19 ボクのたからもにょ!

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「むぷうー!」

 ボクはあまりのリフジンさに、ほっぺを限界までぷっくりさせた。


「ふふふっ、ほっぺ、パンパン」
「むぷしゅん!」

 ボクを抱っこしてくれているトマシュの兄貴が、すごく嬉しそうにほっぺをツンツンしてきたの!

「んもー!トマシュのあにちったら!ボク、いまとってもおこってるのよぉ!ほっぺツンツンしにゃいで」

 せっかく、ボクは怒ってるんだぞ!ってお顔じゅうでアピールしてるのに、ほっぺの空気、プシュンって抜けちゃう~!

「あはは、ゴメン…。まん丸で、可愛かった…」

 トマシュの兄貴独特の、プツプツしたセンテンスのあたたかくて優しいしゃべり方で、『可愛かった』なんて言われっちゃったら…

「えへへ…ボク、とってもおこってるにょ!」

 優しく頭をなでなでされながら、だらしない笑顔で抗議する感じになっちゃった。
 ん~…、まいっか!トマシュの兄貴の、なでなで大好き~。うっとり。

「どうして…?厨房で、新メニュー、みんなと楽しく作ってた、でしょ?」

「ちょうなにょ!おいちいおいちい、最っ高のハンバーギュを、みんなでちゅくったのよ~!」

 そうなのだ!
 ダンと厨房のみんな、解体のシーザ親方さんと、お肉屋さんのボッシュさん!素晴らしい名人の皆さんに協力していただいて、異世界のお肉を使った、絶品のハンバーグがついに完成したの!
 ボクも、頑張ってゆんゆんして、元気に歌って踊ったのよ~!

 …アレ?ボク、ちゃんとお役に立ててた…よね?

「だいだいだい、だいっせいこうだったのー!今日のおひるのまかにゃいに、出ちてくれるって~!」
「(ゴックリ…)それは…楽しみ!」

 トマシュの兄貴も、お肉大好きだもんね。でも、いっつもボクたち子供は、噛む力が強くないからこの世界のお肉料理は硬くって、アゴが疲れちゃって、あんまり沢山食べられないんだよね。
  その点は、ハンバーグにバッチリお任せ下さい!

「ハンバーギュ、柔らかくておいちいにょ!きっと、あにちもだいしゅきよ~!」

 ばちこーん!と精一杯のウインクをして太鼓判を押すと、トマシュの兄貴はとってもとっても嬉しそうなお顔になった!
 うー、兄貴が嬉しいと、ボクも嬉しくなっちゃう!ジタバタ、お身体動いちゃう!
 ハンバーグ、 みんなに喜んで貰えたらいいなあ!
 そろそろロッポ兄ちゃんも、教会のちびっ子青空教室から腹ぺこで帰ってくるから、そしたら、みんなで一緒に食べようね~ってキャッキャと仲良く約束した。

「…でも、なら。どうして、怒ってるの?」

 不思議そうに首を傾げるトマシュの兄貴。

 あ、しまった、ボク怒ってたんだった。うっかり忘れちゃってた~。

「…むぷうー!」

 ボクは気を取り直して、プックリした。(形から入るって、ボク、とっても大事なことだと思うの)
…あっ、ダメよお!兄貴!嬉しそうにツンツンしちゃダメ~!…ぷしゅしゅん。

「せっかくのおいちいハンバーギュ、お店のお客さんが食べちゃい!って言ってくれて、ギルドの食堂で出ちてもらうことになったにょ。」
「うんうん、お肉の焼けるとってもいい匂い、してたもんね」

  そう言ったトマシュの兄貴は、その香りを思い出したんだろう。うっとり、ヨダレを垂らしそうなお顔になった。
  普段はトマシュの兄貴は、このギルドのお宿で、お掃除とか客さんへの食事の配膳とか、従業員の見習いさんとしてお手伝いを初めている。
  すごいねえ。この世界の子供たちは、だいたい10歳ぐらいから、お仕事のお手伝いを始めるんだって。
  いつも通りお宿の雑用のお仕事をしていたら、厨房からお肉の焼き上がる美味しそうな、たまらなくいい匂いがしてきて、兄貴をはじめ、宿の従業員の皆さんも、お客様もソワソワ気になっちゃったんだって!

