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3章.新たな人生のはじまり
29.ペネロープを呼び寄せる
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僕はペネロープからの手紙を読んで、老人が亡くなってしまったことにショックを受けた。僕が移住してしまい、生活物資の支援が絶たれておそらく病気になっても満足な治療を受けることなく逝ってしまったのだろう。
(なんてことだ……僕は何もしてあげられなかった)
ペネロープの気遣いはありがたかった。この話をベサニルにいる時に聞いたとしたら、つらすぎて頭がどうにかなってしまっていたかもしれない。
(リュカシオン公国は飢饉で、更に父までもが病に倒れてしまっているのか)
僕はすぐにグスタフに相談した。
「グスタフ、僕の昔馴染みの侍女から手紙が来たんだけどね」
「ああ、そうなのか? 字を書けるなんてえらく優秀な侍女を雇っていたんだな」
「ええ。簡単な言葉であれば一通り読み書きできる女性でした」
「そうか。それで?」
僕はペネロープの手紙の内容をグスタフに話した。
「飢饉か……その老人というのがお前と共に水路をつくって運用していたわけなんだな」
「そうなんです。とても残念です……」
「あまり気を落とすなよ。それで、侍女は向こうにいて大丈夫なのか?」
グスタフは僕が言いたいことを先回りして心配してくれた。
「その件なんですが、彼女がこのままあちらにいては食糧難で困ることになりそうです。なのでこちらに呼び寄せてはいけませんか?」
「勿論構わん。そうしてやるのが良いだろう」
僕は急いで返事を書いて、ペネロープをこちらに呼び寄せることにした。
ちょうど僕も出産が済み、あと少しで結婚式も行われる予定だった。幼い頃から面倒を見てもらっていたペネロープにその様子を見てもらいたい。
◇◇◇
それから二週間後にペネロープはデーア大公国の僕が住む離宮にやってきた。
僕のところへ来ると言うと継母が何をするかわからない。なので、身内に病気の者が出たから看病するために辞めると言わせてこちらに来てもらった。
「ルネ様……! お久しぶりでございます。ああ、以前よりずっと顔色も良くなられましたね」
僕が追放される直前はどん底だったので、ペネロープの記憶にはその頃の僕が焼き付いていたのだろう。
「ペネロープは少し痩せた? 向こうは酷い状況なのかな」
「ええ、酷いものですわ」
荷解きを終えたペネロープから聞いた話は悲惨なものだった。国内の食料はもう残り少なく、それがわかって人々は暴動を起こしかけているそうだ。このまま行くと、農民たちの不満が爆発して城に攻め入って来られる可能性もあるかもしれない。
「そんなことになっているんだね……」
「はい。でも自業自得ですわ。ルネ様を追い出して、老人のことも蔑ろにした結果がこれですもの」
「そうか。でも農民たちには罪はないからね」
「あっ。そうですわね。私ったら、つい……」
「いや、良いんだよ。悪いのは一族の人間なんだからね。それで、父の容態は?」
「はい、それが……日に日に弱っていかれて、私が出てきたときにはもうこの先長くないのではないかというのが使用人たちの間での見解でした。身の回りのお世話をする者たちが見た様子と、主治医の話を漏れ聞いたところではあと半年もつかどうかということでしたわ」
「そうか……」
「それと、イヴォンヌ奥様のことです」
「ああ、継母のことだね。どういうことなの?」
「私もよくわからないのですが、殿下のお加減が悪いのになんだか嬉しそうといいますか、何やら浮かれたような……どうもご様子がおかしかったのです。ヘクター様とこそこそ笑い合っているのを何度か廊下で見かけまして……」
(父が亡くなりそうだというのに、どういうことだろう……?)
