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4章今更戻れと言われてもお断りです
37.継母の狂った動機とグスタフの思惑
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継母は何かに取り憑かれたように滔々と過去のことを語り始めた。
「私の生家は元平民の成り上がり男爵家。社交界に出たとき、当時は私のことを馬鹿にする人間ばかりだったわ」
継母が下級貴族出身ということはペネロープから以前聞いたことがあった。
「だけどあるパーティーで私はお前の母親ミレーヌに出会った。そのパーティーでも私はヒソヒソと後ろ指をさされていたわ。なのにあの女は現れるなり大勢の貴族たちにちやほやされて……。それだけでも腹立たしかったというのに、ミレーヌが下級貴族の私になんて言ったと思う?」
継母は血走った目をしてべらべらと話し続けた。
「”皆さん、陰口なんていけないわ。イヴォンヌさんもこちらで一緒にお話ししましょう”って言って私に笑いかけたのよ!」
(え? それの何がいけないの……?)
「なんて傲慢で人を見下した態度なのかと思ったわ。そして私はこのとき心に誓った。この女を絶対許さないってね!」
「そ、そんな!」
(この人、どういう思考回路をしているの……)
「あの女が公妃になった時は悔しくて仕方がなかった。だけど私は諦めなかったわ。彼女が病に倒れ、弱って死んでいくのを見るのは愉快だったわぁ。しかもあの女が苦しんでる間、お前の父親ジェルマンは私のベッドの中。ほほほ! 最高の気分だった!」
「酷い……なんてことを……」
(この人、狂ってる……)
「でも、あの女は死んだのに息子のお前は成長するにつれてどんどん美しくなっていった」
そこで継母は僕をぎろりと睨んだ。恨みのこもったものすごい表情だ。
「お前ごときが私の可愛いヘクターより勉強も剣術も上手で殿下にも可愛がられているだなんて、許せなかった。だから絶対に絶対にお前を不幸にしてやると心に決めていたのよ! 幸いお前は母親と同じオメガだったから、追い出すのはわけなかったわ。ふふ、ルネを追い出せばのその分の土地が手に入ると入れ知恵したらアランも快く協力してくれたし」
「え……?」
(待って、どういうこと……? アラン兄様も僕を陥れようと継母と手を組んでいたの?)
「なのにどうしてよ! ベサニルでお前は地べたを這いつくばって死ぬまで不幸でいるはずだったのに! 大公妃ですって? 許せない。許せないわ!」
継母は髪の毛を掻きむしって地団駄を踏み始めた。本当に精神がおかしくなっているらしい。僕は怖くなってグスタフに身を寄せた。彼は僕を守るように肩をがっしりと掴んでくれた。
グスタフが低い声で言う。
「そういうことだったか。全て白状させるため拷問の必要があるかと思っていたが、自分から洗いざらい喋るとはな」
「グスタフ……?」
「ルネ。お前から国外追放の経緯を聞いたときから何かおかしいと思ってオットーに頼んでずっとリュカシオン公国を内偵させていた。ただ若干説明のつかないことがあってどうするか迷っていたのだ。だがもうこれでどうするか俺は決めたぞ」
僕はわけがわからず夫の顔を見上げた。
「イヴォンヌ妃、それからヘクター。命を助けてほしいか?」
継母をなだめていたヘクターが訝しげな顔をして聞き返す。
「な、なんですって?」
「お前たちはもうお尋ね者だ。どこへ行くこともできまい。第二の性を偽った罪で掴まれば打首だろうな?」
ヘクターはでっぷりと太った顔を真っ青にしてうめき声を上げた。
「うぅ……死にたくないよぉ……!」
「死ぬのが嫌なら、俺の言うことを聞くか?」
巨体を床に擦り付けるようにして平伏したヘクターが言う。
「命を助けていただけるのなら何でも致します……」
「よかろう。それでは追って沙汰を言い渡す」
すると継母が金切り声を上げて腕を振り回しながら暴れ始めた。
「何よ偉そうに! 私を誰だと思っているの!? リュカシオン公妃イヴォンヌ様よ!」
「母上、どうかお静かに。もう我々に打つ手はありません」
継母は顔を真赤にして振り上げた手をヘクターに叩きつけた。
「お前が情けないばっかりに! ベータなんかに生まれたお前が悪いのよ! この、この!」
「痛い、痛いです! 母上、ぶつのはやめて下さい。痛いっ!」
もはや宮殿の応接間は悲劇を通り越して喜劇のような有様であった。
◇◇◇
暴れる継母を衛兵に取り押さえさせ、医師に鎮静剤を処方させた後、僕は書斎でグスタフに詳しい説明を求めた。
「グスタフ、一体何がどうなってるの? 僕にはさっぱりわからなくて……」
「すまない。お前に心配をかけたくなくて何も言わずに動いていたんだ」
「それは良いんだけど……。継母があんなに僕と母を憎んでいたなんて驚きだった」
(確かに僕のことを目の敵にしているとは思っていたけど、母への恨みから僕へと続いていただなんて)
「ああ。でも気にすることはない。彼女はどこかおかしいんだよ」
「うん。過激な人だとは思っていたけどまさかあんな……」
僕はさっきのことを思い出してため息をついた。
「はぁ……。あ、ねえ、助ける代わりに一体彼らをどうするつもりなの?」
するとグスタフはニヤッと笑って僕に耳打ちする。
「考えがあるんだ。水道橋の件でな……」
「私の生家は元平民の成り上がり男爵家。社交界に出たとき、当時は私のことを馬鹿にする人間ばかりだったわ」
継母が下級貴族出身ということはペネロープから以前聞いたことがあった。
「だけどあるパーティーで私はお前の母親ミレーヌに出会った。そのパーティーでも私はヒソヒソと後ろ指をさされていたわ。なのにあの女は現れるなり大勢の貴族たちにちやほやされて……。それだけでも腹立たしかったというのに、ミレーヌが下級貴族の私になんて言ったと思う?」
継母は血走った目をしてべらべらと話し続けた。
「”皆さん、陰口なんていけないわ。イヴォンヌさんもこちらで一緒にお話ししましょう”って言って私に笑いかけたのよ!」
(え? それの何がいけないの……?)
