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17 ボク、ピーンときちゃいまちた!

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 カポーン…

「は~、いききゃえるね~」

 ちっちゃい洗いタオルを頭にのせてもらって、パッパにだっこして貰いながら、朝からみんなと一緒に、ギルドの宿の名物の大浴場でひとっ風呂、浴びてます。
 男同士、裸のおつきあい、よ~!

 ボクが気持ちがよくて、とろけそうなお顔でお湯につかっていたら、周りで一緒に入ってた朝の鍛錬に参加していた男性冒険者たちに、クスクスと微笑ましそうに笑われた。
 いっけね、そんなにだらしないお顔、してたかしら。

「ククッ…、生き返る、か!ちげぇねぇ。…おい、もっと肩までよくあったまってから出るんだぜ。風邪ひくんじゃねえぞ~?」

 そう言って、パッパは大きな掌にすくった湯を、ボクのちょっと出てたちっちゃいお肩にかけてくれた。う~、あったかい!優しい!大好き~。

「あ~い!ありがちょ!今日は、お出かけちないで、おとなちく厨房でお料理のおてちゅだい、ちてまちゅ!」

 ニコニコ、元気におててを挙げてお返事をするボク。

「あ~?厨房の料理の手伝いだあ?…ああ、また、ダンたちとなんか、妖精の国の新しいメニューに挑戦するのか?」
「ちょうなのよ~!今日はねえ、おいちいお肉の料理を作ってもらうのよ~!おたのちみに!」

 ボクがうれしくなって、おいしいハンバーグに想いをはせながらニコニコ言うと、お肉がだ~い好きな、まわりの冒険者のみんなや、パッパがとってもうれしそうな顔をした。
 ボクが作り方をお伝えしたお料理は、料理長のダンのお眼鏡にかなったら、だいたいギルドの食堂のメニューの仲間入りするもんね。中でも、カツカレーやチーズトーストは、今では大人気名物メニューなの。

「へ~!妖精の国の、新しい肉料理か!肉は俺も大好物だぜ。うまくいくといいなあ。…お、そういやあ、解体部のやつらが、珍しいうまい肉が大量に入ってるって言ってたな?」
「ま~、めじゅらちい、おいちいお肉?」

 それを聞いた食いしん坊のボク、ついつい前のめり。
冒険者ギルドの買い取りカウンターには、冒険者たちが狩って来た、色んな魔物や野生の獣たちの新鮮なお肉がたっぷり持ち込まれるの。
 うちのギルドには、どんな生き物も素早く最高の状態で解体してくれる、凄腕のプロが沢山在籍している、『解体部』っていう部署があるの。
 そこで捌かれたお肉は味も鮮度も抜群。グルメな貴族や街のお肉屋さんが、毎日のように買い付けに来ることで有名なのよね。もちろん、ギルドの食堂で出される美味しいお肉も、解体部から提供されてるのよ~。

 異世界の生き物のお肉は、え~、そんなものまで抵抗なく食べちゃうの!?っていう…正直ゲテモノだなって思うような生き物もいるし、味に酷いクセや独特の香りがあるものもあるんだけど、基本的にはビックリするぐらい、うまみが深くて、美味しい。
 …ちょっと、個人的には『とある問題』もあって、まことに!まことに残念ながらあんまり沢山は食べられないんだけどね。
 今回入ってきたお肉が、ハンバーグにも使えるお肉だといいなあ~。あとで聞いてみよう~!

「よ~くあったまったか?じゃあ、朝飯食いにいこうぜ~!肉の話をしてたら、腹減っちまったよ」
「ふふふっ、あ~い!」

 お料理の話をしてたら、お腹がすいちゃったパッパがお茶目に言うと、ボクのおなかもくうくう鳴っちゃった!朝に運動すると、お腹すいちゃうよね~!
 お着換えをして、さっぱりしたみんなでガヤガヤ、焼きたてパンのい~いにおいがしている食堂に向かったら…。

「あ~っ、ラキ坊、いた~っ」

 食堂に入ったところで、かわいい声をあげてロッポ兄ちゃんが抱き着いてきた。

「ロッポにいちゃ!おはよお~!」
「おはよお!…んも~!きのう、なんでいなかったんだよ~!さみしいだろ!…ふええっ!」

 ロッポにいちゃんも、寂しかったんだね…!
 ギュウギュウ抱きしめられて、カワイイお顔をくしゃくしゃにして泣いているロッポ兄ちゃんの真っ赤なお顔をみていたら、ボクもつられて泣いちゃった。

「ご、ごめっ、ごめんね、ロッポにいちゃ!お風邪、うつちたらダメって思っちぇ…ひっ一人でねんねちようと思っちゃの。ボクもさみちかった…!ごめんね~!」
「ばか!オレは風邪なんてこわくないぞ!急にいなくなるなよお…さみしくて、あんまりよく寝られなかっただろお…」

 ロッポ兄ちゃん、昨日、ボクがいなかったせいで、あんまり眠れなかったの…?すごく悪い事しちゃったな…。

「にいちゃ、ごめんなちゃい…」
「ヒック、ヒック、いいよ。今日のおひるね、いっしょにねよ?」
「うん、お昼寝、いっちょ!」

 お互いにぎゅっとして、ハンカチでお互いのびしょびしょのほっぺをふきふきしていたら…朝ご飯の配膳を手伝っていたエプロン姿のトマシュの兄貴が、ぽん、とボクの頭に手をのせて、わしゃわしゃと優しくなでなでした。