「私、思い出してしまったんです……。ミレーヌ様がお亡くなりになる直前のことを」
「母のこと?」
「ええ。言いにくいことですが、当時殿下はミレーヌ様が病床に臥しているというのにイヴォンヌ様の所へ通っていらっしゃいました」
そのことは僕も幼いながらに薄々勘付いていた。周囲の人間のヒソヒソ話が耳に入ってしまったのだ。
「その上イヴォンヌ様は恥ずかしげもなくミレーヌ様のお見舞いにいらして……その帰りにニヤニヤと笑っていらしたのを私は見てしまったのです。なんだか、今回その時のことを思い出してしまいまして……」
「そうだったんだ。……僕も継母のことはよくわからないんだ。ただ、僕に対して良い感情を持っていないことは確かだよね」
「ええ。どうしてかわかりませんが、昔からルネ様には敵意むき出しでしたよね。アラン様やドミニク様にはそんなことはありませんのにどうしてなのでしょう」
そうなのだ。ヘクター以外の異母兄達だって僕と同じく継母とは血の繋がりがない。なのにどうして継母は僕だけ目の敵にしてくるのか長年の謎なのだった。
「まぁ、ここへ来たらもう関係のないことだよ。ペネロープ、嫌なことは忘れて早くここでの暮らしに慣れて欲しい」
「はい。またルネ様のお世話ができると思うと嬉しくて仕方ありませんわ!」
「ごめんね、つい話し込んでしまったけど今ニコラを呼ぶね。こっちで侍従をしてくれているオメガの青年だよ」
「まぁ、それは是非ご挨拶しませんとね」
「ペネロープときっと気が合うよ」
(なんてことだ……僕は何もしてあげられなかった)
ペネロープの気遣いはありがたかった。この話をベサニルにいる時に聞いたとしたら、つらすぎて頭がどうにかなってしまっていたかもしれない。
(リュカシオン公国は飢饉で、更に父までもが病に倒れてしまっているのか)
僕はすぐにグスタフに相談した。
「グスタフ、僕の昔馴染みの侍女から手紙が来たんだけどね」
「ああ、そうなのか? 字を書けるなんてえらく優秀な侍女を雇っていたんだな」
「ええ。簡単な言葉であれば一通り読み書きできる女性でした」
「そうか。それで?」
僕はペネロープの手紙の内容をグスタフに話した。
「飢饉か……その老人というのがお前と共に水路をつくって運用していたわけなんだな」
「そうなんです。とても残念です……」
「あまり気を落とすなよ。それで、侍女は向こうにいて大丈夫なのか?」
グスタフは僕が言いたいことを先回りして心配してくれた。
「その件なんですが、彼女がこのままあちらにいては食糧難で困ることになりそうです。なのでこちらに呼び寄せてはいけませんか?」
「勿論構わん。そうしてやるのが良いだろう」
僕は急いで返事を書いて、ペネロープをこちらに呼び寄せることにした。
ちょうど僕も出産が済み、あと少しで結婚式も行われる予定だった。幼い頃から面倒を見てもらっていたペネロープにその様子を見てもらいたい。
◇◇◇
それから二週間後にペネロープはデーア大公国の僕が住む離宮にやってきた。
僕のところへ来ると言うと継母が何をするかわからない。なので、身内に病気の者が出たから看病するために辞めると言わせてこちらに来てもらった。
「ルネ様……! お久しぶりでございます。ああ、以前よりずっと顔色も良くなられましたね」
僕が追放される直前はどん底だったので、ペネロープの記憶にはその頃の僕が焼き付いていたのだろう。
「ペネロープは少し痩せた? 向こうは酷い状況なのかな」
「ええ、酷いものですわ」
荷解きを終えたペネロープから聞いた話は悲惨なものだった。国内の食料はもう残り少なく、それがわかって人々は暴動を起こしかけているそうだ。このまま行くと、農民たちの不満が爆発して城に攻め入って来られる可能性もあるかもしれない。
「そんなことになっているんだね……」
「はい。でも自業自得ですわ。ルネ様を追い出して、老人のことも蔑ろにした結果がこれですもの」
「そうか。でも農民たちには罪はないからね」
「あっ。そうですわね。私ったら、つい……」
「いや、良いんだよ。悪いのは一族の人間なんだからね。それで、父の容態は?」
「はい、それが……日に日に弱っていかれて、私が出てきたときにはもうこの先長くないのではないかというのが使用人たちの間での見解でした。身の回りのお世話をする者たちが見た様子と、主治医の話を漏れ聞いたところではあと半年もつかどうかということでしたわ」
「そうか……」
「それと、イヴォンヌ奥様のことです」
「ああ、継母のことだね。どういうことなの?」
「私もよくわからないのですが、殿下のお加減が悪いのになんだか嬉しそうといいますか、何やら浮かれたような……どうもご様子がおかしかったのです。ヘクター様とこそこそ笑い合っているのを何度か廊下で見かけまして……」
(父が亡くなりそうだというのに、どういうことだろう……?)
「私、思い出してしまったんです……。ミレーヌ様がお亡くなりになる直前のことを」
「母のこと?」
「ええ。言いにくいことですが、当時殿下はミレーヌ様が病床に臥しているというのにイヴォンヌ様の所へ通っていらっしゃいました」
そのことは僕も幼いながらに薄々勘付いていた。周囲の人間のヒソヒソ話が耳に入ってしまったのだ。
「その上イヴォンヌ様は恥ずかしげもなくミレーヌ様のお見舞いにいらして……その帰りにニヤニヤと笑っていらしたのを私は見てしまったのです。なんだか、今回その時のことを思い出してしまいまして……」
「そうだったんだ。……僕も継母のことはよくわからないんだ。ただ、僕に対して良い感情を持っていないことは確かだよね」
「ええ。どうしてかわかりませんが、昔からルネ様には敵意むき出しでしたよね。アラン様やドミニク様にはそんなことはありませんのにどうしてなのでしょう」
そうなのだ。ヘクター以外の異母兄達だって僕と同じく継母とは血の繋がりがない。なのにどうして継母は僕だけ目の敵にしてくるのか長年の謎なのだった。
「まぁ、ここへ来たらもう関係のないことだよ。ペネロープ、嫌なことは忘れて早くここでの暮らしに慣れて欲しい」
「はい。またルネ様のお世話ができると思うと嬉しくて仕方ありませんわ!」
「ごめんね、つい話し込んでしまったけど今ニコラを呼ぶね。こっちで侍従をしてくれているオメガの青年だよ」
「まぁ、それは是非ご挨拶しませんとね」
「ペネロープときっと気が合うよ」
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