追放されたΩの公子は大公に娶られ溺愛される

grotta

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3章.新たな人生のはじまり

20.オメガの僕が大公妃?

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 そして翌日の朝、僕はグスタフ殿下と共にベサニル辺境伯領を出た。見送りに出てきたのはフェリックスとロッテだけで、姉は顔を見せなかった。
「ルネ、気を付けて。殿下の言うことを良く聞くんだぞ」
「はい、お義兄様。今までお世話になりました」
 僕たちは上辺だけ身内の関係を装って挨拶を交わした。そして僕はロッテと握手した。ロッテは僕のことを心配そうに見ていた。ここに来て、どの使用人も冷たかったけどロッテだけは僕に優しくしてくれた。
(ありがとう。さようならロッテ)
馬車に乗り込み二人に手を振った。

◇◇◇

「殿下、ありがとうございました。まさか本当にご一緒させてもらえるなんて思いませんでした」
「俺は約束は守る」
 殿下は優しい目で微笑んだ。それからしばらく走った所で殿下が急に外套を脱いだ。それほど暑いとも思えなかったのでどうしたのかと思ったらこんなことを言い出した。
「この先は道が悪いからこれを椅子の上に敷け」
「え?」
 殿下は僕に向かって上等な毛皮の外套を差し出した。
(これを敷けって? なんで……?)
「いえ、結構です。そんなことできません」
 僕は慌てて首を振った。
「すぐに気が付かなくてすなかった。妊娠している身で腹を冷やしてはまずいだろう」
「え……?」
 するとガタッと音を立てて馬車が大きく揺れた。
「あっ!」
「ほら、揺れだした。このままだと尻が痛くてかなわんぞ。先は長いんだ。遠慮するな」
(何? 本気なの?)
 殿下は僕がまごまごしているので無理やり僕をどかせて椅子に外套を敷いた。
「これでいい。ほら、座って」
 そう言われて仕方なくその上に腰掛けた。
「はい。あ、ありがとうございます」
「どうだ。なかなか良い座り心地だろう?」
「はい……とても……」
(柔らかいし温かいけど申し訳なすぎてすごく居心地が悪いよ……)
 殿下は満足げな顔で僕を見ていた。
 これまでずっと酷い扱いばかり受けてきて、フェリックスの屋敷では使用人にすらつらく当たられていた。なのでまさか王弟であり大公でもある彼がこんなに親切にしてくれるなんて驚いた。
(殿下ってとってもいい人なんだ。妊娠しているオメガの僕なんかを助け出してくれてたし、王族なのに偉そうにしないし、こんなに親切な人がいるなんて。僕も彼を見習って立派な人間になりたい。たくさん勉強して彼の役に立ちたいな)
「ルネ。そんな目でじろじろと人のことを見るものじゃない」
「え? あっ、失礼しました」
 殿下の不機嫌そうな声に僕は慌てて目を伏せた。ついつい彼のことを凝視してしまって怒られた。しかし殿下はすぐに破顔して言った。
「はは、冗談だよ。お前のような美人に熱っぽく見つめられて嫌な気分になる男などいない」
「いえ、そんなめっそうもございません……」
(殿下は冗談もお上手でいらっしゃる)
「ルネの目は美しい空色だな。お前と初めて会った晩すぐにその目に惹かれた。ずっと見ていたくなる……不思議なものだな」
「……?」
(褒めてくれたのかな……?)
「国へ連れ帰ってもお前のことは大事にする。何も心配はいらない」
「ありがとうございます。僕、お役に立てるように頑張って勉強します」
「ん? ああ、そうだな。それも追い追いな。まずはお腹の子どもを安全に出産するのが先決だ」
「あ……」
 僕は自分のお腹を見た。
(そうだった。このお腹で人前に出るわけにはいかないのか)
「宮殿は人目が多すぎてお前の妊娠を隠しておくのが難しい。申し訳ないが、出産までは離宮で過ごしてもらいたい」
「はい。どこへなりとお連れ下さい」
(僕はお金で買われた身。奴隷も同然だから何でもやる気でいないと。今後僕が使用人として扱われるにしろ、技術者として雇われるにしろ、身重のオメガでは都合が悪いに違いない。そもそも、オメガと知られてはいけないのかも)
「信用できる人間を侍従として付けるから安心しろ。同じオメガの青年の中から選ばせる」
「え?」
(使用人に侍従を付けるなんておかしいよね?)
「あの、どうして僕なんかに侍従が付くのです? そんなにしていただかなくても……」
「何がおかしいんだ? 侍従のいない妃の方がおかしいだろう。ああ、侍女の方が良かったか?」
「妃?」
(何を仰っているんだ?)
「おい、しっかりしてくれ。俺はこれでも一応大公なんだ、その妻になるんだから大公妃ということだぞ。今更出来ませんなんて言わせないからな」
「え! 大公妃って、僕がですか!?」
「他に誰がいる。リュカシオンの公子は我がデーア大公国に嫁ぐんだ。つまりお前が大公妃だ」
「そんな、まさか! 無理です。僕はオメガですよ? てっきり奴隷――そこまで行かなくても使用人か技術者として雇われるものと……」
 これを聞いて殿下は目を見開いた。
「あははは! 馬鹿なことを。一国の公子を奴隷にするなどとんでもない、何を言ってるんだ。ルネ、お前は少し惚けたところがあるな」
(ええ? いや、でも……まさかそんな)
「昨日お前を妻にすると言っただろう?」
「いえ、妻として連れ帰ると言っても、それはあくまでもあの場での方便かと……」
「ふん、俺は嘘は言わない主義でね」
「殿下……僕は……大公妃になどふさわしくありません。ご覧の通り汚れたオメガです。殿下の妻になるなどとても無理です」
 しかし殿下は僕の目を見据えて断言した。
「ルネ。悪いが俺は決めた事は必ず実行するし手に入れたい物は必ずこの手に入れる主義なんだ」
「ですが……」
「この話はまた後にしよう。少し眠る、お前も休んでおけ」
「……はい」
(とんでもないことになってしまった。一体僕はどうしたら良いんだろう?)
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