「なんて傲慢で人を見下した態度なのかと思ったわ。そして私はこのとき心に誓った。この女を絶対許さないってね!」
「そ、そんな!」
(この人、どういう思考回路をしているの……)
「あの女が公妃になった時は悔しくて仕方がなかった。だけど私は諦めなかったわ。彼女が病に倒れ、弱って死んでいくのを見るのは愉快だったわぁ。しかもあの女が苦しんでる間、お前の父親ジェルマンは私のベッドの中。ほほほ! 最高の気分だった!」
「酷い……なんてことを……」
(この人、狂ってる……)
「でも、あの女は死んだのに息子のお前は成長するにつれてどんどん美しくなっていった」
そこで継母は僕をぎろりと睨んだ。恨みのこもったものすごい表情だ。
「お前ごときが私の可愛いヘクターより勉強も剣術も上手で殿下にも可愛がられているだなんて、許せなかった。だから絶対に絶対にお前を不幸にしてやると心に決めていたのよ! 幸いお前は母親と同じオメガだったから、追い出すのはわけなかったわ。ふふ、ルネを追い出せばのその分の土地が手に入ると入れ知恵したらアランも快く協力してくれたし」
「え……?」
(待って、どういうこと……? アラン兄様も僕を陥れようと継母と手を組んでいたの?)
「なのにどうしてよ! ベサニルでお前は地べたを這いつくばって死ぬまで不幸でいるはずだったのに! 大公妃ですって? 許せない。許せないわ!」
継母は髪の毛を掻きむしって地団駄を踏み始めた。本当に精神がおかしくなっているらしい。僕は怖くなってグスタフに身を寄せた。彼は僕を守るように肩をがっしりと掴んでくれた。
グスタフが低い声で言う。
「そういうことだったか。全て白状させるため拷問の必要があるかと思っていたが、自分から洗いざらい喋るとはな」
「グスタフ……?」
「ルネ。お前から国外追放の経緯を聞いたときから何かおかしいと思ってオットーに頼んでずっとリュカシオン公国を内偵させていた。ただ若干説明のつかないことがあってどうするか迷っていたのだ。だがもうこれでどうするか俺は決めたぞ」
僕はわけがわからず夫の顔を見上げた。
「イヴォンヌ妃、それからヘクター。命を助けてほしいか?」
継母をなだめていたヘクターが訝しげな顔をして聞き返す。
「な、なんですって?」
「お前たちはもうお尋ね者だ。どこへ行くこともできまい。第二の性を偽った罪で掴まれば打首だろうな?」
ヘクターはでっぷりと太った顔を真っ青にしてうめき声を上げた。
「うぅ……死にたくないよぉ……!」
「死ぬのが嫌なら、俺の言うことを聞くか?」
巨体を床に擦り付けるようにして平伏したヘクターが言う。
「命を助けていただけるのなら何でも致します……」
「よかろう。それでは追って沙汰を言い渡す」
すると継母が金切り声を上げて腕を振り回しながら暴れ始めた。
「何よ偉そうに! 私を誰だと思っているの!? リュカシオン公妃イヴォンヌ様よ!」
「母上、どうかお静かに。もう我々に打つ手はありません」
継母は顔を真赤にして振り上げた手をヘクターに叩きつけた。
「お前が情けないばっかりに! ベータなんかに生まれたお前が悪いのよ! この、この!」
「痛い、痛いです! 母上、ぶつのはやめて下さい。痛いっ!」
もはや宮殿の応接間は悲劇を通り越して喜劇のような有様であった。
◇◇◇
暴れる継母を衛兵に取り押さえさせ、医師に鎮静剤を処方させた後、僕は書斎でグスタフに詳しい説明を求めた。
「グスタフ、一体何がどうなってるの? 僕にはさっぱりわからなくて……」
「すまない。お前に心配をかけたくなくて何も言わずに動いていたんだ」
「それは良いんだけど……。継母があんなに僕と母を憎んでいたなんて驚きだった」
(確かに僕のことを目の敵にしているとは思っていたけど、母への恨みから僕へと続いていただなんて)
「ああ。でも気にすることはない。彼女はどこかおかしいんだよ」
「うん。過激な人だとは思っていたけどまさかあんな……」
僕はさっきのことを思い出してため息をついた。
「はぁ……。あ、ねえ、助ける代わりに一体彼らをどうするつもりなの?」
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