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1 最強ギルドの、妖精ちゃん

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「よお、大変だったらしいな、西の国境の大討伐!」
「兄さんたち、大討伐帰りだろう?ご苦労さん、良くやってくれたな!」
「よお、よかったらうちの店にもよってってくれよ!我が町の英雄たちに、酒と旨いものをたらふくご馳走するぜ!」

 恋しいエレンウォードの街。その堅牢な外門をくぐって、すっかりくたくたで重すぎる足を引きずるようにして歩く俺たちに、街の住民たちがにこやかにねぎらいの言葉をかけてくれる。
 まさに英雄扱いだ。普段の冒険者がならず者やロクデナシみたいな扱いを受けていることを思うと、そのゲンキンな掌がえしの鮮やかさに、ちょっと乾いた笑いが浮かんできてしまう。
 自分のものじゃないみたいに、重くて鉛みたいな腕を、なんとか上げて。その歓声に応えながら一路…冒険者ギルドを目指した。

 今回の過酷な大討伐の任務を無事にやりとげた、その報告。…もちろん、そのためでも、ある。
 だが、いまはそれより、何よりも…。

 俺たちは、やっとたどりついた、念願のギルドの前に立つと、誰からともなしにつぶやいた。

「「「はら、へったあああ…」」」


 チリンチリーン!

 年代物の木製のスイングドアを押し開けると、間の抜けたベルの音が鳴り響いた。
 武骨な石造りの建物の室内には、えもいわれぬ、たまらなく空腹を加速させるスパイスの香りが立ち込めていた。
 大討伐帰りの面々から、歓声が上がった。

「やった、今日は金の曜日だったか!」
「うおおお!やったぜ、アレが食える!」
「俺、もう討伐中もアレが恋しくてよお、夢に見てたんだよ!」
「わかるぜ、兄弟!」

 コワモテの冒険者たちの顔に、満面の笑顔が浮かぶ。涙ぐんでいるものすらいる。
 …かくいう俺も、例外ではない。ずっと食いたいと思っていたアレを思うと、目頭が熱くなる。

「…あのう?」

 報告はそっちのけで、一目散に冒険者ギルド備え付けの食堂に向かう俺たちを、隣町のギルドから大討伐に参加していた、若手の冒険者の青年たちが、戸惑ったように見つめていた。

「ああ、兄ちゃんたち、隣町から来たんだったな。もしかして、アレ、食ったことないのか?」
「アレ…?いいえ、あの、ものすごく…いい匂いがしますけど」
「ああ、なんか、香辛料みたいな…たまらない匂いだ…」

 この香りをかぐと、ただでさえぶっ倒れそうに腹が減ってたのに、それがぐわっと倍増しちまうんだろう。屈強な若者たちが、切なそうに腹をさする姿は、哀愁たっぷりだった。

「話はあとあと!そら、空いてる席に座れよ。まずは食ってからにしようぜ!」
「は…はあ…いいのかなあ、報告とか…」

 ちょうど昼時、混み始めている食堂の空席に、とまどうルーキーたちを座らせて、俺たちは店の天井あたりを見上げた。

「えっ…?上がどうかしました?」
「何を探してるんですか…?」

 上を見てきょろきょろしだした俺たちを見て、ルーキーたちはさらに困惑顔になった。

「いいから。まあ見てろって!…ああ、きたきた」

 チリンチリーン…!

 間の抜けたベルの音を鳴らしながら、ふよふよと、それは飛んできた。

「おかえりなた~い!みんなぁ、ごくろうしゃま~!」

 のんびりまのびした、幼児のかわいい声が、荒くれものだらけのギルドに響いた。
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