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3章.新たな人生のはじまり
24.殿下と共に入浴する(2)
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広々とした浴場で、湯に浸かりながら殿下の膝の上に座っているという奇妙な状況に僕は焦っていた。幸い僕は殿下に背中を向けているため顔が見られないのが救いだろうか。
「細い身体だな。妊娠していても腹以外はどこも華奢で驚いた」
殿下は僕の腕を持ち上げてしげしげと見ている。彼の腕は僕の腕とは比べ物にならぬくらい逞しく、小麦色に焼けて筋張っていた。白くて血管が透けている起伏のない自分の腕の頼りなさに我ながら呆れる。
自分としては人並みに剣術など稽古に励んできたつもりだった。しかし今思えばここ数年は背も殆ど伸びておらず、なかなか筋肉が付きにくかったのはオメガの特徴が出始めていたということなのだろう。
「お恥ずかしい限りです。出産した後はちゃんと鍛えてもう少し身体をつくります」
「なに、そういう意味で言ったわけではない」
「ですが、グスタフ様と比べてあまりに貧相で……隣に並ぶのも恥ずかしいです」
「はは! お前が俺みたいになったら、俺は結婚を考え直さねばならんぞ。このままで構わない」
殿下は僕の腕を離してお腹に腕を回した。
「腹に触ってみても良いか?」
「あ、はい。どうぞ」
そっとお腹に手をのせられる。
「ハリがあるな、思ったより固い。あっ! 今動いたぞ!」
「ええ、結構な強さで蹴られますので表面を触っていてもわかるときがあります」
「おお……そうか」
殿下は驚いた様子で手を引っ込めた。
「もしかして気持ち悪かったですか?」
「いや、そうじゃない。身ごもっている者の腹を触るなんて初めてなものでな」
もう一度手をお腹に乗せて撫でてくれた。ちょっとくすぐったい。後ろから僕のこめかみに口付けした殿下がぼそりと言う。
「早く俺の子を産んでもらいたい」
「えっ?」
びっくりして後ろを振り返ってしまったのでチャプンと湯が跳ねた。
「何を驚いているんだ? 結婚するんだから当然だろう」
「それは、そうですが……」
(殿下は本当に僕と結婚して……更に子どもを望まれている……?)
「どうしてもこの状況が信じられないのです。僕が大公殿下の妻になるなど、許されるのでしょうか」
「お前はずっとその調子だな。一体何を心配しているのだ?」
「僕はオメガで、一族から追放された身です。しかも口ではとても言えないような目に遭って、この身は綺麗とは言えません。この国では、その……純潔を守れなかった者が殿下の妻になることは許されるのですか?」
こんなことを聞くのはとても恥ずかしかったが、殿下が本気で僕と結婚を考えているのならば確かめておかなければならないことだ。
「ああ、そんなことを気にしていたのか」
殿下は少し考えてから言う。
「まずこの国の主は俺だ。だから自分の結婚相手を決めるのは俺ということだ。それに俺だってそこそこ経験ある人間だ。その俺とお前を比べて何が違うというのだ? お前は結婚するにあたって、俺が童貞ではないことを気にするのか?」
「いえ、そんなまさか!」
(僕がそんなことを気にするなどとんでもない。大体、彼に経験が無いという方がおかしい)
「歴代の君主の中には夫のいる女性を別れさせて無理矢理自分の妻にした者もいるくらいだ。お前を妻に迎えるのに何の問題も無い」
「それは……ですが……」
「気持ちとして、お前の最初の男になれなかったことに悔しさはあるがな」
(僕も、できることならばこの方にはじめても何もかも全て捧げたかった――)
うつむいた僕の顎をに殿下が指をかけて上向かせた。
「しかし俺がお前にとって最後の男だということを忘れるな。良いか?」