「ラキ坊。…心配、した」
「トマシュのあにち!…ごめんなちゃい」

 トマシュの兄貴は、独特なぽつぽつとした話し方で優しく言った。短いセンテンスの中に、彼の愛情を感じて、とっても申し訳ない気持ちになる。

「風邪、ひいてない、か?…元気?」
「うん、うん、大丈夫よお~」

 しゃがんで目線を合わせてくれた兄貴に抱き着いて、スリスリする。そこにロッポ兄ちゃんもぎゅうっと抱き着いて来て、三人でお団子みたいになる。

「急にいないの、心配。次は、相談、してほしい」
「うん、うん、ごめんね。ちゅぎは、ご相談、ちまちゅ」

 そうよね、事前に相談しておかないと、いつも一緒にねんねしてる人が急にいなくなったら、ボクも心配しちゃうと思う。ご相談、大事よね。

「ん。…じゃないと、さみしくて、ロッポおねしょする…」
「んああ!トマシュのあにき~!それ黙っててっていったじゃんかあ~!」

 クスッと笑いながら、お茶目にトマシュの兄貴が言うと、真っ赤っかなお顔でロッポ兄ちゃんがぺちっぺちってトマシュの兄貴の腕を叩いた。
 まあ~!ロッポ兄ちゃん、さみしくておねしょしちゃったの~?

「プスッ…ごめんなしゃい、ちゃんとご相談しま…プススッ…」
「も~っ、ラキ坊!笑うなってばあ~!」
 
 真っ赤っかなロッポ兄ちゃんの怒った声が、あんまりにもかわいらしくて、その後おいしい朝ご飯を頂くあいだも、ボクはクスクスとこみあげる、思い出し笑いの発作に苦しめられて、ロッポにいちゃんにやさしくほっぺをつねられることになったのだった。
 ごめんなさ~い!…プススッ。



「へえ~、本当に珍しいな!ここいらで、こんなに新鮮なレッドスキンブルピッグにお目にかかれるなんてよ!」

 朝食後、ボクはニッコニコに上機嫌なダンにエスコートされて、厨房にやってきた。
 もー、ダンってぱ、本当に未知の料理のレシピに興味深々なのね~。
 すると、そこには、食堂にちょうど肉類を提供しにきた解体部の主任シーザ親方さんと、近所のお肉屋さんの店主、ボッシュさんがそろっていた。

 厨房の磨き上げられた清潔な作業台の上に、ででんと様々なお肉の塊が鎮座している。
 お肉屋さんのボッシュさんは、中でも一番目を引く、上等なサシの入ったいかにもおいしそうな肉の塊を、惚れ惚れと見つめている。

 あ、もしかして、そのレッドスキンほにゃらら…っていうのが、パッパの言っていた珍しい美味しいお肉なのかしら?
 お肉の良し悪しなんて、ボクにはわからないけど。
 そのお肉は、とっても高級な和牛のお肉のように見えた。…ただ、赤身の部分が牛肉と比べて、ちょっと薄いピンクがかったお色味。どんなお味がするのかしら~?

「さっと薄く切ったものを、炙ってみたぜ。さっと塩だけふってある。」


 厨房スタッフの焼もの担当さんが、炙って薄くスライスしたお味見用のお肉を持って来てくれた。
 わ~、固いお肉を噛むのが難しいボクに配慮して、薄く切ってくれてる!ありがたい~!
 そう、異世界のお肉ってとってもおいしいんだけど、ボクってまだ顎が幼児なの。塊のお肉は固くて食べられないのよね。それは、同じ子供のロッポ兄ちゃんやトマシュの兄貴、ご年配の方も一緒だと思う。
 スープの中に入れて柔らか~く煮てあれば食べやすいけど、手間と時間がかかるし。お肉屋さんでも、ミンチや薄切りのお肉って売ってないの。異世界って不便よね。

 ボクは、ワクワクしながらはじめましてのお肉を、はむり、と口に運んだ。

 絶妙な塩加減、じゅわりと広がる、ジューシーな肉汁、お肉のうまみ!そしてお鼻を通り抜ける、このお肉のすばらしい風味は…

「うしさんと、ぶたさん?」

 そう、極上の牛肉らしくもあり…豚肉らしくもあり。不思議だけど、とってもクセがなくて食べやすい、美味しいお肉だった。

「おう、まさに牛と豚の中間みたいな姿の、変わった魔物でよ。本来はここらじゃ見かけねえんだが。ホラ、先日の大討伐で、国境付近で魔物が大発生しただろう。あのとき、隣国からこっちがわに移動して来て、近隣の森で繁殖してるみたいだ」

 解体主任のいかにも頑固な職人さん、って感じのシーザ親方が、試食のお肉をおいしそうにぺろりとつまみながら、「エールに合いそうだ、こりゃ」と相好を崩した。

 ねえ、ねえ。ボク、ピーンときちゃった。
 このお肉!ハンバーグにぴったりなんじゃない?
 いろんなお肉で作るハンバーグがあるけど、ボクが一番馴染みがあるのが、牛と豚の合い挽きのひき肉で作る、ハンバーグ。
 わ~!このお肉で作ったハンバーグ、ぜったい美味しいじゃん~!
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