追放されたΩの公子は大公に娶られ溺愛される

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4章今更戻れと言われてもお断りです

39.一族に与えられた処罰

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 後日、グスタフは継母とヘクター、アランらをベサニル辺境伯邸――つまりフェリックスの屋敷内に集めさせた。彼らに対する処罰の可否を第三者に判断してもらうため、クレムス王レオナルド四世も同席してもらうことになった。もちろんフェリックスと異母姉もその場に呼ばれていた。
 国王レオナルド四世の登場に、集まった面々の顔は一様に青ざめ何を言われるのかと全員が震え上がっていた。

 グスタフは立ち上がって挨拶の口上を述べた後、さっそく正義の鉄槌を下し始めた。
「それでは此度の一族への処罰を言い渡す。まずはアラン・バラデュール、そなたには宦官としてリュカシオン領邦の平和的な統治に尽力することを命じる」
 それを聞いたアランが口をあんぐりと開けて掠れた声を出す。
「なっ……!? この私が……か、宦官でございますか?」
(宦官って、どういうこと?)
 僕が首を捻っていると、横に控えていたニコラが耳打ちしてきた。
「宦官とは去勢した官吏のことでございます」
「去勢!?」
 僕はつい大きな声を上げてしまって口を手で押さえた。僕の声に皆反応してこちらを見ている。特にアランは血走った目でこちらを凝視していた。そして取り乱した様子で言う。
「ルネ、お前は俺のことを見捨てるような弟ではないだろう? 俺がお前を愛しているのはわかってくれていると思う。あのときは、継母にそそのかされてどうかしていたんだ。な? 頼む、お前からなんとか言ってくれ。宦官だなんて俺はごめんだ。お願いだから助けてくれ!」
 兄に愛していると言われてリュカシオンにいた当時僕の身体を這い回った舌や手の感触が蘇り寒気がした。
 言葉を発することができなかったので、僕は首を横に振って応えた。がっくりと肩を落としたアランに向かってグスタフが冷たく言い放つ。
「観念しろ、貴様がルネにしたことを考えればこのような処分では軽すぎるくらいだ。兄上、よろしいですね?」
「ああ、妥当だろうな」
 クレムス王も同意したので処罰は決定した。

「次にイヴォンヌ・バラデュール、それからモニーク・リヒター」
 継母と異母姉の名前が呼ばれ、二人の肩がビクリと震えた。両者ともに顔をあげることも出来ずうつむいている。
「そなた達には、現在デーア大公国で建設中の水道橋工事において、現場併設の宿舎にて炊事・洗濯婦をやってもらう」
「ええっ!?」
 大声と共に顔を上げたのは継母だった。
「この私が洗濯女の真似ごとをするですって? 冗談じゃないわ!」
 それを横で聞いていたモニークも言う。
「私たちは貴族、しかも公国領主の家系出身なのですよ。工事現場で炊事に洗濯だなんて、できるわけありませんわ……!」
 しかしグスタフは鼻で笑って異議申し立てを却下した。
「お前たちのしたことを考えれば罰として軽すぎるくらいだ。命が惜しければ掃除でも洗濯でもなんでもやってみせるのだな」
「うぅっ……!」
 命を引き合いに出されて二人は押し黙った。
「陛下、よろしいですか?」
「よい。面白いではないか。次に移れ」

「では最後にヘクター・バラデュール。よろこべ、そなたは愛する母親と同じ場所に送ってやろう」
「ふぇ……?」
「水道橋工事の現場で、土木作業に従事することを命じる!」
「そ、そんなぁ……僕はこの体で肉体労働は無理でございます、何卒ご慈悲を!」
「ならぬ。体を動かして痩せる良い機会だと思え!」
「そんな、そんな……でも僕は重いものを持つと腰が悪くなるからと母上に言われていて……」
 グスタフは兄王に尋ねた。
「陛下、いかがですか?」
「ふむ。肉体労働、実に結構じゃないか。せいぜい仕事に励んで次会うときには痩せた姿を見せてみよ」
「はいぃっ、かしこまりました。ありがたきお言葉ぁ……グスッ」
 ヘクターは汗をかきながら泣いていた。
(あのヘクターが工事現場で働くなんて想像もつかない……)

 最後に陛下からお言葉を頂戴した。
「罪人どもよ、しっかり心を入れ替えて世のため人のために働くのだぞ。そなたたちの今後に期待している」
 一族の面々は皆項垂れながら陛下の言葉を承った。大国の王に睨まれてはたとえ領主一族とて、ただすくみ上がるしかないのだった。

 最後に陛下は僕に向かって声を掛けてくださった。
「ルネ、そなたと会うのは結婚式以来だったな。一族から受けた様々な仕打ちには心から同情する。しかし過去の不幸をはねのけてこれからは弟と共に幸せになるよう祈っているぞ」
「感謝申し上げます、陛下」
「近々私は家族と別荘に行く予定だ。そなたも子どもたちを連れて遊びに来ると良い」
「ありがとうございます」
 こうして狂った一族にはそれぞれに処罰が与えられたのであった。

 久々に顔を合わせたフェリックスは僕に話しかけたそうにしていたが、グスタフが睨みをきかせていたため結局会話をせずに僕たちは屋敷を後にした。

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