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従僕ヴィダルとの密約
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人間と獣人は種族の違いにより同種族間の性交に比べて妊娠しにくい。幸いにも俺は妊娠しなかった。
そして、その後従僕のヴィダルと出会った。
ヴィダルは無口な大男だった。浅黒い肌は汚れていて、ごわついた髪の毛からはすえた匂いがした。しかし、皇太子の寝所で嗅いだ忌々しいアルファとオメガの匂いよりよっぽどマシだ。
しかも、ある時たまたま水をかぶったヴィダルが長い黒髪をかき上げたのを見た。彼の顔は男らしく整っていた。俺は思い立って彼を浴室に放り込み、全身を洗うように言いつけた。
こざっぱりして清潔な服を着たヴィダルは、なかなかの色男だった。人間の女官たちもちらちら視線を送るほどに。
というのもヴィダルは人間と狼獣人のハーフなので、興奮したりしなければ耳も尻尾も外に出ていない。一見人間のように見えた。
ヴィダルの身を綺麗にしてやると、彼は俺に感謝した。そして、皇太子から俺が酷い仕打ちを受けていると、見えない位置からこっそり牙を剥いて威嚇し、時には彼が代わりに打たれてくれることすらあった。
皇太子に殴られ俺の口の端が切れていれば、彼がすかさず舌で血を舐めた。その後綺麗に水ですすいで、薬草を貼ってくれた。
彼は人間たちの前では頭の悪い荒くれ者のふりをしているが実際は植物に詳しく、動物にも優しい。
特に俺には従順で、ひざまずく彼の頬を撫でてやると嬉しそうな顔をした。ここへ来てから蔑みの視線しか向けられることのなかった俺は、ヴィダルに見つめられると安らぎを感じた。
彼はアルファだった。
なぜアルファの狼獣人が奴隷なんかに? と疑問に思いあれこれ問いただした。
すると彼は、人間に一族を皆殺しにされたと答えた。
彼の父親は一族の長で、人間の女と恋に落ちた。そして生まれたのがヴィダルだ。しかし娘が狼獣人にたぶらかされたと思った女の父親が怒り、人間の兵器をもって狼一族の領地へ攻め入った。
母親の手引きでなんとか逃げ延びたヴィダルはしかし奴隷商人に捕まり、ここへ売られたというわけだ。
「エメ様。俺は人間を恨んでいます。美しいエメ様に酷いことをする皇太子も許せません。俺が喉を食いちぎりましょうか?」
気持ちはわかるが、そんなことをされたら帝国軍により狐族が全滅させられてしまう。俺はなんとかヴィダルをなだめた。
そして俺は思いついた。発情期が来て皇太子の寝所に行くタイミングで、上手く避妊をする。そして、代わりにヴィダルの子種を植え付けてもらえば……?
現在、他の種類の獣人と子をなすことは禁止されていた。亜種が生まれ、どんな脅威になるかわからないからと人間たちが禁じているのだ。
ヴィダルは半分人間の血だから狐の血と混じって何が起きるかはわからない。だが、古い伝承によると狐族と狼族の血が混じると強力な力を得られるという。
試してみる価値はある。俺はルーカス皇太子の子は産みたくない。どうせならヴィダルの子を産み、こっそり皇太子の子として育てる。そして、子どもが成長した暁にはルーカス皇太子の寝首をかき、この帝国を乗っ取る――。
俺はヴィダルにこの考えを吹き込んだ。彼は二つ返事で了承した。
「ですが、俺があなたを抱くことになりますがよろしいのですか?」
「構わない。やってくれるか?」
ヴィダルは頷いてひざまずき、俺の手の甲に口付けをした。
「あなたのためならなんでもします、エメ様」
俺はなんだかくすぐったい気分だった。
ただの主従関係――それもお互いにただ人間が憎いというだけの関係だ。しかし、ヴィダルの優しい目は俺の心を慰めた。
そして、その後従僕のヴィダルと出会った。
ヴィダルは無口な大男だった。浅黒い肌は汚れていて、ごわついた髪の毛からはすえた匂いがした。しかし、皇太子の寝所で嗅いだ忌々しいアルファとオメガの匂いよりよっぽどマシだ。
しかも、ある時たまたま水をかぶったヴィダルが長い黒髪をかき上げたのを見た。彼の顔は男らしく整っていた。俺は思い立って彼を浴室に放り込み、全身を洗うように言いつけた。
こざっぱりして清潔な服を着たヴィダルは、なかなかの色男だった。人間の女官たちもちらちら視線を送るほどに。
というのもヴィダルは人間と狼獣人のハーフなので、興奮したりしなければ耳も尻尾も外に出ていない。一見人間のように見えた。
ヴィダルの身を綺麗にしてやると、彼は俺に感謝した。そして、皇太子から俺が酷い仕打ちを受けていると、見えない位置からこっそり牙を剥いて威嚇し、時には彼が代わりに打たれてくれることすらあった。
皇太子に殴られ俺の口の端が切れていれば、彼がすかさず舌で血を舐めた。その後綺麗に水ですすいで、薬草を貼ってくれた。
彼は人間たちの前では頭の悪い荒くれ者のふりをしているが実際は植物に詳しく、動物にも優しい。
特に俺には従順で、ひざまずく彼の頬を撫でてやると嬉しそうな顔をした。ここへ来てから蔑みの視線しか向けられることのなかった俺は、ヴィダルに見つめられると安らぎを感じた。
彼はアルファだった。
なぜアルファの狼獣人が奴隷なんかに? と疑問に思いあれこれ問いただした。
すると彼は、人間に一族を皆殺しにされたと答えた。
彼の父親は一族の長で、人間の女と恋に落ちた。そして生まれたのがヴィダルだ。しかし娘が狼獣人にたぶらかされたと思った女の父親が怒り、人間の兵器をもって狼一族の領地へ攻め入った。
母親の手引きでなんとか逃げ延びたヴィダルはしかし奴隷商人に捕まり、ここへ売られたというわけだ。
「エメ様。俺は人間を恨んでいます。美しいエメ様に酷いことをする皇太子も許せません。俺が喉を食いちぎりましょうか?」
気持ちはわかるが、そんなことをされたら帝国軍により狐族が全滅させられてしまう。俺はなんとかヴィダルをなだめた。
そして俺は思いついた。発情期が来て皇太子の寝所に行くタイミングで、上手く避妊をする。そして、代わりにヴィダルの子種を植え付けてもらえば……?
現在、他の種類の獣人と子をなすことは禁止されていた。亜種が生まれ、どんな脅威になるかわからないからと人間たちが禁じているのだ。
ヴィダルは半分人間の血だから狐の血と混じって何が起きるかはわからない。だが、古い伝承によると狐族と狼族の血が混じると強力な力を得られるという。
試してみる価値はある。俺はルーカス皇太子の子は産みたくない。どうせならヴィダルの子を産み、こっそり皇太子の子として育てる。そして、子どもが成長した暁にはルーカス皇太子の寝首をかき、この帝国を乗っ取る――。
俺はヴィダルにこの考えを吹き込んだ。彼は二つ返事で了承した。
「ですが、俺があなたを抱くことになりますがよろしいのですか?」
「構わない。やってくれるか?」
ヴィダルは頷いてひざまずき、俺の手の甲に口付けをした。
「あなたのためならなんでもします、エメ様」
俺はなんだかくすぐったい気分だった。
ただの主従関係――それもお互いにただ人間が憎いというだけの関係だ。しかし、ヴィダルの優しい目は俺の心を慰めた。
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