「はい、グスタフ様」
しかしそうなると今度はお腹の子のことが気に掛かった。
「――ですが、この子はどうしたら良いのでしょう」
いくらなんでもこの子を連れて嫁入りするわけにはいかないだろう。
「そのことだが、考えがある。さすがに俺の血を引かない者を嫡子にはできんからな。お前さえ良ければだが、俺の友人の元へ養子に出してはどうかと考えている」
「ご友人の養子にですか?」
「俺の幼馴染で、信頼のおける人間だ。彼は頻繁に宮殿に出入りしているし、住まいもそう遠くないからいつでも会える」
(そこまで考えて下さっていたとは……)
「会ってから決めてくれて構わない。気に入らなければ遠慮せず断れ。今度紹介するから、会うだけは会ってみてくれないか」
「はい。この子のことまで色々と考えて下さってありがとうございます」
僕と義兄の子として姉に危険な目に遭わされるより殿下のご友人の所へ行く方がずっと安全なはずだ。
自身の子として愛情を注ぐことが出来ないのは悲しいが、この子の将来のためにもそのほうが良いだろう。
「これでもう結婚や出産に関して心配事は無いか?」
「はい。不安が無いわけではありませんが……全てグスタフ様の仰せのままに」
「よし、じゃあこれ以上ここに居たらのぼせてしまいそうだからそろそろ上がろう」
「あっ。そうですね」
思わず話し込んでしまい長湯してしまった。ぬるま湯とはいえ、身体が汗ばんできていた。
「発情期でもないのに、お前は良い香りだな」
殿下が僕の耳の後ろを舐めた。
「あっ……」
「早く貪り食ってやりたい」
そのまま殿下は首の後ろにかけて舌を這わせていく。
「ん……」
オメガのうなじは発情期に噛まれるとつがいが成立する部分で、特別に敏感だ。その部分を甘噛みされて身体がピクンと跳ねる。
それを見た殿下がクスッと笑う。
「すまない、つい味見したくなった。さあ、上がろう」
殿下に手を引かれて浴場を出る。殿下はちょっとふざけただけなのに、自分だけ興奮しかけたのが恥ずかしくて彼の顔を見られなかった。
「細い身体だな。妊娠していても腹以外はどこも華奢で驚いた」
殿下は僕の腕を持ち上げてしげしげと見ている。彼の腕は僕の腕とは比べ物にならぬくらい逞しく、小麦色に焼けて筋張っていた。白くて血管が透けている起伏のない自分の腕の頼りなさに我ながら呆れる。
自分としては人並みに剣術など稽古に励んできたつもりだった。しかし今思えばここ数年は背も殆ど伸びておらず、なかなか筋肉が付きにくかったのはオメガの特徴が出始めていたということなのだろう。
「お恥ずかしい限りです。出産した後はちゃんと鍛えてもう少し身体をつくります」
「なに、そういう意味で言ったわけではない」
「ですが、グスタフ様と比べてあまりに貧相で……隣に並ぶのも恥ずかしいです」
「はは! お前が俺みたいになったら、俺は結婚を考え直さねばならんぞ。このままで構わない」
殿下は僕の腕を離してお腹に腕を回した。
「腹に触ってみても良いか?」
「あ、はい。どうぞ」
そっとお腹に手をのせられる。
「ハリがあるな、思ったより固い。あっ! 今動いたぞ!」
「ええ、結構な強さで蹴られますので表面を触っていてもわかるときがあります」
「おお……そうか」
殿下は驚いた様子で手を引っ込めた。
「もしかして気持ち悪かったですか?」
「いや、そうじゃない。身ごもっている者の腹を触るなんて初めてなものでな」
もう一度手をお腹に乗せて撫でてくれた。ちょっとくすぐったい。後ろから僕のこめかみに口付けした殿下がぼそりと言う。
「早く俺の子を産んでもらいたい」
「えっ?」
びっくりして後ろを振り返ってしまったのでチャプンと湯が跳ねた。
「何を驚いているんだ? 結婚するんだから当然だろう」
「それは、そうですが……」
(殿下は本当に僕と結婚して……更に子どもを望まれている……?)