「しょれでね、食堂にみんなのハンバーギュを食べるおいちいお顔、わっきゅわきゅで見に行こうとちたら、混んでであぶにゃいからダメ~!ってダンしゃんが」

  むっぷう。
  ヒドイよねえー。オトナのオーボウだと思うの!
  ハンバーグを作るの、ボクも一応、マラカスとおしりを振って、一生懸命お手伝いしたのよ?
  それなのに、じたばた抵抗するボクをお庭につまみ出した(優しく抱っこでトマシュの兄貴にバトンタッチされただけ)のよー?ちょっと酷くない?
  ボク…みんなが楽しく、美味しい~!って食べてるお顔、おそばで見たかったもん!

  …ボクね、自分が美味しいものを食べるのも、みんなと一緒に食べるのも大好きなんだけど…ギルドの食堂で、お客様のみんなが、「うんめええええ…!」「やっぱり、ここの飯が最高だぜ~!」って幸せそうにニコニコしてるのを見るの、だあい好きなの~!

「みんにゃの、おいちいお顔、みちゃかったもん…っ」

そうポツリと寂しく呟いてみたら…あっ、あっ、ダメ、ボク泣いちゃう…

 …ふしっ…ヒックッ…ヒック…

「ワーッ!ただいまああああ!帰ってきたぞ~!」

そこに、ボクがビックリして涙が引っ込んじゃう勢いで、ロッポ兄ちゃんが、元気いっぱいで飛び込んできた!
 あっ、今日も教会のシスターさんが兄ちゃんをギルドまで送り届けてくれたみたい。
 ニコニコ笑顔で会釈して、帰っていくシスターさんに、ボクたちはありがとうございましたー!って笑顔でおててを振ってお見送りした。
 たとえお昼間でも、ちっちゃい子1人で帰るには、異世界の街は人や荷車が多くて危ないからね。教会の青空教室の後は、シスターさんたちが手を繋いで、おうちまで子供たちを送ってくれるのよ。

「…こら、ロッポ?帰ってきたら、うがいと手洗い、でしょ?」

  さすが、トマシュの兄貴だよね~!
  自分もボクと同じくらい、突然のロッポ兄ちゃんの元気な声にビクッとビックリしてたのに(ゴメンなさい、ボク抱っこしてもらってるから、気がついちゃったの)おくびにも出さずに、すっかりお兄ちゃんのお顔で注意した。

「へっへっへっ!今日はちゃんと、うがいもバッチリ!手も顔も、ピカピカに洗ってきたぞー!」

  エッヘンと、それはそれは自慢げに胸を張るロッポ兄ちゃん。
  …あーっ、本当だ~!よく見たら、前髪がしっとりして、おでこに面白い形で張り付いてる!

「ぷしゅしゅん!…ロッポにいちゃ、まえがみへんにゃの~!」

 泣きそうになっていたのも忘れて、ボクはロッポ兄ちゃんの芸術的な前髪に思わず吹き出しちゃった!

「ああー?前髪?オトコはちょっとワイルドなくらいが、カッコイイだろ!ホレホレ!」

 そしたら、兄ちゃんがすんごい雑に前髪を手ぐしで撫で付けた!

「ぶっふぉー!やめちぇ~、にいちゃ!まえがみの、ゲイジュチュ点上がっちゃったにょー!」
「ぶっふふふ!変だよ、ロッポ!」
「かっこいいだろお?…うひゃひゃひゃ!」

 ギルドのお庭に、穏やかなボクたちの笑い声が響いていく。
 少し遠巻きに、護衛も兼ねて鍛錬しながら見守ってくれている冒険者さんたちも、心なしか柔らかな表情だ。

「なーなー、今日は『伯爵』は連れてきてやってねえのかあ?」

  ロッポ兄ちゃんにのんびり聞かれて、ボクはハッとした!

「まぁ~!ボクっちゃら、うっかりポッカリ!」
 
  いっけない、ついつい怒ってるお顔のアピールに夢中になっちゃって、目的をすっかり忘れちゃってた!

 ボクは、お気に入りの猫ちゃんのポシェットから、大事なボクの宝物を取り出したのだった。
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