「どうしてもこの状況が信じられないのです。僕が大公殿下の妻になるなど、許されるのでしょうか」
「お前はずっとその調子だな。一体何を心配しているのだ?」
「僕はオメガで、一族から追放された身です。しかも口ではとても言えないような目に遭って、この身は綺麗とは言えません。この国では、その……純潔を守れなかった者が殿下の妻になることは許されるのですか?」
こんなことを聞くのはとても恥ずかしかったが、殿下が本気で僕と結婚を考えているのならば確かめておかなければならないことだ。
「ああ、そんなことを気にしていたのか」
殿下は少し考えてから言う。
「まずこの国の主は俺だ。だから自分の結婚相手を決めるのは俺ということだ。それに俺だってそこそこ経験ある人間だ。その俺とお前を比べて何が違うというのだ? お前は結婚するにあたって、俺が童貞ではないことを気にするのか?」
「いえ、そんなまさか!」
(僕がそんなことを気にするなどとんでもない。大体、彼に経験が無いという方がおかしい)
「歴代の君主の中には夫のいる女性を別れさせて無理矢理自分の妻にした者もいるくらいだ。お前を妻に迎えるのに何の問題も無い」
「それは……ですが……」
「気持ちとして、お前の最初の男になれなかったことに悔しさはあるがな」
(僕も、できることならばこの方にはじめても何もかも全て捧げたかった――)
うつむいた僕の顎をに殿下が指をかけて上向かせた。
「しかし俺がお前にとって最後の男だということを忘れるな。良いか?」
「はい、グスタフ様」
しかしそうなると今度はお腹の子のことが気に掛かった。
「――ですが、この子はどうしたら良いのでしょう」
いくらなんでもこの子を連れて嫁入りするわけにはいかないだろう。
「そのことだが、考えがある。さすがに俺の血を引かない者を嫡子にはできんからな。お前さえ良ければだが、俺の友人の元へ養子に出してはどうかと考えている」
「ご友人の養子にですか?」
「俺の幼馴染で、信頼のおける人間だ。彼は頻繁に宮殿に出入りしているし、住まいもそう遠くないからいつでも会える」
(そこまで考えて下さっていたとは……)
「会ってから決めてくれて構わない。気に入らなければ遠慮せず断れ。今度紹介するから、会うだけは会ってみてくれないか」
「はい。この子のことまで色々と考えて下さってありがとうございます」
僕と義兄の子として姉に危険な目に遭わされるより殿下のご友人の所へ行く方がずっと安全なはずだ。
自身の子として愛情を注ぐことが出来ないのは悲しいが、この子の将来のためにもそのほうが良いだろう。
「これでもう結婚や出産に関して心配事は無いか?」
「はい。不安が無いわけではありませんが……全てグスタフ様の仰せのままに」
「よし、じゃあこれ以上ここに居たらのぼせてしまいそうだからそろそろ上がろう」
「あっ。そうですね」
思わず話し込んでしまい長湯してしまった。ぬるま湯とはいえ、身体が汗ばんできていた。
「発情期でもないのに、お前は良い香りだな」
殿下が僕の耳の後ろを舐めた。
「あっ……」
「早く貪り食ってやりたい」
そのまま殿下は首の後ろにかけて舌を這わせていく。
「ん……」
オメガのうなじは発情期に噛まれるとつがいが成立する部分で、特別に敏感だ。その部分を甘噛みされて身体がピクンと跳ねる。
それを見た殿下がクスッと笑う。
「すまない、つい味見したくなった。さあ、上がろう」
殿下に手を引かれて浴場を出る。殿下はちょっとふざけただけなのに、自分だけ興奮しかけたのが恥ずかしくて彼の顔を見られなかった。
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